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プロローグ

 



 桜が咲く季節となると学年が一つ上がり、先輩と後輩、両方の立場となるこの年。

 授業もより一層難しくなり、当然のように課題の量が増える。

 初めての後輩に密かに心躍らせ、先輩に気に入られるように媚びへつらう、そんな年。




 そんな年でも俺の日常になんら変化はない。

 授業が難しくなるといっても、内容は一年でやった事の応用が中心だ。

 一年の内容をある程度分かっていれば、どうという事はない。むしろ一年の頃より楽だとも感じる。



 課題の量にしてもなんてことはない。

 1時間も集中してやればすぐ終わる。予習復習してもいいくらいだ。


 この程度の課題を終わらせられない奴らは、高校生である時間を「青春」、という二文字に食われている奴らだろう。



 中学生だった頃のやんちゃ時代とは違って、現実を見始める、それが高校生だ。

 だが中には、やんちゃが抜けきってない、青春時代に突入する奴らがいる。

 奴らは最後の足掻きとばかりに、馬鹿のことをしたがり、後のことなど考えず行動する危険な生物だ。


 彼らにかかれば、失敗や失恋は青春の一ページになるに過ぎない。

 失敗から学ぶこともあると、失敗した者は言うが、

 失敗から学ぶ事が出来るのは、まず失敗しない努力をした者だけだ。



 先輩や後輩?


 部活に所属してない者にそんな関係は存在しない。

 ゆえに自由。

 先輩の顔色を伺い媚びへつらう必要もなく、後輩に強がってみせる必要もない。


 友達?


 自由を極める者にそんな関係は必要ない。

 つまり最強。

 周りに気を使う必要がなく、ノンストレスで伸び伸びと生活することができる。



 最近では連れションという謎のコミュニケーションが流行っているようだが、なぜそんなことをするのか、全くもってわからない。

 トイレに行きたいなら1人で行けばいいし、教室以外で話したいんなら廊下ででも話してりゃいい。

 トイレに行っている時間が勿体無いのならトイレに行くな。トイレに失礼だ。



 そんなわけで俺はクラスでは常に1人だ。

 そこらへんのぼっちとは違う。ぼっちというのは、集団からハブられ、個人で生きていくして方法がない奴のことだ。


 俺は自分から1人になることを望んだのだ。ゆえに俺はぼっちという蔑称では当てはまらない。強いて言うならば、ソリストとか、レジェンドとかが相応しい。孤高の戦士とかでも可、だ。


一人でいる事がどれだけ素晴らしい事か小一時間ほど語ろうかと思った矢先、授業終了の鐘が鳴った。


今のは6時限目の終わりの鐘。やっと解放されたと周りは授業が終わってないにも関わらず、騒ぎ始める。

 担当教師はそんな光景に慣れてるのか、咎めることはない。


 生徒達が教科書や筆箱を片付けている中、あとここは重要、と大事なとこをサラッというとさっさと行ってしまった。

 今の言葉を聞いてた奴はどれ程いるだろうか。何にせよこの騒がしくなった教室では、今の言葉は聞き取れなかっただろう、一番前に座っている俺を除いて。

あの教師実は怒っていたのかもしれない。


 まあなんにせよあとは掃除を済ませて帰宅するだけだ。掃除をして帰るだけなのだが、ここからがまた面倒臭い。

 掃除は教室を除いて5人一組になって掃除をする。


 よってぼっちな、

 いや、ソリストである俺はとても居づらい。そして不幸な事に他4名は普段から仲の良いグループときたもんだ。

 ここは業務的な接客と0円の笑顔で乗り切るに限る。この時点で俺は、この技術を完璧マスターしている。抜かりはない。



「冬川くん 掃除行こうか」



 今話しかけてきた奴こそ他4人の中のリーダー格である、秋山 龍也。

 成績優秀、運動神経抜群、人当たりもよく、性格もいい。そしてイケメン。


 ほとんど話すことがない俺にさえ、さも友達であるかの様に振る舞い、女子共を悩殺するであろう笑顔で自然と話しかけてくる。



これが秋山でなければ『さっさと掃除行けよカスサボってんじゃねーよ』と音声認識システムもびっくりの変換になるのだが、こいつにはそういった悪意というものはなく、むしろ俺を気遣って声をかけたのだと理解している。




