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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第88話:ヒーロー達の崩落再び

「また分かれ道か……」


 絶賛移動中の俺たちの前にふたたび左右に分断された道が立ちふさがった。

 当然といえば当然だ。

 この地下遺跡の構造上、通路を進めば必ず『広間』か『分かれ道』のどちらかにぶるかるのだから。


「今度はどうしよっかー? 右ー? 左ー?」「GRRRー?」


 あゆはゲフィオンの背中に寝そべりながらそう尋ねる。これまでの俺たちは、神山君たちとの合流も視野に入れて、右側の道を選び続けていた。


「……うむ、そうだな、“右”に進むか」


 狗山さんは一呼吸置いてからそう応えた。

 その返答の仕方に俺はちょっとだけ引っかかるものを感じた。


「…………?」


 狗山さんの口調は平時に比べて若干重たく、妙にシリアスめいていた。

 『真剣味』というか、『緊迫感』というか、うーん、うまく当意即妙に形容することが難しいのだが……。

 違和感。

 一人だけ戦闘の状況下にいるような。

 日常アニメの中で常時『殺気的な何か』を放って牽制しているような。

 そんな違和感を覚えた。


(いやいや、どんな状況だよ……どんな人間だよ……)


 セルフ突っ込みを行うが嫌な予感は拭い去れなかった。

 狗山さんを見返すとやっぱり難渋そうな思案顔。

 流石に気づかない振りをしてスルーを決め込むわけにもいかないので、俺は思いきって聞いてみる。


「狗山さん、どうかしたのか?」

「新島君…………いや、何でもない、すまないな……」

「? いや、謝られても仕方ないんだが……」


 むしろ不安めいた予感が増大して、さらに不安になったんだが。

 なんだ、何かあったのか。または、これから――“何か”あるのか。


「さぁいくよ~っ、面舵いっぱぁ~~い、右側へ進めぇ~っ!」

「GRRRR――ッッ!」


 あゆがひとつなぎの大秘宝でも探す勢いで進軍を開始する。ちなみに右に曲がるのが面舵で、左に曲がるのが取舵。あゆにしてはめずらしく知的。


 進むあゆとは対照的に狗山さんと美月はいつの間にかゲフィオンから降りて自分の足で歩いていた。俺もそれに合わせて地面にさっと降り立つ。


「おい、狗山さん……」


 と、近づいてみると問題は狗山さんだけではないことに気がついた。

 美月瑞樹。

 彼女の雰囲気もどことなく暗いことに気がついた。アイツの場合口数が少ないし、挙動も地味だからわかりにくいが、それでも違う。普段に比べて動きの一つ一つが妙にぎこちない。目線の逸らしからがいつもよりも早い。そのくせこっちを見る頻度がやけに多い。

 それは腹の内側に何か“良くないもの”を抱えている時の美月の姿であった。


「おい、美月なんか困ってることでもあるのか……?」

「……べつに、なんにもないけど……?」平坦な喋り方。やっぱ変だ。


「どーしたのーソウタ君っ!? はやくーおいてくよーっ!」


 ゲフィオンに乗ったあゆがそう声をかけてくる。

 もうあいつは通路沿いに立ってる。

 ああ、すぐ行くよ……と、返答し今来た道を引き返そうと一歩踏み出した、その瞬間。



「KRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッッッッッ!!」


 巨大な声がとどろいた。

 その狂音が世界を震わせる。

 びりびりと壁を地面を天井を痺れさせて『脅威』を伝えてくる。


「……怪獣か」「来たようだな……」

「あれ?この声って……」「まさか……」

「…………」


 すぐに戦闘態勢に入るのが二人。

 すぐに戦闘態勢に入ろうとして――その声に動きを止めるのが二人。

 ただ無言で声する方向を見つめるのが一人。


 狗山さん、雄牛さん、あゆ、俺、美月。

 五人のところへ――左側の通路から――声の主が正体を現す。


「KRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――――ッッ!」


 カサコソガサゴソカサササササコソソソソソソと。

 気持ち悪い足音とともに視界に収まったのは鳥の外見をした怪獣であった。しかし、空を飛んでいるわけではない。地面を走っている。細く長い四本の足で壁づたいを器用に疾走してくる。


