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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第4章 運命動乱編(前編)
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第53話:ヒーロー達の超電動兵器

 1年Cクラスの司令官見習いである真堂真白さんは、以下のように語る。


「――1年Sクラス狗山涼子さん。変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》の有する二つ目の能力『絶対に斬れる前肢』には、怪獣やヒーローの放出するエネルギーを消し去る力がある、と言われています」


 真白さんは、分析屋の面目躍如といった調子で、さらに言葉を続ける。


「『絶対に斬れる前肢』の性質は、新島さんの《限定救世主リミット・セイバー》の剣にかなり似通っています。

 それも新島さんの能力が、ヒーローエネルギー“のみ”を消滅させる一方で、狗山さんの巨剣は、それ以上、ヒーローも怪獣も関係なく、あらゆる超常の力を斬り裂く剣であると考えられます」


 ――怪獣やヒーローのエネルギーを消し去る力。

 ――俺の光の剣の上位互換たる能力を抱いた彼女の力。

 その存在の事実に対し、その真白さんの見解に対し、俺はつとめて冷静な口調でこう返した。


「……その能力のことは、俺も知っているよ。生徒会長から、前に聞いたことがある」


「ご存知でした?」真白さんは意外そうな顔をしてる。

「それが、能力の一部だということまでは知らなかったがな」


 俺が“その話”を聞いたのは、確か君島さんを撃退した『祝賀会』の時のことだ。俺の手元に現れた剣を見て、生徒会長がこう言ってくれたんだ。


 『――あのね……新島くん、これは面白い偶然なんだけどね……』

 『――――狗山さんも――ヒーローエネルギーを消滅させる剣を持っているんだよ』

 『――しかも、ヒーローだけじゃない』

 『――――彼女の剣は多用途型たようとがた――怪獣もヒーローも全てを一刀両断する力を持つ』


 その時は、直後にあゆに襲われたこともあり(酔っぱらいみたいなテンションで突進してきた)詳しく話を聞くことはできなかった。

 が。おそらく、いや間違いなく。

 生徒会長の言う『怪獣もヒーローも全てを一刀両断する』剣とは――あの鮮血の赫色をした巨剣のことを指していたのだろう。

 電極先生の障壁をノーダメージで切り裂いた今であるならば。

 その圧倒的なまでの強さを見せつけられた現在ならば。

 会長の発現の内実が、よく理解できた。


「――“陽の構え”とは、刀身の長さを相手に悟られないために、編み出された剣法だと聞きます。

 “間合い”という概念は、一撃必殺が基本の真剣同士での戦いにおいて、非常に重要な要素(ファクター)となりますからね。その情報を隠すことで、勝負を有利に運ぼうとするわけです」


 無論、これは一般論だ。狗山さんの場合は違う――と、真白さんは推察する。


「しかし、この場合は――刀身の“色”を、狗山さんは隠すために“陽の構え”をしたのでしょう。

 あれほどまでに禍々しい赤色を放っている巨剣を見てしまえば、電極先生も『待ち構える』だなんて選択肢はとらなかったでしょうから」


 狗山さんが用いた血に染めたような赫色の巨剣も、今では普段の銀色に戻っていた。

 おそらく能力を用いた時だけ、変色を起こすのだろう。

 そして、長時間・連続での使用もできない。


 裏を返せば、“陽の構え”において、刀身を隠し、己の能力の発現を隠蔽しようとした事実は、その剣の弱点を示す証左に他ならない。


(――当然、狗山さんの能力に弱点があったところで、そこに付け入る隙があるかというと。これはまた別問題なんだけどな)


 弱点と欠点は違う。弱さとは時として強さ以上の強力な武器となる時がある。

 狗山さんの場合がどうであるかは、これから見極めていく必要があるだろうが。


(――――さて)


 さて、

 第一ラウンドが終了した後も、狗山さんと電極先生は応酬を何度も繰り返した。

 凄まじい戦いであった。


 電極先生は雷雲を呼び、狗山さんは巨剣でそれに挑むという、まるで神話の頂上決戦にような筆舌に尽くしがたい大バトルが繰り広げられた。俺は陶然と呆然と画面に食い入って、二人の戦いを見つめることしかできなかった。


