表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
82/169

第77話:ヒーロー達の友情煙来(後編)

 輝く力を味方にすれば、ランクB怪獣二体が相手でも戦える。……だろう。

 何の根拠もなく。しかし、そうするしかなく、そう思うことで戦えるようになると信じて、俺は怪獣たちと向き合う。

 まずは先ほど倒したばかりの触手怪獣だ。

 俺はターゲットを定めて突撃していった。


「――だだぁっ!」


 踏み込む足。左手を勢い良く振りかぶる。抜刀のように抜き放ち頭部の破壊に成功した。

 苦悶をあげて震える声。

 よし。これで再生には手間取るはずだ。

 この隙に、狙いを触手にシフトする。


「SRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」

「ちいっ、邪魔っ!」


 だが、サイのような怪獣の突撃で阻まれる。

 追い討ちは叶わず俺は動きを止める。

 クソっと、やりにくい。

 攻めさせてくれよ。

 飛び出さずにブーストで空中を転回。

 くるりと。

 タイミングをズラす。

 そのまま急速落下し、サイ怪獣の柔らかそうな額を踏みつぶす。その反動をさらに活かす。

 後退する。

 地を踏みしめる。戻って前を向くと、触手怪獣の再生は終わろうとしていた。


「SRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」

「MORUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」


「…………くそっ」


 ……前言撤回。ランクB怪獣でも二体同時は辛かった。

 しかも息があってる。やりにくさが増幅してる。


(コンビネーション良さを踏まえてこの二体を用意したな、葉山のやつ)


 怪獣同士の相性を考えた二体で俺を襲わせる。

 葉山だったらそれくらいの準備はしてそうであった。


(だけど、目の前の怪獣たちもやりにくいけど、だけれど、それでも、真にやりにくいのは――)


 俺は振り向く。


「フフフフフフフ、新島くん、いつでも、その剣を手放していいんだからね」

「フフフフフフフ、大変そうだね、新島くん。そんな重いもの持たないほうがいいよ」

「フフフフフフフ、新島くん、今日の占いとよると、光りものは捨てたほうがいいらしいよ」


 と、離れた場所から俺を観察する葉山達の存在であった。


(こいつら……、俺が光の剣を“手放す”のを待ってやがる……っ!)


 眼前の怪獣たち、確かにコイツラも厄介だ。


 しかし、この怪獣たちは間違いなく――おとりだ。

 葉山だって、俺の実力は理解している。

 たとえランクB怪獣を二体放ったところで、俺に勝てるだなんて、俺を倒せるだなんて、夢にも思っちゃいないはずだ。


 目的は、別にある。


 俺の光の剣を――封じ込めるためだ。


 俺の光の剣は、怪獣相手に使えない。

 というか、そもそも使ったら即座に壊れてしまう。

 救世剣は、ヒーローエネルギー以外には基本的に無力だと考えたほうがいい。


 今の状況は、戦場でガラス細工のおもちゃを振り回しているようなものだ。


 俺が普段、“ここぞ”という時にしか、この救世剣を出さないのは、何も燃費が悪いからだけではない。

 その耐久性が著しく低いからだ。


「フフフフ……大変そうだねぇ、新島くん、さっきから右手を使ってないけれど、その剣邪魔じゃないのかな?」


 俺は葉山の言葉を無視して、直近の怪獣たちに集中する。

 だが、怪獣たちとの相手も、邪魔な道具のせいで、攻めきれずにいる。


(……いっそ、小型化してしまうか。光の剣。効力そのものが変わらないのは、さっきの式さん戦で実証済みだし。――いや、そのタイミングで複数の葉山に攻撃を仕掛けられたら、対応しきれる気がしない)


 無用の長物となった剣を死守しながら、俺はサイっぽい怪獣の突撃を避けるべくブーストをかける。

 頭を踏みつけ、背後へとまわる。握りしめた拳で一打を振るう。


「SRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」


 絶叫を聞きながらも、コイツは後ろが弱点なんだと判断しながらも、俺はそのまま追撃を与えることができない。

 触手怪獣の、長い植物の蔦のような触手が、俺の肉体に近接していたからだ。


 迫るのは右手側。

 俺は舌打ちをする。


(――――くそっ、仕方ねぇ!)


 光の剣を左手に持ち直す。

 俺は右の手刀で目の前に迫る触手だけを切り落とす。

 だが、不十分だ。

 残りは無理だと判断する。

 捕まらないためにブーストの加速で逃げる。


「――チームワークがいいってのは、厄介だなぁ……」


 俺は空中でホバリングする。

 前方に存在する二体の怪物を眺めながら心から言う。

 超変身の時間制限はそれほど長くない。

 時間はあまりかけられない。

 空中での姿勢を維持しながら、次善の策を練っていると、俺のその隙を狙い新たなる脅威が俺に襲いくる。


「フフフフフフフフフフフ――――ッ! 変身名《幻想魔人ザ・ファントム》、種類『爆煙ヒューム』」

「な――っ!?」


 気づけば葉山の一体がすぐ目の前にまで迫っていた。

 ヤバイ。

 咄嗟にブーストを止めて避けるが、避けた瞬間、葉山が爆発をするっ!