 その特徴的な見た目、挙動、狂声――忘れようがない。


「うっわ……」

「き、きたああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあ――――っっ!」


 雄牛さんのドン引きする声をさらなるあゆの大声が打ち消した。それは“奴の出現”を肯定する鬨の声であった。

 きた。きたぞ。

 俺の気持ちはあゆと重なっていた。あの独特の形状。動き。忘れはしない。


「ソウタ君っ!」「ああ、そうだな!」


 同意する。

 止めていた動き。やめて。再起動。戦闘態勢に移行する。

 拳を握る。正面を見据える。吐息を漏らす。

 奴の名前を言う。



「こいつは……」「「――バンダースナッチだ……っ!」」



 そこで、俺と美月の台詞がピタリと一致した。

 は? なんでだ?

 俺は美月の方を見る。いつの間にか彼女は立っていた。

 俺の前に。

 襲来するバンダースナッチを相手に俺を守るように立ち向かっていた。

 は? なんでだ?

 疑問と同時に俺の心臓が爆発的に跳ねた。

 うわっ。うわうわっ。

 全身が硬化し全身が総毛立ちブルブルブルブルと恐怖で震え出す。

 疾走するバンダースナッチ。目の前には美月。

 奴の速度は圧倒的だ。あゆの砲撃ですら容易に避ける。視認することはほぼ不可能。今前に立ったら戦うしかない。逃げることはできない。


「あ、……」



 美月。

 美月瑞樹。

 女の子が。俺の幼馴染が。

 鮮血に染まるイメージで俺の全ては支配される。



「み、美、月……っ!」


 声がようやく出る。

 放つ。

 しかし、彼女はさがらない。

 さがれ!と続けて、放つ。

 しかし、彼女はさがらない。

 駆け出す足先。伸ばす指先。届かない。動かない。

 美月は右手を前に突き出している。

 穏やかな声が生まれる。


「…………変身名」「変身名ッ《血統種パーフェクト・ドッグ》ッッ! 種類タイプ受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロー』ッ――絶対に駆ける後肢ッッッ!」


