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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第71話:ヒーロー達の人形道楽(前編)


 星空のマンションの住人、真白さんはこのように語っている。


「人型式。今回の英雄戦士チームの選考会において、唯一、Cクラスの中から第二試験に駒を進めた人物です」


 その明朗たる語り口も、この時ばかりはいくらか熱味を帯びていた。


「肉体操作のスペシャリスト。入学当初からその才覚を発揮し、わずか二週間たらずで月見式診断法をマスターしたことで一時期クラス内の話題をかっさらいました」

「へー、スゴイ人なんだ」


「……まあ、成績も実力も私のほうが上ですけどね」


 あー、そうなんだ(無関心)


「その実態はニタニタ笑いの気味の悪い“自称”ヒーロー研究家ですよ」


「はぁ」


「自称のねっ!」


「はぁ……」


 真白さんはイキイキしていた。


「どうやら彼女、私を目の敵にしているみたいで、いつもいっつも邪魔ばっかりしてくるんですよ。この前も戦術戦略シュミレーションの時に、いきなり宣戦してきて、他の生徒と徒党を組んで潰してくるし、私が実戦タイプの授業苦手なの知ってるくせに、自分の得意分野の時ばかり挑んできて、ましろさんは本当に弱いですねー、とか言いながら馬鹿にしてくるんですよっ」


「へー、……というか、女の子だったんだ」

「女子ですよ。いけ好かないメガネっ娘です」

「メガネっ娘かー」


 俺は脳内に真白さんを馬鹿にしている「人型式」さんの姿を想像した。

 うーん、分からんな。どんな人間なんだろう。正直、名前だけじゃ、男か女かすら分からんかった。


「だいたい、この前の質量兵器のテストだってそうですよ。めずらしく私が負けたからってクラス中に言いふらしましやがって、あの馬鹿メガネ。その前も、その前の前も私のほうが勝ってるっていうのに、一回負けた時にかぎって、皆に大げさに自慢するんですよ。あれじゃあ、私がいつも兵器部門だとあの子に負けてるみたいじゃないですか……どうしてくれるんですか……」


「……あー、真白さん?」


「そもそも、あの一人称から気に食わないんですよ。ボクって、そんなん漫画の中にしかいませんよ。同じ低身長でない胸のくせに、いっちょまえにカッコつけて……。だいたい、オシャレのつもりなんですか、あの変なメガネは、私知ってるんですよ、彼女の両目が2.0だってこと。ニヤニヤ笑いだって演技ですよ、これだからキャラ付けしたサブカル気取りは……」


「ま、真白さん? 真白さ~ん? ましろ~ん?」


「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……」


 完全に自分の世界に入りこんでしまった。別にリアルに「ブツブツ……」言っているわけではないが、俺には彼女の言葉がもはや念仏に近しい何かしか聞こえなかった。


 人語を有していない。解読不能であった。


「……あー、仕方ない」


 俺は呪怨を唱えている彼女にゆっくりと近づくと、その柔らかそうなほっぺを両側からびろーんと広げた。


「あーー!? あーあーあー、ううー!」

「ようやく気がついたか?」


 彼女は両目をぱちくりとすると、すぐに恥ずかしそうに反省の色をうかべた。


「…………ふぁ、あ、は、はいっ、失礼しました。で、人型の話ですよねっ」


 まあ、そうなんだけどな。それにしても……。


「……仲悪そうですね」


「そ、そんなことないですよ?」


 そんなことありそうだった。真白さんはそっぽを向いて頬を赤くそめる。


「……ま、まあ、要するに私の同類ってやつです。同じ穴のムジナです」

「……ふーん?」


 似たもの同士ねぇ……同族嫌悪ってやつだろうか。


「それで新島さん」

「ん?」

「もうほっぺたから手を離してくれますか?」


「ああ、すまない」


 俺は解放してあげた。どうせならこのまま会話したかったがダメか。ダメだよな。


「ちなみに能力は何だ?」


「はい、変身名《人形道楽マリオネット・フィクション》――その名前からも想像がつくかもですが、ヒーローエネルギーを糸状にして放って『他人を操ることのできる』能力者です」


