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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第36話:ヒーロー達の限定救世主

 戦闘、開始。

 ――太宰治『斜陽』より抜粋

「――二人とも、5秒だけ時間を稼いでくれないか?」


 俺の言葉に葉山とあゆは肩を震わせる。恐れてるのではない。奮い立っているのだ。

 武者震いだ。

 俺はその反応を楽しむようにして、言葉を続ける。


「その隙に――俺が決めてみせる」


 眼前には悠然とそびえ立つ君島さんの姿。

 彼女を眺めながら、右手に宿る“熱”の感触を確かめる。

 そこには一振りの剣がある。


 白銀に輝く剣、変身名《限定救世主リミット・セイバー》を告げたことで発動した謎の剣、それがある。その正体が何であるのかは俺にも判らない。


 けど、その意味は判る。

 けど、その本質は判る。


 背中のブーストや身体の強化と同じだ。

 この武器は俺のために作られた。俺の根本と深く結びついていることは理解できる。


「フフフ……五秒か、五秒ねぇ……本当にそれだけあれば、何とかなるのかい?」


 葉山は面白いものでも発見したような口調で、問いかけてくる。

 俺は不動の心で強く肯定する。


「ああ、何とかなる。わかるんだ。今までわからなかったことばかりだけど、これはわかる。これは――彼女のような人間を打倒するための力だ」


 この剣は俺の気持ちを言葉にした瞬間に現れた。

 ならば――俺の望む最善の選択肢が選ばれたに違いない。


 変身名には、言霊が宿る。その人の想いを汲み取る不可視の力がある。

 この力は俺の望みを反映したものだ。俺は俺自身の力を信じ戦うことになるのだ。


「…………」


 葉山は俺の顔をじっと見つめてくる。


 変身後のため、表情は隠れていてわからないはずだ。意味はない。にも関わらず、内面を見透かされているような落ち着かない、不思議な気持ちになってくる。


 やがて葉山はいつもの奇妙な微笑を浮かべながら、立ち上がった。


「……フフフ、面白い、面白いことを言うもんだ、新島くんは。さすがは僕の友人だよ。――いいだろう、毒を食らわば皿までだ……フフ、どこまでもついていくよ」


 葉山の起立と共に、あゆも歪んだ機械音をあげながら、腰を上げる。

 二本の足で立つ。

 顔を真っ直ぐ俺に向けてくる。 


「私も信じるよ、ソウタ君のこと。その熱い信念は、この私が保証するよ! ソウタ君は私が尊敬するヒーローなんだもん! ソウタ君なら絶対にできるよ!」そう言い切り、胸をドンとたたく。


 気づいたら二人は、俺と一緒に、君島さんと対面していた。

 二人とも地獄のような激しい攻防の後で、身体は限界ギリギリのはずだ。痛くてキツくて苦しくて仕方のない筈だ。

 それでも、再び戦おうと、俺を信じて立ち並んでくれた。


 胸に熱いものがこみあげてくる。


「……二人とも、ありがとう。是非とも――力を貸してくれ」


「フフ……承知!」

「よっしゃ、応!」


 掛け声にあわせる二人。

 今の俺たちは無敵だ。怖いものなんてなにもない。神にも勝てそうな万能感。

 もちろん、これは下らない妄想だ。この妄想を実現させるためには、まずは目の前の困難を乗り越えなくてはいけない。彼女に、君島さんに打ち勝たなければいけない。


 二人の瞳に生気が戻ってくる、俺もそうだ。

 そんな俺たちの様子を眺めているのか、君島さんは嬉しそうに声を上げる。


「貴方たち、まるで本当にDクラスらしくなってきたわね、何だか……理想的よ」


 Dクラス――俺たちの所属する総合クラス。

 個人を戦うヒーローでもない、団体で戦うヒーローでもない、作戦を立てる司令官でもない、そのあらゆる全てを求められる。それが、俺たちDクラスの役割だ。


 そうだ。まさしく今のような姿を――Dクラスの理想形と呼ぶのかもしれない。


 ならば、


「なあ、葉山、あゆ――それなら目指してみようぜ。最高のDクラスってやつをな」


 初代ヒーローの意志を抱きながら戦うのも――悪くない。


 二人は力強く首肯する。

 さて、ここらでお喋りも終了だ。


 互いに顔を見合わせて、機会をはかり、そうして、飛び出していった。







「いくぞおおおぉぉぉぉおおお! 超、変、身ッ――!!」


 君島さんの右脇から颯爽と登場するあゆ。右腕を正面に突き出しながら、絶叫する。

 彼女の叫びに呼応して、彼女の身体は、彼女の『機械』の身体は、変形をはじめる。


「ガシャーン! ガシャーン! ギギギ、ギギギ、グワーン!」


 スーパーな変形タイムだ、0.05秒とはいかないが、変身ヒーローでもなければ見逃してしまうだろう速度で、合体と分離を繰り返している。


 まず、砲台となる右腕だ。円錐状に大きく展開する。

 続いて、頭の部分。一回転して内部機構に隠れてしまう。

 左腕は二つに分離、左右に広がり地面に密着する。

 両足も同様に二つに分かれて、身体の両脇に接合、砲身を支える土台が完成する。


 他にも複雑なギミックを重ねてはいるが、俺が目視できるのはここまでだった。


 彼女はそうして人間を超える――! 超越する――!!


