第三話 規格外
時は進み入学式――
入学式が行われているのは学園内にある、1000人は入る事が出来る広い講堂だ。
「――と言う事で、皆さんは、まだ原石です。これから宝石になれるかどうかは皆さん次第です。己を研磨するのは、この学園に在籍する自分以外の生徒達です。影響し合い頑張ってください」
マーリンがそう祝辞を読み終えると来賓席で笑いを堪えているファルミアにマーリンが笑みを浮かべた。
「それでは新入生代表挨拶、と行きたい所ですが……今回はファルミア皇帝殿下がいらっしゃいますので、お言葉をいただきたいと思います。さぞ面白い事を言ってくださるのでしょうね」
マーリンがファルミアに笑みを向ける。
「え……ちょ……聞いてないわよ」
「それは、殿下が笑っていたから、やり返されたのでしょう」
ファルミアの隣に居たイクスが小さく耳打ちする。
「っう……まぁ、しょうがないわね」
ファルミアはそう呟き、壇上へと上がる。すると、周りから歓声が上がる。それほど国民から、愛されているのだ。なにせ……
「英雄様!」
「戦姫様!」
と呼ばれ、この帝国に革命を起こした張本人なのだから。
「ご紹介に預かりましたファルミアです。今回は、皇帝としてではなく一人の母親として言わせてもらいます。皆さんはご両親や、周りの大人に大切に今まで育てられてきました。そして、そのおかげで、この学園に入学する事が出来たと思います。しかし、この学園では命の危険が伴う授業もあります。決して、ふざけて自分の命を落とさぬよう気を付けてください。そして、今期の新入生の中には、巨大な原石……いや、違いますね。巨大な宝石が二つ紛れ込んでいます。この二つの宝石の輝きに呑まれない様に気付けてください。恐らく、のまれたら自信を無くしてしまいますから」
ファルミアは、そう言うと笑みを浮かべた後、一礼し元の場所へと戻って行った。
その間、会場内は静まり返っていた。それは、ファルミアに脅されたからだろうか、はたまた、ファルミアが作り出した空気にその場の全員が呑まれてしまったのか、それは分からない。しかし、アルクは(相変らず親ばかだな……)と思っているのだった。
なにせ、あの言葉は最後の部分以外は、アルクとセレスに向けた言葉だったのだから。
それを理解しているセレスは、少し恥ずかしそうに縮こまり顔を紅くしていた。
「そ、それでは、新入生代表挨拶をお願いします」
「はい」
しばらくの沈黙の後、司会進行が思い出したかの様に進行を再開すると、その言葉に返事をしたのは、アルクの隣に座っていたセレスだった。
この学園は、首席合格の生徒が代表挨拶を行う。この時に、アルクは?と思うかもしれない。しかし、アルクは首席では無かったのだ。それどころか、上位の成績ですらない。
~数日前~
「やりました。満点合格です」
セレスがアルクに笑顔で、合格通知の紙を見せてくる。
「すごいですね」
「アルク君はどうだったのですか?もちろん……」
「合格者、183名の内50位ですね」
「っえ?」
「50位で合格です」
「何故ですか?」
セレスは、それが信じられずアルクの持っている結果用紙を覗く様に見ると、そこには、信じられない教科の点数が記されていた。
「ぜ、全教科……85点……」
「はい。」
「わざとですよね?」
セレスにジト目を向けられたアルクは、少したじろいてしまう。それ程、威圧が有るのだ。
「どうですかね?」
それでも、表所は崩さず毅然と答えるアルク。
「『どうですかね?』ではないです。どうやったら狙って全教科85点に抑えられるのですか!しかも、実技の試験まで85点……どうしてですか!」
実際の試験様子を見ていたセレスにとってアルクの実技の点数は納得いかなかった様だった。
「それは、僕も分かりません。手を抜いたからとかじゃないですか?」
「あぁ……ありそうで何も言えないですぅ……」
マーリンの性格を思い出したセレスは、しょんぼりと小さくなった。
と言う事があったため、代表挨拶はセレスがすることになったのだ。
「――以上、新入生代表セレスティーナ・ジャンヌ・フェルス」
セレスは、挨拶を終えアルクの隣へと戻ってきた。
「お疲れ様です」
「そう思うなら、アルク君がやってくれればよかったじゃないですか……」
「僕は、首席ではありませんので……」
「主席の私より高度な事をやっておいてよく言いますね!」
と言うと、『プイ』とアルクから顔を背けてしまう。
「まぁ、落ち着いて下さい。僕があまり目立つのもよくないですから」
「確かにそうですけど」
アルクは、自分の素性がバレない様にわざと点数を抑えたのだ。それを分かっていても納得できないセレスは、唇を突き出し「ぶぅ~」と言い、外方を向いていまう。
(最近、セレス様が幼児退行してきている気がするのは気のせいか?)
