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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第4章 運命動乱編(前編)
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第40話:ヒーロー達の選考開始(前編)

「美月……あれは何だ……」

「なんだろうねぇ……」


 いつもの通学路。

 いつもの学校。

 いつもの校舎。


 その校舎のど真ん中に――巨大な特設ステージが出来上がっていた。


 朝だというのに激しく光る照明、

 HR前だというのに集まっている多くの観客、

 文化祭でもないというのに鳴り響き続けるハイテンポなBGM。


 ステージ中央では――二人の少女が立っていた。


 金髪。セミロング。大きな瞳。

 あゆくらい快活そうな表情。激しい身振り。大声。

 黒髪。おかっぱ。眠たげな瞳。

 葉山くらい暗そうな表情。静かな動き。小声。


 しかし、二人は似通っていた。そっくりであった。うり二つであった。


 同調シンクロ、していた。


「さあ!」

「さあー」


 彼女たちは声を合わせる。


「全てはここから始まるんだっ!」

「全てはここから始まるんだ~~」


 俺は彼女たちを見つめる。


 それから時間は本日の朝にまでさかのぼる。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 運命の時はやってきた。さあ、切り拓け。道は“そこ”にある。


 俺の部屋から音が聞こえる。

 俺の布団の目の前から音が聞こえる。


 目覚まし時計の音が鳴る。

 起きろ起きろとせわしなく鳴る。


「……、ほいほい――っと」


 スイッチをオフ。ポチッとな。

 俺は目覚める。

 冷たくなった布団の感触と、覚醒時特有の気だるげな温もり。

 普段であればこのまま二度寝に突入したり、まどろんでゴロゴロしてしまうところだが、今日はそういう場合ではない。

 そういう訳にはいかない。


「よいよいせ――っと」


 掛け声をとともに起床。無駄なくスマートに立ち上がる。深呼吸とともに身体の調子を確認する。

 ん。気力体力ともにオーケー。システムオールグリーン。完璧だ。


「~ん、~んん~♪」


 最高に気持ちの良い目覚めを演出しつつ、まるでドラマの主人公にでもなった気分で顔を洗い、最近伸びてきたヒゲをチェックし、トースターにパンをセットし、その合間にフライパンを華麗に動かして目玉焼きを完成させる。


「さてさて――っと」


 ひと通り朝食のセット(焼きたてのトーストと半熟の目玉焼きと牛乳)を二人分テーブルに並べると、これまたほいほいっと軽快な足取りでアパートのドアを開き、となりの部屋のインターホンを鳴らす。


 ピンポーン!


 五秒くらい空白のあと、気にすることなく部屋に侵入。

 口を幼児みたいにポカーとした美月の寝姿がそこにはあって、ひと通り眺めたあと、俺はカーテンをがらっと開けて、掛け布団を『必殺技でも唱えるように』叫びながら取り払う。



