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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第89話:ヒーロー達の忍者再び(B)

「絶望を確認することしかできないかもよ?」

「絶望を確認するという希望がある」

FlyingShine『CROSS†CHANNEL』より抜粋。

「じゃあ、結局桃さんも狗山さんたちがどこに行ったのかは知らないんだ」

「申し訳ありません。……私に感知系ヒーローの素養があればよかったのですが……」

「それは仕方ないさ。『美月探し』の打開策が見つけられただけでも十分だ」


 走りながらそうフォローする。

 俺たちはすでに出発していた。これ以上あの場にとどまる理由も時間もなかった。

 桃さんとの会話も移動をしながら行なっている。


 ちなみに忘れてる人もいると思うから紹介しよう。


 彼女の名前は猿飛桃さん。

 狗山さんに忠誠を誓っている?らしい、じ、侍女だ……?


 侍女というのは王族・貴族の婦人に仕えて雑用や身の回りの世話をする女性のことをいう。

 つまりはメイドさんである。まほろさん的なあれである。いや多分違う。


 紹介が疑問形なのは実際に顔を合わせるのは俺も初めてだからだ。

 桃さんのことを知ったのは二次試験の始まる前。

 俺の“一方的な観測”により知ることができた。


 覚えているだろうか。

 監視カメラ――星空のマンションの――あの神の視点の存在のことを。

 観測者たりえる可能性の機器たちのことを。


「それにしても桃ちゃんはずぅーっと隠れて涼子ちゃんと一緒にいたの?」

「……はい」

「私たちがゲフィオンに乗ってる時も?」

「はい」

「怪獣と戦ってた時も?」

「その通りです」


 桃さんはクールに答えていた。

 うひゃあとあゆは驚いていた。

 桃さんは常に俺たちの近くに“いた”。常に狗山さんの背後に隠れて“いた”。

 信じがたいことだが本人の話ではそうなっていた。


「……もしかして、俺と狗山さんが初めて遭遇したときからいたのか?」

「ちくわになってましたね。拝見させていただきました」

「うっわ」


 マジか?

 マジで最初からいやがったのか。

 ねーちくわって何?ちくわってー?と聞いてくるあゆを無視して俺は彼女を見る。


 桃さん。

 猿飛桃。

 彼女が何を思い何を考え俺たちの前に姿を現したのか。

 俺の立場からは詳しくはわからない。


 ただ、ひとつ言えるのは、こいつも美月たちを助けたいと思っている。

 力になりたいと思っている。

 その強い気持ちだけは理解できた。


「分かれ道です」

「右だな」

「ええ」


 俺たちは迷いすらなく進む。

 桃さんの紹介と並行して説明するが、俺たちは美月たちに出会うために、――最終層のゴールを目指していた。


 最終層のゴール。

 何故、美月たちを追うのに、そんな場所を目指すのか。

 それは、怪獣ジャバウォックの現在地と密接に関係している。


 怪獣ジャバウォック。

 やつはこの二次試験で最も強い怪獣だ。

 最強の怪獣だ。

 そう定義されそう実装され今もこの最終層に君臨している。


 ならば。

 俺が試験管理者の立場だとしたら、その最強の怪獣をどこで登場させたいか。


 これは一種の思考ゲームだ。


 怪獣ジャバウォックの配置をどうするか。


 この第二次試験のルールに「試験突破にはゴール通過する必要がある」「しかし、ゴール後も戦闘は行える」という要素が付随されており、ゴール後も戦闘が余儀なくされている状況が事前に用意されているとしたら。


 試験管理者は“どこに”怪獣ジャバウォックを出現させるか。



『それは――“最終層のゴール前”に他なりません』



 出発前の桃さんはそういった。


『試験も終盤になった現在、怪獣ジャバウォックはかなりの高確率で最終層のゴール付近にいると予想できます。あの月見酒先生がこんなうってつけの戦いの舞台を用意しないわけがありません』


 まったく皮肉めいた展開です……と桃さんはそうぼやきながら、そう己の推測を語った。


 俺たちはこの桃さんの推測を肯定した。

 藁にも縋りたい状況だったのだ。

 無論、いくつかの『話し合い』は行われたが――。

 最終的に俺たちは走りだした。桃さんという助け舟に乗って。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「そういや桃さん。ずっと狗山さんの近くにいたってことは、当然第二層の戦争にも参加していたのか?」

