表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第4章 運命動乱編(前編)
51/169

第48話:ヒーロー達の実験動物(前編)

「…………ふぅ。どうやらかえってきたようだな」


 頭部のマスクを外し、目をこすり、“天使の卵(エンジェルエッグ)”の扉を開く。


 白色の空間が俺の眼前に広がった。周囲には複数のカプセル群。ケーブルの束が床を這い回る。巨大なサーバーが「コシュー、コシュー」と稼動音を鳴らす。

 まるで世紀の実験室か。はたまた怪しげな研究所か。


「……現実味ねーな」


 しかし、現実であった。『事実は小説よりも奇なり』――なる箴言が存在するが、事実、現実世界の方がゲームの中よりよほど不思議と虚構性に満ち満ちていた。


(さて、みんなはどこにいるんだ?)


 見回した限り、カプセル群のドアはほとんど開かれている。人がいる雰囲気はねーし、紅先生の姿もないようだし…………ん?


(いや……、いいや、サーバーのところにいる)


 紅先生は室内にいた。巨大なパソコン群の中に隠れる形で、ヘッドギアを被りながら、どっしりと腕を組んで座っている。近づいてみると『現在、一次選考、審査中! 合格者の方は待合室にてお待ちください』とゴシック体で書かれた札が目に入った。


(なるほど、なるほど)


 どうやって俺たちのことを監視したり、指示したり、戦ったりしてるんだろうと思っていたが、こういう仕組みだったのか。なんだか手品の種を明かされた気分だ。紅先生自ら、ゲームの世界に飛び込んで対戦していたのである。


 一人うんうんと納得し、外の「待合室」に繋がるドアへと両足を反転させる。


(それにしても、誰が合格して――誰が落ちたんだろう)


 確か紅先生は「一人合格で、もう一人は選考中、残りは全滅」と言っていたはずだ。

 今日の受講者は全部で十人のはずだから、最低でもこれで二人は合格したことになる。

 と、いうことは突破率そのものは、二割~三割の計算になるはずだ。こう考えると一次試験の厳しさが改めて伺える。


(ほへぇ~、よく、突破できたもんだ。俺も)


 ふふん、とちょっとだけ愉快な気持ちになる。なんとなく優越感。どことなく満足感。とりあえず第一段階を突破できた安心感で俺の心はヌクヌクと満たされる。


 そんな気持ちだったからだろうか。「待合室」に繋がるドアを開けた瞬間、外界への第一歩を踏み出した瞬間、俺は地面に横たわる『ソイツ』を思いっきり踏んづけてしまった。



「…………むぐぅ」



「むぐ?」


 小動物のような鳴き声が聞こえてきた。足元から。同時に、フニャフニャ~とした、何というか『柔らかい』感触を受ける。


「…………むぐぅ。痛いです。しかし、これこそが『強者』のエナジー」

「は?」


 俺は視線を下へと向けた。――いや、もちろん、声と感触から何となく『状況の方向性』は推察できたが、こういうのはキチンと視界に収めることで『認識』することが大切なのだ。


 そもそも人間の視界とは、二種類に大別できる。大雑把に周囲を見る『周辺視野』と集中して見ることのできる『中心視野』である。そのため、周辺視野において「丸くて白くて制服のような何か」が文字通り視界をかすめはしたのだが、この場合は後者――中心視野においてしっかりとソイツを補足することが大切なのである。


 ん、なわけで。


 俺は顔を45度下方へ修正した。


 セーラー服の女の子を踏んづけていた。

 思い切り。

 ぎゅっと。


 名前は確か――真堂真白。



「んんんんんんんんんんんんんんんん――――――っ!?」


 声ならぬ声をあげて、思わず飛び上がり足をどける。

 え、ええー。な、なに、なんなんだ、え、ドッキリ? いや、でもそんな。


 俺が困惑と混乱と混迷を極めていると、すると、踏みつけられた少女は、『ニッコリ』と、人によってはコロリとやられてしまいそうな可憐な笑顔を浮かべた。

 いや、むしろ俺は軽く引いたが。


「――どうやら、一次選考を突破したみたいですね。おめでとうございますっ! あらためまして、私の名前は真堂真白」


「――最強のヒーローを作ることを人生の目標としていますっ!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 一次選考を突破して二番目に驚いたことは、試験が始まってから、まだ一時間も経過していなかったことだ。