 現在、狗山さんのHPは『1600/2000』、一方の電極先生のHPは『700/2000』である。


 両者ともそれなりのダメージを負っている。

 が、やはり、狗山さん優位の状況には違いない印象を受けた。


「……やっぱり、狗山さんなら一次選考くらいは余裕みたいだな。軽々とこなしてしまってるよ」


 俺はソファーに身体を任せ、そうつぶやいた。

 けれど、お隣の真白さんは違う考えのようで、飲み物をストローでちゅ~と吸いながらも、二人の戦いからは目を離さない。


「――確かに、狗山さんは現状を圧倒しています。それは間違いないです。しかし、電極先生がまだ“本気”を出していないのも事実です」

「本気、だって?」


 俺は身体を起こして、彼女の顔を見る。


「…………新島さんもご存知でしょう。一次選考会――紅先生が最後にわずかだけ見せた、恐ろしい本気の変身を」


 俺は思い出す。

 最終試練――対紅先生戦の後半に彼女が見せた、変身名《特攻番長フル・アクセル》の真骨頂を――。


 真っ赤な髪色に、真っ赤な瞳に、背中に纏った『真』の真っ赤な入墨。


 狗山さんの巨剣の如き、

 全身の鮮血の赫色に染め上げた雄々しき姿。

 勝利を確信した瞬間にいきなり食らわされる腹部への一撃。


 思い出すだけでも震えが止まらない。

 身体がガタガタと震えてくる。

 こ、怖い。恐ろしい恐ろしい……!


