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大剣の英雄  作者: neru
探索者
3/8

第三話

 大きな石のブロックが積み重なっている。これは城壁というやつだろうか。それが両側にずうっと続くように聳えている。曲線を描いているようで、ある部分より先は見えない。

 目の前には門がある。アーチ状にぽっかりと空いた大きな穴だ。有事には格子状の柵のようなものを落として門を閉じるようだ。それが門の上にロープで吊るされている。

 門番、警備兵、そんなような人が二人門の両側に立っている。門の周辺には夜にかがり火で照らすためだろうか、足が組まれて高い位置にある籠のようなものに、燃えた跡がある薪が入っていた。


 探索者の三人がずんずん進んでいく。俺はその後ろをついていく。周りにはほかに街に入る人はいない。


「……出て行った時より人が増えているな。見ない顔だ」


 警備兵っぽい人が話しかけている。人数を覚えてるとか、知り合いなのか?


「ちょっと森の入り口あたりの草原で拾ってね。迷子みたいだ。これから探索者になるかもしれないよ」


 探索者になる以外の稼ぎ方が見つかってないんでそれ以外の道がないんですがね。ところで探索者って街の中と外を行き来することが多そうだよな。入市税はそのたびに払うのか?


「迷子ねぇ。じゃあボウズ、入市税が免除されるような証書か入市税がいるがどっちにする?」


 二十歳過ぎてるし、ボウズって年じゃないと思うんだが。まあ、日本人は若く見えるらしいし、警備のおっさんもヘルムはかぶってるが面頬がなくて顔が見える。それで見た感じ三十は過ぎてる、もしかしたら四十を超えてるかもしれないくらいだ。そういう相手からしたら俺なんて若く見えてなくてもボウズなのかもしれない。


「入市税はこっちが立て替えておくよ。……はい、銅貨十枚だったよね?」


「ああ、確かに。んじゃ通っていいぞ」


 街へ入っていく探索者たち三人。俺もおいていかれると困るので慌ててついていく。警備のおっさんに「レイングリードにようこそ」と言われたので軽く会釈してから門を通った。


「探索者になると入市税は払わなくていいの? 三人とも払ってないみたいだけど」


 探索者証とかさっきの警備のおっさんは言っていた。たぶんそういうことなんだろう。


「ああ、探索者になると街の出入りが激しくなるからね。そのたびに金を払ってたんじゃ特に探索者なり立てのやつなんかは生活できないし。探索者は探索者協会に会費を払うんだけど、その代わりに入市税とかそういったのが免除されてるんだよね」


 会費とかあるのか。初耳なんですけど。


「会費を払えないと探索者証は没収だし、探索者証を持ったまま逃げたら協会からとんでもない化け物が地の果てまで追いかけてくるって噂だよ。探索者協会は一つの勢力として国でもどうこう簡単にはできないような力を持ってるからね、絶対に敵にはしないほうがいいよ」


 怖すぎるだろ探索者協会。えんがちょだわ。いや、縁はこれから結ばないといけないんだった。

 それにしてもランダが俺係になってるな。まあ、こいつが一番話しやすいんだけど。ほかのやつはごつすぎる。


「とりあえずクロトの金を作りに行こうか。たぶんレジッド商店で売れると思うから、そこに行こう」


 通りの周りの店では野菜を売ってたり、生活雑貨みたいなのを売ってたり、飯なんかを出してるところもある。そういえば腹減ったしのども乾いたな。金が手に入るまでの辛抱だと思おう。


「ここだ。じゃあちょっとこの銀色のやつを一枚売ってみるよ。ただ、どのくらい価値があるのか俺には分からないし、期待はしないでくれ」


 そう言うとランダは店に入っていった。日本円を見せた後、なんだかんだランダはずっと百円玉を手でもてあそんでいたのだ。俺はほかの二人と店の前で待つことに。沈黙が重い……。