「おきろ――――――――っ!」

「うっわ――――――――っ!?」



 美月は『滅亡寸前の魔王みたいな叫び声』をあげながら、布団のうえでよじれるのであった。





「……そーちゃんテンション高い」

「そうかな気のせいだぜ」


 トーストをもしゃもしゃ食いながら、美月はジトーっとこちらを見つめてきた。


「ぜったい高い。超高い。あとさわやかすぎる。気持ち悪いくらいさわやか。そーちゃんのくせに」

「なにいってんだ。どっからどう見ても――いつもの普通で素敵な俺、だぜ?」

「普通の人は食事中に『決めポーズ』はとらない」


 かっこ良く決めた俺を冷静にいさめる美月。

 牛乳をゴクゴク飲み終えて、ぷはーと一息。「朝食はおいしいけどさ」とつけ加えてから、ジト目にもどしてきた。


「同じようなシチュエーションが4月頭にもあった気がするんだよね……」

「そうかー? そうなのかなー? 俺にはさっぱりだがー?」

「語尾をのばすな」


 怒られてしまった。やれやれだぜ。


 しかし、美月の指摘は正しかった。徹頭徹尾てっとうてつび正しかった。

 俺のテンションはあがってるのだろう。アゲアゲなのだろう。イケイケなのだろう。


 コンパ直後の飲みサーテニスサークルの大学生たちと「うぇーーい!」と一緒にからめるくらいにはウキウキなのだろう。


 しかし、そんな俺の精神状態がハイであるのも仕方のないことなのだ。

 なぜかって? なぜか? それは、それはだなぁ……。


「まるで運動会前の小学生みたいだよね。……はぁ、そーちゃんのそういうとこ好きだけどさぁ……」

「――ファッ!?」

「キョドるの禁止」


 美月は冷めた目で言っていたが、俺の心臓はバクバクであった。


 お、思わずドギマギしてしまったぞ。こ、こいつめー、この純情男子高校生に向かってシラフでなんてことを言ってしまうんだ。


 この俺、新島宗太は「え? いま何か言ったのか?」撲滅ぼくめつ同盟を一人で結んでおり、女の子が好感度を感じさせる発言をした時は、たとえ近くに電車が通過していようが、空から隕石が落ちてこようが、どれほど小声だろうが、聞き逃さない聴力を日々鍛えることで得ているのだ。自意識が高いのだ。他人の目線が気になる世代なのだ。


 ……えーっと、それで。何の話だっけ?


「――本日は6月1日」


 と、美月が答え合わせの確認でもするように、そう言葉を発してくれた。

 素晴らしい。俺は褒め讃えるような笑顔をつくる。美月が軽く引いてくる。


 しかし、俺は気にしない。続ける。


「そうだ。今日は6月1日――つまりは、英雄戦士チームの初選考会の日だ!」





 運命の時はやってきた。“何か”が始まるそんな予感。


 さて、ここで偉大なるおさらいタイム――前回までの三つの出来事だ。

 時系列順にドンドン思いだしていこう。


 その一、4月上旬、狗山理事長から「最強のヒーロー集団を目指した特別編成チーム」英雄戦士チーム選考会の開催が発表された!


 その二、4月下旬、その娘である狗山涼子から、美月瑞希をかけて決闘を挑まれた!


 その三、5月中、この俺新島宗太は、素晴らしき友人たちの協力の元、生徒会長と副会長の激しい特訓を受けた!