「おぉぉぉおぉぉぉぉぉおお……!」

「に、新島さんっ!? 紅先生が新島さんのトラウマになってる! お、落ち着いてください!」


 真白さん両肩をゆっさゆっさと揺さぶられる。

 お、おおぅ……。

 頭をシェイキングされたお陰だろうか。

 ショック療法よろしく、なんとか心の平静を保つことができた。

 あ、ありがとう。どうにか落ち着いてきたぜ。


「け、けど。電極先生にも“それ”があるのか? すでに、二メートル超の電気を操るロボットっていう、普通に考えれば、この世に敵なしみたいな変身を遂げてるけど」


 現状、電極先生は狗山さんに負けてはいるが、それは狗山さんが普通ではなく“異常”なだけであって、今の電極先生の強さを貶めるものではない。

 電極先生は十分に強い。あの場にいるのが俺だとしたら、勝てるかどうか自信はない。


 そう、俺は思うのに、真白さんは、“本気”でないと言い切る。


 本当だろうか。人間はあれ以上強くなれるものなのだろうか。

 人間は、あれ以上、人間を超えられるものなのだろうか。


「――返答は“その通り(イエス)”です、新島さん。電極先生はあの状態モードでは、全盛期の30%くらいの力しか出していません」

「さ、30%って……」まず何を基準としているのだろう。

「嘘だと思うのなら、最後までこの戦いを見届けましょう」


 俺が画面へと視線を戻すと、二人の戦いが進展を見せていた。


 なんと、電極先生が、全身から生成した電気を、水面上に流しはじめたのだ。

 水は、電気を、よく通す。

 幼稚園児でも知っていそうな理論だが、それは同時に究極の法則とも呼べる。

 この湖上フィールドにおける、電極先生の一撃は、平常時の数倍の威力を持つことになる。

 誰でも思いつく――至極当然の戦法であるが、常道であるが故に、隙がなく欠陥がなく、ただひらすらに恐ろしい。


「正確には、純水って電気を通さないんですけどね。

 ただ、このゲーム世界は、物質の再現度は完璧なので、実際の湖上と同様に、伝導率の高い化合物がたくさ~ん入ってますよ」

「要は、電気を通して、ビリビリするのは変わりないってことだろ」

「そうですね。普通に死にますね」


 怖いわ。

 電極先生は無限に続くバッテリーのように、電気の波動を延々と湖上一帯のフィールドに注ぎ込む。節電好きの人が見たら卒倒しそうな光景だ。

 結果、浮島を除くほとんどのエリアが、触れたら即感電死という、“死の領域”と化した。


「……こ、こええ」

「――だけど、狗山さんはひるんでませんね」


 そうだ。

 これだけやられつつも、狗山さんは涼し気な雰囲気のまま佇んでいた。

 狗山さんは電極先生の放つ“死”を物ともしない。

 彼女は悠然と駆け出す。

 己が有する能力の一つ『――絶対に駆ける後肢』により、おのが肉体を空中へと誘った。


『――さあ、参ろうか、電極先生先生。――種類『絶対に駆ける後肢』ッ!』


 狗山さんは疾走する。

 現在の彼女には、世界の全てが、広大な大地そのものなのだ。


 雷撃が迫る。槍のように鋭い形状。その襲来をステップを踏むように華麗に避ける。狗山さんは巨剣の重さを感じさせない自然さで。肉薄、振るう。

 同時に言葉を発する。



『とォ――――――ッ! 狗山家直伝我流オリジナル剣術“百犬刀覇ひゃっけんとうは”ッ!!』



 巨剣が振り下ろされる瞬間、奇妙な現象が目の前に起きた。

 鈍く光る銀色の刃が。巨大な刃が。唐突に。その数を。増加させたのだ。

 一、二、五、十。二十、五十、八十……!

 その数が百であったことを、後に俺は知ることとなる。

 一振りのはずの剣が――百振りに分裂する!

 計測不可能な数の斬撃。

 増殖する刃達。

 まるで、剣そのものが分身をしているかのような錯覚を覚える。

 無数の剣撃が、電極先生を襲う!


『――これだからっ、剣の乱舞はやり難いっ! 電極障壁エレクトロ・フレーム、限定開放ッ!』


 電極先生は両腕を狗山さんに向ける。電気の網を“一面に”集中させる。

 強力な磁場が発生し、俺たちからも視認可能となる。

 幾層にも編み込まれた雷撃の板。

 そうして。

 電極先生の眼前に、『磁場の盾』が完成する。


『ははっ! すごい、スゴイぞっ! だが、それでも私は勝つ(・・・・・・・・)ッ!』


 雷電を帯びた磁場の盾。

 その脅威から狗山さんは逃げすに。

 立ち向かった!


