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大剣の英雄  作者: neru
探索者
7/8

第七話

 ランダと別れて無事に靴下なんかも込みで衣類を揃えた俺は、今自分の部屋に戻って必要なものをメモにまとめる作業をしている。

 インクがそれなりの値段したり、服の生地がなんかよくなかったり、靴下なんかはゴムがないらしく口の部分をキュッとひもで締める足の形の巾着袋っぽい物だったりで、これからの生活に不安を感じている。

 日本は便利なものであふれてたんだなぁ……。


 まあ、現実逃避はやめてメモをしようか。

 まず、水筒は絶対にいる。この文明の感じだと革製の水袋だろうか? なんにせよ水は街の外で活動するのに当たって、飲むのにも血で汚れた手を洗うのにも必要だ。


 今俺の身体は馬鹿みたいに身体能力が上がっているが、動物を触り、血で汚れた手でパンを手に持って食ったりしたら、どんな病気になるかわかったもんじゃない。日をまたぐような依頼でなくても、探索者を続けるなら街の外で昼食をとるくらい普通にあるだろうし。


 見た感じだが、なんか中世っぽい雰囲気のこの街では、ただの食中毒でも死にかねないだろう。傷薬はとんでもない効き目だったけど、内服薬はどうだかわからないし、この世界独自のウイルスなんかがいて、別世界出身でこの世界の人とは免疫とかが違うかもしれない俺に対してクリティカルヒットするような病気もあるかも知れない。

 病気になるようなリスクはとにかく避けないといけないな。


 そう考えると、石鹸が欲しくなる。売ってるだろうか? 売ってなかったら自作か?

 何かで見たが、油と灰が混じったのが石鹸の原点だったか? だめだ、詳しく思い出せない。重曹なんかで手作り石鹸が作れたような気がするが、具体的にどうやるのか思い出せない。そもそも重曹って売ってるのか?


 とりあえず水筒と書いてあるメモに石鹸を追加しておく。売ってるかわからないし、売ってたとしても値段次第だな……。


 あとは火を起こす道具もほしいか。今のところ、野営なんかをする気はないが、強い生き物に追いかけられて逃げてるうちに、怪我したり迷子になったりしてすぐに街に戻れなくなるような状況になるかも知れない。もちろん街からあまり離れたところに狩りに行く気はないが、ゲームじゃないんだ。敵モンスターの分布がはっきり分かれてるわけじゃない。それこそ街の近くにワイバーンがいきなり来ないとも限らないだろう。

 

となるとやっぱりライターはないだろうから火打石か何かと、あと小さい鍋でも買っておこうか。メモに追加する。


 武器防具はもう買ったし、あと何が必要だろう? キャンプでもやったことがあればこういったことにも詳しくなるかも知れないが、あいにくとキャンプの経験はない。


「キャンプ。キャンプねぇ……」


 キャンプと言えばバーベキュー。いや、あり得ないな。金網とかドラム缶を半分にしたような炭を入れるとことか、運搬に支障しか出ない。肉焼くならたき火でいい。草原に薪なんてないけど。

 となると草原で夜になると真っ暗か? それはちょっと怖いな。さすがにこの身体でも暗くちゃよく見えないみたいだった。明かりがいる。懐中電灯はないだろうからろうそく、カンテラとかか? ランタンか? 違いが判らん。


 あとはテントとか寝袋。お、これは一考の余地ありでは? テントはかさばるからダメでも寝袋はいいんじゃないか? ぎゅっと袋に入れればだいぶ小さくなってたはず。

 いや待て。日本、というか向こうの国々の技術だから小さくまとまって、出すとモコッとした寝袋が作れているのでは? こっちでは望み薄か? それに寝袋になんか入って寝てたらゴアラルフにでも襲われたら抵抗できずに食われるじゃないか。

 ……マント。寝るときに掛布団代わりになるし、払えばすぐに立ち上がれる。これが現実的なとこだろう。水をはじくやつがいい。雨の多い土地らしいし。


 あとキャンプと言えば、……山登りの際の転落事故? この考えだとキャンプというか登山だが、ロープはいいんじゃないか? 必要そうだ。血抜きのときとか自分でディピルの足を持ってやってたが、木から吊るせば楽だろう。まあ目下の狩場である草原に木はほぼないんだけど。


