第26話:ヒーロー達の友愛白熱(前編)
あゆの発射した鋭いレーザービーム。隙を与えることのない速射攻撃。常人には視認不可能なスピードアタック。まさに一撃必殺の遠距離砲撃だ。普通であればそのまま消し炭にでもなるところだろう。
だが、
だが、それでも、無駄だ。
激しい光線が直撃したはずの俺は――無傷だった。
そこらの雑魚キャラのように簡単に倒れこむことはなかった。姿勢を崩すことなく体勢を維持したまま、地面をズサアアアと滑走しながら後退する。
「……あれっ!?」
驚きの混じった声をあげるあゆ。彼女の予定だと俺は地面に倒れ伏しているはずだ。
きっと、そうなるはずだった。
しかし、そうはならなかった。
ジジジ……ジジ、
とビームの圧力をようやく封じ終えた俺は、種を明かす手品師のように、右手をひらひらと振って誇示する。
――右腕のボタンが青色に光り輝いていた。
「……どうやら、右腕を強化できれば、対応することは可能みたいだな」
「ヒューッ! なるほどなるほど、さすがだねっ! 葉山くんが苦戦するだけあるよ!」
あゆのレーザーが発射される直前。俺は右腕のボタンを押して強化を終えた。
そのまま迷うことなく捕獲。野球のキャッチャーが投手の白球を捕まえる要領で、ビームを片手で受け止めたのだ。
こうした防衛法はヒーローの動体視力があればこそだろう。
本当なら回避するのが一番のはずだ。俺だってこんな実験的な対応はさけたい。
しかし、そこまでの余裕はなかった。肉体的にも精神的にもだ。
つーか無理。とっさにガードできただけでも幸運と考えよう。
「それじゃあ今度はこっちから――」
「いやいやぁ、私のターンはまだ終わってないよ~♪」」
――ガシャンッ!!
と、ライフル銃の装填を完了させるノリで、あゆは右腕の砲台を作動させる。
発射の準備にとりかかる。
(……来るか、その前に、攻めるっ!)
「さあ、さあさあさあ、いくよぉっ! 構えてぇ~、狙ってぇ~、絞ってぇ~!」
上機嫌な様子、
雄叫びを上げながら、
右腕からレーザーを連射する。
「――撃つべしッ!! 撃つべしッ!! 撃つべしッ!!」
BLAMッ!! BLAMッ!! BLAMッ!!
彼女が射撃を終える前に、俺は行動を開始する。
米国映画でしか聞いたことのない音が聞こえる。
激しいレーザーの嵐を掻い潜りながら、あゆの元へとグングン接近していく。
BEAMッ!! BEAMッ!! BEAMッ!!
弾幕の避け方の基本はビビらないことだ。
自分へ向けられた攻撃だけを確実に避ける、跳ね返す、切り返す。
それ以外のレーザーは全て飾りだ。背景だ。あゆの発射するレーザーを無視してガンガン突撃していく。
「うわっ! うわっ! あたらない! あたらないっ! どんどん近づいてくる!」
俺の肉体はドンドン加速していく。ドンドンドンドン加速していく。
あゆはブリキ玩具のような身体を慌ただしく動かす。
急いで右腕を「ガシャン」と動かして、ポンプアクションを済ませる。
無駄だ、レーザーじゃあ、この俺は補足できないぜ。
(……悪いなあゆ。葉山の時の反省を活かして、一気に決着をつけるつもりなんだ)
俺は走りながら右腕のボタンを押す。ランプが青く輝く。力の集束を感じる。そのまま一気にあゆの元へと肉薄する。
よっしゃあ、
これで決めるぞっ!!
「いくぞ、くらっ――「いくよ~!!《全壊右腕》作動! 種類『剣』ッ!!」
渾身の一撃が決まる瞬間、
あゆの右腕の砲台から「銀色の刃」がニョキリと生えてきた。
「――――なッ!?」
「ふっふ、いつから砲撃専門だと錯覚していた?」
仕込み刀? マズイ――!?
