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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第4章 運命動乱編(前編)
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第57話:ヒーロー達の足蹴による平穏

 俺がクロさんから任された“仕事”は、内容自体は、非常に単純なものであった。

 “監視カメラの作動確認”と“感知器のチェック”である。

 よくスパイ映画などで、主人公が、赤いレーザーの張り巡らされたエリアを、華麗にすり抜けていくシーンがあるだろう。

 逆に引っかかると、アラーム音がビー!ビー!ビー!と鳴って侵入者を捉える奴だ。


「へぇー、ああいうのって実在するんですね。

 ル○ン三世とかト○・クルーズとか、フィクションの世界の住人だけのものだと思ってましたよ」

「ト○・クルーズは実在の人物だけどね……。

 そりゃ、あるわよ。フィクションは現実をもとにしているんだから。学内の感知器は、変身ヒーローの時に触れると反応する仕組みになってるわ。

 一応、“校則違反”という形をとるから、自動的にその場でお仕置きを受けることになるけどね」

「へぇぇー、お仕置きですか。何されるんですか?」


「焼き土下座」


「えっ?」

「地面から現れた熱い鉄板の上を、謝罪の意味を込めて頭から熱い鉄板の上に土下座するの。そのまま10秒間、熱い鉄板の上で耐えぬくことになるわ」

「…………」

「あとは千本ノック。白色と黒色のクマがいきなり現れて、鐘を鳴らして、首を引きずって、野球の的にされてボールで殴打されるわ。千回」

「厳しすぎやしませんかっ!?」


 ちょっとハードすぎた。いくらヒーローの管理体制を強化するためとはいえ、厳格すぎた。

 余裕で死人が出るレベルである。


「冗談よ」

「じょ、冗談ですか……」クロさんって基本的に無表情だから、どこまでジョークなのかわからない。


「ちゃんとした学校なんだから、そんな酷いことはしないわ。本当は軽い電流が出て痺れるくらいで済むわよ」

「それも十分に怖いですけどね……。

 ちゃんと人体に影響でないか、調べてあるんでしょうね?」


 クロさんのことだから安全管理は完璧なんだろうが、それでも不安にはなってくる。許可をもらっているとはいえ、俺も年中、学内で変身している人間なのだ。事故じゃなくとも、何かのはずみで“とばっちり”を受けないとは限らない。


「大丈夫よ。新島くん、安心してちょうだい」

「なら、いいんですけど……」


「だって、今からそれを確かめに行くのだから」


「……えっ?」

「だから、安全に万全をを期すために、人体に影響が出ないかのチェックを、

 “今から”確かめにいくのよ」

「…………」


 ――俺は冒頭でこういっていた。

 クロさんから任された仕事は、内容自体は非常に“単純なもの”であると。

 それは間違っていない。

 おおむね真実だ。

 ただ、誤解があるとすれば、“単純な仕事”とはイコール“楽な仕事”とは限らないのだ。


「これから、新島くんには、ヒーローに変身してもらって、検査値が反応と、お仕置きのダメージをチェックするモニターになってもらうわ。今日はまず研修として、本格的な検査は明日以降しちゃいましょう。システム上でも管理してるのだけど、やはり人体に影響のあるものは、実際に肌で体感して確認しないとね。それから、…………あら? 新島くん、何を両手を地面につけて倒れているのかしら? もうましろんの実験は終わったはずよね」


 クロさんの視線を背中で感じながら、俺はゆっくりと立ち上がる。

 頬が引きつって、うまく笑えない。

 これがあれか。“恐怖”ってやつか。


「…………冗談ではなくて?」

「冗談ではなくて」


 真顔だった。いつだって真顔の彼女だが、この時ばかりは「マジよ」というオーラが後ろから垣間見れた。


 結果。

 この日、俺は時給一万円という、ホステスばりのバイト料を得て、夜遅く帰宅したのであった。

 高額の謝礼金の代償に関しては、深く追求しないでいただきたい。


 結論:「単純作業です!」「誰でもできます!」といううたい文句には気をつけよう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 と、ここで語りを止めると、俺が大金を得た代わりに、ひどい目にあったという話で終わるが、それだけで展開は止まらない。

 時給1万円の他にも、クロさんからは“特典”が付けられた。


「ボーナスよ。ボーナス」


 と、彼女から渡されたのは“監視カメラの一部使用権限”であった。

 使用権限。

 つまり、俺は俺は“限定的”であるが、クロさんの監視カメラを使ってもいいことになったのだ。


「え……いいんですか、使ってしまって? というか使わせてしまって……」

「いいわよ。というか、許可自体は他の人にも与えているし」


 クロさんは飄々(ひょうひょう)とした態度でそう応える。

 驚かされた。

 何だか、苦労するイベントをクリアしたら、意外な特典がついてきた気分だ。


 学内にある監視カメラを自由に使っていいということは、

 イコール学校の状況を完全に把握できる“神の監視者”になるということだ。


(俺がそんな法外な権力を持ってしまっていいのだろうか……)


