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雅に吹く風  作者: 雅夢
序章に代えて一勝負!
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第一話 3・2・1 

 お久しぶりです雅夢です。前作の南冥の海魔からほぼ一月ぶりの新作投稿です。

今回はがらっと作風も変えてみました。如何でしょうか?

第一話 3・2・1


 送信機のスイッチを入れる、バッテリー残量もチェック、OK。

 機体のバッテリーコネクターを受信機のコネクターへ接続、LED点灯確認。

 続けて機体をチェック、ラダー、エレベーター、エルロンついでにフラップ兼エアブレーキを作動確認、プロポ(送信機)のコントロールスティックを動かす。全て動作OKだね。

 さすが父さんのブラ3だ。

 風向きは?フライトフィールド(飛行場)脇に立ててあるストリーマー(吹流し)を確認、西風か、風上は海側だ、風は微風よりちょっと強いかな?

 左手で持つ送信機のモニターをもう一度確認、現在の機体のフライトモードをチェック。

 LAUNCHモードよし。

 機体の翼左端に付けられたペグに指を引っ掛け持ち上げる。右の翼端は地面に触れているから扱い注意、無造作に扱うと翼端を破損させちゃう。


「いいか~っ!」

 大きな声で確認が入る。僕は送信機を持つ左手を上げて準備完了を告げる、フィールド内に居る他のメンバーも同様だ。

 僕は一度大きく息を吸うと吐きながら、右手の人差し指と中指が掛かるペグの位置を微調子した。

「いくぞ~

3!」

 カウントが始まる。

「2!」

 スタートダッシュに備えて右足に重心を置いたまま、左足を踏み出す準備をする。

「1!

 スタート!」

 スタートの声にタイミングを合わせて左足を踏み出す。

 三歩目で左足を踏ん張り、右足を大きく左に踏み込ませる。

 上半身はそのまま正面発航方向を向いたまま、下半身は大きく左に捻る体勢、ちょうど野球のサイドスローの様に、更にそのまま円盤投げをするように下半身から腰、そして上半身を捻るようにして最後に右手が遅れて振り出されます、その右手の指には機体の左翼端のペグが引っ掛けられているのだからこの遠心力により機体は大きく振り回されることになる、この右手の回転に加速され機体は振り抜いた右手から離れて大空へと飛び立つ。

 最初は優しくもう一度身体が正面を向く頃には最大の加速になるように、しかも指に無駄な力が入らないようにしないと機体を壊してしまう、難しいんだなこれが。


 一瞬、バーンっという破裂音にも似た音は右手で加速される際に翼に溜まった歪が一気に抜けるらしい、そして鋭い風斬り音を残して機体が急激な角度で舞い上がる。下手な僕でも50度、上手い人だと最初は60度ぐらいで上がって途中からほぼ垂直に空に駆け上ってゆく。高度は条件によっては60メートル近くまでになる。

 そんな機体の行方を見ながら上昇点の限界一歩手前でプロポの左肩のスイッチを切り替えフライトモードをCRUISEに、さらに一瞬エレベーターをダウンに打つ。

「遅い!」

 ギャラリーの先生方が僕の機体の動きを見てそう評す、確かに、若干失速気味の機体はそこから5メートル程ダウン、それでも必死にその高度を維持している。

 周りを見渡すと僕以外の機体は10mは高い高度に居た、残念ながら経験の差だよね。

 でもこのランチですべてが決まるわけではない、勿論高度が高いほうが有利なのは当然だけど、それだけじゃない、此処からサーマル(上昇気流)を掴めば一気に大勢逆転、狙います!


 機体をなるべく高度を落とさないように旋回させ、風上に向けます。狙うはサーマル若しくは吹き上げ気流。ゆっくりと機体を飛ばしながら辺りを見回す、サーマルは・・・・見えない、もともと目には見えないサーマルも鳶などの鳥の動きや吹く風の向きや強さで知ることが出来る。

 でも今は無さそうだ、となると海から吹く風が海岸の護岸堤防に吹き付ける時にできる吹き上がりの気流を狙おう。

 でもちょっと遠いな、向かい風の中を可能な限り高度を落とさないように細心の注意で護岸堤防の方向へ向かおう、って無理かな?行き足が止まる!このままだと失速は確実、それでは次の手。

 主翼のフラップの角度を少し跳ね上げる、所謂キャンバーを抜く様にコントロールレバーを微調整、抵抗を減らして機速を上げる但し同時に揚力も失うので本来こんな低空で使うべきものじゃない、でも今は勝負のときだ。

 更に僕は気持ち機体を降下させて速度を上げ風上へ向かう、多少は高度が落ちても吹き上げで高度を稼げばOKだ。堤防上空を堤防に沿うようにジグザグ飛行で高度を稼ぐしかないね。

 あれ?

 気がつくと周りに他の2機も居る、皆サーマルが期待できないんで此処へ来たのか、さて高度が下の僕は思いっきり不利じゃん、どうしようか?

 考える間も無く更に高度が落ちた僕は既に海面ダイブの危機の最中にある、気がつくのが遅いよね僕!

 ここで勝負に負けた上に機体をロストさせる訳にはかない。

 素早く旋回させて自分の近くまで戻す、高度は既に1メートル前後、所々に生える背の高い草を縫うように飛ばす、これだって高度を下げないように細心の注意が必要だ。

 そしてやっと離発着を行うフィールドに機体を返すことが出来た。断続的にフラッペロン(エルロンとフラップを兼ねた補助翼)を左右同時に下げてエアブレーキにしながらスピードを落とす。よしもう少しだ、後は。


 一度機体を地面すれすれまで降下、僕の足元で上昇させて、ハンドキャッチ!