思考は一瞬、しかし攻撃は止まらない。慣性の法則。前の試合の葉山と同じだ。
「さあ! ザシュっと行ってしまいましょう――っ!」
一閃が、走るっ――!!
銀色の剣が、隙だらけの脇腹を、通過する。
川岸あゆは、流麗に鮮烈に駆け抜けるように、横一線に俺を斬り抜いていった。
一陣の風が舞い、激しい金属音が一帯に轟く。
俺の拳は虚空を殴り、同時に右腹から激しい熱を受けた。
「……ぐっ!」
「うわーさすがに硬いなぁ! でもでも……絶対に効いてるよね!」
膝をついて損傷箇所を確認する。切断されたわけではないが鋭い痛みを感じた。
ガシャン、後方から金属音が聞こえる。
や、やばい、追撃だと、そんな容赦のないことを……。
「悪いけど、私は葉山くんみたいに、じっくり戦う戦法はとらないからねっ!」
――考えることは一緒かよ。
倒れ込みそうになる身体を無理やり起こし。俺はあゆへと再び向かっていった。
あゆの能力は単純明快なものだ。
右手にある巨大な砲台から、様々な物質を放出できる。
それは、レーザーであったり、銃弾であったり、剣だったり、花火だったりする。
仕組みも単純なものだ。右腕をガシャンと動かすか、グルリと目盛りを回転させると、飛び出てくる武器の種類が変わる。
しかし、扱いやすい能力の単純さと、何が出現するか判らない複雑さ、この両方が効果的に組み合わさって、俺を苦しめる結果となった。
「さーて、何が出るかな? 何が出るかな? 今週のドッキリビックリメカは~!?」
あゆが乱雑そうに目盛りをガチガチと調整する。
右腕を構えて発射する。
「いっけー! ワイヤーフック!」
射出式のワイヤーフックが飛び出してくる。銀色に輝く巨大な釣り針が接近する。
「くそっ、そんな攻撃に、当たるかよ!」
俺は軽くジャンプして攻撃を避ける。――しかし、ワイヤーはまるで『意志』を持ったように軌道を変えてくる。蛇のように蠢く。俺の身体を捕縛しようと迫ってくる。
「ふっふ、操作可能だったりします」
「だから、効かねえ――って!!」
そんなドヤ顔しても無駄だっての!
俺は右腕を光らせる。フックの部分を狙って破壊する。
これならただのワイヤーロープだ。俺は引っかからないようにあゆへ接近する。
「う、うわわっ! なんてことをー!」
「あんな危険なもんにやられてたまるか!」
あゆとの殴り合いに持っていこう。
俺はそう決める。
剣を出せるといってもコイツは所詮遠距離専門のヒーローだ。
肉弾戦に持ち込めばこちらが有利には違いない。
「させるかぁ! 弾幕広げるぜぇ~!」
ワイヤーロープを分離。恒例の音とともに右腕の切り替えを済ませたあゆは、粒子状のエネルギー弾を散開させる。
「う、うわ――!」
慌てて足を止める。眼前に細かいシャボン玉のようなエネルギー弾が広がる。
先ほどの直線状のビームとは異なる。威力は低そうだがこれだけの数が被弾すればただでは済まないだろう。まるで地上を制圧するような勢いで広がっている。
(――ま、待てよ、地上、か。……なるほど)
この攻撃は避けられない。
ならばどうするか? ――仕方ない、空へ逃げよう。
俺はそう考えてから、意識を背中に集中させて光るイメージを作る。
「――――ブースト、オン」
俺は飛び上がる。同時に背中から『火が付いた』ような感覚を得る。
迫りくる川岸あゆお手製のエネルギー弾たち。
ただの横回避や、ジャンプだったら、避けることができなかっただろう。
彼女の攻撃は広範囲に及ぶ、まるで粒子の壁である。
「――だが、俺の“飛翔”は、ただのジャンプじゃない」
一目散に上空を目指す。
空へと、退避する。
「出たねー! 飛翔モード!!」
あゆが楽しそうに叫ぶ。くそー、やりにくいなあ。