「…………ふーん」


 他人を、操る……。


「なるほど。なるほどなるほどなるほど。いわゆる操作系ってやつか。だとしたら戦闘中は、大きな隙とかは見せられないな」


 油断したところを背後からグサッと操られて、そのままゲームオーバーになるのは避けたいところだ。

 しかし。だとしたら――。


「逆に考えれば、本体を直接(・・・・・)狙えば(・・・)問題なしだろ。Cクラスの生徒なら戦闘に特化はしてないだろうし、操作系タイプの人間ならそんなに頑丈な肉体はもってないだろうし……」


 と、言うところまで口に出したら、真白さんが小さい手をちょこんと向けてきた。何だか可愛らしい。


「……いいえ、それは違います。さきほど彼女と私は同類だと言いましたが、一つだけ違うところがあります。それは、改造技術の対象の違いです」


「対象の――違い?」


「はい、基本的に私の改造技術はヒーローを、他の人間を強くするために使います。というか、Cクラスの生徒は普通皆そうです。しかし、彼女――人型式は違います。彼女は、『自分自身を強くするために』改造技術を使うのです」


「……それは、怖いな」


「戦えるヒーロー研究家、人型式。覚えておいてください。第二試験の内容がヒーロー同士のバトルロワイアルだとしたら、ほぼ間違いなく彼女の介入があるでしょう。出会った際は、ぜひとも気をつけてください。まあすぐにわかると思いますが」


「アイツ、かなりヤバイ性格してますからね」


「…………」


 ぶっちゃけ、真白さんも相当ヤバイ性格しているよ、と突っ込みたかったが、その台詞だけは、心に秘めておくことにした。


 お祖母ちゃんが言っていた。長生きの秘訣は余計な台詞を吐かないことだと。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 地下迷宮、第二層階段付近、ケケラケラと嗤う人型式さんは、舐め回すような視線を放ちながら俺に問いかけてきた。


「クフフフフッ、新島クゥン、新島クンは、ハンターハンターとか、読むノカナ?」


「……ハンター? まあ、たしなむ程度には」


「これ、0.1mlでクジラとか気絶させる毒ネ……」

「……ベンズの中期型だっけか?」


「ヤルネ~♪」


 いや、どっちかつうと、アンタが読んでることに俺は驚きだよ。


 第二層階段前の戦い。俺は彼女に勝利して先に進まねばならないのだが、式さんは腰深く身体を沈めたまま、こちらを観察して動こうとしない。


 罠なのか。誘っているのか。それとも何かの準備をしているのか。


 とにかく俺は相手のペースに嵌らないように注意しながら、会話を続けた。


「それでなんだよ、まさかジャンプトークをしに、俺を引き止めたワケじゃないだろ」

「アハハハッ、ソリャア、そうなんだけどネ!」


 式さんは両手を正面に向けながら、こう言葉を続けた。


「ジャア、宗太クンは、幻影旅団知ってるネ? キミの“チカラ”は旅団で例えれば、ウヴォーギンみたいなものダ? 言ってること判るかい?」


「……まあ、何となく」


 解説させてもらうと、ウヴォーギンとは、ハンターハンター内に登場する《幻影旅団》と呼ばれる残虐非道、冷酷無比の我々は何ものの拒まないだから我々から何も奪うなの盗賊集団における初期メンバーの一人だ。


