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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第25話:ヒーロー達の打ち上げ花火

 屋上に帰還した俺たちは、生徒会長たちに拍手で囲まれながら迎えられた。

 パチパチパチパチ、パチパチパチパチ――。

 美しい青空の下で拍手の音が鳴り響く。感動的なBGMでも流れてきそうだ。



「新島くん、勝利おめでとう」

 生徒会長が讃えてくれる。


「ソウタ君、おめでとうっ!」

 川岸あゆが讃えてくれる。


「おめでとさん……」

 君島さんが讃えてくれる。


「――グワグワッ!」

 ……何かが讃えてくれる。


「フフッ……新島くん、おめでとう」

 葉山分身が讃えてくれる。


「フフッ……新島くん、おめでとう」

 葉山分身が讃えてくれる。



「あ、ありがとう」


 そうか、……俺はここにいてもいいんだな。



 生徒会長に、ありがとう。

 葉山樹木に、さようなら。


 そして、全ての英雄戦士達ヒーローズに――おめでとう。



「――何だよ、この最終回はっっ!?」


 俺は全力で突っ込んだ。


「――エ○ァかよっ!?」


 ちょっと、新世紀エ○ァンゲリオンすぎていた。

 伏字の意味なんてないんじゃねという勢いで、新世紀エ○ァンゲリオンだった。

 葉山なんて分身まで出して拍手をしてきた。本体を地面にぶつけてやろうか?


「ハハッ、時代を超越した演出をしてまで後輩の勝利を称えるとは、さすが僕」

「いや、すげーですけど」

 俺もノリノリで返してしまった。


「それよか、明らかに変な鳴き声が混じっていたんですが……?」

「あれはペンペンよ」

「君島さん……」

「温泉ペンギンの一種よ。または私のモノマネよ」

「あんたの仕業ですか!?」


 俺は叫んだが、君島さんは涼しい顔で見つめ返してきた。


「そうよ、何か――文句があるわけ?」


 その表情に俺は言葉がつまる。

 美しい黒髪をさらさらっと風になびかせて、首を少しだけ傾ける。

 ぐっ……さすがにメンタルが強い。


 変な敗北感を抱いていると、生徒会長が近づいてきた。

 どうやら、おかしなノリもここで終了のようであった。


「それではあらためて、――戦闘お疲れ様、新島くん、葉山。どうだい戦ってみた感想としては? 何か思うところはあるかい?」


「フフッ……次は必ず勝ちます」

「気はえーよ」


 葉山の挑戦的な口調に俺は呆れてしまう。会長も苦笑している。

 コイツもなかなかに負けず嫌いだ。


「そうだね……客観的に見ていると、葉山は作戦をガッチリと構築しすぎたきらいがあったね。もっと柔軟な思考ができれば、自分から攻めないで、最後まで分身に任せるって選択肢を選べたと思うよ。

 ――たぶん、新島くんは、あのまま分身の攻撃を受け続けていたら敗北してた」


 会長の強烈な一言。

 しかし俺は、衝撃を受ける訳でも、反論を投げる訳でもなく、素直を頷いた。


「……まあ、そうですね。俺の勝利は運がよかったってのもあります」


 否定できない事実だった。

 勝負の後半、葉山の煙の分身たちは、まさしく最強モード。無敵の存在であった。

 あのまま攻められていたら、今回のように葉山本体を狙えたか分からない。

 さらに地の利も俺側に働いていた。戦闘場所が今回みたいな屋上ではなく、煙の密集しやすい室内などであったら、葉山の攻撃はより凄惨なものになっていただろう。


 空へと逃れることもできずに、なぶり殺しにされていたはずだ。


 ぶるるっと身震いする。


 そう考えると、俺の勝利は本当に幸運に恵まれていた。

 あらゆる環境と、あらゆる状況を、偶然によって有機的に繋げられたに過ぎない。


 要は、この勝利で気をゆるめるなってことだ。

 絶望ってやつは油断した人間のところへ真っ先に訪れる。


「次こそは勝ちます」

 葉山はそう繰り返していた。次も勝てるという確信は今の俺にはない。

 脅威的だな……心の底からそう思った。




「それじゃあ、次の戦闘に移る前に、エネルギーの充填でもしてしまおうか。

 ゆーちゃんお願いできる?」


 会長によるありがたい講評を終えた後、俺たちは君島さんから治療を受けることとなった。


 君島さんは嫌がったが、生徒会長が無理やり言い負かしてしまった。

 以下は、その会話の一部を抜粋したものである。


「……それだったら栄養剤を部室から持ってきたわよ」

「ゆーちゃん、お願いできる?」

「これがあれば回復くらいは余裕でしょ?」

「ゆーちゃん、お願いできる?」

「栄養剤でも効果は同じ……」

「ゆーちゃん、お願いできる?」

「…………」

「ゆーちゃん、お願いできる?」

「…………ゆーちゃん言うなし」


 まるでゲームで頼みごとをしてくるキャラのように「他の選択肢なんてねぇよ」と言わんばかりの力技であった。ていうか無限ループ? 