 とりあえずカンテラとマントとロープも追加する。


うーん。包丁はナイフがあるからいらない。まな板は……、小さいのなら持って行ってもいいか。なにか肉とかを切り分けるときがあるかも知れない。

 食器は、ああ、パンを食べるとき素手で持つんじゃなくてフォークでぶっ刺せば触らずに食えそうだ。食べやすいようにパンはあらかじめ適当な大きさに切り分けておけばいい。


 フォークとまな板も追加。


 あとは毎回買うものとして昼飯用のパンに、ファンタジー小説だと干し肉と葡萄酒もセットってのをよく見たような。干し肉は買いたいな。パンだけの昼食も味気ない。葡萄酒は、確か土地の水質が悪くてとか、長期間になると水が腐るから腐らない酒類を持ち歩いて飲んでるとかだった気がするから、ここは普通に水でいいだろう。手も洗うし。酔った状態で肉食獣とやりあう羽目になるのも危ないだろう。


「こんなもんかぁ」


 椅子に座ったままぐっと伸びをすると、背骨がゴキゴキと鳴った。同じ姿勢で長考してたからな。ちょっと疲れた。


 それにしても、『もしこうなったら』って感じの荷物が多い。火打石、カンテラ、ロープ、まな板は草原で日帰り探索者をやってる現状だとほとんど使わないと言っていいだろう。もしもの備えだ。

 マントは雨の多い土地らしいから普段でも使い道があるかもな。撥水性のがあればいいが。


 あ、重要なことを忘れてた。街の外に行くときはエッダ紙はある程度の枚数を持ち歩こう。不意にでかいほうをしたくならないとも限らない。不浄の左手は嫌だ。



◆◇◆



 とりあえず近くにある手ぬぐいを買った雑貨屋でいろいろ買おうかと思ったが、今日は探索者ギルドで依頼を受けず、一日買い出しと休養にあてることにしたので、品揃えが豊富なレジッド商店まで足を運ぶことにした。


「いらっしゃいませ」


 レジッド商店に着き、入るとそう声がかけられた。「どうも」とちょっと手をあげて返事をする。


 例によって自分で探すより欲しいものを言って取ってもらったほうが早いので、他の客が丁度いないこともあり、メモを渡して揃えてもらおうとしたのだが――――


「えっと、これはどちらの文字で?」


 ……そうだった。話せるから忘れていたが、文字はわからないんだった。普通に日本語で書いてしまっていたから、こっちの人間は俺の書いた文字が読めないのか。


「ああ、ちょっと遠くから来たもので。ここに書いてあるのは水筒または水袋、石鹸に火を起こす道具と小さい鍋、暗くなった時に明かりになるもの、撥水性の高いマントに獲物を吊るせるようなロープ、あとはフォークとまな板で」


 さて、日本語に聞こえるこっちの世界の住人の言葉だが、果たして口の動きは俺が聴いている音と同じ動きをしているだろうか?


「かしこまりました。少々お時間をいただくこと、それからすみませんが他のお客様が見えましたら途中でそちらの対応をさせていただくことをご了承ください。ちょっとしたものを買いに来ましたお客様でしたら、そちらをすぐに会計を済ませてしまったほうがよろしいですから」


「あ、ええ、もちろん構いません。よろしくお願いします」


「ありがとうございます。では、前回のように商品を会計に持ってきますと、今回はなかなかの量になってしまいますので、商品が置いてあるところにご案内いたしますので、そこで気に入った品をお選びいただければと思います。少々お付き合いください」


「はい、よろしくおねがいします……」


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

 口が、音と違う動きをしてる。

 絶対にそう言ってないのに、そう聞こえる。


 気持ち悪い…………。


「……ところで、文字はわからなくても言葉は通じるって、不思議ですよね」


 言ってしまった。

 あまりにも気味が悪くて気になる。つい言ってしまったが、これ大丈夫な話題か……?


「はあ。考えたこともありませんでしたな。文字はあとから人間が作ったものですので、地域によって違いますが。話すほうは蝶が飛ぶように、人間の本能に基づいているようなものですし、当たり前に感じておりましたが」


「……そうですか。そうですよね。すいません変なこと言って」


「いえいえ、お気になさらず」


 特に表情は変わらないようだ。でも俺はこの人がやり手の商人だってことを知っている。

 かなり接客が丁寧というか、サービスがいいというか。少なくとも俺がこっちの世界で買い物をしたここ以外の店はもっと客に対して適当な感じだった。

 この人なら不審に思っていても笑顔で隠すくらいわけないだろうな……。


 まあ、もう言ってしまったことだ。多少不審に思われるのも仕方ないと割り切ろう。

 ……それにしても、言葉が通じるのが当たり前とは。ここはバベルの塔の崩壊前の世界かよ……。



◆◇◆



 レジッド商店では途中傷薬の補充をしに客が二人来たが、その時に……、あの人が店主か? まああの人がそっちの対応に入ったくらいで特に問題はなかった。


 結局買ったものは、大き目の水袋、石鹸、火打石、小さい鍋、小さいたいまつ、毛皮のマント、タコ糸くらいの細さのロープ、フォーク、まな板、そしてそれを入れる荷物袋。

 

