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「そんなわけで、新生寺さんもわたくしたちの仲間入りですわ!」
「って、ちょっと、微風ノ宮さん、いったいなんなのよ?」
休み時間、ひとり寂しく席に座っていた新生寺を、さくら子が強制的に引っ張ってくる。
「ふふっ、わたくしたちはお友達。昨日、そう言ったでしょう?」
「だ……だからって、あたくしはべつに、あなたたちのグループに入りたいだなんて、ひと言も……」
「いいじゃないの。みんなで喋ったほうが楽しいわよ?」
もも子もさくら子に同意を示す。
「だけど、微風ノ宮さん……」
「それもやめるべきですわ。わたくしのことは、さくら子とお呼びくださいませ」
「微風ノ宮さんの名前って確か、桜満開と書いて『はなみ』だったわよね?
桜の文字は入ってるけど、さくら子ってのはおかしいような……」
「いいのですわ。うめ子、もも子、と来たら、さくら子にするしかないじゃないですか」
「蛸星さんだって、もも子じゃなくて黄桃って名前なんじゃ……」
「ごちゃごちゃとうるさい人ですわね。細かいことなんて気にしないでください。あだ名なんですから」
「いや、まぁ、あだ名なんてそんなものかもしれないけど……」
新生寺はまだ納得できていない様子。
そんな新入りに、もも子も明るい声で言ってのける。
「ま、あなたも花の名前だし、私たちの仲間入りってことで! よろしくね、やまぶ子!」
やまぶ子……。
当然ながら、新生寺がすかさず反応する。
「ちょ……っ!? なによ、やまぶ子って!?」
「だって、やまぶき子じゃ語呂が悪いでしょ?」
「だからって……響き的に嫌というか……」
不満顔の新生寺……いや、やまぶ子。
まぁ、オレとしては、やまぶきと呼ぶことにしておくか。
そこで、なぜかずっと沈黙を貫いていたうめ子が、ようやく口を開く。
「いいじゃない! 可愛らしい名前だと思うよ! よろしくね、ぶー子ちゃん!」
明るい声と笑顔を伴ってはいたが、なんとも悪意のこもった言葉。
「ぶ……っ!? 花屋敷さん、それはいくらなんでもひどいんじゃない?」
「ダメだよ、ぶー子ちゃん。あたしはうめ子なんだから!」
「う……うめ子、さん」
「違う! うめ子! さんづけも却下!」
「わかったわよ。でもうめ子、どういうこと? あたくしが、ぶー子だなんて」
「やまぶ子だから、略してぶー子にしただけだよ? なにがいけないの~?」
「なにがって……ブタみたいで嫌じゃない!」
「うん、あたし、わざと嫌がるように言ったんだもん!」
アイドルを自称しているくせに、うめ子のやつ、なにを考えているんだか。
そう思ったのだが、うめ子の心の中にはくすぶるものがあったようだ。
「いじめられる側の気持ち、少しはわかったでしょ~? 言っとくけど、実際にはこんなもんじゃないんだからね?」
うめ子は、やまぶきがさくら子をいじめていた件を、完全に許してはいなかったのだ。
もちろん、さくら子本人が許している以上、面と向かって文句を言うわけにもいかない。
ただ、仲のいい友達グループの中にそんな人が加わることを受け、どうしても我慢できなくなったのだろう。
うめ子には小中学生の頃にいじめられていた過去がある。だからこそ、強く反発する気持ちが芽生え、受け入れられずにいた。
といっても、さくら子がやまぶきと仲よくしたいと思っているのはわかっている。
それで、こんな言い方をするに留めた、といったところか。
「うっ……そうね。微風ノ宮さんには……じゃなくて、さくら子には本当に悪いことをしたと思ってる。
反省してるわ。ごめんね、さくら子」
「大丈夫、わたくしは気にしておりませんわ。これから仲よくしていただければ、それで許して差し上げます」
「さくら子……」
やまぶきは申し訳なさそうな表情こそしていたものの、いじめていた相手のグループに加えてもらえることを、心から嬉しく思っている様子だった。
あまりよくは知らないが、やまぶきは友達が多いような雰囲気でもない。
さくら子はやまぶきと幼い頃からの知り合いでもあるため、そのことを少なからず気にしている部分があったのだと考えられる。
「とりあえず、私たちの仲間入りってのは決定でいいね? ……うめ子も」
「ん……そうね。改めてよろしく、やまぶ子ちゃん!」
もも子に促され、うめ子は笑顔で握手を求めた。
対するやまぶきのほうも、それに素直に応じる。
「よろしくね、うめ子。でも、やまぶ子って呼び名も決定なのね。……まぁ、ぶー子じゃないだけマシか」
「あっ、あたしのことは、アプリコットちゃんで!」
「それは却下」
「ええ~~~? どうしてぇ~~~?」
うめ子がぷく~っと頬を膨らます。
この仕草が出たということは、うめ子も普段どおりの気分に戻った、と言えるだろう。
学校では能天気なブリッ子キャラを貫くうめ子が珍しく怒りをあらわにしていて、一時はどうなることかと思ったが、なにも心配はいらなそうだ。
こいつらはこいつらなりに、日々の生活を楽しんでいるってことか。
なんというか……平和だな。
いつものようにうめ子に抱きかかえられ、ぬいぐるみのフリをしているオレは、ぼーっと会話を聞きながらそんなふうに考えていた。




