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事件発生

 結局ズルズルと答えの出ないまま更に半年が過ぎ季節はまた夏になり、イギリスへきて一年が過ぎようとしていた。叢雲のコントロールもかなり高レベルで行えるようになっていたが、それは水操作に関してだけであり、それ以外の能力はあるのかないのか分からぬままであった。

 彼はいつか決断を迫られるのではないかと、その日が来ることを恐れていた節すらあったが、実際にはそんな事を迫るつもりは毛頭なかった。理由は簡単であり、敵対しない限りは自由を保障すると言った方針に嘘はなく、彼が天寿を全うしてくれれば、叢雲を完全な管理下に置き、剣が選ぶ継承者が現れるまで保管し続ければいい、それが思惑であった。無理に命がけの選択を迫るなど下手をすれば造反に繋がりかねない案件であるだけに、世代を超えて危険物の収集を行う組織であるが故の余裕であった、もちろん積極的な協力者になってくれればその方が望ましい事ではあるのだが。


 週の半分は訓練、半分は休日という、非常にホワイトな環境で訓練は行われたが、その訓練に毎度付き合うヒルダに疑問を感じ質問をぶつけた事があった。

 彼の疑問は自分の訓練に付きっきりであり、他の仕事などはないのか?というものであったが、回答は至極単純な物であった。


「基本的に、自分の訓練以外は私はやることないのよ、私達みたいなのが現場に行く機会は年に1回あるかどうか、数年出番ナシなんてこともあるしね、ちなみに休む暇がない頻度で出撃するような状態だったら世界は滅んでる可能性があると思うわよ」


 特殊災害専門のエキスパートと考えれば納得のいく回答であった。そんな大惨事は起きないに越したことはないが、実際にどのような事が起こり、世間にはどのように伝わるのか?それを見極めた上で回答を真剣に考えてみよう、そんな事を考えていた。




 朝いつも通り車で郊外に赴き訓練を開始するかと思いきや、その日は公共機関を利用して本部へと向かう事となった。行くまでの電車の中でヒルダに聞いた話によれば、任務でしばらく出かけるので帰ってくるまで自由行動、その間は剣は本部預かりとなるとの事であった。

 どこにどのくらいの期間行く事になるのかは、興味があれば本部で聞けばいいと、素っ気ない返事であった、言える範囲が限られているせいなのかもしれないが、やはりどの地域で何が起きようとしているのか非常に気になる所であった。


 ディーノの執務室にヒルダと共に向かうと、そこには見知らぬ人物が5人ほど待機していた、全員がカバーやケースに入っているため外観では分からぬが、剣とおぼしき物を持っており、今回の任務の参加者なのであろう事が予想できた。


「ヒルダから聞いているかな?しばらく訓練は休憩だから剣を預けて好きにしていていいからね、再開する時にまた連絡がいくようにするから、そういうことで」


 拍子抜けしてしまった、参加の打診くらいあるものかと思っていたが、そんな事にはまったく触れず、剣を置いてとっとと出て行けと言わんばかりの内容であるように感じた、もちろんそこまでキツイ言い方はしていないが、全く期待されないのも悲しく感じてしまっていた。考えて見れば、未だに加入も表明していない人物をいきなり実戦に投入する方がどうかしているのだから妥当な対応ではあるが、剣に選ばれたと、少し特別感に浸っていただけに、少し残念なような悲しいような気分であった、しかしそこで強く参加を主張したいと思うほどの想いもなく、剣を置き静かに退出しようとした。


「あっ、お土産どんな物がいい?」


 いきなり緊迫感のない質問がヒルダから発せられた、生きるか死ぬかの任務にこれから行くにしてはあまりに的外れな発言ではなかろうか?そんな事を考えてしまった。


「どこに行くのかも分からないんじゃ何とも言えないよ」


 その質問に毒気を抜かれたような気分になり、軽く返したが続いて発せられたヒルダの言葉で話は一気に変わった。


「日本よ、なんか欲しい物があれば買ってこようと思ってね」


 実際はシナリオ通りであった、今回の任務内容に日本が関連するとなった時に、あえて何も知らせず、日本で災害が発生するかもしれないという情報を与えて様子を見ようとしていたのであった。