 ちょっと根本的なお話をしよう。


 そもそも、ヒーローが何故、ヒーローとして、活躍できるのか。

 ヒーローが、ヒーローとして、ヒーローたりえるのか。

 それは、ヒーローが、誰かのピンチの時に必ず駆け付ける“万能の観測者”であるからだ。


 破壊を見逃さず、危機を見過ごさず、絶望を見落とさない。

 あらゆる事象を把握する“神の視点”がヒーローには要求される。


 だからこそ、クロさんのようなヒーローや。

 シロちゃん先生のような感知系のヒーローは重宝される。


 怪獣の出現を“瞬時に”把握するために、国によって正式に設置された検知器が、世界のあちこちに点在している。今、この現代においてでもある。


 全てを把握する力というのは、それくらいヒーローとして大切なことなのだ。


(……って、前に生徒会長が言ってた)


 会長の言うことなら間違いはないだろう。


 そして、学内において、その視点とは、このクロさんの監視カメラに相当する。

 学内に無数に設置された、人ならざる万能の視点。

 この場合、観測するのは、怪獣の出現ではなく、ヒーロー犯罪の方であるが、本質的な意味は変わらないはずだ。


 そんな強権をクロさんは“一部とはいえ”譲渡してくれるという。


 俺の心配と不安をよそに、クロさんは軽々しく言い切る。


「……別に構わないわよ。私もそれなりに新島くんに興味が湧いてきたし、ヒーローとしても成長して欲しいかな、と思うし」

「はあ、」


「だから、むしろ、権力を持つことで“責任の重さ”とやらを体感して欲しいわ。

 役割の重さに向き合う精神は、一流のヒーローとしてやっていくなら、必ず要求されてくるパワーだから」

「ぱわーですか?」


「パワーよ、自由を押し通す力を“POWERパワー”と呼ばずして、この世に力などないわ」


 クロさんはそれだけ言って、俺に黄色いカードを渡してくれた。


「黄色いカードはLevel.1まで、赤いカードはLevel.2まで、青いカードはLevel.3まで。それぞれの段階に合ったカメラを見ることができるわ」


 と、彼女は流れるように言葉を紡ぐ。


「そして、Level.5まで見ることができるのが、この黒いカードになるわ」


 と、漆黒に包まれた長方形の札を軽く見せた。彼女の黒髪のように、汚れ一つない完璧な“黒”であった。


「またお仕事頼むことあるだろうから、頑張ってくれたら権限を上げるわよ」

「…………」


 そんな、経験値が溜まったら新しいスキルを教えるわ、といった気楽さで、クロさんはそう言った。

 俺は渡されたカードをじっと見つめる。


(そうか、これがあれば、俺は……)


「……ちなみに、鑑賞したデータは履歴ログに残るからわ。更衣室とか、トイレとか、そういう場所を覗いたら、一発でバレるわよ」

「……、い、いやだなあ、そんなことするわけないじゃないですか~!」

「目が泳いでわね」


 図星だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「へぇー、クロさん監視カードくださったんですか。気に入られてますね、新島さん」

「そうなのかな?」

「ですです。クロさんって、自分の“役に立つ”と感じた人にしか、配らないらしいですから」


 ところ変わって、時間も飛んで、木曜日。

 俺と真白さんは星空のマンションで、実験をしていた。

 今日は、床に寝そべるのではなく、俺が座った状態のところに、真白さんが上から乗っかってきた。ふにぃとお尻の柔らかい感触がヒザのところに当たる。


 可愛くいえば、女の子を抱きかかえている状態、悪くいえば、人間椅子にされている状態だった。


 そして、真白さんは前に座ったまま、俺の両足をげしげしと踏んづけてきた。

 げしげしと。

 執拗に蹴りを続けていた。


「…………」


 真白さんの筋力は、おおむね小学校の低学年レベルであり、肉体的なダメージはほとんどないのだが、ただ、なんというか心が痛かった。

 げしげしげし。

 嫌がる女子をムリヤリ抱きかかえているみたいで。

 なんかすげー嫌われてんじゃないか、という気持ちにさせられた。


「え~い♪ えーい、えいえいえいえいっ♪」


 唯一の救いは、真白さんが(若干引くくらい)いい笑顔で踏みつけてくれたことだ。

 ……本当に、趣味じゃないんだよな?


