05 俺が目を付けられるまで
……やばいな。
頭の中で思い浮かんだ最高のルートをたどって殴ったから、綺麗に決まったと思う。
一応、俺には生まれた頃から異能があった。
いや、才能というべきかもしれない。
昔から、誰かと争うときとかに、少しだけ相手の動きが読めた。いや、大まかな相手の行動、弱点が頭に浮かんでいた。
まるで、誰かに計算されたように読み取れるその情報を使って、失敗したことはそこまで無かった。
だからこそ、学校の体育なども活躍しようと思えばできたのだが、どうせ調子乗ってるとか言って殴られるのがオチだから、基本パス回しなど地味な事しかやっていなかった。
まぁ、その読み取れる情報もあいまいなもので、大体何かがこっちから来るなとか、ここにいると不味い事になるとか、こっちの方に行った方がいいとか、そういうものだったけど。
でも、今初めてその異能を後悔した。
王様を……感情に任せて殴ってしまったのだ。しかも、綺麗に。
場の空気は凍りつく。
横にいる王女は、俺の方をじっと見てかたまっている。微かに肩が震えているのを感じる。
「お、おい!お前何やってんだよ!」
クラスの委員長、燃堂和真が俺に向かって言葉を投げつける。
クラスの中で有力なだけあって、他のクラスメイトもつられて、俺に抗議の声を上げる。
「王様殴るとか馬鹿じゃねぇのか!?」
「なんでこんな事してるのよ!」
王様は、完全に気絶していた。
近くにいた近衛兵が、俺に向かって槍を向ける。
……非常にまずい。
いきなり国家反逆罪とか言われて処刑される可能性も、微かながらにある……
思考が旨く動かない。改善策も思い浮かばない。
「ちょっと待って下さい!」
隣から、突如大きな声が響いた。
それは、クラスメイトの誰でもない声だった。
「彼らは私達が無理やり召喚したのです!多少はお怒りになるのも致し方ありません!だから、武器を収めてください!」
王女が、そう告げた。
直後、近衛兵は槍を引き、元の場所に戻っていった。
「申し訳ございません。私からも謝罪させて頂きます。なので……どうかお怒りを鎮めていただけませんでしょうか!」
王女は、涙を流しながらにそう言った。
さすがに……自分と同じか、少し小さいぐらいの子に涙を流させるのは心苦しかった。
俺は何も言わずに、後ろにさがってクラスメイトたちの中に紛れ込もうとする。
だが、モーゼの滝のようにきれいにクラスメイトは左右に分かれ、実質俺一人が真ん中にポツンと佇む事になった。
「取り乱してすみません。では……もう一度。あなたたちには魔王を倒していただきたいのです!」
そう、王女は行った。
「すみません、一ついいでしょうか」
燃堂は、静かにそう言った。
「なんでしょうか?」
「たぶん、もう予想ついているのですが、魔王を倒さないと帰れない……ってことですよね?」
「さすが、勇者様方!もう、お分かりとはすごいです!」
王女のよいしょに、燃堂は少し顔を赤らめる。
「でも、心配することはありません!あなたたちには、神から授かった能力、『神託』があるはずです!」
「あ!あの武器のことですか?」
「あまり、よく存じないのですが、一旦確認なさるのもいいと思いますよ?」
そう言って、王女が立ち上がろうとして……起き上がった王様に止められた。
「ここからは、マリーに代わって私が説明いたしましょう」
王様は、ふらつきながらもイスに座った。
そこから、王様の説明は始まった。
簡単な内容は、昔ここはひとつの平和な国だったが、突如出現した魔王によって、国はバラバラになり多くの民も死んだ。
だから、過去の王様たちは神様に頼り、他の世界から勇者を呼びだす事にしたそうだ。
過去に召喚された勇者は、魔王を倒し、無事世界は救われたそう。
俺たちは三代目勇者として召喚された。
っとこんな感じらしい。あらまぁ、お決まりの展開。
「ぶしつけながら頼みたい。どうか、我が世界を救っていただきたい!」
その王様の一言。
「私からもお願いします!勇者様方!」
王女マリーも同じように手を合わせる。チラリと見える顔からは、涙がこぼれているのが見えた。
「な、泣かないでください!」
「いえ!私達が勝手に呼び出したのです。どうか……私達を御救いください!」
上目使いの王女マリーに見つめられ、戸惑う燃堂。王女は、他のクラスメイトも、その目でしっかりと見つめていった。
その目は、心を動かすには十分で……微かな嫌悪感が出てきた。
「分かりました!俺たちが、魔王を倒します!みんなもそれでいいよな!」
……は?何勝手に決め付けてんの?
クラスのリーダーだからって、正義感(笑)を振りかざせばいいの?事後承諾ってふざけてるの?
「燃堂が言うならしょうがねぇな……」「私も、燃堂君が行くなら頑張る!」「燃堂一人に無茶させるわけにもいかねぇしな!」「お前だけかっこいいとこ持ってくなよ!」
あれ、みんな乗り気。
一応命の危険があるという事が分かっているのかな?
「ありがとうございます!勇者様方!」
「ありがとう。改めて礼を言わせてもらう」
異議を申し立てる前に、王様が場を閉めた。
……あんまり乗り気じゃないけど……まぁ、頑張るのもいいかな。
そう思って、王女の方を見ると……めっちゃ見つめられてる。というか怖い。殺気籠ってない?あれ。というか、まさかさっきの嘘泣き?
王女マリーじゃなくて、悪女マリー?性悪女?
「では、この世界の常識が向こうと違うのかもしれませんので、とりあえず説明致したいと思います。立ったままでは大変でしょう。大広間に案内致しますので、ついてきて下さい」
立ちあがった王女に連れられて、王の間らしきところから出ていく。
もちろん、俺は最後尾。悲しき学生生活。
気まぐれで、後ろを振り返る。
憎悪と懐疑で満ちた、王様の目が……そこにあった。
やばい、嫌な予感しかしない。
黒幕=?