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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第31話:ヒーロー達の問題提起

 生徒会長プロデュースの修行は予想以上にハードであった。

「さあ、おはよう! 新島くん」

 まず朝一番に起こされて、一戦。

「さあ、昼休みだね! 新島くん」

 昼休みに呼び出されて、一戦。

「さあ、放課後だ、アフタースクールだ! 新島くん」

 放課後さらに一戦。

「いつから、これで終わりだと錯覚していたかな?」

 そのあとさらにもう一戦だ。


「ぐおおおお……」


 試合を終えるたび、俺の身体はショート寸前のマシンみたいにボロボロになった。

 君島さんの治療を受けて、専用の栄養ドリンクを摂取して、ヒーローエネルギーを調整することは可能だった。だが、必ずしも肉体と精神がついていけるわけではなかった。


 つーか、無理だった。キツすぎて死にそうであった。


 例えば壊れかけの自動車があるとして、ガソリンさえ注げば必ず走れるだろうか?

 答えはノーだ。


 そんな強行軍的な生活を毎日の日常に置換されてしまったのだ。なんてこった。

 俺は文字通り『死に物狂い』で修行に挑んでいた。


「次はこの人だ。3年Aクラスのラグビー部の部長さん。その変身後の腕力は、怪獣を一人で持ち上げるくらいパワフルだ。覚悟しておいたほうがいいよ」


「さあ、続いてはチームバトルだ。相手は2年Bクラスの飛翔戦隊の方々。この人たちの必殺技は成層圏ギリギリまで飛べるそうだよ。川岸さんと葉山と力をあわせて、戦ってみよう」


「よし、今の勝負は悪くなかったね。次はシロちゃん先生のところに行って、怪獣を出してもらおう。毒の触手を持つクラーケンと、天空を操って雷を呼ぶペガサスだと、どっちがいいかな?」



「ぐわわわわ……」


 実践に勝る経験はない。死闘は己の血肉となる。

 正しい。正しいことだ。正論だろう。だが、いくら理論的に正しかったとしても、納得のできない事象は世の中にたくさんあるのだ。


 つらかった。めっちゃつらかった。

 対戦相手はバライティに富んでいた。どこかの部活の部長さんだったり、委員会のお偉方だったり、図書館の司書のお姉さんだったり、伝説の魔獣だったり、謎めいた転校生だったりした。


 おかげで戦闘に慣れることはなかった。グダグダになることはなかった。

 いつも命がけで、いつも真剣勝負であった。


 俺は、常に新鮮で真剣な、限界ギリギリのバトルを挑むことになったのだ。

 畜生……。


 こうして、勉強と睡眠以外の時間は、全て修行に費やすような日々が続いていた。

 辛くてキツくて死にたくなったが……まあ悪くはなかった。激しさと苦しさのあとには、うまく表現できないが爽快感みたいなものは残った。厳しい運動部で汗を流している生徒なんかは、練習を終えたあとこんな気持になるのかなと思った。青春の日々であった。


