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もこうさ  作者: 沙φ亜竜
第3章 女王の懸念
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-2-

 平和な日常は、えてして唐突に崩れ去ったりするものだ。

 などと表現するのは少々大げさすぎるかもしれないが。

 オレたちの周囲で、なにやらおかしな現象が起こり始めた。

 放課後の帰宅途中、うめ子が自動販売機でジュースを買おうとしていた際のことだ。


「あれ? ジュースが買えない……」


 うめ子は必死になって手をかざすが、何度やってもボタンを押せる状態にならない。

 リビルドネットワークの世界では、お金は硬貨でもお札でもない。データとしてのみ存在している。

 中央コンピューターの中に全国民の所持金データがあり、買い物する場合には手をかざすなどで個人を特定、使用した分の金額がデータ上から減算される。

 直接お金をやり取りすることをなくし、盗難などの被害が出ないようにしているのだ。


 なお、うめ子はまだ未成年のため、親からもらう小遣いや年始のお年玉といった収入しかない。

 すでに五月となる今現在、お年玉など残っているはずもなく、毎月の小遣いをちまちまとやりくりしていたことになると思うのだが。

 普段からとぼけた感覚を見せる場面の多いうめ子のことだ、おそらくついつい使いすぎて、今月分の小遣いがなくなってしまったに違いない。

 といったオレの予測は、どうも間違いだったらしい。


「昨日の帰りに買ったとき、残高はまだあったのに。……っていうか、残高表示もされてないなぁ」


 首をかしげているうめ子。

 その言葉どおり、自動販売機の液晶部分に表示されるはずの残高が、なにかエラーでもあったのか、現在は非表示となっている。


「む~……。こんなんじゃ、なにも買えないじゃない。お店でもダメなのかな?」


 試しにコンビニに行ってレジで確認してもらおうとしたところ、店内は混乱中だった。

 残高表示されないのはうめ子だけに限らず、その場にいた客全員が同じ状態になっているようだった。


「え~? システムの不具合なの?」


 リビルドネットワークのシステムは強固に作られており、ハッキングなどを受けて停止したといった事例は一度たりともない。

 仮に不具合があったとしても、瞬時に対応できるように作られているらしい。

 リビルドネットワーク管理委員会という組織があって、常時トラブルがないように監視し、なにかあったら迅速に対処する体制が取られている。

 もし管理委員会では手に負えないような現実世界側の機械的なトラブルがあったとしても、制御施設にいるロボットが適宜修正するのが常となっているはずだ。


 お金が使えない。

 それだけで大混乱。

 データに頼りきりになっていることによる弊害、とも言えるだろうか。


 とはいえ、リビルドネットワーク全体に及ぶ不具合、というわけでもなさそうだった。

 この近辺のごく限られた地域のみで、所持金データの参照ができなくなっている。

 不具合の症状としてはその程度だと、配信されているニュースにより知ることができた。


 重要なニュースは、こうやって直接対象となる国民に伝えられる。

 視界の片隅に、ニュースが文字や映像で表示されるような感じだろうか。

 なお、個人配信ではなく地域配信のニュースは、オレたちもこうさでも受信することが可能だ。


 それにしても、一部の地域だけであれ、不具合が瞬時に対処されることなく放置されているというのは、随分と珍しい事態だな。

 そういえば先日の一件では、青猫たちの情報システムにもなにか不具合があったとか、そんな話を聞いた。

 オレたちもこうさは、犯罪者を食ってしまう役目を担っている存在でしかない。リビルドネットワーク側の不具合など、気にすることではないのかもしれないが……。


「う~、ジュースもお菓子も買えないなんて、欲求不満になっちゃうよ~」


「たまには我慢することも覚えろ。天の神様がお前のために仕組んだのかもしれないぞ? ぶくぶくと太らないためにな」


「ぶぅ~~~、もこうさ、意地悪なこと言わないでよ~~~!」


 うめ子が膨れる。

 食ったり飲んだりしなくても、頬は簡単に肥えるようだ。

 不満そうなうめ子だったが、お金が使えないのではどうにもできない。


「はぁ~。今日は素直に帰るしかないか。早く直ってくれないかな~。でも、ジュース~、お菓子~……」


