第八話
ちょっと文字数少な目
でも話はめんどくさいのがあるから、詰め込みすぎなくていいかもね。
今日は二つ目の鐘、つまり日の出と真昼の間に太陽があるときに鳴る鐘のときに探索者協会に来た。あまり早く来すぎても、朝は混雑しているようだし、何より昼食までにディピルを狩り終えてしまったら街の外で暇を持て余しそうだったからだ。今回は街の外で昼飯を食うという目標があるからな。
パンと干し肉はもうすでに買ってある。朝食を買いに行ったときについでに買ってきたのだ。パンも干し肉も適当な大きさに切り分け、手ぬぐいで包んでバッグに入れてある。これで直に手を触れずともフォークで刺して食べやすい。
水袋の水も補充した。最初に特に何もせず水を入れて飲んでみたのだが、何とも言えない臭さが水に染みついたような味がしたので、何回か中をゆすいでみた。ちょっとはマシになったので我慢することにする。
エッダ紙もエッダの木から剥がしてバッグに詰め込んである。消費しなければ、しばらくは補充もいらないだろう。
探索者協会のスイングドアを開けて中に入る。特別何かすることもないので、依頼を受けるためハゲマッチョのいる受付に行く。
「ディピル狩りの依頼はあるか?」
「おう、おはようさん。ディピルの肉は常に募集されてるぜ。異常事態でも起こらなくっちゃ、この依頼はなくならねぇよ」
「ああ、おはよう。じゃあディピルの肉、一昨日と同じ五匹分の依頼を受けようと思うが、それはあるか?」
「ああ、一昨日のはどこの依頼だったかね? 同じところの依頼じゃなくてもいいなら、いくつかあるから、今ある中で一番報酬が高いのを受理しとくぜ。ちなみに協会でも買い取ってて、匹数は特に決まってない。常に肉の需要はあるからな。持ち込んだ分だけ、一匹から出来高制で買い取るぜ。まあ協会に売るよりは、依頼が出てるところに売ったほうが報酬は高くなるから、ちょっと狩りすぎて中途半端に余ったら協会に売るといい」
「ああ、わかった。ありがとう。依頼は一番報酬が高いのでいい。狩りすぎたら協会に売るよ。クロトで代筆を頼む」
「あいよ」
そう言うとハゲマッチョは受付から出て、依頼が貼ってあるボードから一枚の依頼書を取ると戻ってきた。
「ちなみにだが、今はほかの探索者が依頼を取ってる時間じゃないからいいが、ダブルブッキング防止のためのボード優先ってのは知ってるか?」
ん? なんだそれ?
「いや、知らないな」
「まあマナーってか、暗黙の了解ってやつなんで規則とかになってるわけじゃないんだが。依頼書はボードと受付で同じものが置いてあってな。例えば、キー君って探索者が依頼書をボードからとらずに受付に並ぶ。その後ろにター君って冒険者が依頼書をボードからとって受付に並ぶ。キー君の番が着て、依頼を受付で選んだら、その依頼がター君の持ってきた依頼と同じもんだったら、それは困るだろ?」
名前のセンスゥッ!
「……ん、まあそうだな。依頼書を先に剥がしたター君は、前に並んでいたキー君に依頼を取られたような形になる。どっちがその依頼を受けるんだって話になりそうだな」
「そうだ。そこで暗黙の了解であるボード優先ってのができた。まず依頼書を取ってきたやつらが先に受付を済ませて、そのあとに受付で依頼を受けるやつは並び始めるんだ」
「んー、なんだかな。それならボードは廃止して依頼書は受付だけで管理したらどうだ? 二枚も依頼書を書くのも実質手間が二倍になってるわけだし」
「その案もあったが、その都度受付がその探索者の望む条件に合う依頼を探さにゃならなくなる。それでいくつかのその探索者の条件に合いそうな依頼を探索者に提示して、探索者が依頼を決める。一回一回だ。それも時間がかかるし手間だろ? だから文字が読めるやつの特権みたいな感じで、ボード優先ってのができた。先にボードから依頼を取ったやつが並ぶんだ。ボードからとってきて受理された依頼は受付にあるものも受理扱いにして弾く。これで一つ目のブッキングをまず防ぐ。そのあと、文字を読めないやつらが受付で依頼を決めて、探索に行く。それで受付にいる探索者がみんなはけたら、ボードにある依頼で受理されてるものをまとめて剥がして、これでブッキングを完全に防ぐ。まとめて剥がすのは、流石に受付が依頼を受理した一回一回にボードから剥がしに行ってたら時間がかかるし面倒だから、効率的にそうなった。ちなみにボードだけに依頼書を貼るってのは、これもまた受付がボードのとこに行って文字の読めない探索者とあーだこーだとやんなきゃならんから、なしになった」
「そうなのか。俺は文字が読めない側だから、依頼書を持ってるやつと一緒に並ばないように気を付けるよ」
ネットがつながってパソコンがあって、何か買ったらほかのとこでも在庫が減るように紐づけされてた日本の技術は便利だったんだな。
それに比べてこのアナログの面倒さよ……。
「そうしとけ。今話してるうちに受理し終わってるから、もう行っていいぞ」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
ちょっと長くて面倒な話を聞いたけど、とりあえずそれは置いといてディピル狩りに行きますか!