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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第87話:ヒーロー達の日常再び

 さあて、結論から言ってしまおう。


「BRRRRRRRRRRRRRRRRRR…………ッッ!」


 物陰から出てきた怪獣の正体は――『例のSランク怪獣』ではなかった。

 以前、俺とも雌雄を決した迷宮の番人『怪獣ミノタウロス』さんであった。

 で。それで。

 戦闘経験ありの俺は戦いに参加せず、――“彼女たちの戦い”を見学していた。



「だらぁああああああああああ――《全壊右腕オール・クラッシャー》発動ッ! 種類『弾道弾ミサイル』ッッ!」

「――変身名《世界爆誕ハロー・ワールド》、種類パーツ左腕ザ・レフト』、――縛り上がれ」

「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ種類タイプ受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロー』――――絶対に駆ける後肢ッッ!」



「BRRRッ!? RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR――……ッッッ!?」



「すげーなー」「すごいねー」


 超絶素直な気持ちで感心してそうつぶやく。

 となりには美月。二人一緒に怪獣ゲフィオンの背中に乗って見物してる。


 あゆ、狗山さん、雄牛さん。

 彼女たち三人が戦う光景は激しい火花が踊っていた。

 遠距離から川岸あゆがミサイルを飛ばし、中距離から山車雄牛が伸びた左腕で束縛し、近距離から狗山涼子が空を走り剣を振るう。

 ミノタウロスは凶暴な怪獣だ。鋼鉄の肉体を持ち、強靭な豪腕は岩盤を軽々と砕く。だが、彼女たち三人の前では敵でなかった。

 一切の隙なく暴虐される。

 一切の予断なく弑虐される。

 反撃のモーションすら入れられず。

 逃げることもままならず。

 防御ですら間に合わない。

 何もできない行動不能同然の状況に追い込まれたまま――怪獣ミノタウロスは彼女たちに“狩られて”しまう。


「BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR――――ッッッ!」


 広間に一段と大きな叫びが広がった。

 それが怪獣ミノタウロスの最期の叫びとなった。


「爆滅ッ、完了ッッ!」

「これにて終了だ。――振り返る、必要はない」

「これが、伝説の力だ――ッッ!」


 川岸あゆ、山車雄牛、狗山涼子――ヒーロー三人は燃え盛る炎を背景に歩き去っていった。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「つえー」「つえー」


 俺たちはゲフィオンから降りて阿呆みたいに拍手をしながら三人を出迎えた。


「うむ、コンビネーションの勝利だ」

「やっぱり、ヒーローは助けあいだね!」

「狗山涼子……噂には聞いていたがこれほどの実力とは……」


 剣を腰に収めて堂々と歩み行く狗山さん、両腕を掲げて勝利の雄叫びをあげるあゆ、両腕を組みながら狗山さんを見つめる雄牛さん。

 誰一人として傷を負ったものはいない。

 完璧な勝利であった。


「格好よかったよー涼子ちゃん」

「……フフ、当然だ」


 クールに返す狗山さん。よく見ると右手で小さくガッツポーズをとっていた。


(なんだこのさりげに可愛い生き物……)


