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剣聖を縛る鎖  作者: 牛蒡
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<鎖2、過去> 第十二話、パープルマッスル

エチゼンからグランコースに向かう街道を一台の馬車が走る。


「貴様の父親のせいで、こうなってしまったのだぞ!」


その車内、大声で彼女を責め立てるのはエチゼン第一王子パオロ。

「そうだそうだ!」とパオロの腰巾着、第二王子のシャオロも

それに追随する。



彼らが言っているのは彼女の父である大臣が

ナインという虎の尾を踏み、その結果返り討ちに会い

騎士団が瓦解したことであるがこれは事実である。


ただし、そもそも大臣にナインの殺害を指示したのが

この二人の王子であるという前提が除外されているのだが。



騎士団長アドラと同じく血統による身分制度を絶対とする

差別主義者の二人の王子には自分の従妹と一介の剣士の婚姻など

許せるはずもなかった。


そして、王子達の考えに騎士団長アドラが賛同した形で

ナインの暗殺が実行に移されるのだが、


……もしかしたら二人がナインを嫌悪した理由には

可憐な少女への慕情もあったのかも知れない。



(ナイン……。)


少女は少年から貰った指輪を見つめた。



彼女の父親であるエチゼン国大臣は現在

早々と討ち取られた兄王に代わり

王子達を逃がすため、一人でも多くの国民を守るため

最前線で負け戦の指揮を執っている。



大臣は、王族の一員として常に国というシステムの

歯車であろうとした。


だから、二人の王子の無理な命令にも従った。



父も、叔父も、従兄弟達も、いや、

自分も含め全ての人間が国や血筋といった

鎖に縛られていられるように

少女は感じていた。


ただ一人、彼を除いて。


初めて会ったその瞬間から彼女は直感していた。


彼は、ナインは、その剣一本で

王や国といった枠を超える自由な力を持っていると。


(実際には剣どころかバターナイフ一本で現在

国が一つ傾いているのだが。)



「おい、何とか言ってみろよ!」


二人の王子は尚も執拗に彼女を責め続けていた。


(お兄様達、昔はあんなに優しかったのに……。)


幼いころは実の兄妹のように仲の良かった三人。

変わってしまったのは彼等か、それとも彼女か。



その時、轟音と共に大きな衝撃が

彼女の乗った馬車を襲った。



ガガガガガガガガガガガガッ。


横転しなかったのが奇跡的と思えるほどに

右に左に大きく車体が振られた後、馬車は動きを止めた。



「一体何をやってるんだ!」


怒鳴りながら馬車の扉を開け、シャオロ王子が首を外に出した。

その瞬間、王子の身体が宙に浮いた。


シャオロの胸倉を掴み、片手で軽々と持ち上げた

異様な風体の男。


筋骨隆々、紫の肌の色をしたビキニパンツ一枚の半裸。

禿頭で、額には顔を横断する傷が一筋。



「あ……、あ…………。」



シャオロ王子の視界には、あたり一面の血の海と

地に転がる護衛の騎士たちの姿が映っていた。



「ヒ、ヒイイー!」


悲鳴を上げながら、第二王子パオロが

反対側の扉から馬車の外に飛び出した。だが、

逃げることは叶わない。



王子達の乗っていた馬車は、いつのまにか10人以上の

額に傷のある紫ハゲマッチョ達に取り囲まれていた。


御者と馬は、既に首を刎ねられている。



「英雄の血を受け継ぐその二人は

大切なモルモットです。丁重に扱いなさい。」



その声の主は、ある意味この場では

紫ハゲマッチョ達より不気味な出で立ちだった。


人間の少年なのか、小柄で、

丸眼鏡に白衣という戦場に相応しくない格好。


白衣の男は子供の高い声でこう告げた。



「王族の人間か。ふふ、強力な『改造人間』が出来そうだ。

さあ、馬車の中の貴女も早く出てきなさい。」



(助けて、ナイン……!)



このエチゼンの城が落ちた日の同日、

ここから王家の子弟三人は行方不明となった。


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