空中に撤退しながら、俺は考える。
あれだけ好き放題に撃っているということは、エネルギー切れは期待しない方がよさそうだ。
ヒーロー戦において、相手の体力切れは想定しない方がいい。
無論、消費し続ければエネルギーが淀んでしまう。やがては自動的に変身が解除されてしまうことだろう。
だが、それは過剰な使い方をしたり、コチラから攻め続けた場合だ。
適当に逃げてれば「相手がバテてくれるかな?」なんて逃げ腰の思考は通用しない。
葉山戦もそうであったが、ヒーローや怪獣と相対する時は、常に直接立ち向かう必要がありそうだ。
(さて、どうするか。葉山の時みたいに捕まえて、空中まで持っていくか? 同じ戦法が通じるとは思えないが……)
空中でホバリングしながら、アゴに手をおいて思考する。
こうしていれば滞空時間が延びる。すると地上から声が聞こえてきた。
「ソウタく~ん! 降りてこないの~!」
「ちょっと作戦会議中ー!!」
「なら、勝手に攻めちゃうよー!!」
「できるならなー!!」
お互いに大声で応答する。
空中と地上ではどうしても距離があるので、基本的に返事が叫び声になってしまう。
「よーっし、空中に逃げるなら私だって考えがあるぞー」
「えー! なにー!?」
「考えがー! あるぞぉー!」
あゆはそう宣言してから、ガシャンとアクションを起こして、右腕の放射角度を高くセットする。
うわぁ……俺は軽く引いた時のような気持ちになる。
そうか、ヤツは遠距離専門のヒーローだ。空中迎撃をすることも可能なのか。
(マズイな……ここまで届きそうだ)
俺はそう考えているが、精神的にはまだ余裕があった。背中のブーストがあれば、ある程度は空中でも移動の自由が効く。距離もあるし、あゆの攻撃を受けとめるくらいの動体視力も俺にはある。それほどあゆの攻撃を恐れていなかった。
だが、こうした判断は往々にして――油断を生むものである。
この時の俺も、そうであった。
「なら、いくよっー! 押してダメなら押し破れ! 『黒炎弾』作動! 発射ー!」
あゆの右腕から黒い弾丸が発射される。
速度は普通。あの程度なら余裕で回避できる。ブーストの調整確認を終えてから、ゆとりを持って攻撃を避ける――が、が、しかし、俺は大切なことを忘れていた。
(あれ……この弾なんだか見覚えが……)
おい。
さっき見たぞこの黒い弾丸。
変身した直後。
あゆが変身してすぐに放った――。
「…………おばか」
君島さんのつぶやきが聞こえた気がした。
俺が回避行動を完了させた瞬間――黒い弾丸が激しい閃光を放って、爆発したっ!
「うわっ――――!」
熱線。衝撃。爆風。爆風。爆風。――炎、炎、炎、色彩豊かな優美で残虐な火花。
俺の両目が脳みそに伝えた最初の情報はこんな感じだ。
火炎が拡散していく。爆熱が目の前に現出する。
強烈な熱エネルギーが、周囲の空気を飲み込みながらグングン迫ってくるのが判る。
同時に逃れられないのがよくわかる。ブーストをしても間に合わない。
そのまま、俺は――直撃を食らう。
ヒュ~~~~パァン! たーまーやー! かーぎーやー!
油断していたダメダメな俺は、「打ち上げ花火」の爆発に巻き込まれていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
次話はあゆ戦の続きとなると思います。次回「ヒーロー達の友愛白熱(中編)」をお楽しみください。掲載は3日~4日以内には行う予定です。
なお、お気に入り登録が50件を突破しました。皆様のおかげで本作は成立しています。本当にありがとうございます。これからもカッコイイ話を書くことに邁進していきたいと思います。
それでは今後とも次話以降もよろしくお願いします。