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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第32話:ヒーロー達の自律変身

 なんといっても変身ヒーロー(・・・・・・)だ。

 ああいうものはテレビの中にしかいないから面白いのであって、現実の側にいられると混乱の元にしかならない。

 ――上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』より抜粋

 ここで、変身装置に関するお話を少しだけしておこう。

 学校でも勉強はするし、もはや常識となっているが、一般人が変身装置を所持することは法律で禁止されている。家に保管しておくのもダメ。街なかで持ち歩くのもダメ。

 装置を使用してヒーローに変身するだなんて……厳禁だ。


 それは警察の人に「こらこら~ダメじゃないか~」と軽く怒られて済みはしない。

 普通に逮捕される。何十万、何百万、という罰金を支払わせる。

 場合によっては刑務所行きだ。


 日本における拳銃や爆弾と同じものだと考えてくれればいい。

 単純所持だけで、一発アウトだ。


 こうした規定は世界共通の流れである。

 怪獣も怖いが、冷静に考えれば、ヒーローだって怖い。

 普通の人間が、一瞬で超常的な力を身につけてしまうのだ。

 本気を出せば、人を、街を、国を、世界を破壊することができるのだ。


 これは、恐怖以外の何物でもないだろう。


「だからこそ、狗山理事長たちが一番初めに手がけたのは、ヒーローのイメージ刷新だった。ヒーローは怪獣を撃退する『良い存在』である――そう世間に認識させる必要があった」


 生徒会長は道すがらそう語ってくれた。

 俺は会長の後ろに連れ添って歩く。両隣には葉山とあゆの姿もある。


「昨日も同じことを言いましたが……実際問題、成功してると思いますよ。そのイメージ戦略。俺なんかはヒーローにすげー良いイメージを抱いてますから。正義の味方であると」


 ちなみにこうしたお話は、ある程度の勉強している人ならば知っていることらしい。

 イメージ戦略だと自覚して乗っかっているのだ。俺もそれで悪くないと思う。


「フフフ……ヒーローが正義の味方なのは変わりないさ。問題は――その力を悪用する人間がいるという事実……フフ、要は使用者の良識の問題だ」


「葉山の言う通りだね。昨日話したヒーロー犯罪の増加も、それに関係している」


 昨日――俺が生徒会長に質問したから一夜明けていた。

 そして今は放課後である。俺たちは四人は、総合体育館を目指していた。


「でもでも、どうして変身装置を使っての犯罪が増えようとしているんですか?」


 あゆが頭にクエッションマークを浮かべながら尋ねる。

 生徒会長はいつもと変わらぬ澄ました顔をして肩をすくめる。


「それは単純な話さ。今まで子供だったヒーローたちが大人になってきたからね。現在最年長が理事長世代の34歳。その世代までは変身装置をつかえば自由に変身することができるんだ。――そりゃあ、悪どい事もやり放題さ」


