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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第37話:ヒーロー達の祝賀会

光よ(・・)!」

――神坂一『スレイヤーズ』より抜粋

 最終試験を終えた夕刻、ささやかな祝賀会が開かれることとなった。


「えー、それでは皆さん――お手元のグラスをお持ちください」


 会長の合図に合わせて、みんな一斉にコップを手にする。

 空中へとかかげて、明るい声を返す。みんなの声が部室に反響する。


「はい!」

「はぁーい!」

「フフフ……」

「オーケー、いいわよ」


 目の前には、ピザや、チキンや、寿司や、サラダといった、近所のお店からデリバリー注文してきた素晴らしくも色鮮やかな品々が、テーブルにずららーっと並んでいた。

 素晴らしい。うまそうだ。本当にうまい食べ物は、見た目からしてまずうまそうなもんだ。

 周囲を見渡すと、あゆは口元からよだれを垂らしているし、葉山や君島さんの表情も自然とゆるませている。


 会長は俺たちの様子を眺めて、うんうんと満足気にうなずく。

 音頭を取る。


「それでは! 新島くんの修行突破を祝しまして、ご唱和ください――乾杯!」

「かんぱーい!」




 修行の終わりは戦いの始まりだ。

 今日は五月十八日の金曜日。来週の月曜日には応募が締め切られ、再来週には英雄戦士チームの選考会が開催される。時間はひじょ~に限られている。こうして飲み食いしている間にも、狗山さんを始めとする多くの候補者たちが、厳しい鍛錬を積んでいることだろう。


 しかし、腹が減っては戦ができない。英気を養わなければ気持ちもついていかない。

 勝って兜の緒を締めよというが、たまには兜を磨いてやる休息も必要だ。

 だからこそ俺たちは最終試験のクリアを記念して部室で食事会を開くこととなった。


「要するにパーティだーパーティだー!」


 あゆは両手にフライドチキンを握りしめ、今にも踊り出しそうな笑顔を輝かせる。

 花より団子(炭水化物的な意味で)を自認する彼女は、バキュームのように、吸引力の変わらないただ一人の生徒のように、食物をこれでもかと摂取していた。


「もきゅ、もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……」

「おお、吸収されていく、吸収されていく……」


 等身大フィギュアでも作れそうなくらい小柄な見た目の癖に、よくあんなに入るな。

 あゆの体内だけ質量保存の法則が通じないのだろうか。

 そんなことを想起させる見事な食いっぷりだ。


「ぷはー」


 食って食って満足すると、畳にぐでーっと身体を倒して、グルグル回転する。


「ぐはー」


 四肢を限界まで広げて「大」の字をつくる。そのまま寝る。

 うわーフリーダムだーこいつ。

 そんなあゆをジト目で眺めていると、生徒会長がこちらを見ていることに気がついた。

 視線がぴたっと一致する。


「新島くん、ノルマ達成おめでとう」

「ありがとうございます」


 会長はコップを虚空へと浮かべる。俺もそれにならう。

 カンッ、

 と、コップ同士が接触して、軽快な音を鳴らした。

 そのままゴクリと一杯飲む……お酒じゃないよ?


「…………っん、ふぅ、これで修行も一段落だ。もちろん明日からも頑張って貰うけれど、内容的にはこれまでの修行の繰り返しとなる。つまりは復習と最終調整だ」

「はい、ようやくここまできましたか、正直、かなり長かったですよ……」

「いやいや個人的には想定よりかなり早いペースで驚いているよ。川岸さんや葉山にも同じことが言えるが――君たちの成長性は、目を見張るものがあるね。むしろ僕としてはちょっと嫉妬してしまうね」


