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04 俺が衝動に走るまで

「さて、それがこの能力の真骨頂。『等価交換』の一つ!」

「……タダの買い物画面じゃん」


呆れた声しか出なかった。


「使い方は……向こうで学んできてほしいな」

「まてまてまて!」


どうしても突っ込みたいところがあった。

……どう考えてもおかしい。


「錬金術って、なんかいろいろ作ったり、金属の形を変えたりするもんじゃないのか!?」

「あ、それたぶん勘違い」


神様がこともなげにいう。

ということは……あの例の小説のように旨く使って近代の道具とか作って無双とかできねぇじゃねぇか……


「うわぁぁぁぁ!一瞬能力名を見てめちゃくちゃ心が高鳴ったのを返してくれっ!ついでになにかくれっ!」

「ちゃっかり、物を要求するあたりしたたかだよね……さすがに、これにはなにもあげられないからね」


そう言いながら、神様は手を握った。静かに。


「錬金術の本来の姿知ってる?」

「……知らん」

「いさぎいいよねホントに……」


だって、知らない物は知らないんだもん。

答えようがない!


「錬金術というのは、金を作り出す為のもの。それを逆利用すれば、金から別の物を作り出す物。それを、魔力というもので補って幅を広げたようなもの……ってことかな」

「うん、よくわからん」

「まぁ、簡単にいうと、金さえあればなんとかなる」

「分かった」


神様からむけられる可哀そうな目が何とも言えない。


「じゃぁ、頑張ってもらおうかな!」

「……もう少し説明を……」

「無理。時間切れ」


あっさりと、拒絶される。

もう少し何とかしてくれてもいいのに……


「ちなみに、その(否定された存在)ってついているやつは、他人にばれると効果が消えるから。」

「……え?」


さらっと、とんでもない事を言ったよな……この神様。


「じゃ!がんばってね!」

「おい!ちょっと待てよ!」


異議を言おうとした直後、視界が真っ白に染まり、体に浮遊感が襲いかかった。


     ★


「今度こそ、行ったかな?」


もう、人の心が読めない事を確認して、一気に姿勢を崩す。


「もう出てきていいよ!」

「……なんであれを渡したの?」


何もない場所から、一人の少女が姿を現す。

神様の一人。そして……自分の前任者。


「実にいいだろう!否定された存在!実に彼にぴったりの称号じゃないか!」

「それだけじゃ……ないよね」


静かに問い詰められる。

これは、まぁ正直に放すべきかな?どうせ、彼女と考えていることは同じだろうし。


「贖罪……かな?」

「それは……本来私がするべき事なのに!」

「いや、それは違う」


断言する。


「だから、君はなんでも抱えて、そして全部一人でしようとするんだ」

「なら……どうすればいいの!」

「頼れ」


力強く、一言で表す。


「だめだと思ったら、誰かを頼れ。僕でなくてもいい。自分の持てる力を全て使って……だれかを頼れ」

「……彼の九か月の記憶は?」

「大丈夫、齟齬が出ないように記憶は全て処理して宝石に詰め込んである。でも……これだけは持ち出すなよ?あれは……あれこそは、存在してはいけないものだ。否定されるものではない、拒絶されるべきものだ」


彼女の反抗をあらかじめ防いで置く。


「もう、無理だと思うまで……今回は傍観してやってあげるんだ。前回の……大罪も見逃してあげてるんだ。しかも、彼のステータスは全てリセットしたけれど、潜在値はそのままにしているんだ。記憶も消したとはいえ、本能……いや、不可侵領域の方が正しいか、まぁ、本人の意識しないところで欠片は残っている。十分な望みはかなえているはずだけど?」


