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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第72話:ヒーロー達の人形道楽(後編)

 第二層の階段前に、強烈な悲鳴が響いた。

「グワァアアァァァァァァアァァッァァァ――ッ!」


 その声の主は、人型式さんであった。


「グワァァ……ァァ、グワ、ァァァ……ァッ!」

 苦悶の音が俺の耳にも到達する。壊れた金属のような音。式さんは苦しみを漏らし、生まれたての子鹿のように微細な震えをみせながら、ゆるりと後退した。


 俺はその様子を忌憚なく見つめていた。

 目を離さないように注意深く、隙を見せないように用心深く、じっくりと、確実に、身体の駆動を確かめながら、地面から――立ち上がる。


「ナ、ナン、ナンァ……!?」


 驚愕の瞳が向けられる。

 視線が熱いぜ。俺は彼女の注目を無視して、身体に付随されたボタンを押す。


 押す。

 押す。

 押す。


 右腕に一回。左脚に二回。右腕に一回。

 入力の完了だ。コンボの完成だ。それで、それだけで俺は新たなるチカラを装填させる。俺の右腕は丸みを帯びて輝きを増す。


「――変身名《限定救世主リミット・セイバー》、種類『直進拳ロケット・ストレート』!」


 焦点は天井。狙いつけて発射する。エネルギー弾はふわりと放たれ、そのまま急加速する。弾丸は天井にかけられたヒーローエネルギーの糸を回収しおえると、

適当な岩盤に埋まって消えていった。


「……さて、これで余計なトラップは破壊されたな」


 満足気な声をあえて出す。まるで自慢するかのように。挑発、するかのように。

 だが、対する式さんは俺の回収作業に怒りの視線をぶつけながらも、その邪魔をすることはなかった。

 いや、正確には、邪魔することができずにいた。


 ――数刻前まで、俺の肉体をヒーローエネルギーの糸で縛り付け、動きを完全に拘束して、そのまま余裕たっぷりの様子で、トドメを刺そうとした式さん。


 だが、攻撃の刹那、俺の拳から放たれた『右カウンターに直撃した』彼女は、その身体を普段通りに働かせることはかなわず、立っているのが精一杯の様子で俺の行動を傍観することしかできなかった。


「グググ……ゥゥ、ナ、ナンデダァ……?」

「は?」

「ナンデェ!? ウゴケタァ!?」


 何で、動けたのか?

 もはや人間の言葉からかけ離れつつあった彼女の問いかけに、俺は頭をポリポリと掻く。


「……なんで動けたか? なんで動けたか、ねぇ……? ヒーローエネルギーの糸に縛られて、肉体の大部分を操作しかけられて、奇跡でも起きないと助からない状況で、なぜ動けたか?」


 俺は、答えを見せんとばかりに、あるものを手のひらに広げた。

 その瞬間、彼女はすべてを理解した。


「……グッ、ググググググゥゥ~ゥ!」


「わかったか。なに、仕掛けは簡単だ。明かす程の種もない。自慢すべきトリックもない。ただ、単純に、相手がヒーローであるならば、たとえ操作系であろうとも、俺には“その力を消しさせる力”がある。――故に」


 俺はナイフ状に縮小化した、光の剣をクルリと人差し指の上で回転させた。


「光の剣を使えば、一発だ。このミニタイプの剣、まだ使い慣れてないけど、どうやらちゃんと効力を発揮してくれたみたいだな。ちゃんと発動してくれた。真白さんが何度も実験させてくれたおかげかな」


 俺は横目で困惑の顔をうかべた彼女を見る。


「グゥゥゥ……、ま、真堂真白、に、新島宗太タァァ……!」


「まあ、そんな訳で、アンタの敗因は勉強不足ってところかな。――俺の勝ちだぜ、人形道楽マリオネット・フィクション


 そう言って、俺は彼女へと近づく。

 一歩。

 また一歩。

 拳を握り、力強く構える。


「ヤ、ヤメ……ッ!」

「わりーな、俺は女でもグーで殴れるんだ」


 右腕のボタンを青く輝かせ、俺は右拳を彼女のみぞおちへと沈めた。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「さて、恒例のポイント確認タイムといきますか」