「はい、陰ながら尽力させていただきました。猫谷様の奇襲に対処したり、葉山様の大爆発から美月様をお守りしたり……」

「……まじで?」

「まじです」


 思わず聞き返す俺に桃さんは真面目な口調でさらに返す。

 ……そういや葉山が超変身を起こした時、狗山さんが美月を守らずに猫谷さん“だけ”を守ったことがあったな。

 あれは確かにちょっと「あれ?」と思ったが、そうか、桃さんが代わりに美月を守ってたのか……。


 ちなみに高柳様も気づいてはいませんでしたと桃さんは話す。

 時折気配は察知していたでしょうが、私の力は世界の干渉そのものを打ち消す類いなので、と意味深に続けた。


 と、ここで俺は桃さんとの会話を交わす傍ら、雄牛さんが険しい視線を向けてくるのに気がついた。


「……どうかしたのか、雄牛さん?」

「――新島君、……猿飛さんに質問なんだが」

「何でしょう、山車様」

「あんたは常に狗山涼子の近くにいたと言った。ならば、私たちが“倒される瞬間も”、あの場所にいたってことでいいんだな?」

「はい」


 そう、あっさり桃さんは応えた。

 あまりに平然と応えたので雄牛さんも少し戸惑った様子だった。


(そうか、いたのか……。でも、まあ、そうだよな……)


 と、変に一人で納得してると、


「……といいますか、そもそも新島様を倒したのは私です」

「は?」


 なんてことを言ってきた。

 さすがの俺も止まりかけた。雄牛さんもは?という顔をしている。

 対する桃さんもちょっと驚いた様子だった。いや、お前は驚くなよ。何でだよ。


「……もしかして勘違いなさってるのかと思ってましたが……あの時新島様を倒したのは私です。美月様でも涼子様でもありません」

「…………まじで?」

「うしろからグサッといかせていただきました」桃さんはグサッと刺すジェスチャーをする。

「…………ぉぅ」

「ちなみにポイントも取得済みです。……見ますか?」

「…………いや、いいや。少なくとも今は、いい」


 そう否定した。

 ちなみに桃さんはつとめて平静に「あ、次は右ですね」と言っていた。

 ま、まじかー、お前かー。

 個人的に言いたいことはまあ沢山あったが、つーか聞きたいことは山ほどあったが、むしろ多分に漏れることは決してないだろうが、今はそんなことしてる場合ではなかった。


 言い合いで走りを止めることはできない。


 こうしている間にも美月はジャバウォックと戦っているかもしれないのだ。

 そう考えるだけで俺の心は重く深く硬化する。

 軽妙な会話をかわす一方で危機感は泥土のように俺の中で堆積していった。



 話はふたたび前後するが、俺たちは『ゴール』を目指すために――『神山君たちを追って』いた。


 なぜ、ゴールを目指すのに神山君たちを追いかけるのか。

 それは、現在もっともゴールに近い場所にいるのは神山君たちだと予想できたからだ。


 その理由を言うとさらに話が長くなるが(ただでさえ今回の話は論理がからまっていてややこしいのだ。チャート図でもあればまとめたいくらいだ。少なくとも走りながらやるものではない)、できるだけ分かりやすく言うと、



 神山君たちが俺たちを『裏切っている』可能性が高いからだった。



 いや、裏切っているという表現は語弊があるかもしれない。

 『先んじてる』とでもいえばいいだろうか。


 現在の神山君たちは、俺たちとの合流よりも、ゴールへの到達を優先していた。

 少なくとも最初の分かれ道の段階で、「二手に別れよう」と神山君が“自発的に”提案してきた時点で、その狙いはあったのだろうと桃さんは考えている。


 この主張の蓋然性がいぜんせいを高めるため、桃さんが示した言葉を一つ引用しよう。



『――――何故、感知系ヒーローの高柳君がいながら、彼らは倒れた新島様たちを10分以上も放置したのですか?』



 この状況下でその発想に至るとは――。

 さらにはそこから彼らの狙い――最終層のゴールへの到達を導き出すとは。


 鋭く冴えた慧眼。大局的視点の極地とも呼べる俯瞰ふかん能力。思考の飛躍を平然と実行する洞察力。


 感服ものだった。

 正直鳥肌が立った。


 これがSクラスか。

 そう思える“優秀さ”であった。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 美月瑞樹と狗山涼子。

 怪獣ジャバウォック。

 第二次試験の最終ゴール。

 神山仁と高柳城。

 猿飛桃。


 様々な事象が一つの線を導き出す。

 全ての運命が繋がりだし収束へと向かっている。

 何かが始まっている。

 そんな予感がした。


(しかし、俺たちが求めるのは『美月を見つけること』それだけだ)


