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オレは未来の藤馬によって腕を引きちぎられてしまったが。
そんなの、ぬいぐるみ風の体であるオレには大した痛手にはならなかった。
とはいえ、ちぎれた部分から綿が飛び出しているというのは、見た目上、気分のいいものではない。
そこで、うめ子に頼んで縫い合わせてもらったのだが……。
「おい、うめ子。もっと上手く縫えないのかよ」
「うぐっ……。あたし、お裁縫とか苦手だから……」
だったら、他の人にでも頼めばよかっただろうに。
うめ子は裁縫道具の使い方がめちゃくちゃ下手くそで、オレはとてもみすぼらしい姿になってしまった。
ま、縫い合わせてもらっておいて、あまり文句を言うわけにもいくまい。腕がちぎれたままの状態よりは、幾分マシだろう。
せめて目立たないように、布地と近い色の糸を使うくらいの配慮はしてほしいところだったが。
その後のうめ子と藤馬の関係についても言及しておこうか。
いつもどおり学校に登校したふたりは、いつもどおりとは言えない様子だった。
そんな中、藤馬は悲しそうにつぶやいた。「僕には、うめ子さんとつき合う資格なんてないよ」と。
うめ子だけでなく、もも子、さくら子、やまぶきの三人とも関係を持ってしまった藤馬だが、行為をしている最中の記憶もしっかりと残っているらしい。
操られている状態だったとはいえ、罪悪感を覚えた藤馬は、うめ子たちから距離を置こうと考えたのだろう。
対するうめ子は、そんなの関係ないと言いたそうだったが、その言葉を口にすることは出来なかった。
やまぶきは寝室に忍び込まれて無理矢理、といった感じだったが、もも子は自らの意思で行為に及んだと言える。
さくら子も、最初は媚薬のせいだったみたいだが、その後も何度か関係を持ったという話だった。
ふたりとも、藤馬に対して好意を持っているのは間違いない。
うめ子はそのことを気にしていたのだ。
いわば親友ふたりから裏切られたようなものかもしれないが、うめ子としてはそれよりも、自分が藤馬とつき合うのはやっぱりふたりに悪い、と思っていた。
だが、
「私たちに遠慮することはないよ」
「ええ、そうですわ。藤馬くんも、わたくしたちとのことは、忘れてしまってくださいな」
もも子とさくら子はそう言ってうめ子の背中を押した。
物理的に。
無理矢理、藤馬とくっつくように。
「ほら、お互いに好き合ってるんだから、素直にラブラブしなさい!」
もも子から命令口調で言われ、うめ子と藤馬は戸惑い気味ながらも微笑みを交わす。
「ただし、清く正しい交際だからね!?」
すでに肉体関係を持っていることを知っていて、まだそれを言うのか。
自分自身も藤馬と関係を持った身だというのに。
そんな感想も浮かんでしまうが、もも子としては以前のままの関係に戻りたいだけなのだろう。
大切な親友と、その親友の彼氏と、みんなで楽しく時間を過ごしたい。
それがもも子の望みなのだ。
いや、もも子だけじゃない。うめ子も藤馬も、さくら子もやまぶきも、全員がそう思っている。
ならば、未来は必ず、思い描いたとおりになる。
もこうさであるオレが、太鼓判を押してやろう。
オレには未来を操る能力も権限もないのだから、単なる気休めにしかならないが。
そんなわけで。
オレは今でも、うめ子のそばにくっついている。
いつでもウサギのぬいぐるみを抱きかかえ、キューティーアイドルのアプリコットちゃんを自称するという、うめ子のブリッ子キャラも健在だ。
オレは女王の指示のもと、うめ子の監視を続けることになった。
といっても、以前とは役割が異なっている。
完全確定未来になったら、うめ子を食ってしまう。未来の藤馬によってなすりつけられた冤罪だったとわかった今、その任務からは解かれている。
ただ、藤馬を悪の道に進ませないよう、うめ子には頑張ってもらわなくてはならない。
そんなうめ子を見守る役目。それが今のオレに与えられている任務だ。
藤馬に直接くっつけばいいようにも思えるが、これまでうめ子にくっついてきたつながりの強さを考慮し、女王はこのように対処する方法を取った。
未来の藤馬は、もこうさシステムによって母親が消されてしまったのを恨み、リビルドネットワークを再構築しようという大それた行動を取るに至った。
未来の藤馬にとっては過去のことでも、今現在ここにいるオレやうめ子たちにとっては未来のことになる。
実際に藤馬の母親が処罰されてしまうかは、現時点ではわからない。
大幅なシステムの見直しがあったとしても、平和を守るための陰の存在という、もこうさの根本的な部分は変えられないからだ。
それでも、たとえどうなろうと、うめ子が藤馬のそばにいればきっと大丈夫。
女王はそういう判断を下した。
オレの任務は、その決断が正しかったのかを確認するためのものでもある。
話は変わるが、オレがうめ子を食わずにいるのをずっと放置していたのも、実は女王による実験という側面があったらしい。
もこうさは本来、下っ端の青猫どもと同様、プログラムに従って動くデジタリアンに過ぎない。
しかし、それではどうしても限界が出てしまう。
女王はもこうさに感情を持たせ、臨機応変に対処させようと考えた。
その計画のためのテストケースだったのだという。
だとするとオレがうめ子に対して抱いていた感情は、オレ自身のものではなく、仕組まれて生成された偽りの気持ちでしかなかったのか?
