第76話:ヒーロー達の友情煙来(前編)
葉山樹木に尋ねたことがある。
「どうして俺を生徒会長に紹介したんだ?」
当時、俺は葉山紹介のもと生徒会長から特訓を受けていた。
一流のヒーロー候補生直伝の厳しい試練だ。
その苦しさと有用性を実感する一方――ある疑問が俺のなかで膨らんでいった。
なぜ、葉山は、俺と生徒会長を、引き合わせたのか。
不思議であった。
葉山の意図が読めない。
俺と生徒会長が出会ったことで、何かメリットを得たのだろうか。
彼は、別に美少女ゲームやハーレム系ラノベに登場しそうな、俺が困ったときに手を貸してくれる、都合のいい友人キャラではない。
血の通った生きた人間だ。そこには打算がある。そこには狙いもある。
特に葉山はそうした計略に長けたタイプだ。
そんな彼が、ライバルの俺を強くするため、“生徒会長の知り合い”という最高のカードを提供する。
尽力を果たす。
信じられないことであった。
葉山も一流のヒーローになりたい気持ちは変わらない。その思いでいえば、俺より強いかもしれないのに。
そんな彼が、なぜ?
俺はタイミングをうかがった。そして、葉山に直接質問した。
どうして敵に塩を送るような行為をしたのか。
すると、彼はこう答えた。
「フフフ……そうだね。新島くんは、初めの頃、僕が言ったことを覚えているかい?」
「初めて?」
「フフッ……――僕は五分以上話した人間と、友だちになったと認識するのさ」
「ああー……」
その言葉は――確かに聞き覚えのあるものだった。
葉山はその台詞とともに俺のとなりに勝手についてきたのだ。
「フフ……あの時は僕は僕で必死だったからね。
裏を返せば、五分以上話して――気が合うと確信した人間と、僕は最初の友だちになろうと決めていた」
「…………」
「僕は面倒な人間だからね。自分の中で『友達の定義を明確化しないと』何も行動できなかったのさ。
――三日連続で話しても興味が尽きなければ、親友。それが一週間も続くようならば、心の友になれる。僕たちは――どんな悩みでも共有できる」
「……どんな悩みでも」
言葉を反復する俺に、葉山はめずらしく普通に笑いかけた。
「ふふっ、新島くん。君がどう思ってるかなんて僕は知らない。だけど、少なくとも僕にとって君は大切な親友なのさ。――親友の悩みを解消するくらい、この僕には苦労でも何でもない」
「…………」
「――ましてや、それが恋の悩みならね」
「…………っ!」
焦る俺に葉山は軽々と“いつも通りに”笑っていた。
それ以来だろうか。俺は葉山のことを親友だと呼ぶようになっていた。
「フフフフフフフフフフフフフ、君と戦うのは何回目だっけねぇ……新島くん」
「……さあな、少なくとも10回以上はやりあってるんじゃねえのか」
黄金の通路にて、俺と葉山達が対峙する。
その様子は戦いのような荒々しさはない。
むしろ穏やかだ。
当然だろう。
これは戦いであるが、戦いではない。
俺からすると、葉山の本体はここにいない。故に、倒すことはできない。
葉山からすると、俺は光の剣を持っている。直接打ち破ることは難しい。
故に、この戦いは、謂わば前哨戦だ。
潰し合いにはならない。
死闘にはならない。
俺からすれば、葉山の支配するエリアから脱出できれば勝利、葉山からすれば、俺の進行を止められれば勝利、といったところだろう。
「――フフフ、新島くん、今君はこう思っているね。“俺は光の剣を持っているんだから、この分身共には直接手をくだすことはできない。なら俺はこの支配領域から早く抜け出すだけだ”――とね」
「……そうだが、それがどうした」
「フフッ、別に、ただちょっとね。その考え方は甘いかなって――!」
煙葉山がグンッと片腕を伸ばす。合わせて分身の一体が空を舞う。
俺は待ち構える。
左斜めから近接する。
