<鎖2、過去> 第十三話、罪
エチゼン国の陥落から5年、現在。
勝利に沸くグランコース国。
この日ばかりはと兵士達と市民に酒が振る舞われた。
夜も深い時間になっていたが、城下町の至る所から
笑い声、歌声が聞こえてくる。
盃を片手に、ルオはナインに尋ねた。
「明日、帰っちゃうんだよな?」
「ああ、朝一で。ユキさん達も心配してるだろうし。」
「本当は次の『エチゼン国』奪還戦にも参加して欲しいんだが、
お前に頼りっぱなしってわけにもいかないしな。」
『エチゼン国』、その地名を聞いて、ナインの心がチクリと痛んだ。
その国の、滅亡の切っ掛けを作ったのは他ならぬ自分だ。
それだけではない、魔族の領地と面していた
エチゼンの陥落を口火に魔王軍が本格的に進行を開始、
それからの5年間で1000万人以上が犠牲になった。
そのすべての起点が、あのナインとエチゼン騎士団の私闘である。
さらに、守りの要である騎士団長アドラの失脚と同時の進軍。
恐らく今回のグランコース国と同じく
エチゼンにも魔王軍と通じている人間がいたのだろう。
まだ未熟だった当時のナインはそれを見抜けなかった。
(俺は、爺ちゃんの教えに従い
降りかかる火の粉を払っただけだ。彼等を許せば良かったのか?
いや、なんの覚悟もなく他人に剣を向ける、武術を軽んじた
者にはそれ相応の痛みを教えてやるべきだ。)
それでも……、いくらなんでも人が死にすぎだ、
とナインは思った。
風のうわさでエチゼン国の大臣は
杖をつきながら兵の指揮を執ったと聞いている。
ナインが斬りつけたその足では押し寄せる大群を前にして
逃げることも出来なかっただろう。
二度と会うこともできないし合わせる顔もない、
だが、幼いころから修行漬けの日々で
武術しか知らなかった自分に新しい世界を教えてくれた、
ナインは心の中で彼女の名を呟いた。
<第二章、過去> 完