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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第81話:ヒーロー達の渾沌たる戦場

「1年Sクラス、城ヶ崎正義。変身名《輝き(シャイニング)》」

「1年Sクラス、猫谷猫美。変身名《記憶式猫ストレージ・キャッツ》」


 戦いの錯綜さくそうは深まる。渾沌たる戦場は、さらなる人間達をこの場に招き寄せた。

 白煙に導かれるように参上した2人は、威風堂々と己の名前と変身名を告げる。

 対する俺と狗山さんはまるで呆けたように口を合わせて二人の名を繰り返した。


「城ヶ崎、さん……」「キャット……」


 俺たちの目の前に現れた2人のヒーロー。

 その正体は――城ヶ崎正義さんと、猫谷猫美さんであった。


「フフフフフフフフフフフフフフフフフフ……――――城ヶ崎くん」


 呆然とした俺らとは対照的に、葉山は怪しげな笑みを崩さずに、城ヶ崎さんに声を掛けた。

 城ヶ崎さんは、無言のまま頷き“一歩”を踏み出した。


 闇夜のような黒色のタキシード、魔術師のようなシルクハット、両目から鼻元にかけて装着されたるは白色の仮面、まるで西洋貴族のパーティに参列したような風体の城ヶ崎さんは、細く長い指先をコチラにゆっくりと向けてみせた。


 その動きに俺は陶然と魅せつけられる。

 まるで、光明に吸い寄せられる羽根虫のように。

 指先を見つめたまま、俺の意識は静止する。


「…………」


 すると、城ヶ崎さんの口元が――――“動いた”。


 ――破壊と。

 破滅と――。

 ――崩壊と。

 壊滅――と。


 その全てを携えながら――。放たれる。


「――変身名《輝き(シャイニング)》、“痛み”を認し……」「――――だあッ!」


 城ヶ崎さんが言い終わる直前、巨大な剣がその一撃を遮った。

 華麗に避ける城ヶ崎さん。だが、先ほどの緊張感は既に解除されている。


「……はぁ、はぁっ……」

「失敗、か……」


 そうつぶやく城ヶ崎さんの前に慄然と立っていたのは――狗山さん。

 巨大な一閃の正体は、狗山さん巨剣による攻撃であった。

 狗山さんは持ち前のスピードを活かして速攻を放った。一撃そのものは避けられたが、城ヶ崎さんの攻撃は完全に防がれたようであった。


 ――攻撃? そうか、俺は攻撃を受けよう(・・・・・・・)としていた(・・・・・・)のか。


 俺はようやくその事実に気付かされる。気付くと同時に背中から嫌な汗が流れる。

 眼前では、今なお、狗山さんと城ヶ崎さんが相克している。


「……そうか、この戦いには君がいるんだったな。そう簡単に“終わらせて”はくれないか」

「……城ヶ崎くん。貴方をも敵に回すとは、この第二試験いよいよ面白くなってきたのだ……」


 2人の視線は交差する。交じり、一言、二言、言葉を交わし、やがて互いのタイミングを見計らうように、同時に飛び下がった。

 バックステップを踏む。巨剣を仕舞い込む。狗山さんは如才なく俺たちの陣営まで帰還する。

 彼女は真剣な口調のままこう告げた。


「新島くん、気をつけてくれたまえ。彼の攻撃は――」

「“認識できない”だろ? 知ってる。俺も前に一回やられてる」


 すると狗山さんは驚き、そして不敵に笑い、


「そうか、ならば構わない。彼の対処法を“一つ”教えよう」

「対処法?」


 彼女は、そうだ、と肯定する。


「――変身名《輝き(シャイニング)》。城ヶ崎くんに“認識させられる”ことでダメージが観測される強烈な技だ。それまでは回避することは叶わず、防御することも叶わず、もし発動してしまえば対応策はほぼないと言っていいだろう」