 怪獣バニップ戦、怪獣バジリスク&コカトリス戦、紅翔子先生戦、これだけの激しいバトルを三回も繰り広げたというのに、時計の針は『17:45』を示していた。

 なお試験の開始は『17:00』である。

 時間のリソースが明らかにおかしかった。


(ゲーム世界すげー)


 どうやらゲーム世界にいる時は、時間の感じ方が異なるらしい。リアル時間での一時間を、ゲーム世界では三十分から、可能ならばもっと短時間に圧縮することができるそうだ。


 ビックリだ。極論、あのシステムを発展させて、ゲーム世界にとどまり続ければ、見た目は子供、頭脳は大人、みたいな人間を生成することが可能ではなかろうか。


 いや、それとも人類全体をああいうゲームシステムの中に閉じ込めて、ひたすらに時間を割り算し続けることで、未来永劫の時間を生きる永遠の生命体となることも可能なのではないだろうか。


(SFだなぁ……)


 “サイエンス・フィクション”ではなく、“すこし・ふしぎ”の方であるが。



「――君も突破者か。二次選考会では、宜しく頼むよ、新島宗太君」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。……城ヶ崎さん」


 そして三番目に驚いたことは、俺以外の突破者が、この人であったことだ。

 城ヶ崎正義さん。


 背が高く、痩身であり、顔の輪郭がクッキリとしている。何だか全体的に『渋み』のある人であった。


 うまく例えることができるかわからないが、仮に俺がギャグ漫画の世界の住人だとしたら、城ヶ崎さんは劇画の世界の住人であった。

 そんな独自の『オーラ』を醸し出していた。


 城ヶ崎さんは、スルリと瞳をこちらに合わせて、右手を自然と差し出してくる。

 俺はその手をギクシャクしながらも握り返した。


「はは、あまり、緊張しないでくれ。俺も――君と同じ十五歳なのだから」

「は、はぁ……、まあ、そうなんですけど」

「敬語もよくないな」

「そうなん、だけどな。何となく年上オーラが凄くて」

「よく言われるよ」


 厭味いやみのない笑みを浮かべる。俺もこんな風に余裕のある人間になりたいもんだ。 

 城ヶ崎さんは「しかし」と前置きしてから、視線をドアの方へ向ける。


「――しかし、彼女のように、それが趣味というならば仕方無いことだ」

「彼女……ねぇ」


 俺も特別訓練室の前で倒れ込んでいる彼女――真堂真白さんに視点を移す。

 まるで飛び出てきた人を罠にでもかけるようにドアの前で待ち構えている。


 俺が合格してから、一番驚いたのが、彼女の存在であった。


「あの娘は……人が通るたびに、ああやって倒れ込んでいるのか?」

「俺が到着した際には既にああだったな。――どうやら、一番に最初に脱落したそうだ」


 ふうん、奇妙な話と言えば奇妙な話だった。

 真堂真白さん。

 あゆ程ではないが、中学生くらいに見えそうな小柄な身体、少しだけ自信の無さそうなオドオドした表情、首にかかるくらいの黒髪、少しだけ不健康そうな青白い肌。

 外見と雰囲気だけ見れば、どこのクラスにもいる少し地味目で純情そうな女の子に見えるのだが……。


「ふんふんふんふ~ん、最強~ロボット~♪」


「想定外だったなぁ……」

「ああ、想定外だ」


 これには城ヶ崎さんも同意してくれた。

 ちなみに待合室に残っているのは、俺と城ヶ崎さん、真白さんの三人だけだ。

 他の参加者は、既に消えていた。聞いた話によると、負けとともに皆肩を落とし早々に撤退したようであった。


(…………ハヤブサ君、戦闘シーンすらなかったな)