 と会長は苦笑する。苦笑してから、平常の優しげな顔つきに戻る。


「それでは、あらためて修行の完走おめでとう、新島くん――君は強くなったよ」


 会長が右手を差し伸べてきた。力強さを感じる。俺はしっかりとその手を受けとる。

 握手を、する。

 ……なんだかここまでストレートに誉められると気恥ずかしいな。感情を気取られたくないのでワザと視線を外す。言葉を濁した。


「いえ……俺なんか、まだまだですよ。弱っちいです。もし強くなったとおっしゃるなら、それはきっと会長のお陰です」

「そんなことないさ。僕は僕なりに君の必要する道を示したに過ぎない」

「その道を見つけるのが大変なんですよ」


 盲目に道に迷いながら歩くのと、かがり火を頼りに前進するのでは大違いだ。

 光がその性質として最短距離を駆け抜けるように、俺は最適なルートを会長の導きによって進ませてもらった。


「仮にそうだとしても、その選択したのは、その決断したのは、君の意志だよ。新島くん。君を強くしたのは、僕じゃない。君自身の力によるものだ」

「そういう、もんですか……?」

「そう思っておいたほうが楽しいよ。きっと」


 強くなったのは俺自身の力、か。

 傲慢さと自惚れに満ち溢れた台詞だが……悪くない。

 無軌道さは俺たちの特権だ。強さだ。自信と勇気が胸の奥から溢れてくる。


 それでも、この一ヶ月間、会長にはお世話になりっぱなしであった。

 辛いことも楽しいこともいっぱいあった。


 朝も昼も放課後も、激しいバトルを準備していただいた。

 お陰で何度も気絶したことがあった。

 屋根の上やプールの中や冷凍コンテナの中、異常な環境でトレーニングやらされた。

 お陰で何度も三途の川を眺めることになってしまった。

 今日も今日とて、いきなり君島さんと死闘を繰り広げることになってしまった。

 お陰でもう死にかけのボロボロになってしまった。


「……あれ?」


 あ、あれ……、つ、辛い思い出しかないぞ俺……? お、おかしいな……?


「話によると、ね」

「君島さん」

「サイヤ人は自分の肉体を死の淵に追い込むことで、通常の特訓を超えた大幅なパワーアップを遂げるそうよ……」

「そうなんですか?」

「――肉体を死の淵に追い込むことで、通常の特訓を超えた大幅なパワーアップを遂げるの……だそうよ」

「……いえ、俺ってばバリバリの地球人ですから」


 地球人だよ。地球人。

 危機的状況に陥ると意識の変革とともにエネルギーが強化される、ってのは確かに似たようなもんかもしれませんが……。

 すると、君島さんがナチュラルに拳を握りしめてるのが目に入る。怖い怖い。


「どう? いっぺん死んでみる?」

「遠慮しときます」

「そう言わずに……」グイグイ。

「まじ勘弁しときます」袖を引っ張らないでいただきたい。


 一遍どころの話じゃなくて、もう十遍くらいは死にかけているので。

 三途の川から「またきたねー」と言われるくらいの常連になりつつあるので。


 チラリと横目を向けると、君島さんがいい笑顔で『まだ』拳を握りしめていた。

 恐怖しか感じない。笑顔ってのはある種の恐怖性を内包してるよなとか難しいことを考えはじめてしまう。

 機嫌が良くないことから察するに、何か怒っているのだろうか。――何から?


(……もしかして負けたことを未だに気にしているのだろうか?)