 POINTS(ポイント数):250

 DAMAGE(被ダメージ数):440/500

 TIME(残り時間):98/180


「おおー、増えてる増えてる~」


 自分の嬉しそうな声が反響して聞こえてくる。


 城ヶ崎さんに倒された時点での点数が、110ポイント。

 そのあと十分以上地道に探索を続けたさいに倒した怪獣たちで、170ポイント。

 今の式さん撃破で、ついに250ポイントだ。

 こう着々とポイントが溜まっていくのを見ると、ちょっと楽しくなってくる。


「さーて、これからどうすっかなー」


 意気揚々と声を出した俺は――地面に倒れたまま動かない式さんを見た。


「…………」


 うん。

 彼女、どうするかな。

 変な奴だったけど、このまま放っておくのも可哀想だしな。

 適当な岩壁の陰にでも、寝かせておいてやるか。


 両腕で抱えようとすると、軽く持ち上がった。さすがヒーローパワー。お姫様だっこも思いのままだ。


 そのまま運んでいると、俺は磔になった8人のヒーロー達の姿が横目を通り過ぎた。

 どーやら、彼女の能力は、彼女の意識が失ったとしても、効果が継続するようだ。彼らは解放されることなく、そのまま残っていた。


(助けていくかー?)


 1.助ける

 2.助けない


 シンプルな選択肢が俺の脳内に出現し、選択を迫ってくる。

 とりあえず助けられそうなら助けてやるか。お礼にポイントをせびれるかもしれないし。ということで俺は「1.助ける」を選んだ。


(多分、ヒーローエネルギーで生成されてるんだろう?それなら、すぐに破壊できるだろう)


 そういう予測もしていた。


「よっと」


 できるだけ綺麗で平坦な地面を選び、彼女の身体をそこに置くと、背を向けてヒーロー達8人を見る。

 光の剣を出して、構える。

 これでうまく救出できたらラッキーなんだが……。


 と、そう思った時に、俺の中で、ある違和感がようやく脳裏をよぎる――。


(……ん? 8人?)


 磔にされたヒーローの数は8人であった。俺は記念すべき10人目だったはずではないのか。


「一人、少なくない?」


 そう疑問を口にした瞬間、俺の意識は暗転した。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 つかの間の空白が訪れる。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 真白さんの言葉が走馬灯のようによみがえる。



「はい、基本的に私の改造技術はヒーローを、他の人間を強くするために使います。というか、Cクラスの生徒は普通皆そうです。しかし、彼女――人型式は違います。彼女は、『自分自身を強くするために』改造技術を使うのです」



「戦えるヒーロー研究家、人型式。覚えておいてください。第二試験の内容がヒーロー同士のバトルロワイアルだとしたら、ほぼ間違いなく彼女の介入があるでしょう。出会った際は、ぜひとも気をつけてください。まあすぐにわかると思いますが」



「アイツ、かなりヤバイ性格してますからね」



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 俺は真白さんの残した言葉をもっとよく吟味するべきだった。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



「ぅ、くぅ、ぉぉおおおおおおおおおお!」


 昏倒が数刻の間だけというのは奇跡と呼ぶ他なかった。

 俺は、起き上がると、即座に両脚の強化を行い、後方へと飛んだ。


(いや、ダメだっ!)


 さらに、嫌な気配を幾度も感じ、俺は空を飛ぶ。


「うぉぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉおぉぉぉおおおぉ」


 先ほど天井の糸を壁ごと破壊しておいたのがよかった。俺は囚われの身になることなく、空中へと逃げ切りその場でホバリングする。


「……はぁ、はぁっ」


 息を切らし、眼下を見据える。


 俺がいたばかりの大地に8人の影が映っている。


 そこには磔にされていた八人のヒーローと、もう一人、場の中心で悠然と佇むメタルシルバーのヒーローの姿があった。


「……まさか、耐えられるとは思ってもいませんでしたよ」


 知的な声が広場内に響いた。

 声の主はメタルシルバーのヒーローだ。


 細く長く針金を組み合わせて作られた肉体は、とことんシンプルさを追求したかのように、無個性であった。ただし、それ以上にその見た目は先刻まで戦っていた人型式に瓜二つであった。