「くっ……!」


 両腕でガードしながら、後退を続ける。

 くそっ。油断した。想定外だった。いや、予想できたことではあるんだ。

 葉山からすれば俺が光の剣を手放すのを待つ必要はどこにもない。

 その必然性は存在しない。

 やつの立場からすれば、攻める攻めないは自由なのだ。

 なのに俺は葉山たちへの意識を僅かなりとも途切れさせてしまった。


 強力な怪獣を呼び出し、俺が光の剣を手放すのを待つという作戦。

 ――その作戦すら、葉山にとってはおとりであったのだ。


(……直撃は、避けた。だが、ダメージは間違いなく喰らったな……っ)


 いまだ強化中の身であったため。

 致命傷は避けられたが、それでも焦げるような痛みは残った。


「――――ちく、しょう……っ!」

「フフフフフフフフ、どうやら煙そのものには対応できたとしても、煙を燃焼させた“爆熱”までは消し去れないようだねぇ……」


 そうだ。

 葉山は俺の弱点をそういう意味では知り尽くしている。

 いまだ分身の数を増大させながら、葉山は冷笑を通路内に響かせた。


「また、味な真似を……」

「フフフフフフフフフフフフフフ、まだまだ、これは序章だよ。僕を舐めないでもらいたいね。君を攻略するための手段はいくらでも――――――え?」


 と、いきなり。


「ええっ――――――?」


 頓狂な声をあげた。

 不敵な笑い声をうかべ強気の発言をしていた葉山がいきなり豹変を見せた。

 その変わり様に俺も驚く。

 な、なんだ、なにをそんな変な声をあげているんだ……?


 と、思えば、葉山は次第に余裕そうな笑みに戻っていく。まるで自分を取り戻すように。


「フフフフフフ、……なんだ、なぁんだ。……フフッ、つまらない幕切れだ。そういう意外と素で抜けたところも新島くんの美徳なんだろうけど、今回ばかりは褒められたものではないねぇ……。完璧な人間なんてそうそういない。そういうことなのかな?」


「は、はぁ……?」


 何言ってんだコイツ。

 思わず変な声を出してしまう俺を尻目に、葉山は行動を始める。

 白煙を吹き散らし、怪獣たちを別のエリアに運んでいく。


「フフフ、僕の力は今とてつもなく良い状態に保たれている……ただの戦い方じゃあ、きっと打ち崩すことはできないだろうね……」


 と意味深なセリフを吐きながら、撤退――粛々と、撤退をはじめる。

 な、なんだ、なんだってんだよ。

 戸惑う。困惑する。

 その言い回しはまるで、戦いが収束したような、終わってしまったような――。


 と、置いてけぼりの気分のまま空中に漂っていると、俺はいきなり背中のブーストが切れて、地面に落下する。

 うわっ!

 とっさに受け身をとる。

 地に手をつけながら、左手をみる。すると驚愕の事実が待ち受けていた。


 ――光の剣がいつの間にか消滅していた。


「…………っ!?」


 驚きに全身が硬直する。

 同時に俺はある事実に気づく。

 背中のブーストが発動しない。

 いや、それよりも……。


(俺の、ヒーローエネルギーが、消滅しかかっている……?)


 葉山が何かしたのか。これもやつの戦略か。

 そう思い奴を見つめるが予想外の答えが返ってきた。


「――――フフフ、新島くん、迂闊だねぇ……、ちょっと、――自分の“体力ゲージ”をみてごらん?」


「は? 体力ゲー、……ん? あ、ああ――――――――っっ!」


 大声が響き渡った。

 混乱と反省と絶望が俺の中に襲いくる。

 馬鹿か。

 馬鹿か俺は。


 右腕の『悪魔達の輪っか(デビルズ。リング)』は冷徹にこう伝えてくれていた。


 POINTS(ポイント数):300

 DAMAGE(被ダメージ数):0/500

 TIME(残り時間):83/180


 体力ゲージがゼロになっていた。

 体力ゲージがゼロになっていた。

 体力ゲージがゼロになっていた。


(――――そうだ、俺は忘れていた)


 思い出す。式さんとの戦いのことを。


“――――残り体力40だと……。赤ゲージ、死亡ギリギリじゃねーか。”


 数刻前。

 俺が人型式との対戦において、体力を残り40まで削られた事実を。


「う、うわぁ……」


 呆れた。

 いや、これは、これはもう、馬鹿としか言い様がない。

 無論、回復させる方法なんて、この試験のルール上存在しないのだから、必然、どこかで捨て勝負のように負けることはあるんだろうし、対処のしようなんてないんだろうが、それでも、しかし。


(ばっかだなぁ……)


 愚かというか、情けないというか。

 マヌケな負け方だった。


 葉山はちょっと物足りなそうな様子をしていたが、すぐに普段通りにもどった。

 笑みを漏らす。

 勝利の笑みだ。


「――――フフッ……今回は、残念な幕切れとなったけど、次も僕は負けるつもりはないよ」

「――君の体力がもどった時、また僕は現れる。僕の攻撃は、この第二層にいる限り続く」

「――果たして、君は耐えることができるかな……フフフ、この勝負、開始の時点で平等ではなかったのだよ……」


 と、最後に高らかな哄笑を残し、葉山たちは文字どおり“煙の様に”姿を消していった。


 そして俺だけが残された。

 ぽつんと。

 一人になった状況で呟く。


「ばっか、だなぁ……俺」


 体力的には余裕がある。

 まだまだ戦える。

 だが、ルールの制約により、俺自身は見えない力で拘束され、満足に身体が動かせなくなった。

 まるで見えない拘束具でもつけられたように肉体の制御が効かない。


 どうやら、この場で三分間、回復を待つしかないようだった。


(ひさびさに、葉山に負けたな……)


 第二層、葉山との戦いは、俺の凡ミスと、葉山の入念な作戦の結果、敗北を喫することになった。

 そうだ。

 認めよう。

 葉山との戦いにおいて。

 俺は――負けた。

久々の葉山との対決には、葉山に軍配があがった。身体を拘束され、ひとしきり反省を送る新島のもとに、意外な人物が現れる。

次回「第78話:ヒーロー達の再来→集結」(仮)をお楽しみください。

掲載は4日以内を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