「それ、間違いなく感覚麻痺してるからね」

「えー何言ってるんですか、君島さん、あはは……」

「いえ、あなたが満足できるなら、それいいんでしょう……」


 君島さんはおかしなことを言うなあ。俺は白目になりながら笑っていた。


 こうして俺の四月は終わりを告げた。

 ゴールデンウィークが駆け抜けるように過ぎ去って、五月も中旬に差し込んできた。


 もうすぐ英雄戦士選考会の締め切りである。

 運命の日が近づきつつあった。




「うっわー今日もつっかれたー」

「おつかれーおつかれー」

 疲れた身体をそのまま美月の部屋にあるクッションにぶつける。

 ボフン、と空気が漏れて、餅みたいに膨らんだクッションがペシャンコになった。


「ぐはー」

「そーちゃん毎日、毎日、よくめげないで頑張るねー」


 そのまま寝っ転がっていると、部屋着姿の美月が、戸棚から真っ白なタオルを投げつけてくれる。

 視界が白くて半透明なものに覆われる。まるで死んでしまった人みたいであった。


「汗かいてんでしょー、それでふいといてねー」

「おお、サンキュー」

「いや、クッションの方を」


 ……さいですか。


 そのままクッションを職人のような手つきで綺麗にする。

 俺はプロ、汚れたクッションを真っ白に戻すプロフェッショナルさ。

 すると、美月が台所から飲み物とコップ、それと小さめの鍋を持ってきた。


「今日は私のターン。不肖、美月瑞樹が作り上げましたお食事は……じゃぁーん」

「カレーだろ」

「カレーでーす。ばばーん」


 若干ハイテンション気味な美月の差し出した鍋を覗く。

 その中には熟成させたカレーが入っていた。


「いつのだよ」

「さあ、いつでしょう」


 とぼけた顔をしても騙されないぞ。

 俺の記憶が正しければ、一昨日もカレー、4日前もカレー、さらにその前もカレーだったはずだ。


「なんだよインド人かよこの家の住人は」

「いや、だって私、カレーしか作れないんですもの」

「ですもの、って言われてもな。もっと他にも楽なのあるだろパスタとか」


 ちなみに俺と美月はお隣さんであるため、夕飯は極力一緒にとるようにしていた。

 食事代と光熱費の削減、そして食事はみんなで食べたほうがおいしいものであった。

 というか、一人きりで食事をとるのがお互いに寂しかったりする。


 夕飯を作る担当は一日交代制。以前は俺が一人でやっていたが、さすがに生徒会長の特訓が続くとそれも不可能になった。そのため、五月からは美月も料理を開始したのだ。


「料理の勉強くらいしてくれると思ったんだけどなあ……」

「し、したよっ! 涼子ちゃんのところで焦がさないカレーの勉強したし」

「次はレシピを増やすように頼んでくれ」


 狗山さんや葉山たちが押しかけることも日常茶飯事であった。

 お互いに住んでいる場所は近い。みんな自炊するのは面倒なので(狗山さんは目的が違ったが)、我が家にやってくることは珍しいことではなかった。


 お皿を用意して、ご飯をよそい、カレーを盛って、夕飯を開始した。


「そーちゃん。今日はどんなバトルをしたの?」

「……えーっと、最初はチーム戦だったよ。三年のBクラスに所属している五人組でさ。キセキの戦隊って呼ばれているらしい。コピー能力者とか必中能力者とか厄介なやつが多くて大変だったよー」

「へー、何だかいろんな人に怒られそうな通り名だね」

「まあ、全員女性だったんだけどな」

「もっと怒られそうな気がするのだよ……」


 美月が引いていた。こいつが俺の対戦相手にドン引くのはいつものことであった。


「結局、負けてしまって、君島さんに折檻を食らってしまったよ」

「うわー、大変だー」

「その次は怪獣と対決してさ。煙を吐いて石化させてくるんだよ。煙に触れてはいけない感じ? でも、そいつは空を飛んで対応したりして、何とか撃退することができた」

「おーすごいじゃん」

「ただ、右脚がの端っこが石化してしまってな。治すのに手間取っちゃって、罰として君島さんに殴られてしまったよ」


「なんだか、そーちゃんの話を聞いてると、毎回必ず最後に君島さんって人に殴られてる気がするんだけど、気のせい……?」


 いや、その認識であってる。

 ちなみに美月は生徒会の方にはなかなかお邪魔したがらない。

 基本的にというか根本的に人見知りなのだ。


「そういえばバトルってやっぱりヒーロー同士で戦うことが多いの?」

「あーそうだな。だいたい五戦やってうち一回が怪獣戦くらいかな、生徒会長のツテを辿っていろんな人とバトルするのが一番多い」

「ふーん、ふーん」


 スプーンでヒョイヒョイと食事を口に運びながら相槌を打ってくる。


 本当に一番多いのは、あゆや葉山と対決することだけどな。会長直々の修行は受けてないが、着々と力を伸ばしていた。狗山さんを除いた直近のライバルはあの二人になるのかもしれない。