 何の気なしに周りを見てみる。扉の上にはいろいろな物の絵と、よくわからない文字が書かれていた。


 日本語ではなかった。読めない。


 何度か見返してみたがだめだ。アルファベットでもないからどうしようもない。文字が読めない生活とか、頭がおかしくなって死にそうだぜ……。


 さらに周りに目を向け、いくつかの読めない文字を目にしてしまい言いようのない気持ち悪さを感じていると、レジッド商店の扉が開き、ランダが出てきた。


「えーと、とりあえず最初に謝っとくね。たぶん思いっきり買いたたかれた」


 まじかー。まあしょうがないといえばしょうがないか。日本の百円玉なんてここの市場に初めて出たものかもしれないし、いらない人にとっては何の価値もないけど、コレクターみたいな金持ちにとっては垂涎の品かもしれない。何の知識もない人にとってはだいぶ値段をつけにくいものだろう。


「まずいくらで売るのかを聞かれちゃってね。銀貨十枚にしたんだけどそれで即決されちゃって。そのあと粘ったんだけど俺が言ったことだから覆せなくてね。それで売ることになっちゃったんだよ」


 百円玉が銀貨十枚か。日本にいたら百円玉に二十万近く出すなんてバカみたいだけど、こっちじゃ超希少なコインだもんな。いや、百円玉って何でできてたっけ? 金属としての価値もとんでもないのかもしれない。銀貨十枚ってのは安かったかな。


「まあいいよ。銀貨十枚あれば登録はできるんだよな?」


 銀貨一枚で十日泊まれるしな。さすがに登録できるだろう。

 いや、探索者証を自動車の免許証と例えると、もしかして二十万もないくらいじゃ無理? あれ、ヤバくね?


「ああ、探索者登録には登録料の銀貨一枚と、年間の会費の銀貨五枚がいる。ゴアラルフの毛皮と牙で銅貨七十枚くらいになるから、短剣くらいは買えるね」


「ん? 探索者登録するのにゴアラルフでちょっと足りないくらいって……」


「うん、会費を計算に入れるのすっかり忘れてたよ」


 アハハと笑うランダ。笑い事じゃねーぞ割と生活かかってるわ。


「登録するときに銀貨六枚、探索者の宿舎十日で銀貨一枚、安い短剣で銀貨二枚、ちゃんとしたナイフで銀貨一枚。残りの銅貨でしばらくの生活費ってところかな。鎧や薬もほしいんだけど、さっきのをもう一回売りに行くと足元を見られてさっきよりも高い値段にはならないかも。どうする?」


 ……ここで売るのを渋って鎧や薬をそろえずに、結果死んでしまったら笑えない。ここは買いたたかれても金を手に入れておくべきか。


「売ってきてくれ。ここは渋るところじゃない」


 ランダに百円玉を渡す。ランダは心なしかちょっとうれしそうにしながら受け取った。そしてもう一度レジッド商店に入っていく。


「お前は正しい選択をした。ここはちゃんと装備を整えるところだ。そういう考えができるなら、長生きできるぜ、お前」


 ランダがちょっとうれしそうだったのは俺が驕らずにちゃんと装備を整えることを優先したからか。ていうかレグルドはなんなの? デレてるの?


 そのあとはランダが来るまで探索者の心得的なものとか、初心者がする仕事とかを教えてもらった。レグルドに。相変わらずレギルは話さない。こいつが今のとこ一番怖いわ。

 結構経った。二、三十分ぐらいだろうか。レジッド商店の扉が開いてランダが出てきた。


「やあ、お待たせ。何とか銀貨三十枚で売れたよ。それでもまだ買いたたかれてるみたいだけど」


 銀貨三十枚! さっきの三倍じゃねーか! 日本円にして五十万くらいだろうか。一気にお金持ちになってしまった気分だわ。さっきまで無一文だったから特に。


「そんなにしたのか! いや、ありがとうランダ。これで装備は整えられそうだ。……整えられますよね?」


 剣は安いけど鎧は高いとかだったら泣くぞ。


「そうだね。これだけあれば初心者が使うよりもっといいものをそろえられるよ。でも、武器とか何を使うんだい? 何か使ったことあったりするの?」


 ないんですよねそれが。何を選べばいいのかも全く分からない。強いて言うなら野球部だったときがあるから、棍棒? そもそも武器が何があるのかもわからない。


「うーん、武器とかは使ったことないな。何がいいとかあるのか?」


「そうだねぇ、実際に見たり持ったりしながら説明したほうがいいだろうし、それは武器屋に行ったときにするとして、まずは探索者登録しようか。装備を整えるのは明日にしたほうがいいかもしれない」