「おそらく、クロさん的には“先行投資”の意味も含んでますよ」

「……先行投資?」

「この子は将来大物になるかもしれないから、今のうちに仲良くしておこうって魂胆です。きっと、何年後かの見返りを期待しているんでしょう」


「……ふーん、将来性を見込まれるのは、嬉しいけどな」


 同時に、何だか複雑な気持ちだ。見返りを求める関係というのは、十代男子の俺には、ちょっと寂しい気持ちにさせてしまう。


「ちなみに、私は完全に将来の新島さんに期待しています。仲良くしてるのもそのためです」

「素直すぎる!?」

「ほらほら、新島さん。早く強くなって、私に恩返しをしてくださいよ」

「そして早くも要求してくる!?」


 真白さんはそう言いながら、ゲシゲシとテンポよく、俺の足を踏んづけてくる。

 痛くはないし、むしろ力がみなぎって来る感じなのだが、何だか人として間違っている気がする。


「……どうですか、新島さん? 私に足を踏まれてどんな気分ですか?」

「……いや、何だか元気になってくる感じはするよ」

「マジヤバイですね」

「うるせぇよ」


 俺は目の前にある真白さんの頭をアームロックで抑えた。


「痛い痛い痛いです!」

「あんまり人を舐めたようなことをする罰だ」

「割れます割れます、飛びます」

「何がだよ」


 記憶か。データか。

 調整をミスられても困るので、そろそろ手を離してやることにする。


「……ふぅ、調子に乗りすぎたのは謝ります。……ごめんなさい」

「うん、なら許す。あんまり、言葉を思ったままに言い過ぎるな、ムカつくから」


 ここ一週間、真白さんとの付き合いがかなり増えたが、彼女はやっぱり変であった。

 マトモかなー、と何度か考えた時もあったけど、やっぱ変だった。

 2:8くらいの割合で、変人だった。

 なので俺は、できるだけ彼女を『常識人』に仕上げようと教育することに決めたのであった。


「でも、本音を建前で隠すことが、世の中の“常識”だって言うんですか……?」

「うるさい、それっぽい正論を言うな」

「痛い痛い痛いです!」

「お前は今時の高校生か」

「私は高校生です!」


 こんな感じに教育しているのだった。

 真白さんが俺をヒーローとして強化してくれているように、俺も真白さんを『普通の人』としてプロデュースしているのであった。

 まあ。つまりは。

 見事に利害関係なのであった。


「……で、でもっ、確かに最初は、新島さんの成長性を狙って接近してきましたが、

 パートナーにしようと決意したのは、新島さんの“強くなろう”とする気持ちに惹かれたからですよ」


「む」


「初めてお会いした時、新島さん、私の『最強のヒーローを生み出す』夢を、いい夢だって言ってくれたじゃないですか。……それからです。私がこの人とならうまくやっていけると思いはじめたのは……」


「むむむ」


「だから、新島さんの将来には期待していますよ。この世の誰よりも、強いヒーローになってくれると。無理だろうとも、私がそうさせて見せます。

 ですから、その点だけ勘違いなさらないでください」


「むむむむむ」


 …………いや、まいった。

 こんなに真っ直ぐなことを言われては返す言葉がない。

 俺の顔も赤くなっていることだろう。いやはや、恥ずかしい。

 とりあえず。


「ナイスだ、真白さん。君にはアメをあげよう」

「わぁい」


 餌付けすることにした。

 目の前にある彼女の口元に、アメを入れ込むのであった。


「こういうこと言えば、新島さんに褒められるんですね。私覚えました」

「だからって、嘘はダメだからな。嘘は」

「はーい」


 わりと素直であった。



 ☆★☆★☆★☆★



「それで、今日は何のバトルを見るんですか?」

「今日はな……ついに“あの人たち”が一次選考を受ける日なんだよ」

「あの人、たち?」


 もはや、恒例行事となりつつある、一次選考会の鑑賞会。

 俺はクロさんにもらった“監視カード”を近くのマシンに挿入し、スクリーンを操作する。

 いくつもの鑑賞できるカメラと、できないカメラを振り分けられていく中、俺は一つのエリアを指し示す。


 ――、一次選考会の“三年生用”会場『特別訓練室Ⅲ』。

 時刻は現在16:50だ。

 俺はカメラを巧みに操作し、目的の人物たちを発見する。


 多くの人たちが集まる中でも、とりわけ“異彩”を放ってらっしゃる。


 一瞬でわかる。そんな圧倒的なまでの存在感だ。


「いたぞ、真白さん……」


 特徴なき特徴。無個性ゆえの個性。中性的な表情からはその内実は読み取ることができず、どこまでが計算なのかつかみとることはできない。


 強烈な眼光。不遜な口元。他の生徒の手前、今は作り物めいた微笑みを浮かべるが、その中身が荒々しき炎で燃え盛っていることを俺は知っている。


「……ああ」真白さんが納得した声をあげる。


 本日、6月7日、木曜日、一次選考会5回目。

 特別訓練室Ⅲ――三年生、特設部屋。


 俺たちの生徒会長:和泉イツキと、俺たちの副会長:君島優子の、選考会であった。

 作動する“神の視点”始動する彼ら彼女らの物語、星空の輝く宇宙から新島宗太は何を見るのか――!

 次回「第58話:ヒーロー達の主人公属性」をお楽しみください。

 掲載は4日以内を予定しています。

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