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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第79話:ヒーロー達の伝説結集

「それでは作戦の確認といこうか」

 狗山さんがそう言ったのは、“作戦の開始”の一分前のことであった。


「今回、私たちのターゲットになるのは、葉山樹木、青樹大空、赤井大地の3名だ。現在、彼らはここから北西方向に30メートルほど先の広間に潜伏している。高柳君、間違いないな?」


 狗山さんの質問に、高柳城は無言で首肯した。


「では、突入と同時に、高柳君と神山君は、Bクラス二名の動きを封じてくれ。瑞樹ちゃんと新島君は、葉山君が繰り出してくるだろう分身や怪獣の相手を頼む。私自身は――――」


 と、そこで狗山さんは言葉を切った。

 静寂。

 腰に据えた巨大な剣。

 その重々しい一刀に触れる。

 寸分の狂いなく振り抜き、俺たちの前に――見せた。


 彼女は、言葉を続ける。



「葉山君と一対一の決闘を挑もう」


 神山君が息を呑む。俺もちょっと鳥肌が立つ。

 高柳君も冷静さを維持しているが、狗山さんの勇猛さ、そのヒーロー然とした様子に、一瞬身体が硬直するのが判った。

 一方の美月は自慢気にうんうんと頷いていた。


(……いや、何でお前がドヤるんだよ)


 俺たち5人は、”葉山樹木とその仲間達”を撃退するために結成された特別チームであった。

 俺、美月、狗山さん、神山仁、高柳城、で構成され――葉山の本拠地を目指す。

 何故このようなことになったのか。

 どうしてこんな展開になったのか。

 その理由を説明するには、俺がこの場に到着した時間までさかのぼる必要がある。




「――1年Aクラス神山仁、変身名《自由装填フリーガン》ッ!」

「――1年Aクラス高柳城、変身名《サムライ》」


 俺の前にそう名乗るヒーローが現れたのは、俺の身体の拘束が解ける数刻前のことであった。

 いきなり登場を果たしたヒーロー2人。

 正直、俺は面を食らった。

 思わず呆然と。

 あるいは唖然と。

 何も言い返さず見つめていると、俺の隣に立っていた狗山さんが颯爽と前に歩いていった。


 くるりっ、


 ――と、気づいた時には、俺の正面で、堂々と、両腕を広げて彼らを紹介した。



「私たちは、一時的にであるが、チームを組んだ。この第二層に渦巻く脅威に挑むためだ」

 雄々しき勇猛さはそのままに、紅蓮の衣装を燃やしながら、こう言い放った。

「これはこの第二層に渦巻く脅威、葉山君たちに挑むために結成された《葉山樹木対策本部》なのだっ!」



「…………お、おう……」


 と、思わず気のない返事をしてしまった。

 となりで美月が「コミュ障か」とツッコんできた。お前が言うか?それ?

 狗山さんは気にしなかった様で、コホンと、一息入れると、解説を続けた。


「新島くんもご存知の通り、この第二層の大部分は葉山君たちに支配されている。正確には、葉山樹木、青樹大空、赤井大地、の3名だ」

「3名?」


 オウム返しに聞き返してしまった。

 葉山がこのエリアに多大なる影響を与えているのは知っている。

 式さんにも言われたし、そもそもさっき戦ったばかりだ。

 だが、――3名?


「現在の葉山樹木には、仲間がいるんだ。1年Bクラスの俊英、地域制圧型ヒーロー(・・・・・・・・・)。青樹大空と赤井大地の2人とな」


 と、狗山さんの代わりに答えてくれたのは、神山仁と名乗っていた男性だ。


 ――神山仁。

 和装に身をつつみ、落ち着いた雰囲気を見せている。

 その威圧感、堂々とした立ち振舞いは、Cクラスの表現を使わせて貰えば、間違いなく『強者』の波動を宿していた。その姿見は狗山さんに決して劣っていない。


 俺自身、実際に会話をしたことはないが、一次試験においてレーザービームの様な強烈な技を放ち、怪獣を打ち破っていたのを戦闘ビデオで確認した覚えがある。


「現在、葉山と青樹、赤井の3名は、第三層への階段付近を本拠地として、第二層にやってくるヒーロー達の足止めを行なっている。

 青樹大空と赤井大地が、第二層内の大気の性質を変え、葉山樹木が最良の条件下で煙を充満させる。

 結果、この第二層の大部分は、彼らの支配下に落ちてしまった。ここは数少ない攻撃不可の中立広間だ」


 そう言って、小さな泉のある広間を示した。

 後で聞いた話だが、この広間は、この二次試験における数少ない《休憩ポイント》であるそうだ。

 この空間は、基本的に戦うことが禁止されており、怪獣たちも近寄ってこない。

 葉山もここばかりはルールに則って、攻めてこないようであった(余談だが、第一層にも《休憩ポイント》は存在したらしい。俺は気づかなかったが)


