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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第5章 運命動乱編(後編)
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第64話:ヒーロー達の急速落下

 中学1年生の夏休み。

 俺は、自分の街を襲った怪獣の正体について調べたことがある。


 一軒家ほどの巨体、山肌を切り崩したような表皮、岩石を繋げてできた眼球。


 事件はすでに過ぎ去った後であり、日常が快復してから一年近くが経過していた。だが、事件の詳細は調べればすぐに解った。それほどにあの事件は、強大で凶悪で衝撃的なものであったのだ。

 古い新聞記事を引っ張りだし、市立図書館のデータベースで検索をかけることで、怪獣の名前も知ることができた。


 怪獣ジャバウォック――元は、ルイス・キャロル原作の小説『鏡の国のアリス』に登場する正体不明の化け物。


 そいつが。俺たちの街を襲った怪獣の正体だ。


 脅威度は100オーバー。属性は不明。出現する個体によって見た目や性質が異なるらしい。“バンダースナッチ”と呼ばれる別個体の鳥獣の軍団を引き連れて、物語の世界の獣のようにいきなり現れることから、その名前が付けられた。


 残忍で、無邪気、純粋で、破壊的。――神出鬼没のジャバウォック。


 テレビ画面の中から出現したような怪獣――という当時の俺の感想は、皮肉にも的を得ていたわけだ。


 ジャバウォックの出現例は近年増加の傾向を示しており、“いきなり”そして“前触れもなく”現れる可能性の高いことから、ヒーロー達の間でも怖れられているらしい。


 俺の街が破壊されてから三回。少なとくとも、世界においてジャバウォックの出現が観測されている。ヨーロッパで二回。アジアで一回だ。


 将来、俺がヒーローになった暁には、ジャバウォックと戦う日が来るだろう。

 ヒーロー学園への合格通知が届いた夜――俺はベットの上で一人そう確信していた。



▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

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(……やけに、落ちてるな)


 地面を破壊し、第一層から下の階層に進む、というとんでもない荒業を敢行した俺たちは、暗闇の中を真っ逆さまに落ちていた。


「うわああぁぁぁあああああ!」


 楽しげに声をあげるあゆ。前回の反省から口を閉ざす俺。

 想像以上に落下時間が長いことに不安を覚えながらも、今はただ重力に身を任せる他仕方なかった。



「うわー」


 と、ようやく地面に到着する。俺たちの考えが正しければここが“第二層”になるのだが、……どうなんだろう?


「……ちょっと、薄暗いな」「一層の方が明るかったよねー」


 あゆとともに周囲を観察してみる。構造自体は――先刻までの第一層と変わらないようだった。

 ここは『通路』のエリアに相当する。

 ただ、どうも全体的に壁や地面が“じめじめ”していた。


 黒ずんでいるというか、湿っているというか。

 何となく雰囲気が“暗い”のだ。

 ラストダンジョン、みたいな。そんなおどろおどろしい感じを漂わせている。


「とりあえず、適当に歩いてみよっか?」「そうだな」


 迷っていても仕方がない。俺たちは出発した。



 ――そして、俺たちの“嫌な予感”は、比較的早い段階で判明することとなる。



 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼



 右腕の計測器――――『悪魔達の輪っか(デビルズ・リング)』をチェックする。


 POINTS(ポイント数):90

 DAMAGE(被ダメージ数):440/500

 TIME(残り時間):152/180


 試験開始から28分が経過。時間的にはまだまだ余裕がある。

 そして――今の俺たちは岩陰から息を潜めていた。


「KRUUUUUUUUU……」

「BRUUUUUUUUU……」

「PRRRRRRRRRR……」


 ノッシノッシと歩く足音。テクテクと闊歩するひずめの音。ポワンポワンと空中を浮く不可解な音。


 巨大な怪獣三体が通過していくのを、俺たちは隠れて見つめていた。


(だ、ダメだッ! ごめんソウタ君、私、我慢できないっ!)

(お、落ち着くんだ、あゆ。クールになれ。ほ、ほら、素数を数えるんだ)

(え、う、うん、……1、……)

(…………)

(……ゴメン、ソウタ君、私我慢できないっ!)

(早まるなあゆ!あと数えるのを諦めるのが早すぎるっ!)


 そもそも“1”は素数ではないし。あゆの学識の無さを忘れていた。


 俺たちは怪獣たちに見つからないように隠れていた。「戦うー! 戦うー!」といって聞かないあゆの身体を無理やり羽交い締めにしてだ。


(落ち着けあゆ。敵の実力は明らかに俺たちより強い。それは“さっきの一戦”でよく解っただろ?)

(むー、でも本気を出せば私の方が強いのに……)


(それで満身創痍になって残り時間どう戦えってんだ。ここは、あいつらがバラバラに別れるタイミングを見計らうんだ。――そこから、各個撃破を狙う)

(……2対1、かっこ良くない)


(なら、戦うのは別々でいい。とにかくこの先の曲がり角は三手に分かれている。きっと奴らも三手に別れる。その時を狙うんだ。オーケー?)

