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ひとりの学生が、路地の行き止まりまで追いつめられていた。
いや。
オレが、追いつめた。
恐怖におののく顔でも見せてくれたら、少しは気分も高揚するというものだが。
なんともつまらない。
メガネをかけた、冴えない男子学生。
こんなやつが、よもやあんな大それた事件の首謀者になるとは。
世の中、わからないものだな。
「……どうして、こんな……」
こうなってしまった自分の運命を呪っているのか。
否。
わけがわからない。そう言いたげな表情をさらすのみ。
抵抗する素振りすら見せない。
まったく……つまらない。本当につまらなすぎだ。
しかし、オレは任務をこなさなくてはならない。
どんなにつまらなくても、仕方がない。
「オレはお前を処分しに来た」
だらしなく口を開けて呆然とするだけの学生に、オレはここに現れた目的と処分対象になる原因となった事件について、詳細に語って聞かせてやる。
それでもなお、学生は意味がわからないといった表情を崩さない。
まぁ、べつにいい。
与えられた任務はこいつを処分すること。
最低限の礼儀として、処分される理由を聞かせてはいるが、形式上のやり取りでしかない。
もとより、わかるはずもない。|まだ起きてもいない事件(丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶)のことなど。
「お前に恨みはないけれど、悪の種なら容赦はいらぬ。観客ゼロのショータイム。なにも言わずに死んでくれ!」
淡々と決めゼリフを放ち、
オレは大きく口を開け、
この期に及んでもまだ状況が理解できていない男子学生に、頭からかぶりついた。
頭部を真っ先に食らい、そのまま胴体を吸い上げるようにして一気に飲み込む。
ペロリと。
丸呑み。
歯のないオレには、丸呑みする以外に方法はないわけだが。
路地に静けさが戻った。
男子学生がいた痕跡は、なにひとつとして残らない。
周囲の人々の記憶からも、綺麗さっぱり、消えてなくなる。
正確には、不都合が生じないように改ざんされる、という話だったか。
ともかく、これにて任務完了だ。
「しかし、男ってのは筋っぽくていかん。丸呑みする分には大差ないのは確かだが。たまには女の処分に回してほしいものだ」
ぼやきながら、その場を立ち去る。
立ち去る、というのは正しくないな。
飛び去る。
空を、ではなく。
空間を飛んで、オレたちの世界へと戻る。
今日も明日も明後日も、指令さえあればどこへでも赴き対象を捕食する。
オレは人間を処分する非情な死刑執行役。
さて、次の仕事が与えられるまで、ほんの少しの休養を楽しむとするか。