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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第80話:ヒーロー達の大戦

 高柳君の変身名《サムライ》のお陰でわかったことがある。

 この第二試験に存在するヒーロー達の人数比だ。


 高柳君は言っていた。この第二層にいるヒーローの数は15名ほどだと。

 そして、第三層に現在到達しているのは、君波紀美さんただ1人だと。


 この二つの事実と、式さんの連れていたヒーロー達、また狗山さんや美月などの情報も重ね合わせると、――“第二試験のヒーローの全体像”が浮かんでくる。


 と、いう訳で、まとめてみた。

 

 総勢32名。おそらく“彼ら(ヒーロー達)”の状況は以下の通りだろう。



 【二次試験参加者:総勢32名】


●第一層に存在するヒーロー:15~16名

 《人型式+9人のヒーロー達》:10名

 《敗れ去ったヒーロー達》:5~6名?(川岸あゆも含む?)


●第二層に存在するヒーロー:15~16名

 《葉山樹木チーム》葉山樹木、青樹大空、赤井大地:3名

 《打倒葉山チーム》神山仁、高柳城、狗山涼子、美月瑞樹、新島宗太:5名

 《その他のヒーロー》城ヶ崎正義、猫谷猫美、???、???、??? :7~8名(3名くらい意識を失っているらしい)


●第三層にいるヒーロー:1名 

 君波紀美:1名


 →最終選考に残れる人数:8名



「――この試験、何だかんだ言って、しぼられてきた感じがするなぁ……」


「そーちゃん何一人でぶつぶつ言ってるの?」

「いや、この勝負、いろんな意味で負けられないってことさ」

 もし、ここで、俺たちが葉山チームを撃退したら、第三層に到達した人数は6人になる。


 最終選考に残れる人数は、8人。

 俺たちが最終選考に残れる可能性はグッと高まる。


 残り時間は既に70分を切っている。

 今は中盤戦から終盤戦へと“過渡期”と呼べるだろう。


「――――皆の者、見えてきたぞッ!」


 狗山さんの大きな声が発せられる。

 俺は眼前の明かりを見つめ集中力を高める。

 ここまで葉山達の妨害を受けることなく進むことができた。


 これもひとえに、神山仁君の変身名《自由装填フリーガン》の恩恵だ。


 穴を抜ける。第三層階段前へと一気に駆け抜ける。

 第二層前同様の大きな広間には、――待ち受ける三つの影があった。


「うわ、うわ。本当にやってきた。やってきた。大地。本当に戦うの?」

「そーだぜ、ソラ。決闘の時間だ。コイツラにオレらの力を知らしめるんだ」


「――――フフフフフッ、ようこそ、僕は、僕たちは、君たちを――歓迎するよ」


 間違いない。その三つの影は隠れることもなく姿を見せた。


 葉山樹木、青樹大空、赤井大地、その三名が立ち塞がっていた。




 【世界は英雄戦士を求めている!?】

 第80話:ヒーロー達の大戦




「1年Dクラス、葉山樹木、変身名《幻影魔人ザ・ファントム》」

「1年Bクラス。青樹大空。変身名《氷結調査官クーリング・オプ》」

「1年Bクラス、赤井大地、変身名《熱闘旗手ヒート・メイカー》ッ!」


 そう名乗りを上げる――三名。

 彼らは一斉に行動に移した。


 まるで奇襲を仕掛けられたことなど関係無いように。

 まるでこの程度の攻撃など想定済みだと言わんばかりに。


 葉山樹木は後方へ。

 青樹大空と赤井大地は一歩前へ。

 風のように移動する。


「フフフフフフフフフ、なんと、新島君もいるじゃあないか……フフッ、オモシロイ……」 


 彼らは陣形を組む。

 葉山が合図を鳴らす。

 すると即座に生まれる複数の影。葉山、青樹、赤井、の前方に壁のような形で、葉山の分身たちが――ぞろぞろ、ぞろぞろと、立ち塞がる。

 現れる。出現する。

 その数は無数。カウント不可能。有に20は超えている。

 瞬時に数えられる域を超えている。


「――皆の者、気を引き締めろ。ここは既に“戦場”だ」


 狗山さんの言葉に合わせるように俺の集中力は増幅する。


(――展開は目まぐるしい。情報量は多い。ヒーロー1人ひとりが動く。俺一人の認識では全てを捉えられないかもしれない。それでも。観察することだけは続けていこう)


