プロローグ
自分は今、何でこんなとこにいるのだろうか・・・
ただっぴろいトラスニークの花畑の中でウビーツァ・カイは全くと言っていいほど動けずにいた。手足はしびれて動かせる様子もなく、声は少し出せる程度だが、呼吸にはさほど問題がない程度だった。そしてだんだんと夜になってきたこともあり肌寒いと感じる程度だろうか、自分はこのまま誰にも見つけられないまま死ぬのかもしれないという孤独感が夜になるにつれ大きくなっていく。
魔法を少し試してみたけど自分はあまりうまく使えるわけではないのでズボン右下のあたりが少し焦げて終わった。
明日は村で年に一度の大きな祭りだった大人たちは大いに飲み食べ、子供たちは大きくはしゃいだ、村ゆえに豪華なごちそうとまではいかないがいつもより多くの麦パンやスープだけでなく、リンゴなどの果物類が今年は豊作だったためにこの村にも回って来るということ。
そして、この祭りのしめは村の真ん中で火を囲みながら男性が女性へ好きな人にプレゼントを渡し、一緒に踊ってもらうのがこの祭りの一番の肝であり、男の見せどころでもあるといわれている!
それに自分は来年から13歳で一様成人といってもいい年齢だ、好きな人に告白して踊れる年齢になったと、張り切って花束作りに出かけた。
いったいなぜ・・・すると、遠くで「カイー!、カイー!」と呼ぶ声が聞こえた。
母親だろうかだが少し聞こえてはまたすぐに遠ざかってしまった。急いで自分も声を出そうとしたが、先ほどまでは少し出ていた声が、今度は全然出せず「あーぁぁあ、うーぁーぅー」とかいう今でもたまに墓場に出るアンデットみたいな声しか出せなくなっていた。
これは本気でまずいと思い手に力を籠めまた火を出そうと「フ・・・ァ・・ィ・」うまく発音できないためか小さな灯が手先にポッっとともった程度だった。
あきらめかけて視線を上に戻したら明日マアスが花束を渡す予定の人その渡す相手は男性の中でも一番の人気者できっと町へ行っても、だれにも負けないといわれるほどだ。
協会勤めゆえにいつも修道士の服しか着ているところを見いたことはないのだが、修道士服は薄い黒色で帽子はないようだ。ただ、修道士服の腰あたりでベルトを締めているので細い体のラインが際立ち、とても凛々しく感じ清楚ではないが美しく感じた。
目や髪は雪のように真っ白でどこか妖精のような感じさえする髪の長さは方に届く程度の髪がキラキラ風になびきそれが似合う顔は、今まで見た誰よりもきれいで・・・。
きれいなんだけど・・・時折ふと寂しい顔をする、特に自分の姿を見た時によくするというらしい、下唇をかんだような遠くを見つめ何かを見送るようなさみしい顔を。
そして今も何かを思うような少し寂しいようなでも、自分はなぜかこの人が特別に大事な気がする。
好きなだけではないただ何か特別に大事な、そんな気がするのだ。
「まったく何をやっているんでしょうか。人にたくさん心配をかけて。」
そう言うとファナティコ・エレシはため息をつきながら自分を起き上がらせた。しかし足に全く力が入らずそのまま背負われる形になってしまった。
「力が入らないのでしょう、このまま帰りますよ。」
明日プレゼントを渡す相手に助けてもらわれるという恥ずかしさもあったが今は魔力の使い過ぎと、疲労感から意識が遠のいていった。