第六話
以前にホラーの短編を書いたんですけど、いつの間にやら感想が来てました。なろうの仕様をあんまり理解してないので気づかんかった。
感想をもらえると、特に今回はお褒めの言葉だったのでやる気が出ますね。感想一つでこんなに心境の変化があるとは。
というわけで、ボチボチこの話の続きも書いてみることにします。
今までより1話の文章量が落ちたり、更新も不定期だと思いますけど、期待せずに待ってくれたらうれしいです。
思考が段々と鮮明になっていく。
目が覚めたのだ。
少し寝ぼけながらもショボショボとする目をこすって意識を覚醒させようとする。
すると目の周囲にざりざりという感触、何かが付着しているのを感じる。
……昨日は寝るときがあんなだったからな。
それは目ヤニだ。
昨夜に泣きながら寝たのがいけなかった。
目尻からもみあげのほうに続いていく目ヤニをこすり落としていく。
そんなことをしているうちに完全に目は覚めた。
正直なところ、気分も沈んでいるのでこのままゴロゴロとして過ごしたい気持ちが強いが、足りないものも多いし、行動をしなくちゃならない。
金も稼がなくてはならないが、目下のところの重要なことは―――
さっさとこの汗臭い服とオサラバすることだろう。
◆
とりあえずまずは水浴びである。
服が着たきり雀のこの一着しかないので、井戸で身体を拭いたとしてもまた汗臭い服を着ることになってしまうのだが、それはもうしょうがない。
というか、探索者なら数日ほど同じ服を着たままというのもたぶんあるだろう。これから慣れなければいけないか。
背中がむずむず、いや実際はしていないけれど、気分的に背中がむずむずするのでせめて身体だけでも拭いてから服を買いに行きたいのが、毎日シャワーを浴びていた日本人としての俺の感性だ。
……日本人に元をつけたほうがいいんだろうか。
いや、自分にダメージが来るような考えはよそう。まだ、帰れないと決まったわけでもないのだし……。
余計なことはあまり深く考えないようにしながら、手ぬぐいを持って井戸に向かう。
金も持っていく。身体を拭いたら部屋に戻らずすぐに服を買いに行けるようにだ。そのあとはまた戻ってきて身体を拭いて着替えて、必要なものを改めてよく考えて買いに行こう。金は有限だ。
外に出て太陽を見てみたところ、高く昇っていないのでまだ朝といえる時間だろう。
井戸にも身支度をする人がそれなりにいるようだ。
その中に見知った人影を発見する。
「おはよう、ランダ」
「ああ、おはよう、クロト」
そこにはランダがいた。
ランダはこっちに挨拶を返すと自分の横にいる女の肩をたたき、俺をさして何事かその女にささやいた。
その女は俺を見、いやにらんでくる。
え、何事?
「……」
しばらく俺をにらんでいたかと思うと、プイッとそっぽを向く女。
ランダは苦笑している。
「こっちはうちのクランのアンバー。まあ、気が強いというか、だいたいこんな感じだから」
そう言うとランダは俺に顔を近づけて
「お互いをよく知らないうちは変な冗談とかはよしたほうがいいよ。切り落とされちゃうから」
そう、小声で恐ろしいことを言ってきた。
何を切り落とすのかは怖いので聞かない。
横目でアンバーという女性をよく確認してみる。
髪は銀色がかった金で、肩に届くあたりで切られている。肌は焼けているのか少し浅黒い、薄い褐色のような色。背は高くはないが、スタイルはいいと思われる。足が長いし。鼠色のちょっと体に対しては大き目の服を着ているからわかりずらいが、顔を見る限り太っているわけではないだろう。十代後半といったところか、まだ少女のかわいらしさを残している顔で、つり目がちのちょっと大きな瞳がこちらをにらんでくる……。
どうやらいつのまにかガン見していたようだ。
アンバーから視線をランダに戻す。こんなことで切り落とされたらたまらないし。
「そうだ。この近くで服を売ってるところと、メモを取るのに必要な道具が売ってるのはどこかわかるか?」
手ぬぐいを濡らしながら聞く。さっさと顔や身体を拭きたいからな。
メモは買うものを考えるときにメモを取りたいからだ。
たぶんレジッド商店に行けば売っているだろうが、レジッド商店はちょっと遠い。
この近くにあるならば服を買った際に一緒に買って戻ってきたい。
そもそも服を買えるところが近くにあるかはわからないが。
「服なら防具屋に向かって左側、三軒隣辺りに普通の町人が着るようなものと、鎧の下に着るのが売ってる店があるよ。羽ペンとインク壺なら、確かこの近くに雑貨屋があったからたぶんそこで買えるんじゃないかな」