 美月とバンダースナッチが直撃する刹那。

 彼女の真横を駆け抜けた影があった。

 狗山さんだ。

 狗山涼子だ。

 空中を駆ける彼女は常人とは異なる軌道を描きバンダースナッチを一刀両断する。


 斬撃の音、地面を滑べる音、ざさぁっと、止まる。


「…………」

「…………っ、はぁ」

「…………」

「…………はぁ、はぁっ……」


 静寂とかすれる息。

 それらが流れた。

 息を切らす狗山さん。それをじっと見つめる美月。はぁ、はぁと、呼吸を整える彼女はバンダースナッチが消えるのを両目で確認するとこちらを振り返った。


 その絶望的な様子に俺たちは絶句した。


 狗山さんの呼吸音がゆっくりと収まる。

 俺、あゆ、雄牛さん。俺たち三人は完全に状況に呑まれている。

 静寂の中で狗山さんの息遣いのみが聞こえる。

 彼女と美月の視線は重なったまま離れようとしない。


「……はぁ、……はぁ、み、……瑞樹ちゃん……」

「…………おばか」


 怒っているのかいないのが絶妙なニュアンスで美月はそうつぶやいた。小さなため息ひとつ口元から流れる。彼女の身体から美しい光が流れる。

 美月が振り向く。

 俺と。

 目が合う。

 合った。

 数秒だけ時間が止まる。

 まるで世界そのものが静止したような。

 そんな気がした。


 視線、途切れる。

 あゆ、雄牛さんと順々に美月の視線が移動する。


 やがてそれも終わる。

 彼女の口から二度目のため息が流れる。

 ふぅ……と。

 小さく空気を外へ出し、狗山さんを見直した。


「…………涼子ちゃん、お願いがあるんだけど」

「……なんだ」

「…………これから私ちょっとだけ“戦って”みようと思うんだ」

「……そうか」

「だからね、…………“手伝って”」


 ごくり、とやけに大きな音が伝わった。

 続けて言葉が生まれた時には、狗山さんの口調は戦士のそれに成っていた。


「――承知した。私でよければ全霊を尽くそう」

「……うん、ありがとう」

「礼は要らない。私の力はもともと貴方のものだ。貴方がそれを使おうが一向に問題ない。例えそれが世界の終焉を見ることになろうとも、私は貴方の隣にいるさ」

「……ばか、そこまではさせないよ」


 美月は軽く笑った。

 狗山さんは少しだけ残念そう。

 美月は満足したのか俺たちの方へ振り向き直った。



 そこには惜別の色があった。



「それじゃあ、……うん、じゃあ、……そうだね……、仕方ないけど……うん」



 迷いつつ、戸惑いつつ、ちょっとだけ困りつつ。

 いつもの美月で。いつも通りのご様子で。

 美月瑞樹は、こう言った。



「――――少しだけ、眠っていてもらおうか」



 それから、俺の意識は寸断される。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽



 おそらくこれは……。この光景は俺の意識が失われる寸前に記憶した情報の欠片のようなものだろう。

 曖昧で、判然としない。個別の要素をつなぎ合わせたような。そんな記憶の残骸。


 気づいたら意識が遠のいていて。

 気づいたら狗山さんが消えていた。

 気づいたらあゆの右腕が両断されていて。

 気づいたら雄牛さんがやられていた。

 怪獣ゲフィオンの叫び声が聞こえて。

 ただ、狗山さん以外にも、何かが、認識できない“何か”が蠢いているような気がした。

 しかし、それが俺の限界で。

 地面に身体を叩きつけられた時にはもう意識は茫漠で。


 何かの会話が聞こえたような。

 二人か三人の会話が聞こえたような……。

 それが会話なのかも判別できないで。

 俺はどうしようもなく美月のことが心配なだけで。

 彼女に何かあったらいけないとそれだけを願うのみで。

 混濁のなかに切なる願いを抱きながら。


 俺は意識を失った。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽



 だが、安心してほしい。

 それでも夢見ることなく、俺の意識は快復する。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽



「…………くん?」

「……ウタくん?」

「……ソウタくんっ?」

「ソウタくんソウタくんソウタくんっ? よかったぁ~! おーちゃーん! ソウタくん起きたよ~~っ!」


 お腹を激しく揺さぶられながら目覚めると、そこにはブリキロボの頭があった。


「……ああ、あゆか?」

「そうだよっ! いつもニコニコあなたの隣にっ! 這い寄るヒーロー川岸あゆだよっ!」

「……ん、まあ、隣の席だしな」

「よかったぁ~~完全に意識がもどったみたいだねっ!」


 うわ~んと抱きついてくるあゆをよしよしと受けとめながら、俺は起き上がる。

 どうやらここは先程までいた『分かれ道』のようであった。

 ……先程? 

 俺は右腕のコンソールを起動させる。



 俺の右腕に装着された――『悪魔達の輪っか(デビルズ・リング)』はこう応えた。



 POINTS(ポイント数):290

 DAMAGE(被ダメージ数):500/500

 TIME(残り時間):32/180



「ポイントと……残り時間が減ってる……それでここはさっきまでの場所……大分気絶していたみたいだな……」

「もうかれこれ10分くらい経ってるよ! ずぅぅぅっと目覚めなくて心配したんだからっ!」

「ああ、すまなかったな……」


 10分か。二次試験終盤にその時間経過は手痛い……って、10分っ!?