 おー綺麗にまとまった。パチパチパチ。

 次に一枚のプリントを取り出そう。


 電極先生から四月の終わりくらいにいただいた、英雄戦士チームの概要が記載されたプリントだ。



 ――――英雄戦士チーム選考会のお知らせ――――

 【開催日程】

 一次選考 6月1日(金)~6月8日(金) 17:00~18:00

 二次選考 6月17日(日) 9:00~12:00 14:00~17:00

 最終選考 6月23日(土)、24日(日) 9:00~16:00

 ※参加人数により予定が変更することがありますのでご注意ください。

 【採用人数】

 一年生:3人 二年生:3人 三年生:4人

 【締め切り】

 希望者は、5月21日(月)の放課後までに担任へ規定の応募用紙を提出してください。



 本日、俺が挑戦するのは《一次選考》である。

 掲示内容によると一次選考の内容は《教師面談》とのことだ。詳しくは不明。


 6月1日(金)~6月8日(金)まで。

 これは別に毎日放課後に選考を受験しろという意味ではない。


 このうち一回。一日。一度ぽっきり。

 俺たちは一次選考会に参加できる。その中で合格をもぎ取れということだ。


 つまり予選である。

 一学年だけでも百人近く参加者がいるのだ。

 一週間くらいかけないと、主催者側も選別しきれないだろう。


 二次試験に進めるのは《30名ほど》だと話を聞く。


 そして俺はそんな緊張の一週間のうちの――初日にまわされたのであった。




「おおー、そーちゃん今日いきなり一次選考なんだ。だからあんなにハイだったのね」

「ああ、さっそく放課後、《特別訓練室》まで行って試験をやってくる予定だ」


 通学路の途中、俺は美月の質問に答えていた。


「くじ運わるいねー。一番最初って対策もとれなくて大変そう……」

「まあ、確かになー。……でも、そのぶん、評価は甘くしてくれるかもしれないぞ?」


 と、希望観測的なことを口にして、フフフと怪しく笑う。そんな俺の様子を美月は楽しそうに眺める。


「あ、いつものそーちゃんに戻ってきた」

「いつものってなんだよ」

「なんか中途半端に悪どい感じ」


 失敬な。ともかく勝負は今日の放課後だ。

 試験内容がどんなものなのか、俺は知らない。教師面談としか聞いていない。


 以前、生徒会長からさり気なく教えてもらおうとしたが、「実は僕も具体的には知らないんだよね」と返されてしまった。仮にも英雄戦士チームのリーダー(仮)なのに、

彼自身、権力の乱用などせずに、徒手空拳で、自力で選考会に出場するとのことであった。


《実力でもぎ取ったほうが――周りの信用を集めやすいだろ?》


 その気概はカッコ良かったが、腹の中は悪どく打算的であった。

 君島さんも三年生枠として普通に出場。まあ、彼女ならよほどのことがない限り合格するだろう。むしろタイマンすることになった人は可哀想な気がする……。


「私は最終日だから、後で試験内容教えてね」

「おう、いいぞ」


 そんな話をしながら俺たちが校内に到着すると――例の喧騒が巻き起こっていた。


 そして時間は冒頭の場面に戻ることとなる。




◇◆◇◆◇◆◇◆




「さあさあさあっ! 奇想天外、縦横無尽、吃驚仰天、気宇壮大! 何が起こるかわからない何が起きてもわからない、それでも私は知っている! さあーって! 英雄戦士チーム選考会初日のスタートだよ~~~!!」

「初日だよー」


 大平和ヒーロー学園の中央部。

 正門を抜けて、もう葉っぱとなった桜並木の大通りを超えて、その奥の先。

 突き当りのエリア――校舎のド真ん中に『巨大な特設ステージ』が作られていた。


 まるでライブでもやるようなテンションと大仰さで――二人の少女がその上に立っていた。


 少女は叫ぶ。――とどろく。

 少女は呟く。――さえずる。


「やっと始まった! ついに来た! 君も待ってた私も待ってた、つーか私が準備してきたっ! 英雄戦士開幕~開幕~! ぱぷぱぷ~いぇーい!」

「実際、働いたのは私だけどねー」


 少女たちはマイクを片手に宣伝らしき《何か》を発していた。その様子を大勢の生徒たちが見物している。女の子の一人は金髪のセミロング、マイクを手に持ち、マシンガンのように囃したてる。もう一人は黒髪のおかっぱ、同じようにマイクを持っているが、やる気のない表情で相槌をうちながらビラを撒いていた。


 ……ビラ?


 俺は人ごみをかき分けながら、軽くジャンプして、ビラをゲットする。


「……英雄戦士チーム一次選考会――わくわく参加者一覧表?」


 総勢参加人数305名。

 一年生114名、二年生108名、三年生83名。

 そこには英雄戦士チーム選考会の参加者全ての氏名とナンバーが、学年別に、両面刷りで記載されていた。例えば俺ならば「No.104 新島宗太」。狗山さんは「No.5 狗山涼子」といったあんばいだ。


「うわーびっしり……」


 まるで新聞の折込チラシみたいだ。文字が別種の記号のように並べられている。


「さぁさぁ! やぁやぁ! 無論これで終わるわけがない! 今回もやってしまいますよー! ……右手のエリアをどーぞぉ! 一枚500円から買えるのでひじょ~にお安くなってますよ? やはり一番人気は三年我らの生徒会長と副会長ーッ!」

「この二人は安牌だねー」


 彼女たちが示す方向には、これまた人だかりができていた。

 縦横ともに数メートル規模の巨大な電子掲示板が設置されていた。そこには幾人かの生徒の名前が表示されている。「和泉イツキ」や「君島優子」といった見知った名前から、「城ヶ崎正義」や「猫谷猫美」など知らない名前もたくさんあった。


 一位、二位、三位……。


 どうやらランキングシステムになっているようであった。

 名前のとなりには「5.4倍」とか「1.2倍」などといった数字が書かれている。

 ……倍率?