『――肉を斬らせて、骨を断つ! 私の“百犬刀覇ひゃっけんとうは”は止まらない――――ッ!』


 恐れることなく狗山さんは進撃する。

 さらなる肉薄、衝突。

 狗山さんの巨剣の波動が。磁場の盾へと注がれる。

 と、同時に。

 斬撃の一部が。狗山さんの剣閃の幾つかが。盾を超えて、電極先生の機械の右腕を切り刻んだ。


『ぐぅぅおぉぉぉ……!』


 弾ける火花。

 エネルギーの相克。

 剣撃の残像と雷電の瞬きが、銀色と金色に光り輝く。

 画面外の俺でも。判る。

 狗山さんは決死の斬撃を繰り返し。電極先生は懸命の守護を持続する。


『うおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉおぉおおおお――――っ!』


 互いのHPが『1600/2000』『1520/2000』『1440/2000』と、『700/2000』『610/2000』『520/2000』と、減少を始める。


 ダメージはほぼ同量だ。だが、もともと深手は電極先生のほうが大きい。

 競り合いが続けば、このまま継続すれば。狗山さんの勝利は確定するだろう。

 少なくとも俺はそう思いながら。電極先生のHPが『440/2000』を記録するのを目にする。


 ――残り体力の四分の一。

 ――終わりの始まり。

 その瞬間。電極先生の力が一変した。



『――――超電磁変形時間スーパーエレクロトンチェンジ・タイム始動スタート!』



 いきなり。

 狗山の全身が。

 見えない力に押し上げられて、ブオンと、上昇する。

 吹き飛ばされる。


『――――ッ!?』


 狗山さんの中に存在する“天性の勘”とでも呼ぶべき何か。

 おおよそ理論上説明の付かない『第六感』において、その身を電極先生から離した。

 体力ゲージを僅かに『HP1390/2000』と削りつつ。近くの浮島へと着地した。


 狗山さんは珍しく息を切らしており、前方を向いて息を呑んだ。

 俺も息を呑んだ。真白さんだけは、真剣な面持ちのまま、ゲーム画面に注視した。



『――――それでは最初に言ったように、“名乗らせて”もらいますよ』



 電極先生は、雷雲渦巻く世界の中で、神のごとき幽玄さで、上空に浮かんでいた。


 空は黒く、雷雲に覆われ、水流は激しく荒ぶっている。電極先生は、両腕を避雷針のように高らかに掲げる。

 同時に、不穏な事態が発生する。


 ――不穏な事態。

 そう。信じられない事態が発生する。

 何といえばいいのだろう。とりあえず言葉にすることしかできない。


 電極先生が両腕を掲げると同時に、ある宣誓を行った。ある叫びを行った。すると、二体の機械の生き物がどこからともなく出現した。


 ……ああ、出現した。としか言いようがない。この場合は。


『――――機械雷鳥アルゲンタヴィスッ!』


 どこからともなく黒色の雲の裂け目から、雷鳥が。


『――――機械雷獣ウミベミンクスッ!』


 どこからともかく落雷した水辺から、雷獣が。


 ――姿を現した。


 それだけではない。

 全くもって、とっておきの、奇妙で、不可思議な現象が発生する。


 もう、俺には意味がわからない。

 だが、言葉にしなければ何もはじまらない。


 電極先生は大きな両腕をぐるんと回転させ、大きな声で叫びをあげた。

 絶叫した。



『――――超電磁変形音楽スーパーエレクロトンチェンジ・ソング始動スタート!』



 電極先生の両肩から巨大なスピーカーのようなものが解放される。

 同時に、雷鳴の轟きに合わせる形で、突如として謎の音楽が世界に響き始めた。




 戦え僕らのスパーク・ロボのテーマ


 作詞作曲 雷山一極

 唄 雷山一極&第八部隊の皆さん(with おおとり少年少女合唱団)


 カミナリ雲の彼方から やってくるぞ僕らのヒーロー

 渦巻くアラシの世界から やってくるぞ電気のヒーロー 

 無敵の両腕振りかざし (ヤー!)

 自慢の磁力で引き寄せて (オー!)

 大型怪獣やっつけろ 世界の平和を守りぬけ! 


 僕らの 地球を 頼んだぞ!

 スパーク・ロボ (GO!) スパーク・ロボ (GO!GO!)

 戦え僕らの スパーク・ロボ!

 戦え無敵の スパーク・ロボ!


 (以下、二番に続く)




「………………」

「………………」

『………………』


 俺と狗山さんはその光景を呆然と眺めていた。画面の中と外だというのに、その動きだけは完全にシンクロしていた。

 真白さんだけが、真面目そうな目つきのまま、画面に注視していた。


 しかし。歌はともかく、電極先生は恐ろしい変化を遂げていた。

 どこからともなく現れた二体の機械の生き物は、電極先生に突撃すると、いきなり空中で合体をはじめたのだ。

 そう、合体。合体である。

 おそらく電磁力の力なのだろうか、機械雷獣は二つに割れて、電極先生の両脚から腰回りにかけてドッキングする。

 機械雷鳥は長い首を引っ込めて、電極先生の背中から頭部にかけて装着される。


 するとどうなるか。

 どうなったか。


 巨大モーターのような白色の両椀。

 左右に広がる赤色の翼。

 武士の世のカブトみたいな頭部。

 胸元から腰回りまではスマートな曲線を描き、両脚は黒色の巨大ブーツでも履いたような形状をしている。


 トパーズの如き、双眸が、輝く。


 二メートル超であったはずの巨大ロボは、今や五メートル以上ある、超巨大ロボ、と生まれ変わっていた。


「………………」

「………………」

『………………』


 これほどまで開いた口が塞がらないという気分を味わったのは、久々だ。

 おそらく、あゆが初めて変形したとき以来だ。

 多分、きっと、そうだ。


 電極先生は、スピーカー音声のような声で、勇壮に宣言する。


『世界ヒーロー連合日本第八部隊所属、第二世代型個人ヒーロー、雷山一極ッ!』


 雷鳴が光り輝く。電極先生の強化を讃えるように。

 嵐が巻き起こる。これからの波乱の戦いを予見するように。


『――――変身名《電動兵器スパーク・ロボ》ッ!!』


 上空に浮かぶ電極先生。

 重装な身体を駆動させ、敢然と言い放った。



『――――さあ、稲妻の如く、この世界を輝かせよう』



 現在の体力ゲージ。狗山涼子:HP『1390/2000』雷山一極:HP『440/2000』。

 勝負は最終ラウンドへともつれ込んだ。

 暴力的なまでの質量にて襲いかかる電極先生の電動兵器、追い詰められる狗山さんと彼女の下す決断とは――!

 次回「第54話:ヒーロー達の伝説の力」をお楽しみください。

 掲載は4日以内を予定しています。

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