 とんでもない怪力の人物であり、その腕はRPGクラスの兵器を受け止め、文字通りの小型ミサイルレベルの一撃を放つ。


「すんごいパワーで一撃必殺を下す。単純シンプルッ!『何よりも強くただ強く』ネ。ヒーローとしてはとっても理想的な能力ダネ」


「……そいつは、ありがとよ。お前はなんだ、シャルナークあたりか?」


 すると人型式は奇っ怪な笑い声とともにこう返してきた。

 片手をするりとコチラに向けて断罪の言葉を放つように。


「フフフッ、ボクは――クラピカだヨ。ウヴォーギンを殺したクルタ族の生き残り。強化系のもっとも敗れやすい相手。束縛、拘束、操作、何でもござれの鎖使いネッ!」


 叫びの終わりに合わせて、彼女は腰を落とした状態から、両手を左右に大きく振るった。


 瞬間。


 彼女を中心に――クモの巣が張り巡らされる。糸状のヒーローエネルギーだ。


「……うわっ!?」


 思わず一歩後ずさる。


「怖がらなくてイイヨ~、ちょっとベタベタするだけだから、貼り付いたらそのまま捕獲ネ~」


 彼女はそう言って、地面を踏み出した。

 粘性を糸を辺りに放ちつつ、彼女が接近してくる。


 対する俺は、気圧されかけた気持ちを切り替え、ペースに飲まれないように注意する。今の状況に集中する。


 冷静な分析をおこなう。


(式さんとの距離、おおよそ10メートル前後。速度はそこそこ、中の上くらい。速いが、対処できない速度じゃない)


 バンダースナッチなどの超速怪獣を相手取ってきた俺にとって、平均的なヒーローの動きは鈍重にみえた。


 速さに身体が慣れたのだろうか。


 対応できる。


 戦える。


 故に、負けることはない。


(人型式さん。戦うヒーロー研究家。他人を操作する力を持つ。魔女っぽい見た目。三角帽子に黒いローブ。身体は銀色で細身。全身からクモの糸を放出しながら現在接近中。こりゃあマトモにぶつかりたくないなぁ……)


 俺は彼女の後方にいる9人のヒーロー達を見る。どれも知らない顔だ。もし彼女とのバトルに負けたら、俺もあのメンバーの仲間入りだ。


 うわー、それだけは嫌だー。


 彼女は、クモの糸を周囲にまき散らしながら、そのまま向かってきている。


「ケケケケケケッケケケケケッケケ」

「笑い方怖っ!?」


 突っ込みながらも、観察は怠らない。


 この戦いのポイントは――あの糸だ。


 おそらく触れたらアウト。その時点で敗北だと思っておいたほうがいい。しかし、その場合、俺の選べる選択肢は数が限られてくる。


(――攻撃(捕獲)と、防御を同時に行える武器か……やっかいだな)


 ああも、糸を張り巡らされては、近づいて肉弾戦に持ち込むのは難しい。彼女の周辺の地面は粘性の高いエネルギー体で充満しており、立ち向かえば逆に確保されてしまう。


「サァ、戦って捕まル? 逃げて捕まル? それとも捕まル?」


 俺は両拳を握り構えをつくる。同時に心の中である策を練っておく。


 確かにあのベタベタ地面を走るのは無理だ。走れるのは、放出した式さん本人だけだろう。俺は逃げなければ、彼女の言葉どおり捕まってしまう。


 このまま徒手空拳で立ち向かえば、負けるのは必須。


(だが、それも走った場合(・・・・・)の話だ!)


 あくまで待ち構える態勢をとりながら、同時に背中の方に意識をためた。


 そうだ、俺には――空を飛ぶブーストがある。


 残念だったな。

 空中から攻撃すれば、地面がベタベタだろうと関係ないんだ。


(――――ブースト、オン!)


 肩甲骨に、強烈な熱を感じる。俺は加速し、空へと飛ぶイメージを想像する。想像は認識を生み、認識は現実を侵食し、俺の身体は飛ぶことを可能とする。光のヒーローの如く。徐々に、身体が、地表から、浮き上がる。


 そして、俺は飛翔する。


「ケケケケケケッケケケケケッケケ、オオー、飛んダァー、本当に飛んだヨォー!」


「ははっ、甘かったな、これでお前の糸は当たらないぜっ!」


 第三層から逃げ切った偉大な能力だ。今回も頼らせてもらうぜ。


 迫りくる式さんの動きを読み、空中へと回避する。勢いを失わずそのまま一回転。うーん華麗だ。このまま天井の岩壁を踏み台にしよう。天井を蹴り、その勢いでダイレクトアタックだ。そう思い、上を目指す。


「さぁて、こっからが、俺の反げ――――っ!?」


 上を目指す。

 上を……。

 上を……。


 俺の動きがとまる。


 いきなりのできごとだ。

 上昇を続けた、このまま続けようとした俺の動きが、ピタリと、空中で静止した。


 始めは違和感。続いて焦り。徐々に焦燥感が危機感へとシフトする。


 まるで、しびれ薬を盛られたように、俺は、俺の身体は制御が効かなくなる。ブーストも熱の放出をやめる。まるでエンストを起こした車のように。


 な、なんだ……?


