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戦闘開始

 中東から点々と殺戮を繰り返しながら移動しているためだいたいの迎撃ポイントは絞りやすかったが、動きが変則的な場合もあり、完全な予想は成り立たない状況だった。

 ひたすら直線的に移動したかと思えば、大規模集落を避けるよう動く場合もあり、そうかと思えば何も考えず大規模集落に突入するなど、非常に不規則としか言えない動きで東を目指していた。

 隠蔽工作のしやすさ、付近への被害の少なさなどから、予想迎撃ポイントとして、インド、中国の国境付近の山間部が予定された。

 

「騙されたとか、偶然とかで契約してしまったのなら、抹殺以外での対応はできないんですかね?」


 ロストしたターゲットが現れ再補足するまでの間の待機時間に、大和は疑問に思った事を聞いてみたが、回答は素っ気ない物であった。


「今回使用されていると武器はおそらくブラッドソード、特性は生人間から血液を吸い取り己の力とする、デメリットとして定期的に吸い続けないと持ち主は死ぬ。毎日毎日数人ずつ生贄を捧げ続けて生存させるのは実質的にデメリットが大きすぎる」


 今回の討伐のリーダーであるジークが素っ気なくだがキッパリと言い切った。他にも理由とすべき問題はあった、生け捕りや説得はどう考えてもリスクが大き過ぎた。大和のケースのように本人に自覚がないまま契約に至っているならまだしも、殺す気で向かってくる相手を殺さないように無力化など、リスクが大きすぎたのだ。しかも、剣の特性は吸い取った命の分だけ強くなるというものがあるため、パワー、スピードともウィングブレード持ちの他のメンバーを大幅に上回っている可能性が高いのであった。


「ジークさんの剣はウィングブレードとは違いますけど、なんていう剣なんですか?」


 大和はこの作戦について、ジークが単体で敵を押さえる間、遠距離から援護としか知らされておらず、ジークの持つ剣の特性等はまるで知らされていなかった。


「バルムンク、特性は一切の攻撃を受け付けなくなる、剣で斬ろうが、マシンガンで撃たれようが一切ダメージを受けなくなる、基本的にはな」 


 出鱈目にも程があると感じてしまった、ダメージを受けなくなるような剣なんてどうやって倒せばいいのだろうか?そんな事を考えてしまったが、決して無敵な訳ではなかった、『矛盾』という言葉もあるが、何もかも斬り裂ける剣も存在しており、それがぶつかり合った時どうなるかまでは予想不可能であった、決して無敵ではないが極めて強力な武器、故にS級にランクされているのであった。


「みなさん、軍人さんなんですか?」


「どうしてそう思った?」


「姿勢がやたらいい気がしたんです、待機中もだらけていないような、なんとなくですけど」


 事実であった、彼らは元々軍に所属していたのだが、この手の災害に遭遇したのを契機に軍を退役しこちらに移って来た者達であった、その際に保管されていた武器とマッチングもしたところ、ジークのみが選ばれたのであった。

 元軍人であると言い、その経緯を語ったりしながらターゲットの情報が入るのを待ったが、一向にその情報は入って来なかった。

 元軍人だけあり、ジークをはじめとしたメンバーは集中を切らせる事無く、適度にリラックスしながらその時を待っていたが、大和はいつくるのか全く予想のつかない状態での待期にかなり焦れていた。


「補足したらしい、ここから約50キロ南の小さい集落だ」


 それだけ、言うと現場へ向かうべく、待機していたヘリへと乗り込んでいった。皆もそれに続く、予想はしていたが、夕方から待って行ってもうすぐ日付がかわろうかというタイミングで補足できたのは運が良いか悪いか判断が微妙なところであろう。夜があければ当然のように視界もクリアになり、討伐は有利に働くであろう、体力勝負になった場合敵が有利になる可能性も高かった、夕方から夜すぐの時間に補足できた方がよかったか判断に苦しむところであった。


 ヘリの中で暗視ゴーグルを渡された、他の者達はみな着けていないのが気になり聞いてみた。


「目で追える速さではない、だから無意味なのよ。あなたは気配を感知できないでしょ?だから気休めに渡したのよ」


 言われると言い返せなかったが、気配を察知するなどできるようになるのであろうか?そんな疑問が頭から離れなかった。


 銃撃戦の音が聞こえ出すと、集落のあちこちで火の手が上がっていた、足止めのため軍が応戦していたのだが、あくまで距離を保ちロストしないようにすることを目的としたものであり、抹殺を目的としてものではなかった。もちろん、抹殺しようにも目で捕えられぬ動きで動きまわる標的になす術などなかったのだが。