「だろうな」


 同意する俺に頷きつつも、彼女は、ならば、と言葉をつなげた。


「防御も回避もダメ。ならば対処法はただ一つ――“攻撃”だ」


認識する前に(・・・・・・)倒すこと(・・・・)。それが唯一にて絶対の城ヶ崎正義攻略法なのだ」


「彼の言葉に耳を傾けるな。決して指摘を受けるな。両手と口元の動きに注目するのだ。アレは拳銃における“照準”と“発射”の役割を担っていると考えたほうがいい」

「…………了解、善処してみるよ」


 難易度高そうな攻略法だがな。

 裏を返せば、それぐらいしか対抗手段がないということか。

 狗山さんと城ヶ崎さん。同じSクラスの、しかも実力者同士ということもあるが、なかなか浅からぬ因縁を感じされる。


「正直、彼とマトモにやり合うのは、技術や才能よりも、経験が要求される。非常に手強い相手なのだ。できれば、私が対処しよう。新島君は葉山君の撃退を――」


 その時、狗山さんの頬に“何か”がかすめ飛ぶ。


「……っ!」


 とっさに身を避ける狗山さん。

 いきなりの出来事に、俺も美月も凍りつく。

 驚く彼女に対して、“もう一人のヒーロー”が口を開いた。


「おいおい、何いってんだよ涼子。アンタはあたしと戦うに決まってんだろ」


 太陽のように明るく眩しい黄色でコーティングされた身体。両肩、両肘、両膝、腰元に刻まれた奇妙な文様、細く長い城ヶ崎さんとは対照的に、猫谷さんの身体は小柄に感じられる。


 異様な膨らみ方をした両手の指――9本の爪。欠けた1本は、左胸の心臓部に突き刺さっている。

 楕円形をした頭部からは、鮮烈な視線が狗山さんに注がれていた。


 彼女の名は――猫谷猫美。1年Sクラスの猫谷猫美、その人であった。


「……変身名《記録式猫ストレージ・キャッツ》――選択(select)《自由装填フリーガン》!」


 宣言コールに合わせて、猫谷さんの右手に“あるもの”が構築される。

 それは――弓だ。長形の、ヒーローエネルギーで形作られた弓だ。

 猫谷さんは素早く長弓を横に回転させると、ボーガンのようにエネルギーの矢を弦の部分にセットする。

 狙う。

 迷いなく――放つ。

 撃ちだされた矢は、一直線に進み、進み、パラドックスを伴うことなく、狗山さんに向かう。


「――ッッ!」


 狗山さんは巨剣を振るい、コレを撃ち落とした。

 火花が弾ける。

 衝突した力は、互いに相殺し合い、ヒーローエネルギーの矢は消滅した。


「……ほら、戦えよ。戦えよ戦えよ戦えよ。血統種パーフェクト・ブラッド


 猫谷さんは、右手をくいくいと自陣に引き寄せて、狗山さんを挑発する。


「――キャット、それは神山君の技(・・・・・)だな……」

「ああ、上の階で一回やりあったからな。“記憶”させてもらった」


 そう言って、猫谷さんは心臓部に突き刺さった爪をととんと叩く。

 今度は両腕に弓を装着する。

 複数の矢を出現させ、ツガエさせ、無数の流れ星のように――発射する。

 俺と美月は横に跳んで避ける。


 狗山さんだけはその場にとどまる。迎え撃つ。

 散開し、飛来する矢の嵐を、狗山さんは、撃ち落とす、撃ち落とす、撃ち落とす。

 全てを通過させることなく、破壊する。


「……ったく、相変わらず優しいな、アンタは」


 そう猫谷さんはつぶやいた。

 俺には“その理由”が理解できた。

 狗山さんの後方には――赤井大地との勝負を繰り広げる、神山仁の姿があった。


 嘆息する猫谷さんとは対照的に、葉山は実に愉しそうに笑う。


「フフフフ……それじゃあ、後はよろしく頼むよ、猫谷さん」

「うるせー、命令すんな。あたしは涼子との決着をつけたいだけだ」


 そう言って、彼女は心臓部に刺さった爪を取り外し、右手の薬指に付ける。



「――――行くぞ、伝説の申し子」



 そう口にした瞬間にもう猫谷さんは、狗山さんの眼前に移動する。


(――――疾いッ!)


 初動の速さでいえば、狗山さんに匹敵するんじゃないのか。

 想定外の速度に面食らう狗山さんであるが、すぐにでも対処しようと肉体を動かそうとする。


(――――猫谷さん、俺には能力が分からないが、味方に入るべきか、それとも……)


 と、頭のなかで思考を回転させる。

 だが、その短い逡巡を見逃さないように、俺の真横から“ゾクリッ”とした気配が現出する。

 目線を横に向ける。城ヶ崎さんの両指が、コチラに向いていた。


「――――変身名《輝き(シャイニング)》、」


 ヤバイ、

 そう理解した時にはもう遅い。


 指が、

 身体が硬直して、

 放たれる、

 口元が、



「“痛み”を認識し――――「変身名《生死遊園ライフゲーム》ッ!」


 だが、

 だが、

 ――その攻撃は奇跡的に阻まれる。


 城ヶ崎さんの一撃は、ギリギリのところで不発に終わった。

 俺は九死に一生を得た。


 その奇跡を起こした人物は目の前。

 眼の前にいる。

 城ヶ崎さんと俺の間に立っている――美月瑞樹。


 彼女が俺の前に立ったのだ。奇襲から救ってくれたのだ。


「美月ッ!」

「そーちゃんはっ、葉山君をっ! お願いっ!」


 それだけで全ては理解できた。


 短いキーワード、単語、センテンス。


 それだけで、俺は“やるべきこと”を把握する。


 ――彼は私が相手をする。

 ――だから、そーちゃんは、葉山君を一刻も早く倒して。

 ――彼を戦闘不能にすれば、この戦争は終わる。


 今の混戦。この現状。これはある種の“戦争”だ。


 戦争を始めるにおいて、最も重要なことはなんだろう?