 神山仁の能力――《自由装填フリーガン》で一気に葉山樹木の本拠地へと突入した俺たち。

 葉山樹木の本拠地は、第三層階段前、ということもあり、広大な空間が用意されていた。


 俺にとっては空が自由に飛べるほどの広さを持つ空間。


 だが、当然のごとく室内には煙が充満しており、広間は大量の葉山分身で埋めつくされている。


 1年Bクラスの二人組――地域制圧型ヒーローと呼ばれた青樹大空と赤井大地は、その中心地に守られる形でいる。まるで中国拳法を身につけたような奇っ怪な構えを取っていた。

 青樹大空は、サファイアブルーの衣を羽織り、

 赤井大地は、ワインレッドに染まる鎧とルビー色に輝く鉄甲を填めていた。


 葉山樹木はいつも通り、細くひょろ長い身体に大量のロープを纏っており、燃え盛る家屋よりも荒々しく煙を現在進行形で吐き出している。


(――そう。まずは煙だ)


 煙に寄る大量の分身は、一個小隊レベルでこの洞穴内に存在している。そもそもコイツラをどうにかしなくては。勝負のしようがない。

 本拠地までの道のりは神山君が切り開いてくれた。

 だが、本拠地そのものの煙は彼では対処しようがない。

 どうにかしなくては。


「――新島君、瑞樹ちゃんっ!」

「オーケー」

「いつでも」


 だが。

 だが、だが。

 そのために、俺達がいる。

 俺は前に立つ。狗山さんは前に立つ。ついでに美月も前に立つ。


「変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》、種類『受け継ぎし者インヘリット・ザ・ヒーロー』――――絶対に斬れる前肢ッ(・・・・・・・・・)!』

「変身名《限定救世主リミット・セイバー》、種類『救世剣』ッ!」

「うわっ……変身名《生死遊園ライフゲーム》……吸収っ!」


 狗山さんの巨剣が鮮血の赤を伴う。

 俺の右腕から光の剣が顕現する。

 美月の周囲に低周波の渦が発動される。


「てやぁぁぁッ!」

「とぅ――――っ!」

「……えーい」


 俺たち三人は――葉山の分身を一斉に消滅にかかる。

 狗山さんの巨剣が横薙ぎ風が舞い、俺の救世剣が一閃を振るい、美月の両手が分身を吸い込む。

 結果――葉山の分身たちは、一瞬で、本当に一瞬で、“消滅を”する。

 居なくなる。

 塵ひとつ残さず、消し去る。

 消し去ってしまう。


「……なんだか皮肉めいてるなぁ」


 美月のつぶやきとともに、煙で覆われた室内は黄金の輝きを取り戻す。世界はクリアに変化する。

 最奥にいる葉山。その僅か前方の中央地にいる青樹大空と赤井大地。

 その姿がふたたびはっきりと視認できる。


「フフフフフフッ……さすが、最悪のコンビネーションだね。君たちを相手にしなくちゃとか、本当に荷が重いよ……」

「凄い。流石。でも。私達。負けない」

「良い事言ったぞソラ。後でアイスでも奢ってやる。葉山、とっとと準備しとけよ。――変身名《熱闘旗手ヒート・メイカー》ッッ!」


 瞬刻。

 赤井大地と名乗るヒーローの手元から――熱波が発生する。

 熱波。熱の波。空気を伝導する熱。熱風。

 炎そのものが空気の壁となって迫るように、ゆがみとひずみを伴い接近する。


「膨らめ熱量ッ! 俺の意志はエントロピーを増大させるッ!」


 葉山の分身を倒した直後の攻撃。

 不意打ち。

 いきなりの熱風の接近に俺たちは焦る。

 狗山さんは巨剣を構える。が、その全てに対応できることはない。

 どうしても“切り逃し”が出る。それはダメージが発生することに他ならない。

 俺は急いで光の剣を持ち直す。


(――熱か。防ぎきれるか)


 迷いながら対応できると信じて――振り抜くための準備をする。

 迫りくる恐怖の熱風に対抗する。


「怖れるな、新島くん。――1人で全てを掌握する必要はない」


 けれど、蛮勇を払う必要はなかった。

 けれど、賭けに出る必要はなかった。


 俺たちは一人じゃない。三人じゃない。“五人”なんだ。


 ――俺たちには、仲間がいる。


“では、突入と同時に、高柳君と神山君は、Bクラス二名の動きを封じてくれ。瑞樹ちゃんと新島君は――”



