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もこうさ  作者: 沙φ亜竜
第4章 リビルドネットワークの崩壊
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-2-

 騒ぎ立てないように念を押し、伝書バードがいる校門脇の植え込み辺りまで移動、そこで自己紹介する形となった。


「オレはもこうさ。見てのとおり、ウサギのぬいぐるみだ」


 うめ子を食おうとしている死刑執行役。

 そこまで話してしまうつもりはなかった。

 喋ることのできるぬいぐるみ、と言い張ってこの場を乗り切ろう。それがオレの作戦だった。

 だが、伝書バードにくくりつけられていた手紙を読むと、そうも言っていられなくなる。


『リビルドネットワークの不具合について、原因と思われる人物の特定に成功しました。すぐそちらに向かいます』


 そちらに向かう。

 この手紙はオレに宛てられたものだ。

 とすると、そちらというのはすなわち、オレのいる場所になる。

 その考えを肯定するかのように、目の前にひとりの女性が現れた。

 もこうさの女王だ。


「初めまして、うめ子さん。それと、お友達のみなさん」


 穏やかな雰囲気をこれでもかと振りまきながら、女王がたおやかに頭を下げる。


「わたくし、もこうさの世界で女王をしております、モッコリーヌと申します」


 にっこりと温かな笑顔を見せて名乗る女王。

 もも子、さくら子、やまぶきの三人は、呆然と見つめるばかり。

 うめ子も初対面になるが、オレから女王の話は聞いていたため、驚きの度合いは友人たちよりも格段に低かった。

 目の前に突然出現した、という点については、うめ子も充分に目を丸くしていたが。


「モ……」


 もも子が口を開く。


「モッコリ……?」


「そこで切るな! 女王モッコリーヌ様だ!」


 すかさず怒鳴りつける。

 女王に対して無礼な言い方をするなど、あってはならないことだ。

 それなのに当の女王と来たら……。


「ふふっ、構いませんよ。こういう名前なんですから。

 短く略すというのも、人間にとってはごく当たり前の文化ですよね?

 ですので、わたくしのことはモッコリとお呼びいただいても……」


「よくないです! 女王様、人間どもをつけ上がらせるようなマネはやめてください!

 お前ら、ちゃんと女王様と呼ばなきゃダメだからな!」


 がるるるるとうなり声を伴いつつ、うめ子たち全員に念を押す。


「もこうさ、いいですよ。とにかく、少し話をさせていただきたいと思います。

 ……うめ子さん、それにお友達の方々にも、無関係の話ではありませんし……」


 もこうさというのがなんなのか。

 それについては言及していない。

 女王もそこまで伝えてしまう気はなさそうだ。


 一方、うめ子はともかく、もも子たちにはなにがなにやらわかっていない状況だろう。

 そんな中、女王は衝撃的な発言をする。


「実は今回の件の犯人は、あなた方のご友人である祁答院藤馬くんなんです」


「と……藤馬くんが!? でも、どうして……?」


 うめ子が悲鳴のような声を上げる。

 今にも女王につかみかからんばかりの勢いで。


「うめ子さん、お気持ちはわかりますが、少々トーンを落としてください。周囲には帰宅する生徒の方々もおりますし」


 女王になだめられ、うめ子は口を閉ざしたものの、表情を見るに納得はできていなさそうだった。

 改めて、女王が詳しい話を始める。


 犯人は祁答院藤馬。

 それは間違いないのだが、うめ子たちの知っている藤馬が犯人、というわけではなかった。

 十数年後の未来の藤馬。それが犯人なのだという。


 といっても、そういう推論に達しただけで、確信を持つまでには至っていないらしい。

 未来の藤馬は、確定未来理論と対を成す不確定過去理論に基づき、過去を改変しようとしている可能性がある。

 それを止めるのが、中央コンピューターからの情報を受けた女王以下、オレたちもこうさの役目となっているのだとか。

 もこうさシステムは今、通信ができなくなっている状態なのだが、女王からオレへの連絡と同様、情報の伝達には伝書バードが使われたようだ。


「未来の……藤馬……?」


 もも子は理解できていないのか、首をかしげている。

 いや、うめ子以外に理解できるはずもないだろう。

 うめ子ですら、よくわかっていないに違いない。

 よくわかっていない、というよりは、信じたくない、といった感覚なのかもしれないが。


「未来の藤馬くんは、現在の藤馬くんを操っているみたいです。未来からの遠隔操作、と言うべきでしょうか」


「未来からの遠隔操作?」


「ええ。同じ時間軸からの攻撃にしか対応できない、リビルドネットワークのセキュリティーの隙を突いた方法です。

 過去や未来からアクセスしてきたら、有効な対策が取れないのが現状のようですね」


 過去や未来からのアクセス。

 そんなことが可能だとは、普通は考えない。

 しかし、確定未来理論など、未来を見通すことは可能になっている。

 ならば、過去に対してデータを改ざんするような方法も、ないとは言い切れない。

 未来の藤馬は、それを実行している、ということのようだ。


「ですが、女王様。そんなことをしたら、確定未来理論で発見され、即刻もこうさの処罰対象になるのでは……」


「はい、普通ならそうなります。ただ、未来の藤馬くんは、その罪をうめ子さんになすりつけたみたいなんです。

 うめ子さんに対する処罰は、完全な冤罪だったということになります」


「ほ……ほら、やっぱり! あたしの言ったとおり、間違いだったんじゃない!」


 うめ子が声を荒げる。

 女王から再び、大きな声を出すなと注意されてしまったが。

 その直後だった。

 場違いなほど落ち着いた、事件の当事者本人の声が響き渡ったのは。


「そこまでわかっちゃったんだね」


 振り返ると。

 祁答院藤馬が不敵な笑みを浮かべながら、オレたちのほうに鋭い視線を向けていた。


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