 名残惜しそうにコンビニの商品に視線を向けてはいたが、やがてトボトボと歩き出した。

 がじがじがじとオレの耳をかじってやがったのは、今日のところは許してやるとするか。




 オレはもこうさとしての任務を受け、うめ子のそばについている。

 正確に言えば、うめ子を食ってしまう任務だが、現在は保留中。うめ子の監視役という立場に変わっている。

 オレに指示を出すのは、もこうさの国にいる女王だ。


 いつ完全確定未来となり、うめ子を食っていいとの指示があるかわからないし、定期的に連絡を取るようにしているのだが。

 ここ数日、女王からの通信がなかった気がするな。

 そう思い至り、こちらから連絡を取ってみることにした。


 通信は直接お互いの頭の中で響く形式となっている。受話器のいらない電話のようなものだと考えればいいだろう。


『女王様、応答願います』


 目をつぶり、頭の中で呼びかける。そうすることで、一瞬にしてつながるのが普通だ。

 だが、なぜかまったく反応がない。


 オレたちもこうさでも、人間でいう睡眠のようなものを取ることはある。それは女王であっても変わらない。

 だとしても、通信があったら意識がハッキリしていなくても問答無用でつながるようになっている。

 その場合、眠そうな声で応対する女王が意外と可愛らしかったりして、それなりに楽しみにしている部分でもあったのだが。

 まったく反応がない、というのは初めてのことではないだろうか。


 もしかして、女王と通信できない状況に陥っているのか?


 この近辺だけらしいが、所持金データへのアクセスに不具合が出ているようだった。

 先日は青猫の情報システムにも不具合が出ていた。

 もこうさの通信システムになんらかの障害が出たとしても、不思議ではないのかもしれない。


 もし本当にそうだったら、今後のオレの活動にも支障を来たす可能性がある。

 うめ子から離れてしまうのは少々問題ありだが、ここはしっかり確認しておくべきだな。

 オレはそう考え、女王のいるもこうさの国へと行ってみる決意を固めた。


「おい、うめ子」


「ん? もこうさ、どうしたの?」


「ちょっと出かけてくる」


「ふぇ? 珍しい。あっ、デートとかだったりして?」


「んなわけあるか。ま、行ってくる。すぐに戻ると思うけどな」


 うめ子に簡単に告げ、いざ、もこうさの国へ。

 といっても、もこうさの国や青猫のやつらの国は、人間たちのいる場所と平行した別次元に存在している。

 向こうの世界と行き来すること自体は、オレの感覚ではほぼ一瞬で済む。

 女王が住んでいるのは、もこうさの国にある城の中だ。もこうさに対しては、常時開放されている。


 オレは素早く空を飛び、女王の間へと急いだ。


 城に着き、女王の間まで行ってみると、オレ以外にも多くのもこうさが集まってきていた。

 もこうさの通信障害は、一部の地域だけ、といった限定的な障害ではなかったらしい。


「あなたも戻ってきましたか」


「はい、女王様。通信ができないみたいでしたが、いったいこれは、どうなっているのでしょう?」


「さあ、わたくしにもわかりません。不具合なんて自動的に修正されるもの、という認識でしかありませんでしたが……」


 今回の事態については、女王も驚いているようだ。


「ただ、なにか禍々しい気配が感じられるような気がしてなりません」


 不安げにつぶやく女王。こんな表情をするのは非常に稀有な出来事だ。


「禍々しい気配……ですか?」


「はい。もっとも、わたくしにもよくはわかっていないのですが……」


 女王の様子に、オレだけでなく、他のもこうさたちも心配そうな視線を送っていた。

 そのことに気づいたからなのだろう、女王は健気にも笑顔を見せる。


「ふふっ、大丈夫ですよ。すぐに通信だって復旧すると思いますから」


 そして女王はオレのほうへと顔を向け直す。


「気になってここまで来たのだとは思いますが、今はなにも言えることはありません。

 あなたはこれまでどおり、対象者の監視を続けてください」


「了解しました」


 現状維持。

 指令としては微妙なところかもしれないが。

 オレは与えられた任務を忠実にこなしていればいい。

 不安は心の中で渦巻いていたものの、オレは女王に一礼だけして、素直にうめ子のもとへと戻っていった。


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