「おーい!リョウ!さっさと行くぞー!」


 なんと返せばいいか考え、そわそわしていると、教室の入り口の方でガヤガヤと騒がしい中でも一際大きい声が教室に響いた。


 毎回毎回うるさいやつだ。その馬鹿でかい声で、何人眉をひそめているか数えてみた方がいい。割とマジで。



「俺は...俺は後から行くよ」



 今日始めて声を出したからか、声が若干掠れた。それに頬が引きつっている気がする。

 おい そこの女子共笑ってんじゃねぇ


業務的な接客と0円の笑顔を完璧にマスターしたと言ったな、あれは嘘だ



「ああ わかった じゃあ先に行ってるよ」


 秋山の顔が若干曇るが、まあいつものことだ。

 こいつもこいつで、ちょくちょく気を使ってきやがる。まあ嫌ではないが。


 俺はゆっくりと教科書とノートを片付け、掃除場所である学び部屋へと向かう。

 学び部屋とは、自主学習をする為に設けられた場所であり、主に三年生が受験勉強に活用する。


 つい最近受験シーズンが終わったばかりであり、この部屋を活用している生徒は少ない。


 何が言いたいのかといえば、この部屋はほとんど掃除をする必要がない。一日に利用するのはせいぜい1人か2人、机に消しカスが散らばってないか確認するだけでいい。

 掃除エリアでこの場所だけが、唯一サボることが出来る空間なのだ。


 教師はそれを黙認しているわけがなく、部屋の掃除の他に別の仕事を加えている。


思いつきで考えたのだろうか、その内容も簡単なもので職員室からチョークやら帰りに配られるプリントをもらってくるというものだ。

この仕事は一人いれば事足りるため、毎回俺がもらってくる係りになっている。あいつら?あの連中は本来掃除する部屋でぺちゃくちゃおしゃべりでもしているだろう。まあ秋山なんかは真面目に掃除しているかもしれないが。


俺が自らこの仕事を立候補したのだから不満なんてことはない。むしろあの場所にいても、超アウェイな感じ満載で端っこで練り消し作る作業に突入するからとても助かる。それを見られドン引きされたこともあり、もうあの部屋に行きたくもない。


もしかしたらあの教師俺に気を使って、この仕事を与えたのではと思ってしまう。それほどにありがたかった。


俺はさっさと職員室まで向かい、補充分のチョークとプリントをもらってくる。


どうやら次の英語は小テストがあるようだ。教師によっては小という言葉がついていようと容赦ない出題範囲でテストを作ってくるやつがいる。


今もらってきたプリントにその出題範囲が書いてある。第3章から第6章までの範囲全部って、これまでのまとめじゃねぇか。小とか言って油断させんのやめろよ。大とか特大とかにしろよ。


その後教卓の上にプリントとチョークを置き、ミッションコンプリート。あとは本来の掃除部屋まで行ってあいつらと合流して、そこで教師に報告して終了だ。


今日もいつも通り変わらない日常だ。これからも同じ様な感じで無駄な日々が続くのだろう。まあ今日からテスト対策で暇ではなくなるが。


なにから勉強しようかと思考しているうちに、教室の前まで着く。これ扉開けるとあいつら見てくるからやなんだよな...教師が来たと思ったこいつかよ、みたいな目で見てくんのやめてほしい。割とマジで。


呼吸を整えできるだけ音を立てない様扉を開けようとするが、建て付けが悪いのか、ガラガラと無慈悲に音が鳴る。中に入るといつも通りの面々が一箇所に固まっている。俺が入ってきたことで一瞬会話が途切れその視線が自分に注がれるが、なんだこいつか、みたいな雰囲気を出して直ぐに元の会話に戻る。来たのが俺でごめんね。



俺はもはやお決まりとなった端っこの席でぼーっとする。あとは教師が来るのを待つのみだ。これでやっと帰れるなぁと、そう思っていた。



「あん?龍也なんか白い靄みたいなの見えない?」


龍也狙いであろう一人の女子が目をこしこしと手で擦りさりげない可愛さアピールをして、秋山に近づいた。いやそれお前の目が曇ってるだろ。白内障かなんかじゃないの?



心の中でクソビッチをdisっていたが、段々と俺の目の前にも白い靄みたいなものが見えてきた。


「は!? なんだこれどうなってやがる!?」


秋山ではなくグループの中で最もうるさい野郎が、ホラー映画で最初に死にそうなテンパり具合で騒ぎたてる。


かく言う俺もテンパっている。他の奴らがあわあわとしているため、絶叫するのを押さえる力はある程度に冷静だが、それでもこの状況は異常だ。一見は火事の様に見えるが違う。だが実際には白内障でも目が曇ってる訳でもなく、本当に人から白い煙が噴き出ているのだ。



「みんな落ち着け!先ずはこの部屋から出るぞ!」


秋山ですら声が少し強張っていて、この事態がいかに異常かよくわかる。そんな中で最善の選択をしたのは流石としか言いようがない。


死亡フラグ君を筆頭にいち早くこの部屋から出ようとするが、鍵もかかっていないはずだがその扉はビクともしない。


「なにやってんの!さっさと開けろよ!」

「ビクともしねぇんだよ!この扉!」


扉を開けようと奮起している間にも白い煙はずっとで続けている。そのせいなのか、身体が風邪にかかったかの様に怠く重い。しかも症状がどんどん悪化している。これは煙が出ているせいなのか?じゃあこの煙が出尽くしたら一体どうなってしまうのか。


もはや立っていられなくなり、床に倒れこむ。慌てふためく声が段々と遠くなり、俺はそこで意識を手放した。

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