<鎖2、過去> 第十一話、開戦
ナインの剣聖技が炸裂、
2メートル近いアドラの巨体が大きく崩れる。
そこに、ナインはさらにもう一個床に転がっていた睾丸を
蹴りつけ追撃弾を放った、のだが、その狙いは逸れてしまう。
2発目の命中より先に、初撃で脳を揺らされたアドラが
うつ伏せに倒れてしまったからだ。
「ピチュン!。」
今度はそんな破裂音を響かせ、弾丸(睾丸)は天井のシミとなった。
(外した……!?、爺ちゃんならこんなミスはしない。
自分の感情もコントロール出来ず、色(※注)を出しすぎだ。
……俺は、何と未熟なのだろう。)
己を省みて、ナインは冷静さを取り戻した。
そして再び大臣の方に視線を向ける。
「一つ、お尋ねしたい事があります。」
「なんだね?」
「何故、こんな未熟な騎士達ばかりを集めたのですか?
やっぱり俺がまだ子供だから、見くびられていたのですか?」
力の差をまざまざと見せつけられ、完全に戦意を喪失している。
『未熟な騎士』呼ばわりをされても、アドラの部下達は
一人としてナインに立ち向かおうとはしなかった。
「……。」
しばしの沈黙の後、大臣はこう呟いた。
「人を見る目が無かったか。
ナイン、君の実力を完全に見誤ってしまった。」
その回答を聞くと、ナインは先の毒入りグラスに手を伸ばした。
(まず、こんなものが効くと思われてる事が心外だ。)
ナインはグラスを一気に飲み干し、アドラの部下達に向かって
こう告げた。
「あなた達の中に治療魔法が使える人がいたら
すぐ大臣に使って欲しい。運が良ければ元通りになるだろう。
それでは……、」
ナインが手刀を振るう。
大臣の両足が太ももから切断され、鮮血が飛び散った。
……それからわずか数日後、
ここ数年間大きな動きを見せていなかった魔王軍が突如
エチゼン国に進軍。
騎士団長アドラの不在、かつ『選りすぐりの主力騎士』が
ナイン一人に壊滅させられていたエチゼンの城に
戦う力は無く、容易く落ちた。
※注 色が出る
攻撃の気配が動き、もしくは気持ちに出てしまうこと。