 見てみると日はだいぶ傾いていた。話しぶりからして明日も付き合ってくれるんだろうか。神かこいつ。


 また通りをしばらく歩いた。このレイングリードは南北に門があり、そこからレイングリードの真ん中あたりにある領主の館まで太い道が通っている。俺たちは南の門から入って、その太い南の道の横にあるレジッド商店で百円玉を売った。探索者協会レイングリード支部は北の太い道にあるため、領主の館を迂回するように側道を通っていかなければならない。まあ、側道といってもぶっとい南の道と北の道よりは細いというだけで、城壁のほうに行きすぎなければ馬車がすれ違えるくらいの太さはあるんだが。


「さあ、ここが探索者協会だよ」


 そう言われてぶら下がった看板を見てみる。竜のような絵に刃を下にした剣が描かれた紋章の上によくわからん文字が書かれている。文字が読めないのはやっぱり不便だ。


 西部劇に出てきそうなスイングドアを押して中に入っていく俺たち。出入口は大きめだ。鎧を着たり武器や盾をもっているからだろう。スイングドアも荷物を持っていても入りやすいように配慮しているんだろう。防犯とか大丈夫なんだろうか?

 中は目の前に進むと受付のようなカウンターがある。三人ほど受付の人がいるな。若い女性が二人、マッチョのおっさんが一人。右側にはイスとテーブルがある。何人か酒を飲んでいるようだ。うらやましすぎる。左側の壁には紙を貼り付けるボードがある。左奥、カウンターの横には上りの階段がある。


「依頼を終わらせてきた。確かめてくれ。あと依頼外の素材を売りたいのと、新規の登録者を連れてきたぞ」


 ランダが若い女性の受付に話しかけている。金色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばした美人さんだ。もう一人は赤毛のショート、ボブっていうのか? そんな感じの髪をしたこれまた美人さん。受付は見てくれも大事なんだろう。マッチョはハゲだが。


「クロト! ちょっと来てくれ」


 呼ばれたのでランダのところへ行く。美人さんにご挨拶しなければ。


「素材とかはレグルドとレギルが売ってきちゃうからクロトは登録しときな」


 そう言ってマッチョのハゲたおっさんを指し示すランダ。なんでおっさんのほうに行かせようとするんだよ嫌がらせか。

 俺のちょっと嫌そうな顔を見たランダが苦笑しながらこたえる。


「あのおっさんは探索者上がりでな。怪我で引退したがベテランだ。実際の狩りの現場を知ってる。いろいろ聞くといい」


 おっさんを見てみるとニヤリとした笑みを向けてきた。すごくいきたくないが仕方ない。割と命に係わることだし、注意するところとかは聞いておかなければ。

 そもそも俺は美人さんと話したところで気の利いたことなんて言える人間じゃなかった。


 ゴアラルフの素材をレグルドに預け、おっさん受付のもとへ行く。レグルドとレギルはスイングドアから出ていった。ここでは売らないらしい。


「探索者登録したいんだが……」


 とりあえず敬語はなしで行ってみる。そのほうが探索者っぽいから。俺の勝手な予想だけど。


「おお、よく来たなボウズ! うちはいつでも人手不足だからな、歓迎するぜ!」


 なぜおっさんどもは俺をボウズにしたがるのか。丸刈ってわけでもないぞ。


「登録料と会費で銀貨六枚だ。宿舎も使うんなら十日で銀貨一枚だぞ!」


 宿舎の登録もここでするのか。左奥の階段を上った先だろうか?


「じゃあ宿舎十日分も」


 そう言って銀貨を七枚渡す。手がごつすぎて渡すときちょっと怖かった。


「よし、じゃあボウズ、字は書けるか? いくつか記入してもらわないといかんのだがな」


 おっさん受付がなんか書かれた紙を出してきた。これ、羊皮紙ってやつか? 初めて見たな。インク壺と羽ペンもか。時代を感じる。これがジェネレーションギャップってやつか。たぶん世界規模で違うからワールドギャップ?