「――――っ! 美月は、狗山さんはっ!?」


 俺は立ち上がる。抱きついていたあゆがズルリと落ちる。可哀想だが今はあゆはどうでもいい。美月と狗山さんだ。

 体調は気絶していたとは思えないくらいすっきりとしていた。すぐにでも行動することができる。つーかすぐにでも行動しよう。二人はどこだ。俺が動こうとした瞬間。


「――二人なら、もうここにはいないよ」


 と、声が放たれる。

 山車雄牛さんだ。

 あゆの後ろに腕を組みながら立っている。

 彼女は憮然とした様子でこう続けた。


「狗山涼子は――裏切った。私らは彼女たちに倒されたんだ」



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽



「…………裏切った?」


 そこで俺は気絶する直前のことを思い出す。

 それは断絶していて『情報の欠片』としか呼びようのない代物だったが、間違いなく俺が気絶する寸前まで抱いていたものであった。


 記憶の残骸(ざんがい)の中で、確かに狗山さんは俺たちを襲っていた。


「なんで……なんで、そんなことを……」

「そんなこと私には分からん。むしろ新島くん。君のほうが『そうした事情』に詳しいんじゃないかと思っていたくらいだ。……その様子だと何も知らなそうだが」


 そういってため息を吐く、壁に体重を預けた。


「とにかく私の知っている情報は怪獣を倒した直後、狗山涼子とあの美月って女の子が襲ってきたって事実だけだ。一番近くにいたきみが最初に倒されて……続けてあーちゃん、そして私、……あの怪獣も消されてしまった……」

「そう、ゲフィオン殺されちゃった……」


 あゆは悲しそうな声でそういった。そういえば、あゆ、雄牛さんの姿は見当たるが、あの怪獣の姿はどこにもない。


「うぅ~~あとでお墓つくってあげるからね……」


 彼女的にはそれが一番のショックであるらしかった。


「怪獣はいずれ消される運命にある……それに関しては仕方ない。しかし、仮にも一度は結託した間柄だ。いきなりあのような奇襲など……信じられん、不可解だ」


 そう雄牛さんは吐き捨て、視線をおとす。

 確かに今回の一件はあまりにも不自然が過ぎていた。

 いきなり狗山さんと美月が、俺たちを裏切って俺たちを殺したのだ。


 あり得ない。

 それは常理から外れた事件であった。


 何も知らない人が見れば、『裏切り』の三文字で済むかもしれないが、あの状況下で、あのタイミングで、あの二人が、あんな行動を実行することは、どう考えても変であった。

 不条理だった。

 不可解だった。

 不自然だった。

 何かが……彼女たちを動かした“何か”があるに違いなかった。


「美月……」


 俺は美月のことを考えた。

 あの時の美月の様子はおかしかった。絶対に確実に超絶におかしかった。

 あの時に『俺たちを倒す』という意味合いの言葉を発したのは美月だ。

 その事実を見逃してはならない。


 実行犯は狗山さんだが、命令したのは美月だ。



「なら何で、美月はあんなことを……」



 俺の思考の焦点はそこにあった。美月の動機。それを俺は考える必要がある。幸いにも思考はクリアだ。

 寝ぼけている場合じゃない。

 そんな気がした。


 そもそも、いつから美月はおかしくなったのだろう。

 そして、狗山さんはいつから変わってしまったのだろう。

 変化があったのは最終層以降だ。あゆたちと合流を果たしたそのあとだ。

 その時に“何か”があった。

 あのような惨劇を生み出してしまう“何か”が。

 その“何か”を皮切りに彼女のたちの中に変化が生まれたのだ。

 そして、その変化が、あの時を境に――決定的なもの変様したのだ。


 どうしようもない袋小路に追いつめられ、どうにもならない環境下に追いこまれ、『俺たちを倒す』という手段でしか、その“何か”を解決させることができなくなったのだ。


 ならば、その“何か”とは、いったい何だ……?


(くそっ、なんだってんだ、いったい……)


「ソウタ君大丈夫?」

「……ああ、なんとかな。精神的にまだ“くる”ような時じゃない」


 そんな時じゃない。

 もちろん、まだまだ状況の整理は追いつけない。

 正直、わけのわからないことでいっぱいだ。

 しかし、それでも考えなくてはいけない。


 美月が何故あんなことをしたのか、これから何をするつもりなのか。


「……ん、これから『何をする』か……?」


 そうだな。違う、視点を変えてみよう。

 過去から未来へ。

 『何をしたか』ではなく『何をするか』というベクトルに。


 美月たちはこれから何をしようとしている?

