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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第84話:ヒーロー達の限定解除救世主

 とりあえず僕は今、この一瞬を永遠のものにしてみせる。僕は神の集中力をもってして終わりまでの時間を微分する。その一瞬の永遠の中で、僕というアキレスは先を行く亀に追いつけない。

 舞城王太郎『九十九十九』より抜粋。

 絶体絶命の状況。

 俺は最後の手段を行使した。


「――変身名《限定救世主リミット・セイバー》ッ! 完全体モードフルバーストッッッッ!」


 全身を輝かせた状態から、俺は――さらに(・・・)肉体のボタンを連打する。

 その瞬間、身体の内側に掛けられた鍵が外れる感覚を得る。


 そして、同時に、俺は強化を――――開始する。

 どこまでも、限界の果てまでも――。


「――限定リミット解除オープンッ!」


 爆発の刹那の中で俺の変身が始まる。

 世界の明滅に立ち向かう戦士に生まれ変わる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉおおおお――――っっっ!」


 輝きは性質を変える。運命は顕現する。ヒーローへの力は最高潮に達する。

 神聖を帯びた白色を全身に刻みながら、俺は宣言する。


「――1年Dクラス、新島宗太、変身名《限定解除救世主リミット・オブ・セイバー》ッ!」


 大地を馳せる。空を駆ける。永遠の英雄戦士ヒーローの魂を胸に宿して俺は戦う。俺は救う。


「さあ、全てを斬り裂く一陣の光と成ろう」


 やるべきことはすべてやった。

 さあ、クライマックスの始まりだ。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 俺は以前《戦いとは思考の連続》だと言った。

 それは窮屈な状況だとも言った。


 もっと自由に。もっと多元的に。

 思考を拡張させる。

 考えの幅を広げる。そう言っていた。あらゆる戦法をあらゆる戦術を駆使して戦いたいと。そう思っていた。

 そしてその思いが実現する力が、今の俺には宿っていた。



(――――さて、どうしたものか……)



 脳内で独白した声が反響して聞こえる。

 切迫した状況に反して俺の声は冷静に響いた。

 目の前では白煙が煌めいている。爆発は避けられないことを物語っている。


(葉山の『爆煙ヒューム』か。厄介だな。これだけの範囲を一斉に爆破されたら逃げようがない……)


 来た場所から逃走することも不可能。

 そんな時間は残されていない。

 つーか、そもそも視界が失われていて、正確な方向に走れるかも分からない。


 逃げることは無理。

 ならば、それ以外の方法で道を切り開く必要がある。


(さあ、考えろ。そのために俺は“今という時間”を生み出したんだから)


 人間の思考の中枢をなす脳みそ。

 それをフル稼働させる。

 同じ事を機械で行えば、熱暴走を起こすかもしれないギリギリの領域で。

 思考のビートを刻む。

 今の危機的状況を乗り越えるための策を考える。



 問題:新島君は仲間と一緒に戦いに出かけました。すると周囲に視界をさえぎる煙が発生。逃げる時間はない。煙はいまにも爆発しそう。さあ、どうする?



(解答候補その1:光の剣を発動させる。無敵の僕らの救世剣。これなら爆発前に煙を消し去ることができる。もしかしたら、そのまま連鎖的に広間全体の白煙を消滅できるかも)


 問題は、光の剣の存在を葉山も熟知しているということだ。

 その効力も、その脅威も、その弱点も。

 俺が葉山だったら、まっさきに対応策を準備しておくだろう。


(たぶん、ただ単純に光の剣を振るだけでは……勝てない)


 何かしらの防御策が用意されてると考えたほうが妥当だ。

 それは……おそらく、前の戦いの時のような――白煙と白煙の密集を避けた空間の構築のような――剣を一振りしただけでは、爆風と爆熱にやられてしまう仕様になっているだろう。


 俺は他の候補を考える。


(候補その2:地面を破壊してその下に逃げる。謂わば、物理的に“防空壕”を作るのだ。狗山さん達は正面突破で第三層へ向かうことにこだわったが、俺的にはこのまま第三層への道を切り開いてもいい気がする)


 これは悪くない案だと思う。

 俺一人で葉山と戦っていたのなら、この選択肢を選んだかもしれない。


(問題は……)


 ――――新島くんっ!

