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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第78話:ヒーロー達の意外な結集

 それにしても身体を動かせないのは不便だ。

 俺はしみじみと思った。

 現在、第二層の通路沿いに粗大ごみのように横たわり、一人ひそやかに葉山に負けたよ反省会を開いてる俺であったが、手持ち無沙汰で仕方がなかった。


 暇。

 暇なのである。

 あまりに暇なので適当な声でもあげてみる。


「あー、あー、あー、うー、うっうー」


 益体もないうめき声が、黄金造りの通路に反響した。

 あまりに恥ずかしかったので、やめた。

 人間勢いだけでやるとあとで後悔するものである。


 俺は天井を見上げる

 考える。


 前回、城ヶ崎さんに負けた時は気づかなかったが、意識があるのに身体が動かせないという状況、思ったよりも大変なのである。

 ストレスがたまる。

 精神衛生上よろしくない。

 他の現象で例えれば、金縛りに近い。

 あれは脳の意識をつかさどる部分だけが覚醒していて、肉体を制御する部分が眠っているという状態が原因で起きるものだったはずだが、今の状況とピッタリ符合していた。

 動けないイライラで暴れたいあたり瓜二つだ。


「式さんが嫌がってた気持ちがわかったぜ……」


 俺は体力ゲージがゼロになったあと散々ワガママを言っていた式さんのことを思い出した。

 今なら彼女の気持ちが理解できる。

 やだな。嫌だもんな。これ。


(……まてよ、式さんと同じ状況なら)


 と、そこで俺はある発想に思い至る。

 それは彼女が動けない身でありながら、ピョンピョン飛び跳ねていた光景だ。


(俺は呼吸もできるし、しゃべることもできる。心臓も、筋肉だって十全に働いている。ならば、“ちょっとくらい”身体を動かすこともできるんじゃないのか?)


 俺はちょっと実験がてら試して見ることにした。

 まずは横になった状態から、身体の軸や重心といった位置を意識しつつ、力を注ぎ込む。

 すると、僅かに身体は傾いた。


(よしよしよし)


 気を良くした俺は続けて、体幹を捻りつつ、同時に体重を片側に込める。

 それを幾度も幾度も地道にくりかえる。

 すると、俺は方向転換に成功し、身体を通路の中央にまで移動させることができた。


(よーっし、よしよしよし)


 そこから、俺は進行方向に当たる。通路を見つめる。

 ごくりと息を呑む。

 俺は、タイミングを計り、思いっきり、身体を通路側へと――投げ出した。


「おおー、進む、進むー」


 俺は進みだした。

 ゴロゴロと石畳の道を転がるように進みだした。

 それは一つの成功であった。

 古代エジプトの人間が、ピラミッドを建設する大岩を運ぶ際に大量の丸太を敷くことを考案した事実に似た、文明進化の第一歩であった。

 人類史における大いなる躍進であった。


「……まあ、どっちかつうと俺自身が丸太なんだけどな」


 ただ、その動きは、文明の進化と呼ぶには、あまりにも原始的であった。

 ゴロゴロ。

 ゴロゴロ。

 というか、かなりシュールだ。はたから見れば、デカイ丸太に成った男子高校生が、ひとりで地面を転がっている状態だ。

 最初は動けない地獄から抜け出せたことでハイテンションだったが、だんだん冷静になってきた。

 熱するのが早ければ、冷めるのも早い。

 うーん、なんだか悲しくなってきたぞ。


(つーか、こんな光景知り合いに見られたら死ぬな)


 小学生のマット遊びじゃないんだから。速度そのものは高くなる一方で俺はそんなことを考えていた。



「…………あ、そーちゃんだ」



 そしてそれは曲がり角に着いた時であった。

 親しげな声が前方から飛んできた。

 つーか、非常に限られた呼び名で呼ぶ声であった。

 俺は、おそるおそる目線をあげる。


「…………なに、やってるの? 新しい遊び?」

「……うむ、奇遇だな、新島くん。しかし、斬新な進み方だな。縛りプレーというやつか?」


 一番会いたくない知り合い達に出会ってしまった。


 



 世の中、情けない経験をすることは多々あるだろう。

 この俺、新島宗太の信条の一つに“格好良く生き切る”というものがあるが、その目標を達成するための気構えを持ってしても、情けない経験をしてしまうことは往々にしてある。