 この時の俺はそんなことは知らないので曖昧に頷き、神山さんは説明を続けた。


「葉山たちのコンビネーションは、Bクラスのメンバーとともにあるということも加わり、もはや個々人では対応不可能なものになっている。

 現在、第三層に到達できたヒーローは、スタンドプレーの女王、君波紀美を除き、いまだ確認されていない。

 俺と高柳は彼ら三人に対抗する“策”があるのだが、どうしても戦力が足りなかった。

 そこで、かのSクラスの王者である――狗山涼子さんの力を借りようと思ったわけだ」


 と、そこで狗山さんが重々しく頷いた。

 俺の後ろでは美月が「さすがです、涼子ちゃん」と言いながら小さく手を叩いている。お付きの方か何か?


「俺たちの目的は、この第二層を席巻するチーム葉山を倒し、正面から堂々と第三層を目指すことにある」

「新島くんの噂はかねがねから聞いている。和泉生徒会長の門下につき、君島副会長を地につかせたとか、いろいろね……」


「どうだろう、もしよろしければ、俺たちの作戦に協力してくれないだろうか」



 そこまで言い終えると、神山君は俺の顔をじっと見つめた。


 神山君の変身姿では、頭に烏帽子を深く被り、両目の部分が影で覆われてよく見えない。

 コチラからは視認できない。

 けど、その影、その暗闇から伝わってくる想いは――確かな誠実さを伴っていて、俺を安心させるには十分なモノを持っていた。


「……一応、いくつか質問をしてもいいかな?」

「ああ、構わないよ。高柳もいいだろう?」


 そういう神山君に高柳君もコクリと頷いた。


「うむ、新島くんは私たちが勝手に連れてきたからな、聞けることは聞くべきだ」


 と、狗山さんも返す。うん、ありがとう。


「えーっと、じゃあ、まず一つ目なんだけど――どうして、葉山達の現状についてそこまで詳しいのか? 俺はこの第二層に来て日が浅いってのがあるかもしれないけど、葉山に他の仲間がいるのなんて知らなかったし、そもそも本拠地を構えているかどうかすらわかっていなかった」