 ――――そーちゃん!

 ――――新島君ッ!

 ――――頼んだよ、新島くん。


(…………他の案だな)


 俺は一人で戦っているんじゃなかった。

 俺だけが助かるんじゃない。俺たちが助かる方法を探すんだ。

 俺がなりたいのは、戦士ではなくて、ヒーローなのだから。


(ならば、他の手段か。いくら思考時間(・・・・)を引き伸(・・・・)ばしている(・・・・・)かといって、あんまり長居もできない。考えた分だけ行動時間が減ることには変わりないんだから)


 俺は考える。そのために時間を確保したんだ。


 俺は――自らの思考速度を“強化”させることで、葉山の超変身を打開するための時間を得た。


(ならば、あとは考えるだけだ。考えることだけが、この危機的状況を切り抜ける。そのための鍵となるんだ)


 明滅する世界は末期的で、まるで世界の終わりのようだ。

 俺はこの状況を救わねばならない。

 そのための思考の渦の中で、一人沈み込んでいった。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



(さて……やるか)


 『行動を確定』させた、俺の動きに迷いはなかった。

 あらゆるシュミレーションは済ませた。

 これが俺の最善のはずだ。


 あとは天命を待つのみ。


 俺は超高速で変身名を宣言する。

 指示内容は……光の剣の発動だ。


(行動……開始っ!)


 俺の内部に存在するヒーローエネルギーは処理を開始する。

 俺の宣言を読み取る。

 俺の意志を読み取る。

 光の剣の生成を開始。その時間的猶予を活かして次の行動に移す。


(身体を45度右へ。そこから投擲の構えをとる)


 俺は白煙の世界を見つめる。

 何も見えない。

 しかし、これまでの戦闘で蓄積された経験が、俺の行動を可能にする。

 広間の範囲。高度。自分の現在地。仲間たちの戦っている位置。敵たちの存在する位置。あらゆる情報はすでに把握している。


 正確には――把握するための時間は作り出した。


(さあ、狙ってやるぜ)


 俺は仲間の場所を捉える。

 彼らも白煙の攻防で動き回っているだろう。


 正確な位置は捉えられなくとも、その方位はわかる。


(光の剣生成完了まで、あと0.2秒ほど)


 ちょうどいい時間だ。

 俺は身体を沈めて、両腕を軽く広げて――“投擲の動作”をとる。


 俺が投げるのは当然――光の剣だ。


(生成完了――投擲、開始っ!)


 右腕から力が放出させる。光の剣が生まれる。それはヒーローエネルギーを消し去る剣。救世剣。

 その大切な武器を、俺は全身をつかい一気に投げる。


 方位は先ほど確認済み。俺に迷いはない。


(白煙で覆われた世界。何も見えない。視認不可能。俺には投げる方向しか分からなかった。仲間に投げた光の剣。普通であればつかむことはできないだろう。闇の中でのキャッチボール。俺にはできない。無理だ、不可能だ)


 だが、その不可能を可能にする人物が、一人だけ存在していた。

 俺はその名を叫ぶ。



「――――高柳城ッッッッ!」



 轟く声に導かれるように、颯爽と走る音とともに声が届く。


「――承知した」


 高柳城は疾走する。

 感知系ヒーローである彼は、不自然に消失しつつあるヒーローエネルギー達の中枢に、俺の光の剣があることをすぐさま知る。

 その意味についても即座に理解する。


 光の剣は無明の煙の中を一直線に突き進む。

 剣は煙を切り裂き、煙は通過とともに復活する。


(やはり、連鎖消滅はできないか。この白煙を消し去るには、もの凄い力で一気に消滅させる必要がある)