水袋は3、4リットルくらい入るものだ。手も洗うし2リットルくらいだと足りないかと思ってこれにした。水筒もあったが、水袋は形がぐにゃぐにゃ変わるので、荷物袋に他のものと一緒に入れるとき都合がいい。


 石鹸はちょっと高価だったがちゃんとあった。使い心地はまだ不明だけど。とにかくちょっとでも病気になるリスクは減らしたいので買った。知ってる石鹸よりずいぶんと柔らかく、これ単体だとバッグに入れたとき石鹸でバッグの中がグチャグチャになりそうな感じだ。幸い小さい革袋付きだから悲劇は起きなそうだ。


 火打石は、まあたぶん地球の火打石とさほど変わらない。驚きなのがライターのようなものがあったことだ。以前に火を噴くワイバーンの話を聞いたが、あいつの素材らしい。と言っても着火装置部分だけだが。油が入った容器からひもが出ていて、ワイバーン性の高性能な小さな火打石のようなものがひもの近くについていて、それを震えさせるように打ち鳴らしてひもに火をつけるそうだ。最近できたばかりらしく、高価すぎたので普通の火打石を買った。ワイバーン素材を使わなければもっとグッと値が抑えられるらしく、現在研究中じゃないかとのこと。頑張って安価なものを作ってほしい。


 その時に聞いたのだが、どうやら火を噴くワイバーンは、咽喉の途中、口腔よりに蓄油嚢と呼ばれる油をため込む場所につながる道があるらしい。蓄油嚢自体は鎖骨の間辺りにあるそうだ。それで、咽喉と口腔の境目辺りに高性能な火打石のようなものが歯が生えるように生えているらしい。

 蓄油嚢の油を口から飛ばすのだが、その際に咽喉を振るわせるようにして、カカカカッと上下に生えた火打石のようなものを打ち付けあい、火をつけてブシャーと油を飛ばす。これがこの世界の火を噴くワイバーンというやつなのだ。

 厄介なのが火のついた油を飛ばしているので、浴びるとまず消えない。川などがあれば飛び込めば火は消えるが、手持ちの水袋の水量とかでは消せないので生きながら燃やされるという。地面を必死に転げまわっても消えない。恐ろしい話だ。


 ワイバーンはいいとして、次は小さい鍋だ。なにかの甲羅に取っ手をつけ、底の部分を削ってちょっと平らにしてある。平らな部分が少ないので、置くとちょっと不安定だが、俺が知ってるような鍋の形をしたやつは、鱗なんかを特殊な火に強い接着剤でくっつけて作っているらしい。接着剤が高価らしく、そういった鍋は高い。大きい鍋なら接着剤を使わずとも安定して置けるような甲羅の鍋があるようだが、かさばって荷物になる。現状、一応購入しておこうという程度なので一番安いのを買った。いらなかったかもしれない。


 カンテラはあったのだが、ガラスが高いようで、これも買うのはやめた。動き回るんだし、使わないうちにガラスが割れるかもしれないと思うと買う気にならなかった。

 代わりに小さめのたいまつを買った。棒の先に油をしみこませた布を巻いてある。普段は革袋で布の部分を包んでおくと、荷物袋に入れても油が他のものに染みないので革袋をかぶせてある。革袋はおまけでもらった。


 毛皮のマントは、そのままズバリ毛皮をマントにしたものだ。布のマントなどより、毛の部分に元の獣の油脂が付いて、撥水性が高く、暖かい。そのかわり布より重いらしいのだが、超パワーを得た俺には関係ないのでこれにした。毛は黄土色をしている。


 ロープは、想定していた太さだと結構かさばるので驚いた。最終的に、タコ糸くらいの太さのひもになったが、俺がぶら下がっても余裕で耐えるらしいので十分だ。正確な長さはわからないが、2、30メートルほどの長さのを買った。


 フォークは普通の三股のフォークだ。地球との違いをあげるなら、金属でもプラスチックでもなく、何かの角から削り出したものだということだろう。この世界の金属不足は深刻なようだ。


 まな板は、適当な大きさの木の板を買ってまな板とした。まな板専用の板はないらしく、みんなそうするらしい。


 それで、メモのものはそろったものの、これらを入れる荷物袋がないということで、レグルドたちが持っていたような巾着袋のリュックを買った。


 とりあえずこれで準備は整った。明日は実際にこの荷物を持ってディピルを狩り、街の外での昼食を経験してこようと思う。

 水袋に水を入れることと、パンと干し肉を買うのを忘れないようにしなければ。


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