 式さんにそっくりの見た目をしたそのヒーローは、細長く伸びた両腕の先端に、光る糸のようなものを装着していた。糸は八方向に伸びており、八人のヒーローの首の部分に繋がっていた。


 操るために用いられる糸だ。俺は瞬間的に理解した。

 と、同時に、ヒーローの残念そうな声が届いてきた。


「あー、あー、失敗かぁ。奇襲が失敗となると、勝率が落ちるんですよね。やだなぁ……。ねぇ、宗太さん。可愛い女の子からのお願いなんですか、ボクを……実験体にしてくれませんか?」


「……お前は、何者だ」


 俺の問いかけに、ヒーローは「ふぅん」と意味深な呟きを吐きながら肩をすくめる。シンプルな身体の中で、唯一、精巧に作らされた口元から「ニヤニヤ」と笑みがこぼれる。


「何者、何者ねぇ……、そんなのは不毛な質問だと思いますけどねぇ。このボクが何者であるかなんて、そんなこと、ちょっと想像すればわかることでしょう。あなたは解答が提示されてない映画とかは見れないタイプの人間ですか?」


 彼?または彼女は、テクテクと歩みだす。俺が寝かせてあげていた人型式さんの身体に近づくと、そのまま彼女の唇に――キスを行なった。


「は?」

「――――月見式診断術その31:己を見よ。そして相手を見よ」


 唇を封じたまま、呪文めいた言葉を唱えると、人型式さんの身体がみるみるうちに変化を起こし、やがて、頭に触覚のついた昆虫のようなヒーローが姿を現した。


 呆然とした俺に聞こえるように、朗々としたヒーローの声が発せられる。


「1年Aクラス、御崎みざき蝶子ちょうこ、変身名《女流蜘蛛スパイダー・スタイル》、まあ、糸をばら撒く蜘蛛使いのヒーローです」


 聞き覚えのある名前だった。

 確か、二次選考の参加者名簿に載っていた。

 戦闘映像そのものは見なかったが、この試験に参加している人物で間違いない。


 って、いうか、あれ。粘着性の糸? 糸をばら撒く蜘蛛ヒーロー?


「……って、ことは……」


「いや、そりゃそうですよ。何で操作系の人間が、クモの糸出すんですか? 馬鹿ですか、宗太さん。冷静に考えてくださいよ。あんなのの何処が操作系なんですか。宗太さんは女の子に馬鹿にされてて恥ずかしくないんですか?」


 彼、いや、彼女は、蝶子さんというお名前のヒーローから赤いメガネと、黒いローブと、三角帽を奪い取る。


 装備する。


 こちらを見上げる。


 そこには先ほど倒したばかりのヒーローがいた。


「初めまして新島宗太さん。1年Cクラスの人型式と申します。真白さんとは大の仲良しで、親友といっても過言ではないです。彼女甘いものには目がなくて、いつも放課後の帰り道はパフェとか一緒に食べてます」


「……俺、真白さんが星空のマンションに篭ってるのしか見たことねーぞ」


「ああ、嘘ですから」


 さらりと言ってのける彼女。


「変身名は《人形道楽マリオネット・フィクション》。これは本当ですよ? ほんとにほんとに本当ですよ? ボクは人形を操ったりする弱い弱い虚弱で今にも倒れそうなしがないヒーロー研究家です。どうぞお手柔らかにお願いします」


 頭をペコリと下げ、あげると同時に地面を踏み出した。


 その瞬間――彼女の姿が消える。


「――――――ッ!」


 咄嗟の判断で右を首を逸らす。


 同時に、式さんが天井付近の俺の目の前に現れ、拳が弾ける。


 破砕音。

 横を見ると天井の岩盤が彼女の拳で貫かれていた。


「おいおい……最近の虚弱っていうのは壁に穴を開けられるのか?」


「そうですよ。常識ですよ。知らなかったんですか?」


 悪意すらない様子でそうつぶやく。


「それでは、あらためて、スポーツマンシップにのっとったいい試合をしましょうね――宗太お兄さんっ♪」

 正体を現す人型式――人形道楽、彼女の思惑に翻弄される中、新島宗太が出した“答え”とは――。

 次回「第73話;ヒーロー達の人形地獄」をお楽しみください。

 掲載は2日~4日以内を予定しています。

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