「あくどいこと?」


「わかりやすい例をあげれば――テロとか」


「うわぁ……」「うっわ……」え、えげつねぇ。つーか実感湧かねえ……。


「フフッ……まあ、可能ですね。僕でも銀行強盗くらいならできそうだ」


 おいおい、やめてくれよ。あんまり聞きたい話じゃねーよ。


「とにかく人類の半分以上がヒーローになれる時代がきつつあるんだ。

 無論、ヒーローを無力化できる装置はあるし、変身を感知する専用のレーダーもある。変身装置は拳銃や麻薬ほど入手しやすいものではないし、扱いにも手間取る。

 しかし、僕たちは備えなければいけないのだよ。

 人類の平和のため、そして――ヒーロー達の平和のためにね」


「だから、ヒーローを撃退できるヒーローですか?」


「その通り。まあ、犯罪者の呼び名は変えてもらうだろうけどね。ヒーローじゃなくてヴィランとかにね……僕たちもイメージダウンは避けたいからね」


 うっわー超絶怪しい笑顔。


 叩けばもっといろいろ出てきそうだが、俺はこれくらいにしておくことにした。

 精神衛生上によくないしね。


 生徒会長的には俺たちがこの話を聞いても、聞いたうえでも、

 ヒーローという概念を許容してくれると信じて語ったのだろう。


 ヒーロー犯罪の増加と、その対策としてのヒーロー撃退用ヒーローの養成。

 生徒会長の話は納得のいくものであった。


 英雄戦士チームはあらゆるヒーローの頂点に立つことが求められている。

 それは怪獣の撃退だけではない。ヒーローの撃退も視野に入れたものである。

 1999年に世界に初めてヒーローが誕生してから。十九年が経過している。

 時代は常に移り変わっているのだ。


 セカイがヒーローが直結した時代は終わりを迎えた。

 みんなが迷いながらも、ヒーローへと決断していく時代も過ぎ去った。

 あらゆる者がヒーローとなり、それが当然となる時代が訪れようとしているのだ。


「――で、これで理由の半分。もう半分は今から向かうところにある」

「それが……俺に課された最終試験ですか」


 最終試験――修行の集大成。


 本日は五月十八日の金曜日。

 すでに英雄戦士チームの選考会の締め切りまで三日を切っていた。

 締め切りを終えて、一週間もすれば選考スタートである。


 長いと思っていた修行期間も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 運命の時が刻一刻と近づいてきたのである。


 そこで、俺は修行の仕上げとして、最終試験を受けることとなったのだ。



「さあ、ついたよ。総合体育館、広さよし、耐久性よし、これなら安心して戦えるだろう。シロちゃん先生の許可も貰ったしね」


 俺たちが入学式で使用した体育館がそびえ立っていた。

 ここが最終試験の舞台となるのか。中に入る。五月というのに空気がひんやりとしている。静寂に満ちており、自分の足音が反響して耳に入る。生徒の気配を感じることはできなかった。


「完全に貸切みたいですね。誰もいない……」

「そんなことないよ――ほら」


 俺たちは玄関を抜けて、中に進むと――ステージの中央に一人の生徒がいた。

 一人の女生徒が――そこにはいた。


「ようやく来たわね」


 静けさを突き破って、声が届く。


 普段通りのセーラー服、仁王立ちで、堂々と腕を組んでいる。

 不敵に笑みを浮かべ、凛々しい決然とした瞳、こちらをギュッと見据えている。


「君島さん」


 体育館の中央に、君島さんが一人で立っていた。

 まるでこの私を越えてみろとでも言いたげな、ラスボスのお出ましだとでも言いたげな、不敵で挑戦的で愉悦に満ちたオーラを背後からガンガンに感じさせる。


 横にいた生徒会長が、俺に対して声をかける。


「さて、それでは新島くん。――最終試験といこうじゃないか。

 ルールは単純明快。優子ちゃんを一回でも地面に手をつかせたら、君の勝利だ」




 ……なんだって?