 すると、美月は小首を傾けながら不思議そうな表情を浮かべていた。


「どうした美月? 首でも痛いのか?」

「いや、そうじゃないんだけど、ちょっと妙に思ったことがあってね」

「寝てばっかいたから、寝違えたのか?」

「だから、違うって! ……うーん、なんというのかな、そもそも――何でヒーロー同士が戦う必要があるんだろう、って思えてさ」


「…………うん?」


 俺は目をパチクリとさせた。え、ええ……ってビックリした気持ちだ。

 どうして服を着てないの?と指摘された裸の王様みたいに面食らってしまった。

 俺の反応に対して、美月は自分が間違っている気持ちになったのか、不安そうな目を向けてきた。


「いや、だってそうでしょう。ヒーローは怪獣を倒すために存在してるんだよ」

「あ、ああ……まあな」

「それなら、どうして同士討ちみたいな訓練をさせるの? 戦わなくちゃ生き残れないの? べつにヒーロー同士で戦う必要はないと思うんだけど……」

「た、確かに……奇妙だ」


 それは、想定外の考えであった。

 1984年以降、世界は変わり、ヒーローと怪獣が現実のものとなった。


 俺もテレビや漫画でヒーロー同士が戦う物語は、いくつも見たことはある。

 しかし、それはあくまでも空想上のお話である。

 現実じゃない。リアルじゃない。

 俺たちの目指すヒーローは、怪獣を倒すために生まれた存在なのだ。


 それは社会においてもそう認識されている。

 ヒーローの力を怪獣討伐以外に使用することはご法度とされている。

 例えばヒーローの力を戦争で使うこと。これは国際的に禁止されている。

 科学実験や自然開発においてもそうだ。

 ヒーローエネルギーは必要以上に利用してはならないことが決まっている。


 ――だというのに、俺は平然とヒーローと戦っている。


「何故、なんだろうなあ……」


 今までは難しく考えてこなかった。考える余裕がなかったと言ってもよい。

 明日、生徒会長に会ったら訪ねよう。そう心に決めた。




「ヒーロー同士で戦う理由? そんなのは簡単だよ。英雄戦士チームはヒーローと戦うことを想定された選考会だからだよ」


 美月の話を聞いた翌日。さっそく俺は生徒会長に尋ねてみることにした。

 放課後に二戦あったのだが、今日はめずらしく勝負を早く済ませることができた。

 そのため、生徒会の部室でのんびりと過ごすことにしたのだ。


「新島くんも勝ち数が増えてきたわね。よくやるじゃない」

「いやぁーそんなことは…………まあ、ありますけどねー」

「うわ、うざっ……マジ気持ち悪い」

「持ち上げといて落とすのやめてもらえませんかっ!?」


 君島さんはマネージャーのように俺を介抱してくれた。

 無論ポジティブな意味ではない。具体例をあげると、気絶中の俺に、優しくヤカンで熱湯を注いで、優しく起こしてくれたりした。『優しさ』で中和されない凶暴性がそこには内蔵されていた。今は身体を宙吊りにされて新しいマッサージ方の実験台になっていた。


「英雄戦士チームでヒーロー戦が多いのは知っていますよ。僕が知りたいのはその先といいますか、もっと根本的なところといいますか……」

「――ほら、ちょっと、くすぐったいわよ」

「わ、わはははは……ぎゃああああああ、痛い、痛い、痛いっ!?」

「大丈夫、すぐに楽なるから……二つの意味で」

「もう一つは? もう一つは、何なんですかっ!?」


 生徒会長は俺が宙吊りになっている様子を眺めながら、お茶をすすっていた。

 そんな酒の肴にするような感じで見ないでいただきたい。


 しかし、質問はちゃんと届いていたようだ。

 得心したように頷いて、俺の言いたいことをまとめてくれた。


「なるほどね。要するに、何故ヒーロー同士で戦う必要があるのか? こう聞いてるんだろう?」

「そうです、それです……ぎゃあああああああああ!」

「無論、新島くんの質問に答える準備はできているよ。むしろ待ちわびてたといってもよいくらいだ」

「といいますと?」

「気づくのに遅すぎってことよ。……ほら、これでラスト、気合一発いくわ」

「ぐわああああああああ!」


 俺は背中から煙でも吹かしてるじゃないかと思える様子で、倒れ伏した。

 網の上で焼かれている魚ってこんな気持ちなのかなと思ったりした。

 しかし、悔しいことに――むしろ、これが君島さんのスゴさであるが――俺の身体は元気いっぱいになっていた。


「く、悔しい、こんなマッサージで……」

「感じちゃう?」

「感じませんよ!」


 いや、メッチャ効果はありましたけどね!