 だが、しかし、女の子二人にいいように捕獲されて、完全に物感覚で連行させてしまうことほど、情けなく、悲しいことはないだろう。


「よいせっと」

「よいせっと」


 美月と狗山さんのお二人は、動けない俺を肩に担いで運んでいた。時折、ハイ・ホー、ハイ・ホー、と仕事にでかける小人感覚で、掛け声を口ずさむ。


「ほいせっと」

「ほいせっと」


「なー、これはどこに向かってるんだー」


 軽快な足取りで闊歩する二人に向けて、俺は尋ねる。


「えー、そーちゃん、それはねー」

「それはー?」

「秘密なのだよ☆」


 マジ、うぜぇ……。


 そのまるっこい顔を地面にたたきつけて二度と起きあがれなくしてやろうか。

 今の俺がちくわみたいな機動力が持たないからって調子に乗りやがって……。もとに戻ったら後悔させてやる。


「む、そーちゃん、なんだか悪どいことを考えてるね」

「だったら、どうした。俺は運んでほしいなんて一言もいってないからな」


 つーか連れ去られることが、意味不明だ。

 道端でばったり出会った二人は、俺を可哀想な生き物を見る目で眺めていた。

 やがて、それは慈愛を伴ったものに変わり、二人は俺から離れてヒソヒソ話をはじめたのだ。

 嫌な予感

 何か嫌な嫌な予感がした。


 さっさとその場を離れよう。

 コロコロ俺が勝手に進もうとすると、俺は身体を美月に容赦なく踏まれた。

 そのまま暴れる俺を無視して、

 俺の事情も関係なく、

 俺の説明に興味なく、

 彼女たちは俺を引越しセンターの人間のように運搬しだしたのであった。


 まったく理解不能だ。不可解だ。


 このまま俺を連れていってポイント取得のための道具として扱うのか。

 それとも今までの恨みを晴らすべく袋叩きにでもするか。


 女の子二人に好きにされるってシチュエーション自体は嫌いじゃないが、美月と狗山さんにやられても困惑するだけな気もする。


“……へぇ、そーちゃんって、こういうのが楽しいんだぁ……”

“……ふーむ、我がライバルにこんな趣味があったとはな……”


 うーん、微妙だな。個人的には。


「……そーちゃん、あんまりアレなこと考えたら、おしおきだからね」

「へぇ、文字通り手も足も出ない俺を、どうやって痛めつけるのかな?」

「古井戸に突き落とす」


「マジ怖いなお前っ!?」


 悪魔の所業かよ。今の俺はアレだからな。リアルちくわモードだからな。それやったらほぼ百パー死ぬからな。


「そういえば私、江戸川乱歩の小説だと芋虫が一番好きでね」

「その情報いる!?超怖いんだけど。ねえっ!?」


 しのきょうふをかんじた。

 前では一緒に運んでいる狗山さんが笑っている。

 わはっはっはっはっは。

 って快活だなおい。

 助けてくれよ。笑ってないで助けてくれよ。

 あんたの好きな人幼馴染井戸に沈めようとしてるからね。ねえ。


「はっはっはっ、よかった、よかった」

「いや、全然よくないからねっ!? 今俺まさに死にかけてるからねっ!?」


 全力で懇願する俺に狗山さんは「違う、違う」と返す。いや、何が違うんだよ。

 そうつっこむと彼女は、


「ははっ、いや、最近、瑞樹ちゃんと新島くんの仲がぎこちな(・・・・)かったからな(・・・・・・)。いつも通りに戻るのを見て安心したのだよ」


 と、指摘するのだった。


「…………」

「…………」


 思わず――面食らう。

 彼女の言葉に。


 俺だけでなく、美月も。


 確かに――そうだ。そうだった。言われた通りであった。

 俺たちはいつも通りであった。

 だとすれば、これは、俺が望んでいた状況なのか。

 奇跡に近い幸運の状況なのか。


「試験中というのがいいのかもしれないな、ほら、あるだろう、危機的状況に陥った……少女たちが、仲良くなるとか結婚するとか」


「つり橋効果な。でも、それ少女たちじゃなくて、男女だけど」


「ふむ、しかし、最近のプ○キュアとか、だいたいそんな感じだろう?」

「プ○キュアとか言うな」

「プ○キュア効果」

「理論立てようとするな」


「いや、違うのだ。ピーターパン症候群やライナスの毛布みたいに、創作者の巧みな視線が人間心理の見えなかった側面を描き出すように、自然と心理学用語に加わらないかと思ったのだ」