 何だか泣けた。別の機会に期待しよう。


「ふんふんふ~ん、お、終了したみたいですね。どうやら、最後の方も生き残ったみたいですよー」


 真白さんは両足をパタパタさせ、鼻歌を歌っていた。


「…………」

「ふんふんふ~ん♪」


 この角度からだと、足があがるたびに、一緒にスカートまで動いて、太ももとかお尻が強調されるので避けていただきたい……。

 別に扇情的な印象は受けないのだが、何となく、やはり目のやり場に困ってしまう。


(…………こんな光景、城ヶ崎さんは平気なのだろうか)


 ふと、そう思い横を見ると、城ヶ崎さんはまるで仙人が熟考する時のような老成した佇まいで、何もない空間を一点と眺めていた。


(すげー、一流の男だわ)


 俺も目のやり場に困った時に、とりあえず何もない空間を眺められる人間になりたいもんだ。

 まあ、今の俺は不可能だ。アドバイスを出そう。


「……制服、シワになりますよ。真白さん」

「お気遣いありがとうございます! ただ、今日は金曜日。週末にはクリーニングに出す予定なので無問題です」


 無駄に計算してるあたり腹立たしかった。


「お心遣いありがとうございます。やっぱり強者の皆さんは気配りもできるんですね。素敵です」

「皆さん?」


 俺は横を向くと、虚空を眺めていた城ヶ崎の両目が少しだけ鋭くなった気がした。あー、指摘したの俺だけじゃなかったかー。


「それにしても『強者』ってなんで……なんなんだ、一体?」俺は敬語であるとこをやめた。

「強者は普通に強い人ですよ。強い――『可能性』を秘めた人です。私の究極の目標は最強のヒーローを作れるようになることですから」

「ふーん」


 そう言えば、真白さんはCクラスの所属だったはずだ。Cクラスは司令官タイプ・発明家タイプ。ヒーローのサポートをする人間を中心に育成するコースだ。


 自分を高めることよりも、他人を高めることに重きを置く専門家たち……。


(最強のヒーローを作る、か)


「うん、いい夢なんじゃねえか」

「ほ、本当ですかっ!?」


 横になった姿勢から、くるりんと、真白さんは嬉しそうな顔を向けてきた。


「ああ、俺は好きだよ、そういうの。やっぱ夢を持つなら、それくらいデカイ目標を立てなきゃな。生きてきた意味がないってもんさ」

「で、ですよねっ! ありがとうございます。そう言っていただけたの久々です。新島さんは優しいですね! ――最高です!」


 何だかキラキラ~と輝かしい表情のまま、元気よく返されてしまった。

 最初のオドオドした調子はどこにいったのか。まだキャラが掴めない女子だ。


「――お、おお? きましたねー。きましたー」


 ――と、特殊訓練室の扉がゆっくりと開かれる。

 どうやら最後の一人が選考を終えたようであった。ドアがゆっくりと開かれて、中から、茶髪の女の子が姿を現した。

 名前は確か――。


「うわああああああぁぁぁぁあああああああっ!?」

「――こんにちは、一次選考会突破おめでとうございます! 真堂真白――最強のヒーローを作ることを人生の目標としていますっ!」


「え、あ、ええ……よろしく。私は君波紀美きみはきみよ。覚えてる、かな?」

「はい! 覚えています! 君波さん!」


 そうだ。君波さんだった。


「……退室してきた人全員にやってるのか、あれ」


 変人すぎるだろ。人間、やっぱり見た目の雰囲気に騙されちゃいけないな。

 すると、城ヶ崎さんは意外なことに首を横に振った。


「いや、そうでもないらしい。俺の見た限り――あれは俺と君、それと彼女にしか行なっていない」

「はあ?」

「これは理屈ではないが、何らかの方法にて――彼女の言う『強者』を見極めているのだろう」

「強者ねぇ……」


 強者――強い者。誰でも一度くらいは「強くなりたい」と憧れる気持ちを持ったことがあるだろう。俺だってそうだ。


 しかし、そもそも“強さ”とは何だ?