 驚きのあまり思わず会長と君島さんを見比べてしまう。


「えっ……君島さんと戦うんですか?」

「ふふふ、どうしたのかしら怖くなってきたかしら?」


 君島さんがさっとステージから降りて、こちらに近づいてくる。

 服装は動きやすいものとは言えないし、変身装置を身に着けている様子もない。


「い、いえ、戦うとあれば、誰が相手だろうと全力をつくす所存ですが……」

「なら、いいじゃない」

「ただ、一度でも地面に手をつかせたら勝利だなんて……そんな『簡単なルール』でいいんですか?」


 奇妙な話であった。

 これまでの修行期間、俺はもっとハードで地獄のようなルールで戦ってきた。


 例えば気絶するまで互いに人間に戻ってまで殴りあうとか。

 例えば建物の間にロープを張って、落ちてしまったら敗北とか(ブースト禁止)。

 例えば一度でも攻撃を受ければそこで失格とか。


「なに? もっとハンデがないといけない? 私がこの場から一歩も動かないとか」

「い、いえ……そんなことはないんですが……」


 それが最終試験でいきなり簡単になってしまった。

 わざわざ気絶させる必要もない。簡単だ。楽勝だ。

 昨日話を伺い、一日覚悟を決めてきた立場としては……いささか拍子抜けであった。


 俺のそうした様子を察したのか、会長が俺の肩に手を置いてくる。


「ちなみに新島くん。わかっているとは思うけど、楽なルールだったら油断しろだなんて――僕は教えてないからね」


 鋭い一言が、銃弾のように胸に突き刺さる。

 ――そうだ。よく理解はしている。慢心してはいけない。

 慢心は油断を生み、油断は敗北を引き起こす。

 エンジンをかけ直すように、気合を入れ直して声をかける。


「はい、誰が相手だろうと、どんな条件だろうと、最高の勝利を目指します」

「そう、その意気だ」

「ありがとうございます!」


「フフフ、体育会系だねぇ……」


 葉山の声が遠くから聞こえる。振り向くと、体育館の端にあるベンチに座っていた。その隣であゆもブンブンっと手を振ってくる。


「観客になるのはやっ!?」

「頑張ってねーソウタ君! 勝ったら何かおごってあげるから―!」


 あゆに至ってはお菓子とジュースを広げ始めていた。手馴れてるなあ、おい。


「ふふっ……よけいに負けられないわね、新島くんは」


 俺は視線を君島さんに戻す。


 自信満々というか自信しかなさそうな表情をしている。

 傲岸不遜――とでも表現すれば良いのだろうか。

 己の勝利以外は存在しないと信じ切っているようであった。


(そこまでの強さなのか……?)


 俺はこれまで会長たちと戦った経験がない。

 数週間にわたる地獄のような修行をずーっと続けてきたが、生徒会長と副会長、この二人と正式なバトルをしたことはなかった。会長とは練習程度の手合わせをすることはあったが、君島さんに関して言えば、変身した姿すら一度も見たことがない。


 最終試験でそれをお披露目するということは――意図的に隠してきたのだろう。

 何のため? ――それは……わからない。

 さっきまでのヒーロー犯罪と関係があることなのだろうか?