 俺の様子を見て、会長は笑っていた。


「はっは懐かしいな。初めて優子ちゃんのマッサージを受けた頃は、僕もそんな感じだったよ」


 俺は目をまるくして会長の顔を見る。


「会長も似たようなことをやっていたんですか?」

「まあね、僕も昔から強かったわけではなかったし、というかむしろ弱かったしね」


 信じられない話だった。葉山によると、会長はとんでもない才覚を持ってグイグイ頭角を現していったイメージがあった。


「イツ……会長は取り立ててスゴイ才能があるわけじゃないしね。むしろ単純な能力ではアナタや葉山のほうが完全に上よ上。ザコよ、この人は」


 君島さんはふぅ~っと大げさにため息をついてみせた。

 今、下の名前で呼ぼうとしてただろ。

 しかし、会長は動じる様子はなくて綽々としていた。


「はっは、ヒドイ言われようだなあ」

「偉いだけで強い訳じゃないのよ。権威=実力ではないことの体現者といっても良いわ。そうね……ウルトラマンで例えるならゾフィーよ。この人は」

「ゾフィー兄さんの悪口を云うのはやめてくれ!」

「……自分のことはいいのかしら」


 君島さんがジト目をしつつビックリしてた。というか引いていた。ドン引きだった。

 最近は会長も心を許してくれたのか、俺に内面を見せてくれる機会が増えてきた。

 この人のことだから、それも計算のうえなんだろう。しかし、こう、取り乱した様子をポーズだとしても見せてくれるというのは、何だか距離が縮まったようで嬉しい。


 会長はズズッとお茶をすすってから、話を引き戻す。


「……それでヒーロー同士が戦う理由だったね。この件に関しては、選考会までに新島くんに知ってもらいたかったと思っていたよ。尋ねてくるのを待っていたともいえる」


「遅くなってしまって申し訳ございません」


「いやべつに謝らなくてもいいよ。それでヒーロー同士で戦う理由――それは単純明快だ。将来、ヒーローは怪獣だけでなく、ヒーローを倒せる力を、世界が求めているということだ」


 ヒーローを倒せる……?

 生徒会長の発言に君島さんの口元がピクリと動いた気がした。

 俺は彼女の反応も気にかかったが、とにかく生徒会長に尋ねる。


「ヒーローを倒せるヒーローとは、……どういうことですか?」


「ろくでもない話よ。あまり真面目に考えないほうがいいわ」


 君島がそうアドバイスしてくれる。

 会長はその助言に苦笑。言葉を続ける。


「いやぁ……純粋にヒーローを夢見ている人には話したくないんだけどね……。おそらく近い未来、いやもう始まっているかもね。今後、世界的にヒーロー犯罪の増加が予測されている」


「ヒーロー、犯罪ですか?」


 なんだその胡乱うろんな言葉は。

 生徒会長は肩をすくめてあえて戯けたポーズをとってみせる。

 しかし両目だけはしっかりと俺を捉えて離さない。


「そうだよ、変身装置の悪用あるいは自律変身に伴うヒーロー犯罪の増加。

 あるいは暴走――これが社会問題になるだろうと予測されている。

 そして英雄戦士チームが求めるヒーローは万能なヒーローだ」


 会長は視線を俺からズラす。君島さんを見る。

 彼女はため息をついてから「どうぞ」と小声でつぶやいた。


「それ故に、英雄戦士に入隊するヒーローは、怪獣の撃退だけではない。

 ――ヒーローを倒せるヒーロー、それを僕たちは求めているんだ」


 そして翌日――五月十八日の金曜日。

 俺は修行の総仕上げとなる最終試験を受けることとなる。

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

ちょっときな臭い要素を加えてきました。詳しいことは次回語られると思います。

それでは次回「第32話 ヒーロー達の自律変身」(仮)をお楽しみください。

掲載は3日~4日以内を予定しています。

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