怒りをぶつけると、女王は「そんなことはありませんよ」と微笑んだ。
「そうやって憤りを感じているのも含めて、あなた自身の感情です。これから先もずっと、うめ子さんを守ってあげてくださいね?」
女王からお願いされれば、素直に聞き入れるしかないというものだろう。
いろいろと問題が浮き彫りになった形のリビルドネットワークではあるが。
今後もシステムを使い続けることが正式に決まった。
全世界的に使われている大規模なシステムなのだから、そう簡単に変えられるものでもない。
過去や未来からのアクセスに弱いという欠点が判明したことを受け、セキュリティー強化を図り、個人データ保護も徹底する形になった。
リビルドネットワークだけでなく、もこうさシステムや確定未来理論などにも、大幅な見直しが検討されている。
スタートから百年以上経ち、これまで大きな問題が発生していなかったせいで、油断が生じていたのは間違いない。
システムの見直しとメンテナンスを定期的に行い、よりよい生活が営めるように努力する。
リビルドネットワーク管理委員会を中心として、そういった意識を高めることができたのは、未来に向けていい結果が得られたと言えそうだ。
「う~ん、でもな~。もこちゃんが四六時中くっついてるのって、やっぱりちょっと鬱陶しいかも~」
休み時間の教室にて、うめ子がオレに文句をこぼした。
いつものごとく、オレはうめ子の胸に抱きかかえられている。
「もこちゃんがいたら、藤馬くんとキスすることもできないじゃない」
「それくらい、すればいいじゃないか」
「だって、見られてたら恥ずかしいもん! もこちゃんのせいで、さらに先に進むことだってできないし~」
そこで、別の声が割り込んでくる。
「うめ子! 清く正しい交際だからね!?」
しつこく念を押してきたのは、言うまでもなくもも子だ。
なお、オレがもこうさと呼ばれる存在で、人間の言葉が喋れるということを、うめ子の友人たちは知ってしまったわけだが。
そのあたりも問題なしと女王から伝えられている。
今ではうめ子だけでなく、もも子たちも一緒になって、オレと会話をしているくらいだ。
他の生徒たちから不審に思われそうではあるが、喋るぬいぐるみくらい、あってもおかしくはない、という考えなのだろう。
「うふふふ。アイドルを自称するのでしたら、恋人がいるのはNGなのではありませんか?」
苦言を呈しながらも、たおやかに微笑んでいるさくら子。
「うめ子は顔からしてアイドル向きじゃないと思うけどね」
苦笑を伴い、失礼なことをハッキリと言うやまぶき。
「それがいいんじゃないかな? 平凡でとくに美人ってわけでもないほうが、庶民的なアイドルとしては受け入れられたりするし」
藤馬も控えめに意見を述べる。
「はう……。平凡で美人じゃないって……」
「ああああ、ごめん、うめ子さん!」
「キスしてくれたら、許してあげる!」
「だからうめ子! 清く正しい交際をしなさいっての!」
「というか、オレや他のやつらがいたって、キスする気満々じゃねぇか」
なんだかんだと騒がしくなってしまうのも相変わらずだ。
うめ子はこうして今日も、友人たちとともに一度きりしかない高校生活を謳歌している。
無論、ウサギのぬいぐるみの姿をしたオレを、ぎゅっと胸に抱きしめながら。
以上で終了です。お疲れ様でした。
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