(……いつ見ても凄まじい……)


 駆け出す足を速めながら、彼女の変化を目で追う。


 まるで工場の製造ラインみたいだ。迷うことなく変形していく。

 ぶっちゃけると、ちょっと怖い。

 光とともにブワーっと超速変形するわけにはいかないのだろうか。

 やっぱそれではロマンがないのだろうか。


 あゆは言葉を《発射》する。

 空気を振動させながら、俺たちの両耳に《直撃》させる。


「これが、これこそがっ! 私の変身名《全壊戦士オール・クラッシャ》の真骨頂だ――っ!!」


 巨大な一つの砲台に、その身を、その姿を生まれ変わらせ、雄叫びをあげる。

 ガガガ、ギギギギギ、と金属の砲身が激烈に唸る。

 照準を定める。目標「君島さん」にセット完了。


「さあさあさあ、構えてぇ~、狙ってぇ~、絞ってぇ~!」

「まともに食らうのは避けたいわね……」


 照準から外れるため、君島さんは回避動作に入る。

 彼女が本気を出せば、避けることは可能だろう。

 先刻の爆撃とは違う。広範囲を狙った、嵐のような攻撃ではない。

 彼女の身体能力ならば余裕のはずだ。


「しかし、この僕が逃がしはしないッ!」


 ここぞとばかりに葉山が参上する。

 右手を大きく広げる。

 親指、人差し指、中指、薬指、小指、五指を全て開く。するとそこへ煙が集まってくる。まるでブラックホールがあらゆる事象を吸収するように、右手に煙が充満する。


「文字通り、足止めさせていただこう! 変身名《幻影魔人ザ・ファントム》!」


「――種類『黒煙ブラック』!」


 葉山は鞭のように右腕を振り切る。

 放たれた煙は拡散し、加速し、体育館内を侵食する。

 濃霧のようになった煙たちは、君島さんの足元で渦巻きはじめる。

 右手の中指と親指を弾かせて、軽快な音を鳴らす。


「――固着化!」


 そのまま、君島さんの足元を固めてしまう!


「……ぐ、動きにくいわね」


 脱出しようと、無理に身体をよじらせる君島さん。

 しかし、抜け出せない。底なし沼に踏み入れたように、動けば動くほど嵌っていく。

 もちろん彼女の力量ならば、常人よりも短い時間で、抜け出すことは可能だろう。


 だが、短期間であったとしても、彼女の動きを制限できれば、それで十分だ。


「フフフ、時間稼ぎのための――時間稼ぎだ……頼んだよ」


「いっけえええええええぇぇぇぇぇぇえええええっ!!」


 僅かな間隙。

 それだけあれば、十全だ。

 それだけあれば、あゆの砲撃を君島さんに浴びせることができる。


 あゆは叫びとともに、発射――! 通常のエネルギー弾とはわけが違う。あゆの全精力を尽くした一発だ。


 空気を切る。轟音を立てる。光のミサイルが直進していく。


 激しい威力。強い。輝かしい力。さすがの君島さんも相手をせざるを得ない。


「――しかた、ない、わねっ!」


 君島さんは両手を使って対応する。

 まるでドッチボールの弾を押さえるように、あゆのエネルギー弾を受け止める。


「……思ったより強いわね、そして、これは良くないわね……」


 葉山は両足、あゆは両手、二人のお陰で、君島さんは完全に動きが拘束された。

 おそらく、それは刹那的な束縛だろう。

 彼女は強い。圧倒的に強い。絶望的に強い。

 あゆのように、強さで対抗しても、打ち負かされるだけだ。

 葉山のように、強さ以外で対応しても、いつかは限界がくる。


 だけど、二人の力が合わされば――彼女を止めることはできる。

 少なくとも5秒くらいは。


 つまりは、俺の出番だ。



(最後くらい、かっこよく決めてやる!)