――と内心、心配になるアルクだった。
2
入学式が終わった翌日――
「アルク君とは同じクラスになれますかね?」
「どうですかね?実力で分けられるのでしたら、確実に僕は別のクラスになると思いますが……」
そう言いながら、アルクは自分がミスをしている事に気が付いた。と言うのも、アルクはセレスの護衛としてこの学園に入学しているのだ。にも拘らず、セレスと同じクラスになれないのは、絶対に有ってはいけない事だった。
「はぁ……」
「えぇ!?急にどうしたんですか?」
「いえ今頃、自分がミスしたことに気が付きまして……」
「ミス?」
「はい。僕はセレス様の護衛としてこの学園に入学するのに同じクラスになれないのは非常にマズイのです。あと全教科4点ほど上げておけばよかったです」
と、これまた器用な事を言いだしたアルク。
「すいません。あのテスト、一問何点か分からないと思うのですが……」
「いえ、分かりますよ?問題の内容と問題数である程度ですが」
「そうでした。アルク君でした」
「それは、どういう意味ですか?」
「いえ、何でもありませんよ?」
ジト目を向けられたセレスは、笑みを作り誤魔化す。
そうこう話していると、二人の乗る馬車は学園へと着く。
「やぁ、よく来たね。二人とも」
そう言い、出迎えたのはマーリンだった。
「「マーリン学園長これからよろしくお願いします」」
「うん。こちらこそよろしく頼むよ。それにしても……セレスちゃんの制服姿は可愛いね」
マーリンは、セレスの姿を舐めるように観察するとそう言った。すると、セレスは恥ずかしくなったのか、顔を紅くし手で自分の体を抱くようにし、隠してしまう。
「あ、あまり見ないでください……」
「いやぁ……でも、そのスカートによってシャツが胸の下で抑えられ、まだ発達し始めの小さな胸……グッほぉ……な、何をするんだ、セレスちゃん!」
セレスの制服姿を目に焼き付けるように見ながら、その魅力を説明するマーリンにセレスのグーパンチが鳩尾にさく裂した。
「何か?」
「いえ、何でもないです」
「これ以上、言ったらお母さん直伝マッサージをしますよ?」
「本当にすいませんでした」
セレスの追い打ちにマーリンは深く頭を下げるのだった。その姿は、マーリンが低身長かつ、同じ制服を着ている所為か、友達同士のじゃれ合いにアレクは見えていた。
「仲が良いのですね」
アルクは、二人から一歩下がった場所からそう言った。
「ねぇ、セレスちゃん。この子本当に7歳?」
「本当に……どうですかね……」
今度は二人がアルクを観察するように眺め始めた。
「ん?どこか変でしたか?」
「いえ……そうでは無いです」
「えぇ、この学園の制服のデザインは私とファルミアの二人で行ったの。それで、男子の制服は15歳位から似合う様な大人っぽいデザインにしたのだけど……アストルフォ君……君、似合い過ぎよ……一瞬、私も惚れそうになったもの。まぁ、惚れると隣の……っぐ」
マーリンが衝撃を受けた人物の方を睨む。
「何ですか?受けますか?マッサージ」
「いえ、何でもないです」
―と完全にセレスに主導権を取られているマーリンだった。
「さて、それじゃぁ、学園長室に行こうか」
「えっと――なぜ学園長室なのですか?」
セレスがマーリンの言葉に疑問の声を発する。
「それは、君たち二人が異常だからよ」
そう言い、マーリンは歩き出してしまう。
二人は、頭に?を浮かべながらもマーリンに付いて行く。
「まぁ、座って」
「「失礼します」」
二人が、マーリンに連れられ学園長室に入ると、マーリンの指示通りにソファーに腰を下ろす。
「さてと、昨日ファルミアが舞台上であんな事を言ったものだから君達二人のテストを私が見返した。そしたら、何あれ……」
――そう言うと、マーリンは眉間を手で押さえ頭を抱えた。
「何と言われましても……」
「そうですね……」
二人は見つめ合い、首を傾げる。二人には全く持って見覚えが無い。ただ普通に問題を解いただけ。ただそれだけなのだ。
「まず、セレスちゃんこれは何?」
そう言ってマーリンが出したのはセレスの解いたテストの……裏だった。
「っあ!すいません。暇でしたのでつい……」
「ついで、誰がこんな高度な魔法陣を組むのよ!」
と、マーリンは強く用紙を机に叩きつける。