 その問いは、ひと言で語るにはあまりに難しい。

 一概に、一括りに、考えることはできない。


(まあ、俺が考える最強のヒーローと言えば、やっぱり君島さんだけどな)


 暫定、彼女よりも強いヒーローは学園内にいないだろう。紅先生も凄かったが、君島さんとの戦いは、まさしく死に物狂いで、生きた心地がしなかった。

 げに恐るるべきは、自律変身ヒーローの凄まじさだ。

 俺だって不意打ちでどうにか、君島さんを一回コケさせたに過ぎない。


 あゆと葉山、二人の力を借りても、それが精一杯であった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 君島さんが到着すると、あとに続くように紅先生も現れた。真白さんはその前に立ち上がり、服についた埃を払う。


「紅先生にはやらないんだ」

「先生は既に完成に向かってますから」

「…………?」

「私の手の加える隙はありません。私はただの『強者』ではなく、可能性に満ちた『強者』を探しているのです」

「可能性、ねぇ……」


 その言葉がどんな意味を持つのか知らないが。


「――さあ、皆さんお疲れ様でした。現時刻『17:52分』をもって、本日の一次選考会を終了させていただきます」


 と、紅先生がいつもの調子で、いつもの口調で、『一次選考の終結』を宣言した。

 俺たちは先生の前に横一列に整列する。


「それでは、合格者を読み上げさせていただきます」


「1年Sクラス 城ヶ崎正義!」

「1年Dクラス 新島宗太!」

「1年Aクラス 君波紀美!」


「――――以上、三名。第二次選考は今から2週間後の六月十七日! 選考内容は『迷宮探索』となります!」


「はい!」


 声を合わせる。まるで軍隊ばりの規律の良さだ。紅先生も上官然として頷く。


(さあ、一次選考もこれにて終了だ)


 試験自体は再来週と時間が空く。俺には強くなる時間がまだまだ残されている。

 選考内容は――迷宮探索、だって? これまた――面白そうな内容じゃないか。


「なお、合格者の方々にはお伝えしておきますが、本日は試験初日ということもあり、試験の難易度の確認のため――専属モニターの真堂真白さんにも参加させていただきました」

「…………? 専属、モニター?」


 次の選考へと想像をめぐらせていた俺は、紅先生の台詞に驚き、ついでにその人物が先ほどまで奇行を繰り返していたことを思い浮かべ、――真白さんを見る。

 真白さんは紹介を受けると、「はい」と明瞭に返答してから口を開いた。


「はい、今回、運営担当の一人として第一次選考会に参加させていただきました、真堂真白です。今回の試験結果としては難易度・合格率ともに問題ありません。想定内に収めることができました。このまま進行してしまって大丈夫だと思います」


「――だ、そうです。別に隠すことでもないので紹介しますが、真堂真白さんは一次選考会のバランスチェック担当者です。今回は『試験参加者』としてではなく、『試験運営者』として参加していただきました」


「デバックも兼ねてましたけどねー、マシン、ちゃんと稼働してよかったです!」


 ほえー、なるほどね。だから、試験の確認が無事に済むと、一番先に落っこちたのか。はなから運営サイドの人間だったのだ。


 これだけ大規模な選考会ならば、問題を事前に防ぎ、バランスを厳密に調整するため、こうした配慮がなされてるのだろう。


(なんだ。思ったよりしっかりしてんじゃん。選考会)


 と、感心していると、真白さんと目があった。


「無論、目的はそれだけじゃないですけどねー」

「ん?」

「ふっふん、新島さん、噂通りの『強者』ですね、気に入りましたよ」


 気に入った?

 俺は詳しく尋ねようか迷ったが、その前に紅先生が口を挟んできた。


「終了予定時刻も近づいてきたので、ここで『一次選考会』を終了とさせていただきます。――皆さんは私の認めた生徒たちです。その能力を遺憾なく発揮し、第二次選考でも最高の働きができることを信じています」


 俺たちは再び姿勢を正す。真白さんに話を伺うのは後にしよう。

 紅先生は背筋をピンと伸ばし、クールで知的なその表情と声色で、改めて『第一次選考会』の終幕を堂々と告げた。


「これにて第一次選考会を終了とさせていただきます!」


「では――極上の幸運を(ベスト・ラック)!」



ここまで読んでいただきありがとうございます!!

一次選考会は終焉を迎えた。一時の休みを享受する新島宗太の元に、新たな出会いが待ち受ける――!

次回「第49話:ヒーロー達の実験動物(後編)」をお楽しみください。

掲載は4日以内を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