雑貨屋か。そういえば近くに手ぬぐいを買ったところがあったな。そこだったら買えるかもしれないな。商品を見た感じ、布を扱う店というより雑貨の中に手ぬぐいがあったみたいだし。
「ああ、雑貨屋なら手ぬ、タオルを買ったところが近くにあったな。そこに行ってみるよ。まあ、あとは紙もたぶん売ってるよな」
「うん? 紙を買うほど大量にメモをするのかい?」
「いや、大量にメモするかって言われると、まあそこまで多いってわけじゃないけど。メモするなら紙は必要だろ?」
そう話すとランダはちょっとはっとしたような表情になった後、確認するように訪ねてくる。
「……クロトはエッダ紙って知ってるかい?」
知らんがな。
紙の名前なんて、わら半紙とか羊皮紙くらいしか知らん。あとプリント用紙とかか。
「いや、初めて聞いたかな」
ランダは頷くと、何本か生えてる木の近く、垣根とは別の俺が見る限りは特徴のない普通の木に見える、そんな木のそばに行って帰ってきた。
「ほらこれ」
そう言って何か差し出してくるランダ。拒否する理由もないので素直に受け取る。
「ん? これあれか、依頼に使われてる紙か」
渡されたのは手のひらサイズの、植物っぽい繊維質な感じがする薄い紙だ。
「それはエッダの木からとれるものでね。エッダ紙って呼ばれてる。エッダの木の幹にある薄皮を剥がすと、手のひらくらいの大きさから顔を覆うくらいまでの大きさかな、今渡したような薄い皮が取れる」
この紙なら特に加工することもなく手軽に手に入るのか。だからトイレがこの紙なんだな。
「なるほど。今普通にとってきたけど、とっても大丈夫なんだよな?」
「ああ、邸宅の私有地にあるようなのはやめたほうがいいけど、探索者用の宿舎のここのをとったからって、誰も何も言わないよ。エッダの木はその辺の道端にあったり外壁の周りとかに結構あるし。普通に使ってたらとりきれないくらいに一本の木から大量に紙が取れるからね」
へーきへーき、と言うランダ。野営とかしなくちゃならない時には近くにこの木があるか探してもいいかもな。トイレでも使える、火をつけるときにもつけやすいかもしれんし。いや、採ったばかりだとこれほんのわずかに湿ってるか?
マッチあるかな? 火打石とかはちょっと使ったことなんてないんだけど。
「あとエッダ紙ははやいと十五日くらい、長くても四十日もしたら枯れた葉っぱを踏んだみたいな感じでカサカサのボロボロになっちゃうから気をつけてね」
長期の保存ができないのか。そりゃあ探索者の登録のときにエッダ紙じゃなくて羊皮紙を使うわな。
「うん、わかった。いろいろありがとな」
「いや、かまわないよこれくらい。ああ、それと一応教えておくけど明日から依頼に行くことになってね。しばらくは戻らないんだ」
「へえ、休暇は終わりか。何に行くんだ?」
「聞いて驚くなよ? なんと、ワイバーン狩りだ!」
「え、マジで?」
ワイバーンといえばあれだろ? なんか、こう、竜だろ?
ものによっては火とか吹いてきちゃうんだろ?
「あぁ、すごいんだな」
よくわからんけど、とにかくすごいってのはわかる。
確か普通のワイバーンを倒したら一流だったはずだ。
なんだかランダが三割り増しくらいでかっこよく見えてきたぞ。
「まあ、俺はうちのクランでは戦闘班ではないから、戦わないんだけどね」
あれ? なんだか目の前にトッポいあんちゃんがいるぞ。かっこいいランダさんはどこにいったんだろう。
「場所からして順調にいけば、帰ってくるまで十日くらいだと―――
「ランダ!」
びくっとした。
叫ぶような大声ではないけれど、怒気をはらんだ声でいきなり怒鳴りつけられたのだ。
声のほうを見るとアンバーがガンを飛ばしてきている。怖い。
「そんなわけで明日から出かけるからね、今日はいろいろやらなくちゃいけないんだ」
じゃあうちの姫が待ちくたびれてるからこれで。
そう言って苦笑しながらランダはちょっと離れたアンバーのところに小走りで向かっていった。
「……ああ、またな」
手を振りながらランダを見送る。
あの二人はできてるんだろうか。
なんだかちょっと寂しくなった。
◆
「どうだった?」
「その辺の村人じゃないの?」
「エッダも知らなかったよ?」
「猿みたいな生活でもしてたんじゃないの?」
「うーん、俺のカンはあれって言ってるんだけどなぁ」
◆
ランダと別れた後、話していて顔しか拭いてなかったので身体を拭き、俺はまず服を買いに行った。