 強力な兵士の増員? 入念に練りこまれた作戦? 戦おうという強い意志?

 確かに、それはどれも重要ではあるが、この場合、本質はもっと別にある。


 如何いかに、戦争を――――終わらせるかだ。


 勝ち負けの明確化を行わずして始まった戦争は、もはや戦争ではなくなる。

 ただの泥仕合であり、紛争であり、テロリズムとかいう人類同士が争っていた頃の前時代的な闘争形式の再現となってしまう。


 戦いには、わかりやすい終わらせ方が必要だ。

 それこそ、戦国時代のような。それこそ、物語の筋のような。


 ――この戦いは、葉山樹木を中心に回っている。


 彼がこの戦いの『鍵を握る男キーパーソン』だ。Bクラスのチームワークを見せつけようが、遠方からSクラスのヒーローを呼びつけようが、その本質は揺らいではいない。


 真の敵は――葉山だ。その歴然たる事実を見誤るべきではない。


 葉山を倒せば、白煙は全て消え去るし、第二層の支配という構造そのものが瓦解する。

 俺たちは悠々と第三層に進出し、最後の戦いに備えればいいのだ。


 そう。

 そうなのだ。


 俺たちは、葉山を、倒さねばならない。

 そして、その役目が、幸か不幸か、俺にまわってきたのだ。


 狗山さんと、美月の間を全霊の力で走り抜け、俺は葉山と向き合う。


「――――葉山……っ!」

「フフフフフフフ、まさかまさかまさか、新島君が彼らの仲間になっているとはね。まったく、これで彼女たち全員の動きを封じられる予定だったのに……思わぬ誤算だよ……フフフッ、世の中というものはそう上手くはいかないものだ」


 そうつぶやく葉山の声には、計画がブレてしまった悲壮感はなかった。

 むしろ、予想外の展開を愉しむような、そんな余裕すら感じさせた。


(……油断ならないな)


 以前の葉山とは違う。切々にそう思う。


「フフフ、新島くん。それでは二回戦を始めよう。もう一度、君に絶望を味あわせてやろう」

「言ってろ。俺は俺なりの戦い方で勝利を奪い取ってやる」


 地面を強く踏み込み、葉山の眼前へと向かう。

 拳を振るう。

 だが、その葉山は白煙とともに消えてしまった。


「……分身か!」

「フフッ、目立つ位置に僕が立つ訳ないじゃないか……」


 そう笑う葉山はどこからともなく数を増やす。

 十に、二十に、葉山の分身たちは戦場を覆い尽くしていく。

 俺は構え、光の剣をイメージする。


「1年Dクラス、新島宗太。変身名《限定救世主リミット・セイバー》」

「1年Dクラス、葉山樹木。変身名《幻影魔人ザ・ファントム》」


 第二層の渾沌は深まる。その過程で、いくつかの戦場が確立しつつあった。


 神山仁&高柳城 VS 赤井大地&青樹大空 

 狗山涼子 VS 猫谷猫美

 美月瑞樹 VS 城ヶ崎正義

 新島宗太 VS 葉山樹木


 やがて戦いが収束し、この第二層に新たな秩序が生まれる時がくるだろう。

 しかし、今はまだ“その時”ではない。

 これからだ。これからなのだ。


 俺たちのヒーローとヒーローの戦争の果てに――新たな戦いが生まれるのだ。


「……フフッ、今度は“本気で”来なよ。新島君……君の全てを僕が打ち破ろう」


 この時の俺は、ただ、目の前の戦いに集中する他なかった。

 葉山を倒すこと。

 それだけが今の俺に課せられた至上命題であった。


「いいだろう。俺は、俺の全てを賭けてやる。俺の全てを賭けて――お前を倒してやる」


 葉山樹木とのリベンジマッチの――始まりであった。

 様相を変えていく戦場。俺と葉山の再戦。幾多の思いを引き連れながら、俺は走りだす。

 ――次回「第82話:ヒーロー達の友情再煙」をお楽しみください。

 掲載は一週間以内を予定しています。

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