 呆れていると、隣りのあゆはなんだか羨ましそうに狗山さんを見ている。すると、俺と視線が合う。タッタッタとこちらに近づいてくる。


「……どうした、あゆ?」

「ソウタ君っ、私もほめてっ!」

「は?」何いってんだこいつ。

「ほめてっ、ほめてほめてほめてっ!」

「お、おう……あー、えーっと…………カッコヨカッタヨー」

「いえーいっ!」


 あゆは右手から煙を吹かせて器用に飛び上がる。まるでファイナル◯ュージョンに成功した時みたいな喜びぶりだ。ゲフィオンの雄叫びがそれに重なる。なんだこいつは。

 苦笑していると今度は雄牛さんと目が合った。


「…………」

「……フッ、新島君とやら、私のことも褒めてくれてよいのだぞ」

「は?」

「…………フッ、褒めてくれてもいいのだぞ」

「……カッコヨカッタヨー」

「ははっ、――当然だ」キリッ。


 なんだよこれ。なんだよこいつら。呆れて苦笑して嘆息するとあらためて三人を見返す。


「ともかく、三人ともお疲れ様。Aランク怪獣に圧勝とか、かなりスゴイんじゃないのか」

「ははっ、――当然だ」キリッ。

「いやもうそれはいいから」


 山車さんはちょっと残念そうだった。

 まあ、スゴイかと聞かれれば間違いなく凄い。

 以前、俺とあゆだけで第三層に乗り込んだ時はAランク怪獣相手にかなりの苦戦を強いられたものだ。


 なのに、彼女たちはノーダメージで圧勝した。


 3対1という人数差はもちろんあるだろうがそのハンデを差し引いても狗山さんたちの実力は相当なものであると思えた。


「……で、どうする涼子ちゃん? このまま先に進む? それとも神山君たちと合流する?」

「そうだな、この調子なら先に進んでも問題はないだろう。噂のSランク怪獣とやらも、――――私たちが倒して見せよう」

「……ああ」


 今の光景を見る限り、彼女の言葉は現実のものと成りそうであった。

 あの『例の怪獣』あろうと人間を馬鹿にした哄笑を止めざるを得ない。

 ヤツを打倒しうる。

 その可能性が見えた気がした。



 それからの俺たちは進軍を開始した。

 さらなる奥へ。さらなる深奥へ。途中で神山君たちと合流できる可能性も視野にいれながら。


 最終層といえどもその広さはこれまでの階層と変わらない。時間をかけて歩いていない道を埋めていくことは必要不可欠だ。つまりは地道なマッピング作業である。

 俺たちはずんずん進みはじめた。


「ゲッフィオンに乗って~探しにいこう~♪ 誰も知らないフフンフ~♪ のフンフフ~♪」

「そういえば、狗山さんって多人数戦でも普通に強いんだな」


 あゆの歌声を聞きながら俺は後方でリズムをとっている狗山さんにそう尋ねた。


「うむ、実際の現場でも怪獣を撃退する際は、チームを編成するのが基本とされているからな。いつでも本当の戦場で戦えるよう、それなりの訓練は積んできているのだ」

「涼子ちゃんって本物の怪獣と戦ったことはあるのーっ?」と、あゆ。


「あるぞ……といっても、私の場合、父についていき後衛の手伝いをしたくらいだがな。まだまだ未熟者だということで、前線には立たせてもらえなかった」

「狗山の実力で未熟者か……」と、驚く山車さん。


 確かに彼女の実力で未熟とは怖ろしくハードルが高い。実際のとこどんだけ大変な世界なんだよ……。


「そもそも私の能力は、まだ開発途上にあると言うのもある。無理はさせられない、というのが父の本音だろう。……しかし、実戦経験について聞きたいなら、私よりも君島副会長に聞いたほうが早いはずだ」


「……君島さんに?」

「…………君島さん、ね」と、美月。


「うむ、実戦経験という点について言えば、彼女のほうが何十倍も詳しいぞ。中学生時代からずっと前線で戦い続けるヒーロー界の戦闘美少女だからな」

「……はぁ?」「おぉー、スゴイんだねーっ!」と、素直に感心するあゆ。


 いやいや待てよ、なんだそれは?

 つーか、中学生からって、それもう凄いってレベルを超えてるんじゃあ……。


「もともと彼女は学園入学前から“最強”と呼ばれていたからな。彼女と現在海外に留学している二年生……その二人は入学前から実戦経験のありヒーローとして世界で知られている」

「は、はぁ……」「…………」


「詳しい話は本人に聞いてくれ。ああ、でも、ストレートに聞くと怒るだろうからな。会長殿を経由するか、松島の大福でも持っていったほうがいいだろう」

「大福?」

「彼女の好物らしいぞ。前に、彼女のよく通っていた和菓子屋の本店が怪獣に襲われたことがあったのだが、その時は十数体の怪獣を出現と同時に殲滅したと聞いている」

「どんだけ好きなんだよ……」


 そこまで突っ込んだあとで生徒会の部室が完全に和風だったことを思い出す。あれは君島さんの趣味だったのか。


「ちなみにその際は、和菓子屋の本店も一緒に壊したらしくて、数ヶ月間ガチヘコみしていたらしい」

「……力が強すぎるってのも考えものだな」


「自分の学校を壊して会長殿を殺しかけた時よりもガチヘコみしたらしいぞ」

「どんだけ好きなんだよ……」


 可哀想な会長……。つーか初出情報に内心ビビる。

 ちなみに追加でプチ情報だがヒーローや怪獣によって壊された建物は、国の予算から新しい建物に買い換えてもらえることになっている。

 君島さんの壊した和菓子屋も中学校も、後に改装して綺麗な状態で復活したそうな。


「…………涼子ちゃん」

「ああ、そうだったな。すまない。しかし、入学以来、君島さんにお会いすることはできたが、二年の方にはまだお会いできてないのが残念だ。早くドイツから帰ってきてもらいたいところだが……」