「変身名《自由装填フリーガン》、一射入魂つかまつる」



 後方からの、レーザービームが、弾けて飛んだ。


 熱風の壁の動きが止まる。

 ある地点を境として。その動きが静止する。


 俺の眼前――直撃する寸前で、力と力、エネルギーとエネルギーが、拮抗する。


「おおおっ! おおおおおおっ!? なんだ。さっきのでけぇビームの野郎か?」

「1年Aクラス、神山仁。この危機を見事に守護してみせようっ!」


 神山仁の放つエネルギーの矢は、巨大な光の柱となって、熱の壁をせき止める。

 力と力のぶつかり合い。

 エネルギーとエネルギーの拮抗・

 同時に、神山君の真横から、“一つの影”が現れる。


「赤井大地。空間の熱量そのものを変化させる。防御不可能の熱風使い。対応策は、コチラもヒーローエネルギーをぶつけること、だ」


 高柳君だ。彼は地面の一点を睨みつけ、そのまま踏み込む。

 跳ぶ。

 跳ぶ。

 気づけば。彼は――跳んでいた。


「何。何。何っ?」


 葉山達の陣営。その中心地に(・・・・・・)当たる赤井大地(・・・・・・・)と青樹大空の地点(・・・・・・・・)まで、彼は“一歩で”辿り着いていた。


「――ソラッ!」赤井の声。

「うわっ。えっ。えっ?」戸惑う青樹の声。


「驚くな。私は――ただ、“踏みやすい箇所”を読んだに過ぎない」


 腰を落とす。両足が沈む。狙うは青樹大空。

 銀色の身体を捻り、大空目掛けて手刀を繰り出す。

 槍のように鋭い一撃。大空の身体を貫く。


「うわっ。うわっ……わ……っわ!」


 だが――揺らぐ。

 大空の身体が――揺らぐ。

 突き刺した瞬間に、貫いた瞬間に、――空気のように、消える。


 ふっと。

 青樹大空が消滅する。


「――――っ」

「ざ、残像。です。蜃気楼。でも。いいです」


 高柳君の背後から。赤井大地の熱量で歪んだ空間から。青樹大空“らしき”手が伸びる。


「変身名《氷結調査員クーリング・オプ》。熱量を。いただきます……」


 高柳城の肩に手がかかる。

 その瞬間。

 高柳君の肩が――――凍結する。

 黒く。暗く。概念そのものを凍結させたかのように。濃く。深く。止まる。


「…………っっっ!?」

「あの。これ。回復しにくいので。気をつけて。ください。エネルギーの動き。そのものを止めるので」


 高柳君の銀色の身体が毒でも喰らったかのように黒ずむ。

 みると受けた右肩は、そのまま動こうとしない。

 必然――関節部である右肩以降の、右肘、右腕、も満足に駆動しない。右手そのものも油の抜けた機械のように動かない。


「私は。大地のお手伝いを。しなくちゃ。いけないので。あんまり。いじめないで。ヒドイことに。なるから」


 高柳城の右腕は不可逆の痛みのように動かない。

 酷いことに、なった。


「――貴方が」


 だが、高柳城は冷静だった。そんなこと(・・・・・)は分か(・・・)っている(・・・・)と言わんばかりの様子で、青樹大空との間合いを素早くとる。渋い声を放つ。


「……ご忠告感謝する。だが、それでも私は負けるつもりはない」


 そう言って、高柳君は黒く固まり凍結した右肩に――左手で触れる。


「変身名《サムライ》――エネルギーを循環させろ」


 すると、不思議なことに、異様なことに、凍っていたはずの右肩が、みるみるうちに元の銀色に戻っていく。

 回復する。復活する。一流の按摩師のように身体を再生に導く。


「……凄い。珍しい。大地以外でそんなのできるなんて……」

「私は君たち二人のことは研究済みだ。――――故に、対抗策も整えてきている」


 そうつぶやく高柳君に、青樹大空はふたたび姿を消す。

 またもや奇襲をしかけるつもりだ。


「フフフフ、さぁて、新島君。よそ見している暇はないよ……」

「フフフ、君たちが僕の天敵だってことはわかってる」

「フフフ、だけど」

「フフフフ、果たして相性の問題だけで、僕たちを倒すことができるかな……」


 俺、狗山さん、美月、の目の前に葉山が、葉山が、葉山が、大量の分身と化した葉山たちが再び現れる。

 赤井大地の炎。

 青樹大空の氷。