「えっと……お母さん?」
「そうだった……ファルミアはそう言う人間だった……」
思い出したのか、マーリンは再び頭を抱える。
「はぁ……セレスちゃんの問題用紙を確認しに行ったけど、採点した教師がなかなか渡したがらないから、無理やり奪ったのよ……そしたら、これが出てきてわけ。そりゃぁ教師も出したがらないわよ。なにせこの魔法陣は超高度に組まれた極大魔法なんだもの……」
「極大魔法ですか?」
「そう、このXやYが出てくる魔法陣は世界が一つだった頃の人類が使っていた、魔法式なのよ。だから今は存在しないし、遺跡にも完全に残っている物は少ないわ。それに、今の魔法、魔術では考えられないほど高度な魔法、魔術が使えるようなのよ。だから、魔法使いや魔術師からしたら、この魔法陣は喉から手が出るほど欲しい代物ってわけ。
私や、ファルミアもね。」
「「?」」
マーリンがそう説明するが、二人とも頭に?を浮かべた。なにせ、セレスが作った魔法陣は只の――
「すいません。マーリン先生これ、ただの『ファイア』ですよ?」
「はぁ!?」
セレスの言葉を聞き目を天にするマーリン。
「このX,Yは、仮で置いているだけで、そこはイメージによって置き換えます。その為の文字ですよ?」
「えっと……それをどこで知ったの?」
「それは言えません。教えていただいた方が内密にするように言われていますので」
――とセレスは、もろにアルクを見ながら言った。
(セレス様それは隠せていませんよ。わざとなのでしょうが……)
アルクは内心そう思うと、小さく溜息をつく。
「そこでどうしてアストルフォ君を見るのかな?」
「どうしてでしょうね?」
「本当に、どうしてでしょう……」
アルクは、二人から目線を浴びたが、笑みを作りそう言った。
「気になるけど……まぁ、それは良いわ。次はアストルフォ君」
「はい。何でしょうか?」
「全教科85点はどう言う事なの!実技は私が気に入らないから15点マイナスしたけど……」
「まぁ、僕には色々有るんですよ」
――とアルクは笑みを作り誤魔化す。
「その笑み、怖いわね……」
「そうですよね……」
再び、アルクは二人に見つめられる、恐怖の眼差しで……
「そうですか?」
「それが怖いのよ……」
「そうです。その惚け方が怖いです。何でしょう……聞いたら殺す。みたいな雰囲気が」
「そうですか?」
と、笑みを浮かべる。
「アルク君怖いから辞めてください。私泣きますよ?」
「大丈夫です。セレス様はこんなことでは泣かないで位、大人ですから」
「私って……そんなに老けて見えますか……そうですか……」
セレスは、そっぽを向き、座っているソファーにのの字を書き始めた。
「あるトルフォ君……あれはダメだよ……年頃の女の子に、あれはダメよ……」
マーリンはマーリンでアルクに軽蔑の視線を送る。
「いや、何故そうなるんですか……ただ、この程度では泣かない強い人と言う意味ですよ」
アルクは、微笑しそう言った。
「そ、そうですか……」
しかし、これを聞いたセレスは苦笑いを浮かべていた。
それは自分ではそうは思っていない様な笑みだった……
「はぁ……まぁいいや。二人とも問題を起こさない様にお願い。特にアストルフォ君は……ファルミアが昨日、君の異常性を伝えに来るほどの危険人物だからね。あぁ、そうだ二人は同じクラスにしといたから。これからも頑張りなさい」
と言われ(俺は、保護観察者かよ……)と思いながらも、同じクラスにしてくれた事に感謝を抱くアルクだった。
3
「ここが教室ですね」
「その様ですね」
アルクが教室を確認すると扉を開け、中に入った。
教室内は、すでに複数のグループに分かれていた。と言っても貴族、商人そして――、それ以外と簡単に分かれているだけだ。
アルクが先に教室に入り、その後にセレスが入ったのだが、セレスが教室に入った瞬間、教室は静まり返った。それも当然だと言えるのかも知れないが、その向けられた目線に異常性を感じたアルク。
「こ、これはセレス皇女殿下お久しぶりにございます」
貴族グループの中心人物であろう、金髪碧眼の美形な少年がセレスに頭を下げ、礼をした。
「これは、カルム様お久しぶりです」
セレスも、制服のスカートをつまみ小さく礼をする。