 下を見ると、式さんが実に愉快そうな顔をうかべている。


「クフフ、クフフフフッ、“反撃”ガァ? ナンだっテェェェ??」


 彼女は、両手の指をクネクネと動かしている。その指は、昆虫の触手のようであり、植物の蔦のようであり、彼女の向ける眼鏡越しの両目は、罠にかかった蝶を見る毒グモのそれである。


 捕食者の眼であった。


「…………ひぃっ!」

「ククククククッ、クククククククククククッッ!」


 生命の危機を感じる。俺は恐怖のあまり彼女に尋ねる。


「な、何故だ、糸は、避けたはずなのに……っ?」

「避けたァァ? 何を不思議なコトをイッてるんだ? 周りをよく見てご覧ヨゥ……」


 式さんの言葉に導かれるように俺は自分の周囲を見渡した。

 ブーストでの飛翔をした俺。天井への到着を目指した俺。地面から離れ捕獲されなかったはずの俺。


 だが、今まさに、天井に張り(・・・・・)付けられた(・・・・・)大量の糸が(・・・・・)俺の肉体を完全に封じ込めていた。


「な、何だよ、いつの間に、こんな……っ?」


 俺は捕食対象であった。


 鴨が葱を背負ってきたような格好の標的であった。

 焦った俺は身体を必死に動かす。だが、取れない。取れない。取れない。

 まるで物理的な論理とはかけ離れた、超次的な固着であった。


「――つーか、おいおい、おいおいおいおい……!」


 俺は気がついた。このエリアの天井、よく見ると、隅から隅まで、粘着性の糸で覆われていた。


 それは戦闘中に隠れてできるような行為ではなかった。

 まるで、そうそれは、まるで、あらかじめ、空を飛ぶ人間を捕獲するために作られたような――。


 そう思い至ったと同時に、式さんのメガネの奥がその質を変えた。


「クフフフフ、気づいたようダネ。……甘いよぅ、甘いよゥ、新島クゥン、キミの戦闘動画は、チャァ~ント一次選考のビデオに撮られているンダ。ソレを、ボクみたいなCクラスの人間がチェックしていないわけないダろ……ゥ? 危なくなったら、空に逃げて回避する。――キミの常套手段じゃないか。このボクが、予想できなかったとでも思うのかィィ?」


 式さんは、片手をクイッと手元に引き寄せる。すると、その動きに合わせて俺の身体がグイッと飛び出していく。


 ま、マズい、……すでに肉体を操られはじめている。


 俺は為すがままに、地面に激しく墜落する。

 身体を地面にうずめながら、俺を見下ろす式さんの輪郭を捉えた。


「クフフフフ、ましろんの実験体が、第一層で死ぬはずないモノォ。ずっと待ってたよウォ、キミを仲間に引き連れて、ボクは、あの第二層を完全攻略すル」


 式さんが、ゆっくりと、ゆっくりと、接近してくる。


 焦って俺は身体を動かすが、動かない、動かせない。本当に動かない。こんな奇襲で。ただの一回の油断。これだけで。これほどに。ヤバイ。危機的な状況に陥るだなんて……。


「言ったダロゥ……?ボクはキミとの相性は最高だってェ……一発でも決めたら、すべてが終わる。それが操作系ヒーローの真骨頂さァ……」


 そうして、俺の前に立ちふさがる人型式さん。やばい、ガチでヤバイ、俺は恐怖で顔がゆがむ。


「サァて、実験の開始だァ……、覚悟するんだね、新島クゥン」


 第二層階段前に、大きな悲鳴があがった。

 ――人型式に翻弄される新島宗太。彼の運命は如何になるのか。後編に続く。

 次回「第72話:ヒーロー達の人形道楽(後編)」をお楽しみください。

 掲載は2~4日以内を予定しています。

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