 俺たちを殺してまでして、何を成し遂げようとしている?


(考えろ) 


 あの時の美月は妙なことを言っていた。

 その中に重要なヒントが隠されている気がした。

 細かな言葉は意味の不明なものだが、おおよその筋は推測することができる。


 英語の長文問題と同じだ。理解不能な物の中から理解可能な物を抽出する。

 俺は思い出し考え続ける。思考のビートを刻む。思考の強化を始める。


『…………涼子ちゃん、お願いがあるんだけど』

『……なんだ』

『…………これから私ちょっとだけ“戦って”みようと思うんだ』

『……そうか』

『だからね、――――手伝って』


「――――――“戦う”?」

「……ソウタ君?」

「あの状況、あのタイミングで、美月が戦う……?」


 その対象は? 何だ? 俺たちではないだろう。それでは後の台詞と矛盾する。

 美月は何かと戦う“ため”に、俺たちを気絶させたのだから。

 だったらその対象は?

 考えろ。

 考えろ。

 考えろ。

 俺は推理小説の探偵じゃないんだ。

 ホームズみたいな科学的知識はないし、矢吹駆みたいな本質的直感は持たないし、九十九十九みたいなメタ推理もできない。

 ひたすらに考えて考えて考えてどうにかこうにかやっていく方法以外にどこでもない。


 だが、鍵はあった。

 あの時に戦うといったら、その対象は限られてくる。

 絞られていく。

 それは怖ろしい『可能性』となった俺の前に現われた。

 正直考えたくない結論であった。しかし、そうとしか思えなかった。俺は心のどこかで逃げていたのではないか、そう思えるほどであった。


 だが、認めねばならなかった。

 認識したうえで仮説を進めねばならなかった。


「あの状況で戦う……ってことは……ああ、くっそ……やっぱ、どう考えても、……“奴”だろ……っ!」

「ソウタ君? ソウタ君っ? ソウタ君どうしたのっ!?」


 あゆの言葉に俺ははっとなる。

 どうやら考え過ぎていたみたいだ。

 思考の深みに入り込むと危ない。それこそ戻ってこれなくなる。


 だが、その成果もあり、俺のなかに『一つの答え』が生まれた。


 あまり認めたくない結論だ。

 だが、俺は逃げずにそれを肯定しなくてはいけない。

 そのうえで行動を開始しなくてはいけない。

 美月に会うために。彼女を助けるために。


 まずは二人に話すんだ。さあ。



「あゆ、雄牛さん――――狗山さん達の目的がわかったよ」



 俺はあえて『狗山さん達』と表現した。二人(特に雄牛さん)の説得をよくするためだ。ゆっくりと脳内で整理しながら次の言葉を探す。


 バンダースナッチの出現。美月の様子の変化。そして“戦う”。

 もうこれは決定的だ。

 三つのキーワードはそろっている。街のヒーローじゃなくても推理可能だ。


 俺は“奴”の名前を数時間ぶりに口に出す。



「最強のSランク怪獣――――“ジャバウォック”」


「ジャバウォック……あの怪物のことだね……」

 あゆはそう言う、俺は肯定しつつその先の言葉を紡ぐ。


「そうだ。さらに怪獣ジャバウォックとは、俺と美月の街を破壊して、四年前に俺を殺しかけた怪獣の名前でもある」


 あゆは息を呑む。

 ああ、そうだ。かつての俺は怪獣ジャバウォックのことを自力で調べてその事実を知った。

 もしも、俺と同様に、美月も怪獣ジャバウォックのことを調べていたとしたら……状況はかなり危ういものに変わってくる。

 今現在考えられる限りで最悪の展開だ。

 しかし、今の俺はその最悪すらも考慮しながら前を向いて進まねばならない。


「狗山さんたちの目的は『怪獣ジャバウォックの撃退』だ。

 ――――あの二人は、誰の力も借りず、自分たちだけで、あの化け物を討とうとしているんだ」



次回「第89話:ヒーロー達の忍者再び」をお楽しみ下さい。

掲載は4日以内を予定しています。

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