 その境におけるこの場所で、大量に発生した“蒸気”を媒介として、葉山樹木はその数を増やす。


「フフフフ」「フフフフッ」「フフ、来たまえよ」「新島君」「そして、お二人さん」

「僕が」「僕たちが」

「君たちに絶望を教えてあげよう――!」



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 第二層の混戦。ヒーローVSヒーロー。

 複雑化した状況だが、段々と対戦相手が確定してきた。


 神山仁VS赤井大地。

 高柳城VS青樹大空。

 俺、美月、狗山、VS 葉山とその分身軍団。


 この勝負に勝利すれば、俺たちは早くも第三層に進める。生き残りの人物達も少なくなってきたこの状況で葉山達の支配を崩壊させて、第三層に進めるというのは、かなり戦局を優位にできると言っても過言ではないだろう。


「フフフフフフフフフフ、新島君。まさか君が倒された直後に、彼女らの仲間になるとはね。僕も予想外だったよ」

 その言葉の裏には仲間になっていなければ、そのまま通路沿いでなぶり殺しにしていたと言わんばかりの台詞であった。


「――――葉山樹木ッ!」


 と、俺たちが見つめ合う中、高らかな声をあげる者が居た。

 無論、そんな行為を、傲岸不遜の翳りなく、堂々とやってのけてしまうのは唯一人しかいなかった。


「フフッ……なんだい、狗山さん?」


 狗山涼子以外に存在しなかった。



「第二層を支配下に収め、数々の経略を駆使して、いまだ首位を独走する貴方にお願いしたい」

「フフフッ……」

「――1年Sクラス、狗山涼子、変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》。私はこれより――決闘を申し込む」


 狗山さんは巨剣を振りかざす。

 華奢な四肢であるにも関わらず、豪腕の巨人の如き豪快さで、その巨剣は手の一部であるかのように自在に動く。


 葉山は、狗山さんの血気盛んな様子を見て、それでも変わらず冷笑を返す。

 いつも通りの様子のまま――言葉を放った。


「フフッ……君から挑戦を挑まれるとは僕も光栄なことだと思うよ。けど、僕がまともに君とぶつかり合えば、僕は負けてしまうだろう」


「そんなものは判らない。私は全力を尽くすが、それでも勝負は時の運だ。葉山君にはその運命を引き寄せる力がある。私はその力と相対してみたい」


「フフフフフ……残念だけど、僕の“全力”っていうのは、“まともに戦わないこと”を指すんだよ……」


 そう言うと、葉山は――指を大きく弾いた。

 その時。

 風が吹く。

 以前、俺と戦った時のように。葉山の向こうから。広間の通路から。白煙が迫りくる。


(――怪獣かっ!?)


 覚えがあった。この感覚には。

 こうやって葉山は以前も通路中の白煙を動かして、怪獣を運んできたのだ。

 だが、今回は――違った。

 もっと、もっと、“ヤバイもの”であった。

 身構える俺たちの前に――ヒーローが現れる。


「――フフッ、君たちがチームを組んで、僕たちを(・・・・)倒そうと(・・・・)している(・・・・)のは判っていた。新島君までいたのは予想外だったけど、その人数も大凡把握していた。

 それ故に、この第二層で交渉してチームとなった新たなヒーロー達を紹介しよう」


 と、その姿を見せたるはヒーローは二名。

 彼らは、彼女らは、こう名乗った。


「1年Sクラス、城ヶ崎正義。変身名《輝き(シャイニング)》」

「1年Sクラス、猫谷猫美。変身名《記憶式猫ストレージ・キャッツ》」


「城ヶ崎さん……」「キャット……」


 ヒーロー同士の戦いは、混迷を極めていく。

増大するヒーローの数、戦いは混迷を深め、やがて一つの秩序を生み出す――!

次回は、登場キャラが増えてきたたため、80話に登場したヒーロー達の紹介をしたいと思います。

その後、「第81話:ヒーロー達の渾沌戦場」をお楽しみください。

登場人物紹介は、3日以内に掲載します。81話の更新はもうしばらくお待ち下さい。

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