 口が裂けても聞かないだろうが、推測としては妥当だと思った。

 俺は最終試験直後の出来事をちょっとだけ回想する。




 最終試験が終了し、勝利の笛の音が鳴り終えた際――君島さんは変身を解除して平然と起き上がった。

 目立ったダメージはなかった。

 むしろいつも通りである。いつも通りすぎたといってもよい。呼吸一つ乱れておらず、もしもそのまま授業帰りだと言われたら信じてしまったことだろう。

 彼女はゆっくりと俺たちのほうに歩いてきた。


「きみしまさ……」


 だが、声をかけようとした俺はそこで口を閉ざした。

 彼女の顔を見たからだ。

 不満そうだった。

 すっごい不満そうであった。

 身体に別状はないけれど、感情の方は問題ありのようであった。君島さんは悔しい気持ちを微塵も隠す気がないようで、すっげー嫌そうな表情をすっげー露骨に作り上げていた。


「オメデトウー」


 棒読みだった。

 給仕ロボットだってもう少しマトモな声が作れるだろうってレベルの、無関心無感動の機械音声で祝福の言葉を送ってくれた。

 いや、関心もあったり心は揺さぶらっぱなしだったんだろうけど。

 悔しそうな顔を持続させたまま、俺たちのエネルギーを正常に戻してくれた。

 正確には、自律的に活性化させたエネルギーを、俺たちのエネルギーを中和させているのであった。


「ぐぬぬ……」


 よほど敗北したことが悔しかったのだろう。

 彼女的にはまだまだ精神的にも体力的にも余裕のはずであった。当然だ。

 だからこそ、あんな負け方をするだなんて、想像できなかったはずだ。




「むきゅむきゅむきゅむきゅ……ぷはー、それにしてもエネルギーを斬る剣かー! いいなー! いいなー!」


 畳から起き上がって、再び食事にかぶりついていたあゆが顔をあげる。

 自由人すぎるだろお前。

 何が「それにしても」だよ。


「正確にはエネルギーを抑える剣だけどな。それもヒーロー限定のな」

「ふう、お腹いっぱいになってきちゃった」

「聞けよ」


 俺の発動させた剣、その効力は単純明快、

 ヒーローエネルギーを『強制的に抑圧させること』が可能な剣であった。


 斬りつけたところのエネルギーの活性を半強制的に弱めてしまう。

 人間の段階ステージにまで引き戻してしまう。

 要するに、ヒーローの変身装置の真逆のパワーを持つのだ。エネルギーを抑えこみ、全てを無力化する。


 強さも弱さも関係ない。この剣の前では、それは要素の一つにすぎない。

 等しく平等、不条理なくらい対等、それがこの剣の力であった。


 俺は拳を握りしめる。天に向けて高らかにかかげる。みんなの視線が俺に集まる。


「そう、それが変身名《限定救世主リミット・セイバー》から生み出した魔法の剣の力であった!」


 しかし――、


「まあ……正直、使い勝手はめちゃくちゃ悪いんだけどな……」


 がくっと肩を落とした。俺の反応に葉山が笑う。


「フフフ……しかも、ヒーローエネルギーを抑える道具って……実在するんだよね……」


 そうなのだ。

 ヒーローエネルギーを弱める装置は、すでに実在する。

 この世の中に存在している。

 これはヒーローの暴走対策だけが目的ではない。そもそも変身した肉体を解除するために、変身装置にはヒーローエネルギーを弱める機能が備え付けられているのだ。開発されているのだ。


 そのため、そりゃあ当然のごとく――ヒーローエネルギーを抑える剣も、現実にあるのである。


「なんというか……あれなんだよな、ヒーローになって剣を出せるようになってもさ。そもそも、そういう剣を常備すればいいじゃんって話になるんだよな……」


 悲しい話だ。

 ちなみに、この剣、ヒーローエネルギー以外には、まともに使用できない。

 それ以外であると、威力が格段に落ちてしまうのである。



 例えば最終試験の終了後、試しに葉山に斬りかかってみたのだが――


「だあああああぁぁぁああああああ! 爆ぜろリアルッ! 弾けろシナプスッ!!」


 バキィ!


「パニッシュメント――うわっ!? 折れたぁっ!?」



 といった調子で、戦闘には向かないことを完璧完全に露呈させてしまった。

 なお、二回連続で使用したら、もう身体はへとへと、燃費もかなり悪いようだ。

 かなり制限的……いや、限定的な能力と呼べるだろう。


「マジヘコむわー」

「フフフ……でも、狗山さんとの対決には有効打だよね」

「そうだといいんだけどな……」


 ちなみに葉山に斬りかかった際は、すぐに折れたりして使い物にならなかったが、

『葉山の分身』や『あゆのレーザー』に対しては有効であった。


 ヒーローエネルギーを媒介したものならば、簡単に消滅させることができる。

 うまく使うことができれば、強力な武器にだろう。

 もしかしたら、狗山さんを打倒する鍵になるかもしれない。……お、おそらく。


 すると、会長が『笑顔』を浮かべながら「新島くん」と俺に呼びかけた。

 なんだか嫌な予感。ドキリとする。


「……なんですか会長?」

「あのね……新島くん、これは面白い偶然なんだけどね……」

「はい?」


 会長は愉しそうに言葉を返す。


「狗山さんも――ヒーローエネルギーを消滅させる剣を持っているんだよ」


 息を呑む。

 ただ、憂慮すべきは、会長の『笑顔』がまだ終わっていない点にあった。


「しかも、ヒーローだけじゃない」

「彼女の剣は多用途型――怪獣もヒーローも全てを一刀両断する力を持つ」


 俺は初めて彼女と共闘したときのことを思い出していた。



《――いくぞ、新島くん》


 声をかけてきた狗山さんを見て、俺は思わず息を呑む。

 一点の曇りもない真紅のボディ、銀色に輝くゴーグル、左手に据えた巨大な剣(・・・・)

 頭に生えた二つの小さなツノ、首元の青いチョーカー、戦場に颯爽と現れた戦士のような勇敢な雰囲気。


《1年Sクラス狗山涼子、変身名《血統種パーフェクト・ドッグ》!》


《――絶対に斬れる前肢、絶対に駆ける後肢、絶対に狩れる牙、これらをもって世界を喰らおう》




 そして、月曜日。

 最終締め切り当日。

 英雄戦士チームの登録に向かった俺は――そこで狗山さんに遭遇した。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

第三章も次話にて終了となります。ここまで長々とついてきてくださり本当に感謝します。今後とも本作をよろしくお願いします。

次回、第38話「ヒーロー達の覚悟の時」(仮)をお楽しみください。

掲載は3~4日以内を予定しています。

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