光の剣を持つ右手とは逆サイド。
距離を詰め、拳にエネルギーを集中している。
「――はんっ!」
と、対する俺は足先を回転させ、光の剣を振るう。
タンッ、と軽快な音を鳴らし俺は回り終える。
結果、襲来してきた葉山の存在は消えてなくなる。
それから、剣舞でも披露するように、通路の一部に向かい光を振り下ろす。
通路の一部を覆っていたはずの白煙は、風でも吹かれたように霧散する。
死角を襲ってきた葉山、
命令を出してきた葉山、
待機して“機”をうかがっていた葉山。
三体はそれぞれに別の行動をとっていたが、俺の一振りの前に掃討される。
目の前にはクリアになった世界が広がるのみ。
ふぅっ、と一息つき、黄金に輝く景色を前にひとりごちる。
「……知ってるだろうけど、俺の光の剣は、ヒーローエネルギーが“間接”さえしていれば、連鎖的に消し去ることも可能なんだよ。イマジンブレーカー的なものとはまた違う。直接触れなくても、この密閉した空間ならば、煙同士を連鎖させて――お前ら全員を倒せるんだからな」
真白さんに謂わせれば、光の剣の仕組み“そのものが”ただの消滅能力とは異なるらしい。
どちらにせよ、ヒーローエネルギーに対して無敵の強さを誇るこの武器は、俺の最強の相棒であり、葉山の煙すらも敵ではない。
――だが。
「――――フフッ、フフフフフフフフフフフッ、わかってる、わかってるさ、そんなことは。僕だって君のことを何も知らない訳じゃないんだからねぇ……」
と、通路沿いの一部に白色の煙が集中し、凝縮し、形成される。気づいた瞬間には、葉山がふたたび復活する。
その位置は、さほど遠くない。もしここが単なる密閉した白煙空間ならば、消しされたばずの位置だ。
(……なるほどね、あえて煙のない余裕を作ったか)
俺、白煙、白煙、煙無し、白煙、白煙、煙無し、白煙、白煙、って感じだ。
どらやら、この葉山――白煙と白煙の間に、意図的なスペースを作ったのだろう。
密集しないことで、救世剣による連鎖消滅を防いでるようであった。
俺対策、ってことだろうか。
どうやら突破には時間がかかりそうだ。
「空気の層か。面倒だなー、余計な手間がかかりそうだ」
だけど、それじゃあ不十分。
俺を倒す根本的な解決になっていない。
確かに面倒だ。手間がかかる。
だが、それだけだ。
裏を返せば、それは――時間をかければ進めるということに他ならない。
光の剣を携える。
大丈夫。
この力が俺にあれば。
「――無事に抜けだせる、とでも思ったかい?」
その時。
通路内に“激しい風”が吹いた。
その風は、その後方から吹きだした風は、その勢いを増大しながら“何か”を運んでくる。
突風で木々が飛ばされる時のように、その何かは、俺の背後に向かってくる。
俺は振り向く。
白煙に運ばれて、俺の目の前に“何か”が現れる。
「SRUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」
「MORUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU――ッ!」
「な、はぁ……っ!?」
とがった角と鋼のような身体。動物に例えるなら、サイに近い生き物。
軟体動物模した触手の塊。見覚えのあるタコのような海洋性の化け物。
間違いない。その容姿は間違いない。
怪獣だ。
怪獣達が、白煙に運ばれて、俺を襲ってきたっ!
「フフフフフ、頑張ってね、新島くん」
葉山が笑う。分身を始めて構える。おいおいおいおい。まじかよ。
「マジかよ……」
俺は咄嗟に超変身のボタンを入力していた。
――迫りくる怪獣たち、第二層における葉山との戦いは、予想外の形で終止符を迎える。
次回「第77話:ヒーロー達の友情煙来(後編)」をお楽しみください。
掲載は4日以内となります。