 俺は加速する。

 君島さんの影が見える。

 巨大だ。

 恐れることなく進み続ける。


 勝利への階段は築かれた。

 あとは俺が登り切るだけ。

 結果を示してやるだけだ。


「きたわね……新島くん」


 エネルギー弾と黒煙で拘束されながらも、君島さんの反撃がこちらに向かう。


 両手両足とは別の箇所から。

 エネルギーの触手を伸ばす。俺の進路方向を阻害する。

 全身を動かして回避。葉山たちのお陰で、攻撃は精細を欠いている。

 右に、左に、轟音が響きわたる。

 器用に肉体を捻る。怯まず接近を続ける。


 俺と彼女の距離が10メートルを切る。

 このまま縮めてやる。

 突撃できる。

 君島さんの舌打ちが聞こえる。


「くっ……仕方ない、エネルギー増加……」


 距離が近づく。君島さんの攻撃が激しさを増す。

 無数のエネルギーの束、数の暴力だ。前がまったく視認できない。

 前方も、右も、左も、ほとんどエネルギーに覆われている、これ以上近づけない。

 速度を弱める。

 まるでエネルギーの壁だ。壁、壁、壁、だ。


 壁、か。


 そう、か。


「それならば! この俺が壁なんて無理やり――斬り崩してやるっ!」


 壁なんて張らせてたまるかぁ!


 俺は右手の白銀の剣を、両手で構える。

 速度はそのまま。

 エネルギーの壁に接近する。

 相克する。

 地面を蹴り、踏み込む。

 特攻。

 斜めからの振り下ろし。

 絶望をかき消すように、鋭い一閃を刻み付ける!


 瞬間――エネルギーの束が霧散する。


「なっ……!」


 君島さんが電撃でも浴びたかのような声をあげる。

 もう気づいたか。こいつの特性に。さすがは最強だ。恐ろしい。

 あらゆる意味で余裕がない。


 タイムリミットも目前だ。


 彼女の反撃が激しさを増す。

 従来の比ではない。

 強力で強烈なエネルギーの束が襲ってくる。

 しかし、葉山とあゆも頑張っている。

 彼女の対応が遅れる。

 その間も俺は走る。

 白銀の剣がキラリと光る。

 彼女の右脚が見える。

 黒煙が見える。

 葉山に対して言葉を発する。


「葉山、頼む!」

「フフフ……了解、変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、種類『黒煙ブラック』――固着化!」


 君島さんの足元を包み込む黒煙。

 その一箇所が鉄板のような硬度を持つ。

 俺は一気にジャンプ。

 固着化した黒煙を足場にして、さらにジャンプ。

 彼女へと肉薄する。

 右足が見える。

 力を込める。

 絶叫。



「うおぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」



 世界を超えろ! 強さを超えろ! 超克しろ――!


 叫びとともに、煌めく白銀、

 その切っ先は確かに斬り抜き、

 強さを超えて、全てを超えて、あらゆる事象をあらゆる現象を超克して、


 俺は地面へと降り立った。


「斬撃、完了……」


 ふぅっと息を吐く。

 俺は後ろを向く。

 すると、君島さんの右足に奇妙な現象が発生していた。

 エネルギーの塊であった右足が、ぐにゅぐにゅと泡を立てて、霧散する。

 再生を試みるが、うまく繋がらない。


「……なっ!」


 そのままバランスを崩し、君島さんは、地面へと倒れる。

 激震が、響く。

 体育館内が大きく揺れる。君島さんが倒れた衝撃によるものだ。


「勝利、完了……」


 俺は再び大きく息を吐く。

 全身から力が抜ける。

 長距離マラソンを終えた直後のような、言語化に苦しむ、独特な解放感に包まれる。

 なんだか気持ちいいな。

 俺はそうした浮遊感に包まれたまま、そのまま意識を――


「フフ、そう何度も気絶をしないでおくれよ……」


 失うよりも先に、葉山に肩を預けられた。そのまま支えられる。


「……お、おお……ありがとう、葉山」

「フフ……初めてマトモにお礼を言ってくれた気がするよ……」


 そういえばそうだっただろうか。

 横を向くと、人間型ヒーローに戻ったあゆが近づいてきた。


「そーったっくぅ~ん!」


 どどーん、と。

 そのまま俺にぶつかってくる。

 おいおい、危ないことするんじゃねぇよ。


 予想通り、勢い余って地面にダイブしてしまう。


 俺たちは倒れこみながら、三人で声を揃えて笑う。


 どここから笛の音が聞こえる。生徒会長が吹いているのだろうか。


 俺たちはもう一度互いに顔を見合わせて、大声で笑う。


 いろいろあったけれど、苦労もいっぱいしたけれど、

 今のところは、どうにかこうにか、

 最終試験――クリア、であった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回にて最終試験も決着です。次回「ヒーロー達の祝賀会」をお楽しみください。

第三章もそろそろ終わりが近づいてきました。

掲載は3~4日以内を予定しています。

それでは次回もぜひよろしくお願いします。

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