「しねぇよ」


 何だか話が横道にそれた。ひょっとして狗山さん、自分で男女の恋仲の例を出しかけていながら、俺と美月がくっつくのが嫌だからごまかしたな。いや、ごまかせてねーけどな。


「どちらにせよ、危機的状況に陥った人間は、心理的な障壁がなくなりやすいらしいのだ。爆弾を積んだ暴走トラックに乗るとかな」

「あれ実は2で別れてるけどな」


 極限状況で結ばれた恋は長続きしない。

 つり橋効果って、恋愛成就の側面ばかりが強調されてるけど、実際の原義としては、そうした恋愛とはあくまで錯覚であり幻想なんだよって意味なんだよな。

 ……そう考えると、この“いつも通り”に見える状況も、実際は非常に限定的で、刹那的なものなのかもしれない。



“昔、私は自分に誓ったんだよ”

“そーちゃんのことは、絶対に好きにならないって――”



「…………」


 心の内奥がちくりと痛む。

 ひっかき傷のように痛む。

 今、この瞬間、過去と未来から切り離された現在において、俺は美月と話せている。

 楽しく生きている。

 しかし、この今が過ぎ去ったとして、俺は彼女と以前のように話せるか。

 その問いに明瞭に答えることはできなかった。その強さがまだ俺にはなかった。

 断言することは難しかった。


(……結局のところ、すべては俺自身の心の問題に帰着するんだけどな)



「あっ! 見えてきたよ、涼子ちゃん!」


 ――と、ダウナー気味の俺の心情を、美月の元気そうな声がかき消した。

 コイツ、本当に狗山さんに心を許すようになったなー。ただの仲良しではこうはいかないだろう。


「なあ、美月。そろそろ俺を連行した理由を教えてくれないか?」


 俺は尋ねる。しかし、美月はふふん自慢気で答える気がなさそうであった。張り倒すぞお前。

 その代わり、狗山さんが返答してくれた。


「なに、新島くんを呼んだ理由は単純だ。私たちの仲間になって欲しいと思ってな」


 そう言って、俺たちはその――白煙のない、開けた空間に到達する。


 そこはこの地下迷宮において初めて見る――水辺のある広場であった。

 黄金に輝く室内の中央には、人工的に作られたと思われる泉が存在している。


 そして、その泉の前に、二人の人物が立っていた。


 振袖のような純和風の衣装に身を包んだ人間と、鈍い銀色一色に彩られたシンプルな人間がいた。


 ――いや、人間ではない。

 その呼称は正しくない。

 正確には――ヒーローと言い換えようか。


 彼ら二人は堂々と、俺たちを待っていたかのように、名乗りをあげた。


「――1年Aクラス神山仁、変身名《自由装填フリーガン

「――1年Aクラス高柳城、変身名《サムライ》」


 神山仁。1年Aクラス。倍率1.5倍。

 高柳城。1年Aクラス。倍率1.6倍。

 どちらも有名なヒーローだ。


 俺は二人の登場に戸惑っていると、狗山さんが一歩前に踏み出して、くるりと俺のほうを向いた。

 真紅のボディ。

 銀色に輝くゴーグル。

 青色のチョーカー。

 彼女はこう纏めた。


「私たちは一時的にであるが、チームを結成した」

「この第二層に渦巻く脅威に対抗するためにだ」


 雄々しき勇猛さはそのままに、彼女は紅き衣装を燃やしながら、こう言い放った。


「ここは、第二層の脅威――葉山君らを倒すべく誕生した《葉山樹木対策本部》なのだっ!」


 狗山涼子、美月瑞樹、神山仁、高柳城、そしてこの俺――新島宗太。

 新たな戦いの幕が上がろうとしていた。

奇妙な流れから生み出された編成チーム。その正体とは。そして、新島宗太の掴み取るべき選択とは――!?

次回「第79話:ヒーロー達の伝説集結」(仮)をお楽しみください。

掲載は、4月になりちょっと忙しくなってきたので、1週間以内とします。よろしくお願いします。

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