 こ、これは……。


「これは当然、わくわく『勝利者予想ゲーム』です! 皆さんには誰が一次予選を突破できるか予想する権利がありますっ! なお正答者には素敵なご褒美が待ってますー! お支払いすればするだけ素敵なプレゼントが待っていますー!」

「素敵だねー」


 湧き上がる歓声。呆然とする俺。口元が震える。


「ぎゃ、……」


 ギャンブルだー!

 賭け事だー!

 こいつら、ヤミ屋だー!


 こいつらはあれか。こういう特別イベントに乗じて生徒たちからお金を巻き上げようという魂胆の恐ろしい奴らなのか。さすが高校。こんなギャンブルが発生するだなんて想像だにしなかったぜ。


 …………って。


 おいーヒーロー学園ー!! おいー国家規模のヒーロー養成機関ー!!


「ちなみに今回のイベントに関しては、私たちは学校側の正式な役員なので、ご褒美といっても学食のタダ券くらいなんですけどねっ! 残念無念、権力の犬っ!」


 なんだ……それなら健全だな。安心したよ。


「……なお、換金所は部室塔にて」


 おい、いま換金所っつたぞおかっぱの方。


「つーか『正式な役員』ってことは、こいつらやはり、まさか……」

「そーちゃん知ってるの? あの二人のこと?」


 美月の問いかけに俺は首肯で応える。

 噂だけは生徒会長から聞いていた。英雄戦士チームの選考会が始まれば会えるだろう二人組の存在のことを。ついにその時が、姿を見せるときがきたのだろうか。


 俺はステージをあらためて見上げる。


 ステージに立つ二人。

 ひと目見ただけでも性格が大きく異なることはわかる。しかしその一方で完璧と呼べるレベルまで彼女たちの動きは「同調」していた。息が合いまるで二人が一つの生き物ようであった。その理由もその原因も彼女たちの顔をよく観察すれば理解できた。


「……双子」


 と、独言したのとほぼ同刻。彼女たちは一段と響く声を発する。


「さあ、さてさてさて、上級生の方々は私たちのことをご存知でしょ~~~~ぅが! 一年生の方は知らないと思うので、ここで私たちの自己紹介をしときましょう!」

「一学期忙しかったもんねー」


 と、二人は片腕を高く上げて、指を弾く。するとステージが音を立てはじめ彼女たちを中心とした楕円状の一部分だけが、ゴゴゴと上昇を開始する。俺たち観客は馬鹿みたいに二人が上昇する様子を眺めている。ついでにスカートの中にスパッツを履いているのを確認する。ちょっと残念だ。美月に殴られる。やがて二人の動きも静止した。


 ライトが自動的に作動し、彼女たちだけを明るく照らす。


 足並みを揃え、動作を同調シンクロさせ、マイクを片手に、自己紹介を開始する。


「これから一ヶ月ッ! 英雄戦士チーム選考会の『司会進行(・・・・)』を務めさせていただきますっ!」

「これから一ヶ月ー! 英雄戦士チーム選考会の『運営担当(・・・・)』を務めさせていただきますー!」


 意気揚々に自堕落に。

 得意そうに退屈そうに。

 言葉を発する。言葉を続ける。



「2年Bクラス鴉屋からすやミケ! 生徒会執行部書記(・・・・・・・・)担当ッ! 変身名《狂騒記者ジャーナリズム》ッ!!」

「2年Bクラス鴉屋からすやクロー、生徒会執行部会計(・・・・・・・・)担当ー! 変身名《情報崩竜バズワード》ー!!」



 と、彼女たちは言い切り、両手を合わせ、両足を合わせ、顔をピタっとくっ付ける。

 満面の表情と無気力な表情。コピー・アンド・ペーストしたような顔の作り。

 マイクを口元へと近づける。



「さあて、戦いの始まりだ。真実を狂わせていこう」

「さーて、戦いの始まりだ。真相を崩してみせよう」



 生徒会の『二羽のワタリガラス』――鴉屋ミケと鴉屋クロのお出ましであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

そんなわけで新章スタートです。

おそらく登場人物が増えていく傾向にあると思います。

次話「第41話:ヒーロー達の選考開始(後編)」をお楽しみください。

掲載は3~4日以内を予定しています。

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