 ヘリから降りるとヒルダと大和を残してみな暗闇の中に散って行った。大和は暗視ゴーグルと火の影響で高速で飛び回る影を補足できたが、それだけであり標的に有効な攻撃をしかけるなど全くできなそうに感じていた。

 すぐに、無数の影が交差するように戦闘が開始されると交差するその瞬間に時には大きな金属音が響き戦闘が今まさに行われている事を感じさせた。

 

「影が交差する程度にしか理解できないけど、戦況はどんな感じなの?」


「押してるわ、少しづつ削るようにして弱体化させてるとこだからね、弱体化がある程度済んだら打ち合わせ通りあなたの一押しがあれば、予定より早く片がつくでしょうね」


 それが不安だった、説明によれば血液の集合体と化しているような敵に大量の水分を投入する事によって、密度は薄まりかなり弱体化できるとの事であった。ヴァンパイアの伝説の中に流れる水を渡れないなどの伝説は元々は、水分により密度が薄まり弱体化される事に起因して生まれた伝説であろう、という説明まで受けた。

 伝説の化物のモデルとなっているのはこの剣と契約した人間なら、倒したのもまた別の剣と契約した人間だったのだろう、当時倒した人物の記録まである事を移動時間中に説明されていた。


 四時間にわたって延々と、皆が寄ってたかって少しづつダメージを与え続けていたせいか、動きが鈍り目でもかなり動きが捉えられるようになって来ていた。


「そろそろ援護射撃の準備に入るのがいいのかな?」


「そうね」


 ヒルダの許可を得て集中すると、空気中の水分を凝縮させ投げナイフのような水の刃を幾本も形成させていく、打ち込むことに成功すれば、かなりのダメージになる事が予想された。

 まだかなりの高速で動き回っていたが、撃ち込むチャンスを狙い集中していると、一瞬動きが止まりそこに3人が一気に剣で斬りかかるのが見えた。

 その瞬間いくつもの考えが頭の中を駆け巡った。四人来たために盾になって狙えない、15の少女と聞いていたが明らかに男に見える、四人が殺到するのと同じにもう一つの影が迫っている。

 大和がそんな事を考えているその刹那、五つの身体が袈裟懸けにされるように真っ二つになり崩れ落ちた。正確には中心にいた男は右腕上腕部から左わき腹に抜けるように真っ二つになりながら崩れる事無く立ち続け、血も最初に噴出した以外は全く出ておらず、斬られた服の下の身体に傷は見られなかった。

 仲間四人が一瞬で斬り殺される光景に呆然とした一瞬の間に、斬られた男はまったくダメージを感じさせないすさまじいスピードで大和の目の前に移動し、剣を振りかざしてきた。


 『死んだ』そう思った瞬間に首の後ろの襟を掴まれると引っ張られるように倒された、一瞬首が絞められるようで苦しかったが、事態はそれどころではなかった、つい先刻まで自分が立っていた位置には、ジークが剣で敵の剣を受け止め立ち塞がっていた。


「こいつは抑える!もう一人は他のでやれ!」


 剣で抑え込むような力業により高速での動きを封じ、なんとか鍔迫り合いに持ち込んでいたが、ヒルダと一瞬で四人を葬った謎の新手がどこに行っているのか、完全に見失っていた。

 ジークの側にいると邪魔になると思い、立ち上がると必死に後ずさるように後退しながら、先ほどの転倒で形成が解除され地面を濡らしてしまった水刃を再構成すべく剣を構えるが、今度は背中を思いっきり蹴られるようにして俯せに転倒してしまった。


 何が起きているのか理解できず、半ばパニックになりそうになりながらも、目の前でジークが目に見える形で戦っている事が精神的に安心感をもたらし、辛うじて精神の均衡は保てていた。

 実際に彼の襟を掴み引き倒したり、蹴りを入れたのはすべてヒルダであった、それがなかったら大和は真っ二つになっていた可能性が極めて高かった。

 誤算は1人だと思っていた敵が二体おり、一体の武器はまた別の物であった事だった。


 撤退を視野に入れるべきかもしれない、そんな事をヒルダが考えたのは、ジークと大和と自分、その3人以外の全員が倒された時であったが、その撤退さえできる可能性は低いそう判断せざるを得ない状況であった。



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