「それじゃあ……話を聞いてる、新島くん? 勝負を始めてしまいたいのだけれど」

「あ、す、すいません。ルールに関しては異存はありません。どんな条件だろうと、どんな状況だろうと、俺は――勝利を追求するだけです」

「さすがに勇ましいわね。ここまで頑張ってきただけのことはある」


 君島さんは腕を組んで感心したように微笑する。

 うーむ、よくわからない。


「いつも酷い目にあってますからね。今日ばかりは復讐しますよ」

「んーそれはどうかしらね。五分後に同じことが言えたら褒めてあげるわ。

 ――それじゃあ、さっそく始めてしまいましょう。変身装置の準備は大丈夫?」


「は、はい……君島さんは?」


 一見したところ、彼女は変身装置を持っていないようであった。

 これでは勝負を始めるどころの話ではない。

 だが、君島さんは長い髪を靡かせて、涼しげに「必要ない」と告げた。


「え……今なんて……」

「必要ない――そんなものは必要としないわ、この怖い怖~い、私にとってはね……」


 そう言葉を告げて、君島さんは右手を胸にゆっくりと当てた。

 心臓の辺りだろうか?親指を押しつける。顔を下方に向ける。

 両目は閉じているようだ。集中している。その様子が外からも伝わってきた。


「あ、あの……君島さん……」

 不安になって声をかけようとすると、生徒会長は片手で塞いできた。


「新島くん。先ほどのお話の続きだ。ヒーローと戦うもう一つの理由を教えよう」

「…………もう一つの理由」

「君も、聞いたことがあるかもしれないが、世の中には、生まれつきヒーローエネルギーを活性化できる人間が存在する」


 眼前の君島さんを眺めながら、生徒会長は懐かしそうないつも通りのような、

 うまく言語化できない表情を浮かべる。


「ヒーローエネルギーを活性化できる……ってことは」

「そうだよ……もしかして授業で学んだかな。

 変身装置を使わないでヒーローに変身できる人間がいる、という訳さ」


 じわり、じわり、と変化が起きだした。

 まるで夏の蛍のように、朧気な光が、君島さんの周囲に灯り始める。

 光量は徐々に増していく。君島さんはとどまることなく光り続ける。

 淡い光が、濃い光に。弱い光が、強い光に。曖昧な光が、明瞭な光に。

 まるで星空のような輝き。まるで太陽のような眩しさ。見えない。視認できない。


 もうすでに、もはやすでに、君島さんの姿は目にすることができない。


「そもそも変身装置が作られたきっかけは彼女たちの存在があったからだ。

 自由に、自在に、ヒーローに自律的に変身できる奇跡のような人間たち。

 それを世界は――自律変身と名付けた」


 会長も俺も目をつぶっていた。光が強すぎて前を見ることができないのだ。


 君島さんの放つ光はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。

 俺たちは目を開くことを許される。世界は再び色彩を得る。彼女の輪郭が認識できるようになる。

 同時に、


 ぐるんっ!


 と、まるで光が伝播するような速度で――君島さんは回転する。


 回転する。

 回転する。

 回転する。


 ぐるぐるぐるぐると無限に連環する。

 循環を繰り返し、繰り返し、ぴたっと君島さんが動きを止める。

 声を発する。


「ふん、そんな上等なもんじゃないわよ。――ただの、ただの化物よ。こんなものは」


 君島さんのいた場所から――銀色のアンドロイドが登場した。

 ほとんど人型同然の見た目。

 肉体は着用していたセーラー服をそのまま銀で固めたような形状をしている。

 顔だけはのっぺら坊みたいに能面だ。


 だが、このヒーローは、どこかで――見覚えのある姿だ。

 あれは……生徒会長のヒーロー? ほとんど瓜二つだ。


「似ているだろう? 僕の外見は彼女をモチーフにしたものなんだ。自律変身のヒーローは、他人に与える影響が尋常じゃないからね」


 会長の言葉が耳に入る。

 だが、明らかに異なる点がある。それは――ヒーローエネルギーの強さだ。

 なんて禍々しい――人間ではないような――力強さ。


 これは俺が特殊な眼力を持っている訳ではない。

 修行の果てに相手の実力が見ただけで判るようになった訳でもない。


 ただ――視認できるのだ。この目ではっきりと、その強大なエネルギーが。

 まるで隠す気もないくらいに。彼女の周囲を取り巻いている。

 眼前のヒーローから湯水のように、真っ白な「オーラ的な何か」が溢れ出ている。

 あれを――ヒーローエネルギーと呼ばないで、なんと呼ぶというのだ!


「さあて、新島くん覚悟しておいた方がいいよ。あれは僕のオリジナルみたいなものだ。現時点において――学園最強のヒーローの一人であることは間違いない」


「さ、さいきょ……」


 言葉をつまらせる俺に、目の前のヒーロー、君島さんがあからさまにため息をはく。

 いつもの――君島さんだ。そこだけは安心した。

 そして声が聞こえた。


「ふん、大したお題目ね。あんまり興味はないわよ。――ただ強すぎることだなんて」


 彼女は再び毒づいて、雑然と左手を腰に置き、右手をこちらに向けて指さしてくる。


「一応ね……私もヒーローってことになってるので名乗らせて貰うわよ」


 そう言って右腕を軽く上げ、ぱちぃん、と指を弾く。

 すると、彼女の視認できるオーラが全て消える。操作可能なのか。


「三年Sクラス――君島優子、変身名《戦闘美少女モンスター・ヒロイン》」 


 そのまま腕を大きく振り下ろして、凝縮したオーラを爆弾みたいに弾かせる。


「さて、貴方も早く変身しちゃいなさい――すぐに壊してあげるから」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回「ヒーロー達の最終試験(仮)」をお楽しみください。君島さんとバトります。

次話の掲載は3日~4日以内を予定しています。それでは次回もよろしくお願いします。

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