 一部破壊ではない。

 全部破壊を。

 消し炭すら残さない。徹底した破壊をする必要がある。



 だから、俺は、そのための戦術を考案した。



「受け取れッ! ――高柳城ッッッ!」


 光の剣は高柳城へと向かう。

 到達する。

 高柳は掴んだ。

 見えはしない。

 しかし、そう信じた。


 俺は叫ぶ。


「そのまま、神山に――――投げろッッッ!」


 高柳城は、光の剣を放った。

 正確に。

 的確に。

 感知系ヒーローの能力をいかんなく発揮して――超精密把握による投擲を実現させた。


 そして、高柳の声が広間に広がった。


「仁ッ! 新島の剣だっ! お前の弓で――――発射しろッ!」



 ――これは、後に聞いた話だが、高柳の言葉が発せられる前に、神山はすでに弓を放つ態勢に入っていたらしい。


 俺の行動を予測したのだろうか。

 その真意は今だわからない。


 しかし、その時の神山は、確かに構え終えていた。

 弓はすでにいつでも射出できる状況になっており、高柳はそこへ投擲し、一瞬の猶予なく、一拍の間もなく、指を滑らし、解き放ったのだ。


 足踏み、胴造り、取りかけ、顔向け、打ち起こし、大三、引き分け。

 定型化された動作に、神山独自のアレンジを加えたフォームを彼は完了させていた。

 神山の集中力は究極まで高められる。


 その高みが到達点に至ると同時に、神山の弓へと、高柳の投げた光の剣が接地する。

 この瞬間、俺の光の剣が、神山仁の放った矢のように増大する。


 それは――この広間全域を覆うための矢だ。

 ヒーローエネルギーを消し去る力を持った俺たちの切り札だ。


(一部ではない。全部の破壊を。消し炭すら残さない。徹底した破壊を)


 爆発までの時間はもうない。やることはやった。

 あとは発射が間に合うのみ。

 俺は全ての行動を終え、神山を信じた。


 すると、神山の口から言葉が発せられた。

 それに、高柳の言葉が返された。


 偶然か、意図的か、それは戦いの始まる直前に聞いた言葉と同じであった。



「ヤナ、角度は合ってるか?」

「――――問題ない。そのまま、射抜け。神山仁」



 神山さんは長大な半月状の“弓”に、ヒーローエネルギーを消滅させる光の剣を装填させた。

 体幹がぐわりとしなり、黄金の足場を崩壊させるように体重がかかった。

 顔が引き絞るように曲がり、機械のように精密に、人類のように流麗に、動物のように奔放に、神山仁の両腕が飛翔した。


 弓矢と同様に上げられた両腕は、頭上近くで分裂し、左腕は前方へ、右腕は後方へ、まるで定められたレールの上を走るように迷いない狂いなく進んでいった。


 背中が広がる。

 肩甲骨が伸びる。

 肩と肩が、骨と骨が、筋肉と筋肉が、“ある一点”においてカラクリ機械の如く精緻な結合を見せた。


 評するまでもなく――神山仁の構えは完璧であった。



「――変身名《自由装填フリーガン》、一射入魂つかまつる」

 


 高柳城と神山仁。

 侍と弓。

 二人の力に俺は託す。

 俺は二人を信じる。全てを一人で背負い込むのではない。他人にぶつける。

 それがチームワークの本質だろう。


 二人の力が戦場を変える。

 皆の力が世界を変える。

 強化された光の剣は全てを消し去る。


 煙が消える。白煙が晴れる。あとは語るべくもない。



「――――全て終わった。これにて、戦争は――――収束した」


 

 俺は虚脱しながら、地面にへたり込んだ。

 戦いの終焉であった。

 戦いは終わった。新島宗太は勝利した。しかし、全てが終わったわけではない。目の前にそびえるは第三層の門。第二次試験は終盤戦に差し掛かる――!

 次回「第85話:ヒーロー達の山車雄牛」をお楽しみください。

 掲載は4日以内を予定しています。

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