 信頼に値するかもしれないが、信用できる確証はない。


「もし、今の話が正しいのだとしたら、その正しさを証明する“根拠”は何? どこからきているの?」


 俺だって馬鹿じゃない。

 葉山の本拠地がある。それを潰す。オッケー、ウフフと挑めるほど素直ではない。

 その情報のソースや、断然するに相応しい論拠を知らないで、作戦に参加できるほど愚鈍でも無謀でも軽率でもない。


 例えば、葉山がすでに本拠地を移動している可能性だってある。

 神山君が嘘をついていて、俺をハメようとしている可能性だってある。

 または、葉山が偽の情報を出して、神山君を騙している可能性だってある。


 俺達は、コンピュータや漫画のキャラクター相手に、戦いを挑んでるんじゃない。

 これは、れっきとした対人戦なのだ。

 お互いの読み合い、騙し合いが錯綜する、権謀術数の世界なのだ。


 ある程度の蓋然性がいぜんせい――論理的確証性を示されたうえで話を飲み込んでも、遅くはないはずだ。


「うむ、当然聞くべき質問だな。それは……」



「――――私が応えよう」



 と、ここにきて今まで名乗り以外で口を閉ざしていた、神山さんの隣りのヒーローが発言した。

 比較的、渋い声であった。

 名前は確か――高柳城だっけか。


「私の変身名《サムライ》は、感知系ヒーローに属する能力を有している」

「感知系……」

 あれかシロちゃん先生的なものか。

「私の場合、半径数百メートル以内のヒーローエネルギーを放出しているを感じ取ることができる」


 サムライ――そう名乗った彼は、ヒーローとしてはかなりシンプルな肉体をしていた。

 灰をかぶったような鈍い銀色。

 針金のような細い鋭い体躯。

 まるで日本刀“そのもの”のようなヒーローであった。

 しかし、その見た目からは、戦う者としての力はあまり感じられなかった。


「――然り、私には力が足りないが、その分、相手の力の流れを読むことにちょうじている。

 葉山樹木、青樹大空、赤井大地、この三人のエネルギーの種類は“既に覚えた”。彼らは動くことなく、第三層の階段前で待機している。

 これは紛れもない事実だ。私の能力に賭けて誓おう」


 と、一語、一語、確かめるように発言し、最後には断言した。

 神山さんも「そういうことだから、信頼してくれ」と付け加えた。


「ちなみに、そーちゃんを発見したのも、高柳君のお陰なんだよ。第二層にやってきたヒーローが久々にいるって」


 美月の発言に、俺は高柳君を見る。


「現在、この第二層には15名ほどのヒーローがいる。が、第一層から降りて来るヒーローは久々に感じた」

「……ああ、俺に出会ったのは、偶然じゃなかったのね……」


 確かに、タイミングが良すぎた。

 俺が葉山に敗れた直後に――都合よく、二人が現れたのだから。


「葉山君の分身に倒されたようだから、助けてあげてってね」

「そこまでわかるのか……」

「うむ、そもそも、私と瑞樹ちゃんが誘われたのも、高柳君の感知能力に寄るものらしいのだ。この階層で一番強いヒーローを探していったらたどり着いたとな」


 そうか。

 そういうことか。

 だんだんとわかってきたぞ。


 もともと神山&高柳のペアがチームを組んでおり、

 二人は“作戦”があり、葉山チームを打倒したい。そこで、高柳君の感知能力で狗山さんを発見した、ってところか。

 さらに戦力増強が見込めるかと思い、葉山に倒されたばっかの俺を見つけ出したってところか。


 ちなみにこの頃になると、俺の身体拘束も解けて、自分の力で立って話を聞けるようになっていた。


 なるほど。

 まあ、そこまでの“実績”があるのなら、葉山の情報に関して嘘は言ってなさそうだ。

 疑うことは大事だが、どこかで信頼しなくちゃ物事は進まないし物語は動かない。


「オーケー、それじゃあ、2つ目の質問。俺がこのチームに入るメリットは?」

「葉山の支配下から抜け出せて、第三層に行くことができる、ってのじゃメリットにならないかな?」


 まあ、それでも十分構わないんだけどな。

 俺は某城ヶ崎正義さんのことを頭に思いうかべながら、神山君の弁明を聞いていた。


「ちなみに、狗山さんはどうしてチームを結成しようと思ったの? 狗山さんなら究極、一人でも葉山を突破できそうだけど」

「そーちゃん、私は?」

「狗山さんの能力なら、葉山の白煙を消し去ることだってできたはずだろ?」

「そーちゃん、私はー?」

「どうなんだ? 狗山さん」


 美月にデコピンをかましながら、俺は尋ねる。


「うむ、葉山君が一人の場合は私もそうしただろう。だが、今回の相手はチームを組んでいると聞く。ならば、少なくとも勝率をあげるために、徒党を組むのはむしろ戦いの定石と呼べるのではないか?」

「それも、そうか……」


 狗山さんは戦闘のスペシャリストであるが、決して不用意な驕りはしない。

 相手が葉山一人ならともなく、Bクラスの(しかも優秀な)ヒーローが二人もいるならば、他の人間の力を借りようと思うのは、むしろ当然の成り行きか。


「なお、私にはメリットはあるぞ」

「何?」


 そう尋ねると、狗山さんは神山&高柳ペアの方を見やり。

 人間味ある口元をニヤリと動かし。


「本拠地に到着したら、私は葉山君と戦う。

 一切の妨害なく、一切の心配なく、――葉山君と一騎打ちできることを約束されたのだ」



「…………ああ」


 なるほどね。わかりやすいね。それはメリットだね。

(葉山も可哀想だなー)