(…………おーけー)


 悔しそうにうなだれるあゆの頭に手を置きながら、俺は背後を通過していく怪獣たちを観察する。


 一体目は鳥のような見た目。しかし、鳥の見た目をしている癖に、細長い脚が四本付いており、地面を這うようにして行動している。


 二体目は牛のような見た目。対して、コイツは二足歩行で歩いており、どうバランスをとっているのか、前足を器用に腕組みながら、白黒の太った身体を揺らしている。


 三体目は――電気ウナギだろうか。深海魚にいそうなグロテスクな見た目と、バチバチとあがる火花は間違いなく電気ウナギのものであった。そして、何故かこいつは浮いている。理由はわからんが空中に浮いている。別に原理は知りたくない。


 特徴はバラバラで、外見もバラバラで、チームを組んで行動するような奴らではない。

 事実、先刻の戦いにおいても、牛と電気ウナギはあとから参戦してきたのであり、お互いに協力し合うような様子も見られなかった。


(だが、コイツラにも“共通点”はある――!)


 俺はしっかりとこの両目で“目撃”していた。怪獣たちの頭部から背中にかけて刻まれた“ランクA”の紋章のことを。


(……これは推測だが、たぶん合っている。俺たちがいるのは第二層じゃない(・・・・・・・)


 あゆの砲撃が強力だったのか、俺の拳が強力だったのか、地面が想像以上にもろかったのか、どれかは分からない。


 だが、俺たちのいる場所は、間違いなく、第三層――ラストダンジョンであった。


(その証拠に怪獣のレベルがはね上がっている。とんだ空間跳躍ワープだな)


 アイデアを出した身としては、あゆには申し訳ないことをした。俺は抑えていた頭を撫でながら、彼女の方を振り向く。


 あゆが――お地蔵さんになっていた。


(――――!?)


 いや、違う。驚く心臓を抑えながら、よく見ると。それは精巧に作られた石像であった。等身大の大きな石の置物だ。あゆはどうした。という疑問が飛び出るのと同時に背後から声が聞こえた。



「――1年Dクラス、川岸あゆ、変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》!」



 隠れ家に選んでいた大きな岩場の上から堂々と、片腕を腰に当て、片腕で怪獣たちを指さしながら(指はないが)、声高に宣言した。


「――君たちの探している私はここだぁ! いざ尋常に勝負だっ!」


(うわあああああああああああああ!)


 俺は呆れというか嘆息というか衝撃というか馬鹿じゃねえのコイツというかとにかく、“必死の思い”から、次の行動を判断した。

 俺は、あゆの足場を大きく拳で――殴った。


「PRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR――ッ!」


「うわわわ――っと!」


 あゆが宣言したと同時に、電気ウナギから目の霞むような電流が弾け飛んでくる。俺はすでにあゆの立っていた岩石を破壊しており、その結果彼女は姿勢を崩していた。あゆは落下し、彼女の頭部を、ウナギの電流が槍のようにかすり飛んでいく。


 ――どうにか間に合った。危機一髪だぜ、まったく。


「何すんのさ、ソウタ君!」

「それはこっちの台詞だ。バカ野郎!」


 あゆの言葉に構っている暇はない。おかげでアイツら全員俺たちの存在に気づいちまった。解ってんのかあゆ。第一層のイノシシみたいにうまくはいかないんだぜ。アイツラ全員ランクA。おそらく脅威度で言えばオーバー70はくだらない化物級だ。まともに相対できるわけがない。


(つーか、さっきのバトルじゃまともに戦えなかったし!)


 少なくとも超変身や、“奥の手”を使う必要にかられる。まったく、初っ端から全力全開でいきたくないのによぉー。


 だが、あゆは俺の思考でも読んだのか。こう言葉を返した。


「――大丈夫、ソウタ君。ソウタ君の作戦はきちんと順守させるよ」

「……え?」


 そう言って、彼女は怪獣どもに掲げていた右腕の狙いを、わずかに上方向に傾ける。

 激しい機械の駆動音を鳴らしながら、あゆは言葉を放つ。


「――「《全壊右腕クラッシャー・アーム》発動! 種類『掘削機ボーリング』ッ!」


 飛び出す銀色の槍が破壊音を引き起こす。

 狙うは――天井。

 怪獣たちの真上の岩盤であった。


「切り崩せぇぇええぇぇぇえええええ――――っ!」


 力を込めて振り下ろす。怪獣たちの頭上が崩壊し、巨大な落石が――三体を襲うっ!


「KRUUUUUUUUUUUUッ!?」

「BRUUUUUUUUUUUUッ!?」

「PRRRRRRRRRRRRRッ!?」


 困惑する怪獣たち。

 砂煙が立ち込めて、狂音が響き渡り、周囲は混乱の渦へと落ちていく。


 そして。


「お、おお……!」

「――作戦、成功。ミッションコンプリート!」


 三体いたはずの怪獣たちは――分断されていた。

 一体が巨大な岩壁に塞がれた状態のまま消えており、残る二体のみが、俺たちの眼前に姿を現していた。


 牛と、電気ウナギのやつだ。


「これで、二対二。公平フェアだねっ!」


 あゆは右腕の大砲に軽く口付けをしてから、クールにそして熱く言葉を投げかけた。


「……かっけぇな、おい」

「ふふーん、惚れた?」

「いや、別に」

「あうー」


 あゆは大袈裟にガッカリしたポーズを取りながら、右腕を目の前の二体に合わせる。


「さあ、ソウタ君」「……ああ、怪獣狩りの時間だ」


 ランクAの怪獣とタイマン張らしてもらおうか。


 あゆと俺は、怪獣目掛けて駆け出していった。

 偶然にも第三層まで落ちてしまった新島達、彼らに待ち受けるランクA怪獣の洗礼とは、そして真堂真白の改造の成果が今試される――!

 次回「第65話:ヒーロー達の怪獣激突」をお楽しみください。

 掲載は4日以内を予定しています。

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