「あれっ!」

 機体は見事に足元に。

「雅ちゃん、残念。」

 ギャラリーの笑う声が聞こえる。

 ミスった!

 機速が落ちて揚力が少なくなった機体を無理に上昇させた結果失速、そのまま頭から墜落。

 チョッと恥ずかしい。

「あ~っ、負けた!」

 機体を拾い上げながら声のほうを振り向くと、一緒に投げていた大谷さんの姿見えた、四十過ぎのチョッとお腹の出たオジサンは少し離れたところに降りた自分の機体を取りに走っていった、この人もハンドキャッチ出来なかったみたい。

「杉田さ~ん、皆降りたよ~!」

「ほ~い、下ろすよ。」

 杉田さんへの勝利宣言が告げられ、これ以上飛行の必要の無い機体を素早く下ろし始めた。50度以上の角度を急降下、おもいっきり降りたフラップのブレーキでスピードを落としつつ地面直前に180度のロール、背面飛行のままハンドキャッチ、ほんとこの人派手な飛ばし方が好きだね、ってハンドキャッチ寸前にの機体は殆ど静止していた、それも背面飛行のままで。

 どうやってやるのかな?疑問だ。


 僕は、機体の電源を切ると送信機のスイッチをきり、機体を持ってフィールドからでた。

 う~ん、悔しいな。大谷さんには勝てると思ったのに。

 機体を手にしてざっと確認、低い高さだけど頭たから落とした機体は心配だ、大丈夫、大きな傷は付いていない、確認のためもう一度電源を入れて動作を確認する、こちらも問題なし、ちょっとホッとする。

 これを壊したらお父さんに申し訳ない。

「雅ちゃん、惜しかったね。」

 サークルのまとめ役の、宮崎さんが声を掛けてくれた、60過ぎの初老と言って良い優しいおじさんだ、もともと痩せ気味人だったが最近心臓を悪くして更に細くなり一緒にハンドランチが出来なくなったのは寂しいな。でも見かけによらず毒舌は絶好調らしい。

「ほんなもん、練習が足らんだ、もっと飛ばしに来んか。」

 口の悪いのは、宮崎さんの古くからのラジコン仲間の佐渡さん、長いラジコン暦を持つ人で口は悪いけど気さくで面倒見のよいおじいさんだ、背は低いけどがっしりした体型で腕っ節が太くて機体を高く上げるのが好きな脳筋おやじさんでもある。


 目を紫外線から守るために掛けていたサングラスをはずして、車からスポーツドリンクのペットボトルを取り出し喉を潤す。ハンドランチ、特にSALはラジコンでも中々ハードなスポーツだ、何しろバットやテニスラケットの素振りより腰が細くなる効果が有ると僕は思う。

 スポーツドリンクを飲みながら、汗ばんだ髪が気になって帽子を脱ぐ、ランチするときに邪魔になるので帽子の中に押し込んでいた髪が風を受けて広がり頭が少し涼しくなる、元は男の子みたいに短くしていた髪を最近少し伸ばしていて今は肩に掛かる位になっている、それを素早くタオルで拭いてもう一度帽子を被って他の人が勝負する様子を見ることにした。経験が浅い僕が上手くなる為にはもっと上手な人の飛ばし方を見る必要がある。


 お父さんに指導してもらえば良かったな。何度も「行かないか?」って誘ってくれたのに・・・。

 どうして断ったんだろう?

 どうして?

 いけない、こんなところで・・。

「雅ちゃん、機体きれいにしてるね。」

 機体ラックに納まった僕のブラスター3を眺めて宮崎さんがそう呟くように言った。

「父さんのだから・・・、傷つけたくなくて。」

「そうか、お父さん幸せだね。」

「えっ?」

「その機体、お父さん苦労して上手く飛べるように調整したんだよ、それを今は娘さんが上手に飛ばしてくれてる。

 それは幸せなことだと私は思おうよ。」

 宮崎さんはそう微笑んで私の頭をなぜると他の仲間たちのところへ行った。


 お父さん喜んでるのかな?それとも恨んでる?

 あのお父さんだもんやっぱり褒めてくれると思う、だって何時も僕が何か出来るようになると手放しで喜んで褒めてくれたから。って、駄目だよ泣けちゃうよ、もう泣かないって思っていたのに。


「雅ちゃん、今度のカウントを頼むわ。」

 佐渡さんの野太い声が感傷に浸っていた僕を一気に現実に引き戻した。

 チョッと残念でちょっとホッとした。

「じゃあ行きま~す!」

 僕は気を取り直してフィールドに声を掛ける。

 今度は、佐渡さんに仲居さん、とあれっまた杉田さん、ほんと元気だね。

「3、2、1、スタート!」

 僕のスタートの声に皆が走り出す、そして、三機のグライダーが鋭い風斬り音と共にはるか上空へ駆け上っていった。

 高度は皆50メートル以上、すごい人達だなみんな。

 三機のグライダーはサーマルを求め、風を求めて自由に飛び回る。

 いいな、この風景、みんな自由で・・。

「雅にも風が吹くと良いな。」

 お父さん・・。

「昔見たく雅が顔を上げていられるような、雅を守ってくれる力強い風が・・、

吹くといいね。」

 そうだね、もう少しだよ、僕も少し顔を上げていられるようになったから。

 大丈夫、僕の、雅の風がきっと吹くよ。

 だから安心して。ってあれ。


 涙がこぼれて来た。

 読んで頂きありがとうございました。

 いきなりSALのランチシーンから初めてしまいましたが如何でしょうか?

私自身SALをやっていますが経験不足あって文章で表現するのに苦労しました。

 表現の問題や疑問が有ったら感想などでお知らせ下さい。

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