彼女の目から涙がぽたりぽたりとあふれ出してくる。

後悔の念……そして、復讐の念が感じられる。


「本来なら……向こうの世界の記憶もまっさらに消さないといけないほどの禁忌だったんだ。こっちだって相当のリスクを負っている。」

「でも……!」


全ての元凶を今すぐ潰したいのだろう。

でも、神は平等でなければならない。誰かの力になるとしても……それすらも世界の安定を保つという大義名分を持たなければならない。

だから、あの彼に託した能力も……平等の為のひとつだ。多少バランスが崩れても……それは後のバランスを保つために必要なものなのだ。


「これ以上……彼に肩入れするな。このまま進むと……破滅だぞ」


神の死ぬ要因のひとつ。

神からの降格。神の力を失って世界に放りだされる事。堕ちた神の末路は……ほとんど決まっている。


それを起こす原因は……


「でも……お願い……」

「ん?」

「彼女の犠牲を……無駄にしたくないっ!」


その神の声からは……しっかりとした覚悟を感じられた。


「……分かった」

「ホントに!?」

「だけど、できる事に限界はある。だから……」


一旦一息ついて、告げる。


「自分自身が破滅する覚悟はある?」

「ある」


即答。


「なら、始めようか。世界の破壊。彼の救済。彼女への贖罪。すべてを込めた、舞踏を。」


その一言から……すべてを始めた。


「じゃぁ、まずはあいつの力を借りないとね。彼自身の持つ……親から引き継いだひとつの『最狂』の異能を」


あの、無表情の仮面を思い出して……身震いした。


     ★


視界がクリアになっていく。

そこには……よくある、王様の間のような空間が広がっていた。


豪華な装飾物、そして立派な絨毯。

これだけで、いったいいくらになるのだろうか。


安堵の息をつく。

だって、一部の小説だったら、何もない森の中に放りだされてサバイバル状態になったりするから。


神様が、あらかじめ安全なところに送るといっていたけど、あのいたずら好きそうな顔からして嘘という可能性もありえた。

というか、牢屋に召喚したところで無理やり隷従されるという可能性もあった。


まぁ、この状況ならよかったのだろう。

一瞬だけ、あるクラスメイトが首輪を付けられている大変卑猥な妄想が頭をよぎったが、全力で無視する。

お、俺は健全な男子高校生として生きていくと決めてたんだ……そそられてなんて……たぶんいない。


「よくいらっしゃいました!勇者様方!」


低く良く響く、威厳のある声。

俺の視線の先には、豪華絢爛な服といかにも王様の冠というのをかぶったおじさんだった。というか、王様だこれ。


「まずは、突然呼びだした無礼をお許しいただきたい!」


なんだろう……このハラワタが煮えくりわたるような感覚。

王様の横で静かに王様のイスより一回り小さいけど豪華なイスに座る少女を見ても……なにかムナ焼けを感じる。あれは……王女だろう。


なにか、止まらない感情があふれ出してくる。

右手に力がこもる。


王女が俺の視線に気がついたようで、ふわりと笑みを浮かべる。その表情は、まるで媚を売る雌の顔……


何を考えているんだ俺は。雌の顔って普通は考えないだろ。どんな、下卑た男になり果ててるんだよ俺は……

すぅと謎の感情が薄れていく。


「あなたたちは……私達の救世主として……魔王を倒していただきたいっ!」


このセリフが……起爆剤となった。

一瞬でまともな思考が吹っ飛ぶ。

そして、憤怒のような、後悔のような、謎の感情が一気に流れ込む。

もう、止められなかった。


自分が転移させられた場所は、王様に一番近い。

地面にへたっていた状態から、一気に立ち上がる。


一瞬むけられた視線ににらみ返し……地面を蹴った。

王様のイスは三段ぐらいの段差の上にあった。

その、三段をひとっ飛びしてそのまま王様の目の前まで跳ぶ。


勢いをそのままにして……神様を殴ったその右手を……全力で振り抜いた。


グキリとしっかりとした感覚が腕に伝わる。

王様は、豪華なイスごとバランスを崩してドタンと後ろに倒れる。


心から謎の感覚が、蓋を外された風船のように抜けて……





…………あ。

俺……何やっちゃった?

ここから、異世界編となります。

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