 俺は決闘種である彼女を見つめて、それからキラキラと憧れの視線を送る美月をはたいた。


 神山君が言葉を挟む。


「ちなみに、葉山樹木は、本拠地に大量の撃退していない怪獣を溜め込んでいると聞いている。

 苦労せず、大量の怪獣を撃退する機会を得られる。……これは、メリットにならないだろうか」


 俺の視線と、神山さんの闇黒の視線が交差する。

 肩の力を抜き、俺はこう答えた。


「……オーケー、そもそも途中参戦の身だ。精一杯手伝わせてもらうよ」

「そうか、ありがとう」

「――だけど、ちょっと待った、まだお礼は言わないでくれ」


 片手で制して、神山さんが握手を求めてくる手を止める。


「最後の質問だが、――そもそも、どうやって(・・・・・)葉山達を打倒(・・・・・・)するつもりだ(・・・・・・)


「彼らは通路のいたるところに白煙をめぐらしている。本拠地に向かうならなおさらだ。単なる神風特攻じゃあ、意味ないぜ。――作戦を聞かせて欲しい。手を貸すかどうかは、それからだ」


 と、俺が言うと、神山さんと高柳くんが自信ありげな笑みを返した。

 神山さんが身を乗り出すようにコチラを見る。


「――いいさ、お教えしよう。俺と高柳にしかできない。葉山樹木突破作戦を――」


 



「では、葉山の本拠地に向けて出発するが、皆の者、準備はいいなっ!」

 狗山さんが掛け声をあげる。俺たちはその声に高らかに返答する。


「よしっ。では向かうぞ。――――神山君、よろしく頼むっ!」

「極めて、了解」


 そう言って、神山仁は半月状の長大な武器を出現させた。

 その瞬間、彼の周りの空気が変わる。

 両脚を大きく開き、巨大な山そのものになったように、上腕を広げる。


「ヤナ、角度は合ってるか?」

「――――問題ない。そのまま、射抜け。神山仁」


 神山さんは長大な半月状の“弓”に、ヒーローエネルギーを凝縮させた矢を装填する。

 体幹がぐわりとしなり、黄金の足場を崩壊させるように体重がかかる。

 顔が引き絞るように曲がり、機械のように精密に、人類のように流麗に、動物のように奔放に、神山仁の両腕が飛翔する。


 弓矢と同様に上げられた両腕は、頭上近くで分裂し、左腕は前方へ、右腕は後方へ、まるで定められたレールの上を走るように迷いない狂いなく進んでいく。

 

 背中が広がる。

 肩甲骨が伸びる。

 肩と肩が、骨と骨が、筋肉と筋肉が、“ある一点”においてカラクリ機械の如く精緻な結合を見せる。


 気づけば――神山仁は構えていた。


「――変身名《自由装填フリーガン》、一射入魂つかまつる」


 射出体勢に入った神山君は、そのまま、沈黙。

 一拍。

 二拍。

 三拍目には、黄金の壁に向かいて、矢を――放つ。


 1秒、2秒、3秒。

 ふいに静寂が広がり、残心を終えた神山君の口元から息が漏れる。


「――――全て終わった。これにて、道は――拓かれた」


 声と同時に。

 黄金の壁が。

 崩れ去り。

 エネルギーの矢は黄金を穿ち。

 黄金の洞穴として。

 その姿を生まれ変わらせる。


「よし、向かうぞっ! 皆の者っ!」


 狗山さんが声をあげる。俺たちはその声でようやく葉山たちの広間に直通の道(・・・・)が生まれ(・・・・)()んだと、自覚した。


「――葉山達も気づいたようだ。白煙が来るのは時間の問題だ。向かうぞ」

「ふぅ、後は戦って勝つだけだ」

「そーちゃん、ほらほら行くよ~」

「これは、とんでもないことになってきたな……」


 狗山涼子、神山仁、高柳城、美月瑞樹、新島宗太。

 俺たちは神山さんが文字どおり射抜いた洞穴を通って、葉山のもとへ急ぐのであった。

狗山涼子、美月瑞樹、神山仁、高柳城、新島宗太――葉山樹木、青樹大空、赤井大地、集まり出すヒーロー達。一つの大戦が始まろうとしている――!

次回「第80話:ヒーロー達の大戦」をお楽しみください。

掲載はふたたび1週間以内となります。よろしくお願いします。

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