「初めまして、セレス様の護衛を任されておりますアストルフォと申します。これからよろしくお願い致します」
アルクは、そう言うと深く頭を下げた。本来アルクの家名、血筋からしてそうするべきではない。しかしアルクの家名を知る者は未だ、フェルス家の人間のみだ。その為アルクは出来るだけその事を隠し、問題の起こらない様に貴族の人間とも接している。
「これは、初めまして。アストルフォ殿」
カルムはアルクに対し軽く礼をすると、アルクを強くにらんだ。と言うのも、本来帝国を守る為の家であるカルム・ゼクスは、その地位を奪ったアルクが気に入らないのだろう。
「すいません。お母さん八騎士の家系が好きでは無いので、こうなる事をすっかり忘れていたのでしょう……」
セレスがアルクに小さく耳打ちをする。その際もカルムはアルクに眼を飛ばしていたが、アルクは華麗にスルーする。
そして、八騎士と言うのは帝国建国時から存在する貴族家系の事を言い、フェルス帝国を守る事が使命となっている為、武力、魔法、勉学、様々な分野においてトップに存在しており、代々文武両道の強者を輩出し続ける名門家系なのだ。
「カルム様、八騎士の家系は皇家を守るのではなく帝国を守るのが使命です。そこは間違えてはいけません」
「こ、これは失礼しました」
自分が怒られるとは予想していなかったのか、カルムは驚愕の表情をしながら、頭を下げる。そして、顔を上げると再びアルクを睨む。余程、アルクの存在が気に入らないらしい。
セレスがこう言うのも、八騎士は皇家も守るために存在しては居ないからだ。現につい最近まで、セレスを護衛していたのは近衛兵団だ。
「そろそろ、席に着かないと担任の先生が来る時間ですね」
「そうですね、僕たちの席は……」
アルクは、黒板に書かれた席表を見る。
「私はアルク君の隣ですね」
「そうですね。行きましょうか」
「はい」
二人は、階段教室の一番後ろの、窓側の席に腰掛ける。
「ここからの、眺めは良いですね」
「そうですね。学園都市の一部ですが眺める事ができますね」
アルクの言葉にセレスがそう答えた。
アルク達のクラスは初等科校舎の最上にあり、一部しか見る事は出来ないが、それでも十分なほど、綺麗な街並みの学園都市を眺める事が出来た。
アルクとセレスが外を眺めていると、教室の扉が開き、金髪の髪を長く伸ばした女性が入って来た。
「初めまして、私はこのSクラスの担任を任されました、ロロットと申します。これから一年よろしくお願いします」
「「「「お願いします」」」」
ロロットの言葉に、7歳児らしく返事をする生徒達。
「それでは、早速自己紹介と行きたいところですが……」
そこで、ロロットは口角を上げ、にやける。
「セレス様、あの顔を僕は知っています」
「奇遇ですね。私もです。私たちの周りでよく見る顔ですからね」
二人とも、内心ため息をつきながらそう言った。
『自己紹介を兼ねた模擬戦をやるぞ!』
と、ロロットは口調が崩れる程、熱く叫ぶ。
「「「っえ!?」」」
当然、ロロットの唐突な発言に生徒達は呆然であった。
「ほら、早く移動するぞ!」
と言う事で、ロロットに急かされ生徒達は第二闘技場へと移動していた。
「と言う事で……すいません。何故マーリン学園長がここに?」
「ん?あぁ、私は只の見学だから気にしないで」
と、明らかにセレスとアルクの二人を見て言う。
そんなマーリンの様子に気が付いたのか、カルムは二人の方を見る。
「そ、そうですか?」
「うん。そうだ、全員本気でやるのよ?もし、私の目にかなった生徒が居たら、その生徒は禁書庫への立ち入りを許可するわ」
すると、生徒達は目を輝かせた。
それも当然だ。なにせ、マーリンは世界屈指の魔術師なのだ。誰でも、マーリンが書いた魔術や魔法の論文は読んでみたいもの。例え理解できないとしてもだ。
「ちょお!学園長……禁書庫は私でも入れない場所ですよぉ~こんな生徒達にはまだ早いですよぉ!それより私を入れてください!」
ロロットは、最初の威厳は度超え言ったのか、完全にマーリンの下部状態だった。
「嫌よ。何であなたを禁書庫に居れないといけないのよ」
「そんな事、仰らずに~私、何でもしますから!」
「いま、何でもするって言った?」
「はい、言いました」