「……9月までは学校があるから無理だよ」

「む、そいつは残念だ」


 戦いたかったのだがな……とこぼす狗山さん。

 ったく、この人はこの人でどこまでいってもブレないな。



「……地面を掘って最終層にたどり着いた? ……信じられないな」

「本当だって~」


 と、訴えかけるあゆの声に振り向くと、雄牛さんとあゆが『以前の第三層の件』で話し合っていた。


「――本当だよ。俺の拳とあゆの右腕で岩盤砕いて一気に最終層までくだっていった」

「……まさか、それは………スゴイな」

「でしょ~、ダイナミックな戦術でしょ~」

「もう二度とやろうとは思わね―けどな……」


 つーか、よくうまくいったよな。今更ながらそう思う。

 ドヤ顔で自慢するあゆだったが、俺としては苦い顔を浮かべざるをえない。あの時は先走りすぎていたというか頑張りすぎたというか……とにかく反省してばかりだ。

 あの時の経験のおかげで俺たちが得たものがあるかといえば……うん、別に何もなかった。

 あの怪獣との再来。本当にそれくらいだった。


「しかし、そのおかげでSクラス怪獣に出会えた。無駄にヒーロー同士で争うこともなくなった。喜ぶべきことだろう」と、雄牛さん。

「喜ぶべきことなのかな……危機意識が高まったのは間違いないが……。バンダースナッチ共が現れたら危険と覚えておけばいいかもしれんな」

「あー、もし戦うのなら、彼らを基準にしたほうがいいねっ! ……私はおすすめしないけどー」


 第三層にショートカットしたことを自慢する割に、『アイツ』と戦うことに関してはあゆはいまだに否定的であった。彼女にしてみれば、あの時の出来事はトラウマに近いのかもしれない。


 すると、俺たちの会話を聞いていた雄牛さんは不思議そうなに首を傾げた。


「……バンダースナッチ? 何だそれは?」

「ああ、例の『Sランク怪獣』の仲間だよ。アイツって一体で出現するんじゃないんだ。バンダースナッチっていう怪獣を大勢引き連れてやってくるんだ」

「ふーん、雑魚キャラとたくさん連れてくるボスキャラみたいな感じか」

「まあ、ランクAだけどな」

「げ」

「雑魚じゃないよー、超つよいよー、速すぎて私の砲撃全ッ然当たらなかったしー」


 あゆはバンバンッと撃ち出すポーズをとる。


「そうか、……あーちゃんの砲撃が当たらないのか……」

「そうだよ~、めっちゃ怖いよ~っ」


 雄牛さんはそう驚き戦慄していた。個人的に雄牛さんがあゆのことを“あーちゃん”と呼んでいる事実に戦慄していた。



「…………バンダースナッチ?」



 と、俺たちが互いに戦慄しあっているさなか。もう一人。俺たちの会話に戦慄している人物がいた。

 非常に今更な話だが、この時の俺は“その戦慄に”気づくべきだった。

 俺たちがいかに薄氷の上のようなギリギリの状況にあって。

 奇跡のような偶然の重なりによって今が成立しているのか。

 もっとよく自覚しておくべきだったのだ。


「…………瑞樹ちゃん?」


 心配そうな声を出す狗山さん。

 俺の背後にいる――美月瑞樹。

 あゆの喧しい声にかき消されて認識できなかったその微細な変化。

 その事実にもっとよく気づくべきだったのだ。

 そうすれば。

 俺にだったもう少しやりようがあったのかもしれない。

 今ではそう思う。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 さて。

 二次試験も終盤戦。

 俺たちは久しぶりとも言えるのんびりとした時間を過ごした。

 ある意味これは最後の煌めきだったのかもしれない。

 散る寸前の美しい火花のようなものだったのかもしれない。

 今後。

 俺はこうした楽しげなシーンを出せる自信はない。

 いや、出るだろう。これからも笑っていけるだろう。

 しかし心のどこかでは空虚さの残る笑いとなるだろう。


 そう。

 これから悲しいことが起きる。

 俺は優しいからそれを先に教える。


 悲しいことに対しては備えることしかできないから。

 かつての日常を崩した破壊のように。災厄とは突発的で問答無用なものだから。


 しかし、まあ、それにしても、長々ともったいぶっていても仕方がない。

 話が長くなるのは俺の欠点だ。ついでにまわりくどいのも。

 結論から始まる小説のようにはっきりと明確に応えよう。

 しっかりと俺の世界を物語ろう。魂を削り心を燃やし想いを伝えよう。



 これから3分後――俺は美月に殺される。



 次回「第88話:ヒーロー達の崩落再び」をお楽しみ下さい。

 掲載は4日以内を予定しています。

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