 そのためならあらゆる手がかりは俺の味方だ。

 全ての手がかりは俺と美月を助けるための選択肢だ。

 可能性の発露だ。

 

 全てを活かし全てを掴む。

 この一点において俺は揺るがなかった。


「続いても分かれ道です……右へ向かいましょう」


 平坦に告げる桃さんを見て、俺は出発の直前に彼女と交わした論議を思い出す。


 藁にもすがるその一歩手前。

 起こり得た。

 疑念と言及性ばかり研ぎ澄まされた俺に寄る。

 話し合いだ。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



『涼子様はおそらく通常以上の速度で移動しています。おそらく普通に探しても見つかりませんし、出会ったとしても逃げられる可能性は高いです。それならば出会える可能性の高い神山君たちを優先的に探して、怪獣ジャバウォックの出るだろうゴール付近で待ち伏せをする、というのが、現時点で私たちにできる最善だと思います』

『…………』

『どうかしました?』

『いや、あまりもベストな判断すぎてビックリしてた』

『ありがとうございます。ずっと見続けてきた私ですから、客観的判断は得意なのです』


 桃さんは少しだけ得意げにそういった。

 しかし、一方の俺はあるひとつの可能性を憂慮していた。


 今までの話を聞いてもしかして勘の良い人間ならば疑問点が浮かんでくるだろう。

 それは――桃さんの『行動原理』についてだ。


『……桃さん、本当に俺たちの協力をしていいんだな』

『はい』

『狗山さんからは『俺たちを監視しろ』とか『ジャバウォックから俺たちを守れ』とか言われてるんじゃないのか』


 そう指摘すると桃さんはじっと口を閉ざした。

 そうか……やはり、そうでもなければ、美月たちが倒れた俺たちをそのまま放っておく訳がない。


 その程度のフォローもできない人間が俺の幼馴染な訳がない。


 監視役兼ボディーガードの桃さんは、いくつかの間をとって黙っているとやがてゆっくりと頷いた。


『はい、構いません。確かに私の行動は、涼子様と美月様の意向に背きます。しかし、これは“良くない”こと。真の侍女たるもの、主人とそのご友人の幸福を一番に考えて行動するものです』

『そいつは……偉いな』

『偉いでしょう』


 ドヤ顔だった。チョップしてやる。


 しかし、桃さんの言葉は理解できた。その裏に秘められた信念も感じ取れた。

 だが、そう簡単に信じていいものか……。


 藁にもすがりたい俺たちだったが、それで溺れ死ぬことはできない。

 甘い判断で全てを失うわけにはいかないのだ。


 本来ならば、桃さんは敵だ。

 俺たちではなく、美月サイドの人間だ。

 普通であればここで一戦交えてもおかしくない仲だ。

 なのに、だというのに、協力する……?


 もしも桃さんの言葉がフェイクだとしたら、状況は一変する。

 そもそもの話が根底から崩れ去ることになる。


 だが――。


『私は信じるよ。桃ちゃんのことを』

『あゆ……』

『私って難しいことはわからないけど、昔から本気の人間と、そうじゃない人間の違いはわかるんだっ!』


 あゆはそう言って元気いっぱいに肯定した。

 くるりとその場で回転して俺を見る。


『桃ちゃんは本気の人間だよ。本気で、瑞樹ちゃんのことを心配してる。そして、ソウタ君のことさえも心配している。だから、『大丈夫』だよ。だから、ソウタ君も信じてあげなくっちゃ!』

『あゆ……』『川岸様……』


 呆然とする俺たちにあゆははっはっはっと偉そうに笑う。


『だっかっらっ! 私にどーんと任せなさいっ! 桃ちゃんの“正しさ”はこの私が保証するっ! 今はみんなで協力しあって、このまま一緒に最終試験に行こうよっ!』


 そう両手を広げるあゆに、あゆに、俺は――苦笑する。

 見ると、桃さんも仮面の下で苦笑している。雄牛さんも。あゆだけがえっえっ!?とおろおろしてる。


 まあ、なんというか、

 意外なことなんだが、つーか単純なことなんだが、

 それだけで、

 そのあゆの偉そうな自分勝手の保証だけで、


 俺の中の疑念は消え去っていた。


 桃さんに対して信じてあげようと。一緒に頑張ろうと。驚くべきことに心から。そう思えてしまったのだ。


(すごい)