 推定羊皮紙を見てみる。そこには……なんかいろいろ書く欄があった。

 邪魔にならなそうなところに日本語で「鈴木 玄人」と書いてみた。


「落書きはしないでほしいんだが」


 ごめんなさい。


 とりあえず名前、クロト。年齢、二十一。性別、男。戦い方、これから模索する、と代筆してもらった。この世界の文字でな。


「ふむ、二十一? 若いな」


 俺の顔が二十一より若く見えるといいたいのだろう。日本人特権だ。うらやましかろう。


「こんな感じなんだが、これでいいのか?」


 戦い方とか適当だけど差し出してみる。まだ武器も決まってないししょうがないよね。


「ああ、まあいいだろ。で、協会についての説明とか聞くか?」


「たのむ。探索者として注意することとかも」


 それからはおっさんの話が続いた。探索者証には発行した日付が記載されていて、その一年後までに更新の会費を払い新しい日付付きの探索者証をもらうとか、探索者同士で武器を抜いてやりあったら協会が出てきてぶっ飛ばされるとか、拳での殴り合いくらいなら協会は放っておくとか、依頼を受けるときは左にあるボードから依頼を剥がして持ってくるか受付で聞くとか、討伐の依頼は対象の特定の部位を持ってくるとか、遠くに依頼で向かう場合は有料で馬や馬車を協会が貸し出しているとか、馬が怪我したり、馬車を壊したりしたら高額の弁償代がかかるとか、素材を売るときは協会を出て左にある倉庫みたいなところで売るとか、さらにその隣に宿舎があるとか。ワイバーンを倒せるようになったら一流だとか。


「ワイバーンは見たことないから何とも言えないんだけど、倒せるものなのか?」


 竜だよな? 飛んでるよな? ファイアーブレス的なのとか吐いてきたりするんじゃないの?


「ワイバーンは前足が翼になったトカゲだ。尻尾の長さまで入れると大人十人分くらいになるか? まあ種類にもよるんだが。たまに毒液を吐き掛けてくるようなやつはいるな。火を噴くのもいないわけじゃないが、そんなのはかなり危険な奴だ。倒したらその街の英雄みたいなもんだ。普通のワイバーンは上空から滑空してきて体当たりしたり噛みついてきたり、後ろ脚の爪で引っかいたり掴み掛ったりだな」


 一応普通のワイバーンは生物として見れるな。質量とかでかいだろうに翼で飛べるあたりおかしいけど。火を噴くのはよくわからん。ファンタジーだな。

 ファンタジーついでにとってもとっても気になっていることを聞いてみた。


「相手が火を噴いてくるならこっちも火の玉を飛ばしたり、土で壁を作ったり、風で切り刻んだり、水で押し流したりするのか?」


「なんだそりゃ? 相手が滑空してきたときにうまく合わせて翼を切って落としたり、罠や道具を使って倒すんだよ。よくわからんが人の力でパパッとそんなことができるんなら、もっと人間の生存圏は広がってる」


 ないのか、魔法? 残念だ。



 あの後おっさん受付に登録証と宿舎の部屋の鍵をもらった。今は協会のイスとテーブルを置いてあるところで飯を食ってる。外はもう夕焼けから薄暗くなりつつある。


「いや、いいのかい? いろいろ揃えないといけないのにおごってもらって」


「世話になったからな。命の恩人でさえあるんだ、このくらいは安いもんだ」


「わかってるじゃねぇか! ガハハハハハハ!」


 レグルドは上機嫌で酒を飲んでいる。レギルは無言でうなずいている。しゃべれや。

 今は二人ともヘルムを脱いでその素顔をあらわにしている。レグルドは短く刈った金髪で、短い無精ひげが生えている。レギルは短髪の黒髪で彫りが深い顔立ちだ。ちょっと鷲鼻かな。二人ともまだ三十路にはなっていないと思う。


 それから飯を食いながらいろいろ話した。


「ワイバーン? そんなもん俺にかかれば一太刀で真っ二つよ! それも縦にな! ガハハハハ!」


 なんかレグルドが豪語してたがレギルを見ると首を横に振っている。嘘か。


「それはないとしてもうちのクランであれば四人もいればワイバーンなら狩れるよ。まあふつうはもっと余裕を持って挑むけどね」


 ワイバーンは一流が六人から十人ほど集まって狩るのが一般的らしい。四人で狩れるというのはすごいのだろう。


「クランっていうのは? パーティーとは違うのか?」


 おっさん受付は探索者はパーティーを組んで動くものだと言っていた。背中を預けることで後ろから攻撃されるのを防いだり、剥ぎ取り中に警戒する役割を置けたりと、一人とそれ以外では全く別の難易度になるという。