 敵対しなければ問題ないのは事実であったが協力してくれるならなおありがたい、そこで実戦に投入して様子を見ようという作戦であった、もちろん全員が事前に説明を受けており、この新人の御守がこの任務の一つである事も了承済みであった。

 ヒルダのような育成されたエキスパートは確かに安定した能力を発揮したが、特殊な剣に選ばれた者はその選ばれたという事実だけでエキスパートを凌駕する能力を発揮する事もあり、実戦に投入して見なければ真価がわからず、安全な実戦などないため、どうしてもぶっつけ本番をいつか行わなければならないのが悩みの種であった。しかも大和は決して積極的なタイプではないため、日本が巻き込まれるかもしれない、この案件はある意味好都合な事件と言えた。


「心配?大丈夫よ、できる限り全力は尽くすから」

 

 大災害を招く可能性を示唆された後でそんな事を言われても全く安心できる要素はなかった。


「どういう事が起きているのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「構わんよ」


 そこからは説明が始まったが、約一か月前から中東に始まり、点々と日本に向かって人智を超えた存在が殺戮を繰り返しながら迫ってきているとの事であった。判明に一か月もかかったのは普通のテロの可能性等から報告が上がるのが遅れた事が大きかったが、時間がかかったがために、犯人の素性までまでしっかりと判明する事となっていた。


「標的はFatma・桜子・Aydin、写真はこれだな」


 渡された写真と告げられた名前に違和感を感じた、日系人なのだろうか?そんな疑問が頭に思い浮かんだことと、写真に写っていた女性がどう見ても十代半ば~後半くらいにしか見えい事だった。


「彼女の両親は不法滞在のクルド人で、彼女は日本生まれの日本育ち日本語しかしゃべれない、しかし強制退去を命じられ両親共々本国送還となったそうだ、年齢は現在15歳」


 彼が知りたがっているであろう情報を察するかのように話始め、さらに続けた。


「偶然ではなさそうな経緯で武器を手に入れ完全に故意に使用し殺戮を行っている、抹殺対象として交渉の余地はないね」


 何故?そんな疑問が出かけた所でさらに続けられた。


「ここからは憶測混じりだが、言葉も通じない本国で苦労したんだろうね、数年後自発的か拉致されたのかは分からんがテロ組織に入っていたようだ、そこで何があったかは分からんが、今使っている武器によって、そのテロ組織の構成員の虐殺死体が見つかったよ」


 そこまで言われるとだいたいの経緯は分かった気がした、強制的に追い出した日本に対しての復讐なのかもしれないという憶測が成り立つのも理解できた。

 話を聞く限り、大災害と言うほどではないような気がした、大津波や大地震、火山の噴火、といった自然災害に匹敵する厄災にはほど遠いのではないか?そんな事が頭を過った。


「見学に連れて行ってはいただけないでしょうか?」


 彼はこの時、今までの経緯から簡単に許可が下りるのではないかと少し高を括っていたが、回答は真逆のものであった。


「危険なので御守おもりに人員は避けない、すまないが連れてはいけないね」


 何も言えなかったが、それでも何とかならないものかと考えていると、ディーノから提案がなされた。


「戦力としてなら連れて行ってもいい、現場の指示に従い戦う気があるなら多少お荷物でも大目に見よう、どうする?」


「はい、ではそれで」


 煮え切らない奴、皆がそう思うくらいはっきりとしない回答であった。ヒーローに憧れて飛び込んでくる無謀な人物も困るが、なんとも掴みどころがなく、内向的で若干イライラする、そんな事をその場にいる誰もが表情には出さないが考えていた。


 

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