 すごい。

 素直にそう思った。

 すごい。あゆ。お前は凄いよ。

 ぐわんぐわんと身体の血流があがっていくのを感じた。

 あゆ。

 一流のヒーローになるのはお前のような人間だ。


 俺はただ美月のことを目指して進めばいい。

 自分の気持ちに真っ直ぐに突き進めばいい。

 たとえその先に最強の怪獣が待ち受けようとも今の俺たちなら乗り越えられる気がした。


 かつての狗山さんは言っていた。


 俺たちに神山君、高柳君を合わせたメンバーが、偶然にも最終試験に出場する人数“八人”に符合すると。


 俺、美月、狗山さん、あゆ、雄牛さん、神山君、高柳君、――そして、猿飛桃さん。


 神山君たちは別行動を始めているし、まだ出会うわぬ君波紀美さんのこともある。

 未来のことは誰にもわからない。

 しかし、希望はある。

 俺たちが最終試験に笑って進める希望は残されている。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 轟ッ!



 一際大きな震動が響いた。距離はさほど遠くない。この最終層にいる人数は限られている。


「ソウタ君っ!」

「ああっ!」


 近くに誰かヒーローがいる可能性が高い。それはきっと神山君たちだろう。

 俺たちは聞こえた音を頼りに――方角を定める。


「ソウタ君っ!」

「オーケー、川岸あゆ――――ぶっ放せっ!」


 あゆはニヤリと笑う。

 右腕を構える。

 道を迂回する?

 そんな馬鹿な。川岸あゆを舐めちゃいけない。


「――――《全壊右腕クラッシャー・アーム》発動ッッ!! 種類『掘削機ボーリング』ッッッ!」


 あゆの右腕から放たれる銀の機械。

 岩盤を砕き土壌を崩し目の前の壁が粉々に砕け散る。

 新たな道が形成されていた。


「YESッ!」

「イエスッッ!」


 俺たちは拳で拳を叩き合う。


「これが……最終層までショートカットした技か……」

「川岸様……まったくの無名からこんな強者が……城ヶ崎様と同じタイプか……」


 驚き合ってる二人を引き連れ俺たちは進む。

 激しい地響きは近づけば近づくほど増大する。

 心臓の昂ぶりもそれに合わせて高まっていく。


 やがて手製のトンネルは、別の通路にぶち当たった。

 手抜きの石造りの通路とは違う。

 いくらか『手の込んだ』綺麗に舗装された道だ。


 さっと方向転換。


 音の方へと直進する。

 なんだか通路がいつもと違う。

 感覚的ではあるがそう思えた。

 轟音は間違いなく接近してる。この通路の向こうにその先に何か終わりに近しいものが待ち受けている。


 駆け抜ける俺たちは前方に倒れた障害物を発見する。

 何かの物体。

 加速する世界からそれらを捉えようと目を凝らす。


「うわっ……!」


 急激に、ストップ。かける。

 俺たちは止まる。その地面に倒れたる物体たちを見た。傷だらけ。満身創痍。抜け殻。泥だらけ。ねじれた四肢。団子。意識があるようには思えない。


 それは仰臥ぎょうがした人間のカタチをしていた。


 それは、気絶した神山君と高柳君であった。



「うわ、……」 



 声漏らす、その瞬間。



「ぎゃるるっるるるるるるるるるるるるっるるるるるるるっる――――っっっ!」


 続けて。

 聞こえる。

 破滅的な声。

 ぞくぞくっと身体を犯すように這い上がってくる。


 いた。いたんだ。

 

 あの化け物は隠す気すらしない。絶望は堂々とこの先に顕現している。



「怪獣、ジャバウォックっ……!」


 その名をいう。

 痺れる心、繋ぎ止めながら、俺は静かな闘志を燃やした。

 覚悟を決める時がきたのだ。俺も。これからの未来を歩むために。

 次回、怪物、登場。

次回「第90話:ヒーロー達の怪物再び」をお楽しみください。

掲載は4日以内に行います。

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