「クランは大きくなったパーティーというか……。うちのクランとかだと今は三十一人いるんだけど、平時はその中の数人が好きに組んで依頼を受けるようになってる。今回は俺はレグルドとレギルと組んでガルラルフ、ゴアラルフの黒い版で森にいるんだけど、それを狩って小遣い稼ぎ兼身体が鈍らないように動かしてたんだ。クランの目的としては人数が多いことによる情報収集能力の向上とか、遠距離攻撃ができる人間や探索して周囲を調べるのが得意な人間とかの、必要な技能を持ってる人間と組みやすくしたり。あとはワイバーンみたいな大物が出たときは倒した後もやることは多いからね。戦闘班と戦闘班に何かあった時の交換要員、剥ぎ取りや輸送を担当する後方支援要員って具合にうちのクランは役割分担して大物をほかと分け合わなくて済むように全部自分たちでやったりしてる」


 ランダ酔ってるな。少し頭がフラフラしてるぞ。よく呂律が回るもんだ。


「ワイバーン何するものぞー! ガハハハハハ!」


 レグルドも酔っぱらってるな。レギルは知らん。ずっと無言で木製のでかいコップを傾けてる。


 そうしてこの世界に来てから初めて楽しいと思える時間は過ぎていった。



◆◇◆



「じゃあ、クロトはこの部屋だから」


 俺は自分の部屋として割り当てられた場所の扉の前で探索者三人と別れた。鍵と扉に書いてある記号が同じだ。数字らしい。


「ああ、おやすみ。クロト」


「おやすみ」


 挨拶をして部屋へと入る。聞いてはいたが部屋は結構広い。武器や鎧を置かなくてはいけないから広いらしい。人によっては金属の全身鎧とか着るらしいし。滅多にいないそうだけど。

 ベッドは堅かった。さっきの酔っ払いどもに聞いた話によると、外には出さないが探索者協会内では探索者に格付けしているらしい。その格によって泊まれる部屋のランクが変わるらしい。俺の部屋は小さいイスとテーブルが一つずつ、ベッドは藁を浅い箱に詰めてシーツをかぶせたようなものだ。それと薄い布がある。掛布団のつもりか? 枕はない。足りないものだらけだとは聞いていたが、掛布団まで買ってこないといけないのか? この硬くて薄い布だけじゃ冬に死ぬやつとかいるんじゃないか?


「ふぅーーーー……」


 大きく息を吐く。今日はいろいろありすぎた。身体はそこまで疲れていないが精神的にはかなりボロボロだ。ベッドに横になる。

 この世界の草原で目を覚ます直前のこと……、よく思い出せない。自分のこと、名前とか大学生だとか、そういったことはわかる。家族のこと……、やめよう。両親と弟、あと親戚がいるがよく思い出したら泣くのを我慢できなそうだ。理解できる言葉、理解できない文字、これも気持ち悪いからいいや。


 もう寝よう。

 眼を閉じて寝ようとすると眠気が襲ってきた。もし叶うなら、向こうの自分のベッドで目が覚めますように……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どう思う?」


「……悪いやつには見えん。むしろお人よしかもしれん」


「でもものを知らなすぎるぜ? ありゃ一体どういうことだ?」


「でも戦う力はありそうなんだよねぇ。体力もあるし。まるで囲われて鍛錬だけして育てられたみたい」


「貴族の隠し子とかか? 俺にはよくわかんねぇけど」


「何にせよ今は様子見かな。本人が言うようにもし鍛錬せずに素であれなら鍛錬したら化けるかもしれない。拾い物かもね、あれは」


「……なんにせよ、今は見極めのときか。入れるのか?」


「まあ、団長次第ではあるんだけど。しばらく様子見てよさそうであれば個人的には入れてもいいと思うよ。うちのクラン《竜を狩るもの》に」

7/24レグルドとレギルの見た目追加

9/30ランダの一人称の間違っている個所修正 僕→俺

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