「それじゃぁ、私の魔法の実験台になる?威力はこの学園が消し飛ぶくらいのが有るんだけど?」
「そ、それは受けてみたいですが……死んでは快感も無いので、それはご遠慮しておきます」
「あっそ。ていうか彼方、最初に生徒達に自分の性癖、言って無かったの?あれほど最初に言っておきなさいと言ったのに……見なさい。みんなドン引きしてるわよ」
「そう言えば言っていませんでしたね。でも……この蔑むような目線。はぁ~~~ん私、ゾクゾクします。私はドが付くほどのMですからぁ~」
――とロロットは、生徒達からの蔑みの目線を浴び、身をクネクネと捩らせるのだった。
「ごめん、7歳に聞かせる内容じゃ無かった、今までの先生は見なかったことにしてね。アンタもいい加減黙れ。キモイ」
マーリンはそう言うとロロットの頭を地面に踏みつけた。
「ふぁりごヴぉぼヴぁいまぶ(ありがとうございます!)」
顔が緩み、よだれをたらし、息を荒くしているロロットの姿を見てさらにドン引きする生徒達であった。実際に、最初の場所から生徒達は5メートル程位置が後ろに下がっている。
「あ、アルク君?どうして目を塞ぐんですか?」
「セレス様は見てはいけません」
「どうしてですか?」
「害悪だからですよ。ロロット先生と言う人物自体が」
――と、こんな感じで最初の授業は始まったのだった。
☆☆☆☆
そして、模擬戦は進みすべての戦いが終わった。
当然、アルクもセレスも相手に合わせて手加減をし、目立たない様に立ち振る舞い勝った。
「これで、すべての……どうしたの?カルム君」
ロロットが喋っている途中で手を挙げたカルムに問う。
「アストルフォ殿と一度、模擬戦がしたいです」
カルムは闘志むき出しでそう言った。
「と言っていますが、アストルフォ君どうしますか?」
「どうと、言われましても……僕に戦う理由はありません。先生がやれと仰るならやりますが……」
当のアルクは、あまり乗り気ではなかった。
その理由は簡単で面倒なのだ――手加減をする事が。
「うん。面白いんじゃない?八騎士のゼクス家の後継ぎとセレス様の護衛&執事のアルク君の勝負。私が許可するわ。やりなさい」
マーリンは待っていました!と言わんばかりに、目を輝かせ命令した。
「ありがとうございます。マーリン校長」
「うん。でも景品が無いと面白くないわね……カルムは何か欲しいものがある?」
カルムはそれを聞き、口角を吊り上げ笑みを浮かべてた。
「それでは、セレス様の護衛の座を賭けて勝負を」
「うん。良いわ。もしあなたが買ったらファルミア殿下に進言してあげる」
マーリンはそう言った。しかし、マーリンはそんな事さらさらする気が無かった。
これは、嫌がらせや期待を持たせたのでは無く、ただ単純にカルムが負けると思っているから。
一度、アルクと戦ったマーリンだからこそ分かるアルクの強さ。怖さ。異常さ。それをすべて鑑みると百万分の一にもカルムが勝つ事はマーリンの中には存在しないのだ。
「アストルフォ君も良い?」
「良いですよ。僕もその座を取られる訳にはいきませんから」
アルクも、護衛の座を取られるわけにはいかない為、勝負に乗る事にした。
もし負けたら、護衛の仕事が無くなればアルクは、お役御免。住む場所が無くなってしまうからだ。
しかし、実際はファルミアもイクスもそんな事が出来る人間では無いため、そんな目には合わない。どんな手を尽くしてでもアルクを居座らせるだろう。
「勝負は何でもありの複合戦、ただし相手を殺す技は禁止とします」
二人が、向かい会う様に立つと他の生徒達は、観客席に移動した。
「私の事なのに、なぜか私抜きで話が進んでいるのですが……」
セレスは、不満そうな声を漏らす。
「確かにセレスちゃんに聞かなかったのは悪かったわよ。でもアストルフォ君が負けると思うの?」
マーリンの問いに、セレスは首を横に振る。
「なら、良いじゃない」
「そうですけど……」
納得しきれていないセレスは、頬を膨らませているのだった。
「それでは、試合を始める。両者準備は良いな」
その言葉を聞き、二人とも首を縦に振る。
「それでは、始め!」
そうロロットの声が聞こえた瞬間に、試合は終わった。
カルムの首筋にアルクの手刀が寸止めされているという状況で……




