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騒ぎ立てないように念を押し、伝書バードがいる校門脇の植え込み辺りまで移動、そこで自己紹介する形となった。
「オレはもこうさ。見てのとおり、ウサギのぬいぐるみだ」
うめ子を食おうとしている死刑執行役。
そこまで話してしまうつもりはなかった。
喋ることのできるぬいぐるみ、と言い張ってこの場を乗り切ろう。それがオレの作戦だった。
だが、伝書バードにくくりつけられていた手紙を読むと、そうも言っていられなくなる。
『リビルドネットワークの不具合について、原因と思われる人物の特定に成功しました。すぐそちらに向かいます』
そちらに向かう。
この手紙はオレに宛てられたものだ。
とすると、そちらというのはすなわち、オレのいる場所になる。
その考えを肯定するかのように、目の前にひとりの女性が現れた。
もこうさの女王だ。
「初めまして、うめ子さん。それと、お友達のみなさん」
穏やかな雰囲気をこれでもかと振りまきながら、女王がたおやかに頭を下げる。
「わたくし、もこうさの世界で女王をしております、モッコリーヌと申します」
にっこりと温かな笑顔を見せて名乗る女王。
もも子、さくら子、やまぶきの三人は、呆然と見つめるばかり。
うめ子も初対面になるが、オレから女王の話は聞いていたため、驚きの度合いは友人たちよりも格段に低かった。
目の前に突然出現した、という点については、うめ子も充分に目を丸くしていたが。
「モ……」
もも子が口を開く。
「モッコリ……?」
「そこで切るな! 女王モッコリーヌ様だ!」
すかさず怒鳴りつける。
女王に対して無礼な言い方をするなど、あってはならないことだ。
それなのに当の女王と来たら……。
「ふふっ、構いませんよ。こういう名前なんですから。
短く略すというのも、人間にとってはごく当たり前の文化ですよね?
ですので、わたくしのことはモッコリとお呼びいただいても……」
「よくないです! 女王様、人間どもをつけ上がらせるようなマネはやめてください!
お前ら、ちゃんと女王様と呼ばなきゃダメだからな!」
がるるるるとうなり声を伴いつつ、うめ子たち全員に念を押す。
「もこうさ、いいですよ。とにかく、少し話をさせていただきたいと思います。
……うめ子さん、それにお友達の方々にも、無関係の話ではありませんし……」
もこうさというのがなんなのか。
それについては言及していない。
女王もそこまで伝えてしまう気はなさそうだ。
一方、うめ子はともかく、もも子たちにはなにがなにやらわかっていない状況だろう。
そんな中、女王は衝撃的な発言をする。
「実は今回の件の犯人は、あなた方のご友人である祁答院藤馬くんなんです」
「と……藤馬くんが!? でも、どうして……?」
うめ子が悲鳴のような声を上げる。
今にも女王につかみかからんばかりの勢いで。
「うめ子さん、お気持ちはわかりますが、少々トーンを落としてください。周囲には帰宅する生徒の方々もおりますし」
女王になだめられ、うめ子は口を閉ざしたものの、表情を見るに納得はできていなさそうだった。
改めて、女王が詳しい話を始める。
犯人は祁答院藤馬。
それは間違いないのだが、うめ子たちの知っている藤馬が犯人、というわけではなかった。
十数年後の未来の藤馬。それが犯人なのだという。
といっても、そういう推論に達しただけで、確信を持つまでには至っていないらしい。
未来の藤馬は、確定未来理論と対を成す不確定過去理論に基づき、過去を改変しようとしている可能性がある。
それを止めるのが、中央コンピューターからの情報を受けた女王以下、オレたちもこうさの役目となっているのだとか。
もこうさシステムは今、通信ができなくなっている状態なのだが、女王からオレへの連絡と同様、情報の伝達には伝書バードが使われたようだ。
「未来の……藤馬……?」
もも子は理解できていないのか、首をかしげている。
いや、うめ子以外に理解できるはずもないだろう。
うめ子ですら、よくわかっていないに違いない。
よくわかっていない、というよりは、信じたくない、といった感覚なのかもしれないが。
「未来の藤馬くんは、現在の藤馬くんを操っているみたいです。未来からの遠隔操作、と言うべきでしょうか」
「未来からの遠隔操作?」
「ええ。同じ時間軸からの攻撃にしか対応できない、リビルドネットワークのセキュリティーの隙を突いた方法です。
過去や未来からアクセスしてきたら、有効な対策が取れないのが現状のようですね」
過去や未来からのアクセス。
そんなことが可能だとは、普通は考えない。
しかし、確定未来理論など、未来を見通すことは可能になっている。
ならば、過去に対してデータを改ざんするような方法も、ないとは言い切れない。
未来の藤馬は、それを実行している、ということのようだ。
「ですが、女王様。そんなことをしたら、確定未来理論で発見され、即刻もこうさの処罰対象になるのでは……」
「はい、普通ならそうなります。ただ、未来の藤馬くんは、その罪をうめ子さんになすりつけたみたいなんです。
うめ子さんに対する処罰は、完全な冤罪だったということになります」
「ほ……ほら、やっぱり! あたしの言ったとおり、間違いだったんじゃない!」
うめ子が声を荒げる。
女王から再び、大きな声を出すなと注意されてしまったが。
その直後だった。
場違いなほど落ち着いた、事件の当事者本人の声が響き渡ったのは。
「そこまでわかっちゃったんだね」
振り返ると。
祁答院藤馬が不敵な笑みを浮かべながら、オレたちのほうに鋭い視線を向けていた。




