00 俺が一度死ぬまで
久しぶりの執筆の為、少し拙いです。
体が熱を持つ。
地面に擦られ、摩擦によって生じた熱が体を燃え上がらせる。
そして、飛び散ったガラスが顔や体を切り裂いていった。
ゴロゴロと体はころがり続ける。
そして、ガードレールの柱にぶつかってようやく止まった。
白い塗料が体に薄く貼り突く。
体中を打った痛みはほとんど感じない。
ただ、熱いだけ。
それよりも、頭の中で鳴りひびく音がひどかった。
視界の中にうつりこむ惨劇。
白いトラックに潰された、軽自動車。
そして、目の前に飛び散る赤い血。
否定したくても……頬に伝う生温かい液体がそれを許さない。
押しつぶされた軽自動車から飛び出た細い腕。
これは母さんの腕……。
理性で理解したくなくても、視界から流れ込む景色か強制的に理解させてくる。
吐く物のない腹から赤い液体が喉をせり上がる。
「なんで……なんでこうなったんだよっ!」
喉を切り裂くように出た声は、ただ空しく反響するだけだった。
★
家に帰って来た。
事故に会ってからもう、一か月たった。
床につもった埃が、足の裏につきこそばゆい感覚を与えてくる。
「ただいま。」
……返答はない。
そう、母さんは死んだ。
あの交通事故で亡くなったのだ。
同じように、乗っていた親父は死んではいないが、意識がいまだに戻らない。
直前にあった事は鮮明に覚えている。
母さんは、あの時こう言ったんだった。
”ドアを開けなさい。”
詳しい事は分からない。
でも、おとなしく俺は従った。
直後、あり得ない力で母さんは俺を突き飛ばしたのだ。
車の外へと。当然、体は擦れ、怪我をおったが……車の中にいた母さんと父さんは、もうすでに手遅れだった。
あの時、母さんは微笑んでいた。すべて、計算通りというように。すべて、見越していたことのように。
足を前に進める。
俺は、ためらわず母さんの部屋に向かった。
母さんは、何かの仕事に就いていたわけでもない。いわゆる、専業主婦というものだった。
だから、母さんは部屋でよくいろいろな事をしていた。
面白いおもちゃを作っていたり、何やら小難しい計算をしていたり。
扉を開ける。
中にある机の上には、よく母さんが抱えていた手帳だけが置かれていた。
それ以外は、すべてきれいさっぱり片付けられていて少し殺風景だった。
思わず、手帳を手に取る。
ピシリと電気のようなものが走り、俺はつい手を放してしまった。
落ちた衝撃で、手帳は開き謎の模様の羅列が見えた。
よくわからない事ばかり。
まるで、魔法陣の様なものが各所各所に書かれているようだった。
落としてしまった手帳を拾い、ペラペラと捲っていく。
そして、一ページだけ端っこがおられたページがあった。
開くとそこに有ったのは、一つの魔法陣。
そして、日本語で書かれた小さな説明だけだった。
”供物をここに捧げ、火を付ける。なるべく高価なものがいい。”
ピンポーンと緊張感のない音が響く。
来るような、客人も、友達もいないはずだけど……いったい誰だろうか。
玄関まで出て、開ける。そこには、黒いスーツを着た男が立っていた。
「佐竹颯太君ですか?」
「は、はい……そうですが」
「君のお母さんからの預かり物があるのです」
そう言って、男は一つのトランクケースのようなものを差し出してきた。
「申し遅れました。私は、弁護士をやっている者です」
そういって、名刺も渡してきた。
そこには、確かにしっかりと弁護士と書いてあった。
「これからの生活についてもお手伝いさせて頂きます。祖母や祖父とともに暮らしたいとでもなりましたら、その電話番号に連絡していただければ対処させて頂きます」
「は、はい……」
今のところは、そんな予定はない。
祖母や祖父を嫌っているわけじゃないが……しばらくは一人でいたい。
「そして、お母さんからの伝言です。試すべきものは試せ。犠牲は数えるな」
「……どういう事ですか?」
「それについては分かりませんが……しっかりと考えるのがいいと思いますよ?では、失礼いたします」
男はあっさりと帰っていた。
残されたトランクケースは重く、腕に負担がかかり続ける。
居間に持ってきて、カギを開ける。
中から出てきたのは……大量の現金だった。
見たところ……1000万……いや、一億だろうか。
親の預金通帳にすでに一億近く入っているのに加え、現金でも一億円。
あまりにも非現実的過ぎて、受け止めることができなかった。
居間まで、持ってきて放置していた手帳。
「……馬鹿らしい」
でも……これをした方が正しいと直感で感じていた。
高価なものを使った方がいい。
なら、現金を使ってもかまわないだろう。
家具を全て端っこにずらし、カーペットをはがす。
偶然近くに置いてあったペンを使い、手帳とおなじように魔法陣を描いていく。
そして、書き上がった魔法陣の中に全ての札束を放り投げた。
近くにあったマッチを使って火をつけようとして……思いとどまる。
「お金って……燃えるっけ」
まぁ、いっか……
俺は火のついたマッチを投げ込む。
直後……爆風が舞った。
一瞬で、お札は燃え上がりひとつ残らず消えた。
残ったのは、熱だけ。
魔法陣もすべて消え、ただ埃だけが残っている。
空しさだけがそこにあった。
★
空しかった。
家族も失い、お金も燃えた。
ビュウと下で車が通り、髪の毛を風が揺らす。
俺は特に意味もなく、歩道橋から下を眺めていた。
「なんでこうなったんだろうな……」
これからの生活はどうにでもなるだろう。
親が残してくれたお金は有り余るぐらいにある。
でも、どうしても胸からぽっかりと無くなってしまった物が恋しかった。
「はぁ……っ!?」
ため息をついた直後に……頭に痛みが走る。
何かを警告するかのように。
なんなんだ……
そう思いながら、体を歩道橋の柵に預けて姿勢を楽にしようとする。
だが直後……歩道橋の柵はなくなった。
体を支えるべき物は無く、体はずれて落ちていく。
視界が上下反転し、道路が空に見える。
一瞬で自覚した。
目の前に迫ったトラック。
あぁ……俺も死ぬのか。
痛みは感じなかった。