 君島さんは文句をもらしながらも、俺たちの治療にあたってくれた。


 前回のインド式マッサージのような肉体言語にもの申す方法ではなかった。

 両手を肩に当て、ジーっと精神を集中している。


「……なにしてるんですか? ギャグ?」

「大マジメよ、バカ」

 片手で殴られた。言われるまま静止していると、不思議なことに力が湧いてくる気がした。


 いや、違うぞ。気分だけの問題じゃない。本当に身体が元気になってきた。

 何だこれ、何だこれ、バイオリズムが正常化して、ドンドン調子が良くなってくる。


「す、すごい……なんだこれ」

「あれ? 伝わるのね。よほどヒーローの力に親和性が高いのかしら? 何度か似た経験があるとか? 順応し慣れている感じがするわね……」


 そうして十分もしないうちに、

「……はい、これにて終了。予想以上に早く終わったわ」

 俺の治療は完了する。――治療? 治療だったのか?

 不思議そうな顔をしてるだろう俺に、君島さんはため息と共に返答する。


「正確には『ヒーローエネルギー』を充填させたのよ。どうせ戦闘でよどんでいるだろうから、勝手に注がせてもらったわ」


「ヒーローエネルギーを……注ぐ?」


 ここで改めて、説明しようっ!(ババーン)

 ヒーローエネルギーとは、現代において34歳以下の人間たち、地球人類すべての肉体に内在されている超パワーのことである。


 俺たちは、この力を活性化させることで、ヒーローに変身しているのだ。


 このエネルギーは基本的に枯渇することはない。エネルギー切れは存在しない。

 その代わりとして、変身能力を多用すると、エネルギーが淀むことがある。


 血液がドロドロになるように、川の水が汚れるように、身体の内側でヒーローエネルギーのバランスが崩れてしまうのだ。そうすると、変身装置をつけても、うまくエネルギーを活性化することができない。つまり変身することができなくなるのだ。


 普通は時間をある程度置けば回復する。

 全力疾走で乱れた呼吸が元に戻るように、身体の免疫作用だか難しい器官だかが、便利なことに自動的に回復させてくれるのだ。


 ――以上、説明終了っ!(ズババーン)(シビビーン)(ワォーン!)


「ヒーローエネルギーを回復できるヒーローがいるのは授業で知ってましたけど……君島さんがそうだったんですか?」


 でも変身してないな。シロちゃん先生だって能力発動してたのは変身後の姿だった。

 そんなことが可能なのだろうか。

 素直な疑問からそう問うと、君島さんは不愉快そうな顔を隠さずに返してきた。


「別に、回復系って訳でもないわ。普通に、ごく普通に、怪獣の殲滅が専門よ」

「でも変身もなしに、そんな……」

「できるのよ。私は――化け物だから」

「化け物って」


 俺がドン引いていると、生徒会長が後ろから声をかけてくる。


「よーっし、回復したみたいだね、新島くん。ゆーちゃん次は葉山をお願いね」

「はいはい……わかったわよ、やればいいんでしょう。やれば……」


 君島さんは嫌そうな顔をしながらも、葉山の方へと向かっていった。

 そうして俺と同じように葉山への治療を開始した。

 化け物……? 何だそれは?


「優子ちゃんのことが気になるかい?」

 生徒会長がそう問いかけてきた。俺は素直に首肯する。

 そりゃあ、あんな台詞を吐かれて去られたのでは仕方ない。嫌でも気になってしまうだろう。俺はそう答える。


「まあ、そのうち君に話すことになるよ。君の人生にとって知るべきことだろうから」

「人生って……」壮大だなおい。

「今はまだダメだけどね。もっと修行が進んでから……かな?」

「……何だか、ずいぶんともったいつけた言い方ですね。その話から察するに、それほど隠していることでもなさそうですけど……」


 むしろ俺に見せつけている印象を受ける。

 会長の行動にはいろんな意味合いにおいて作為性を感じる。

 フザケているようで、何かを狙っている。そして計算を臆面もなく隠そうとしない。


「はっは、何のことかなー?」


 俺の言葉に、会長は肯定とも否定ともとりかねる苦笑を浮かべる。


 ぐぬぬ、政治家みたいだ。いや生徒会長なんだけどな。


「ははっ、とりあえず今は次なる戦いに赴こうじゃないか。

 僕は最初に言ったはずだよね――二人と戦ってもらうって」


「って、ことは、やっぱり――」

「よっしゃー! いっくよ~!」


 大声が聞こえる。

 屋上の中心近くでぴょんぴょん飛び跳ねている彼女――川岸あゆの姿が見える。


「その通りだ――次は彼女と戦ってもらう」

 生徒会長は悠々とした口調でそう述べた。




 あゆは既にハイテンションであった。


 服装は運動用の体操服、シロちゃん先生が着てるアレではなくて、もう少し女子生徒にも優しい見た目をしたものだ。短く切り揃えられた黒髪の下からは、太陽のごとき笑顔を覗かせている。高いところにのぼって興奮している子供みたいだ。


 腕をグルグルグルグルまわしながら、変身装置と思わしき腕章を振り回す。


「あー、あゆかー」

「何、そのガッカリしたような反応リアクションはっ!?」


 俺の馬鹿にしたような口調に、あゆはプンプンと頬を膨らませるが、

 無論、俺は口調ほどは「ガッガリ」してないし「馬鹿」にもしていなかった。


 先ほど葉山との戦いを経て、俺の覚悟は定まっていた。

 油断せずに戦う、あゆ相手だろうとその気持ちは変わらないのだ。


「あ、あれっ! 学生証どこやったっけー?」

「ちなみに試験では変身できなければ即失格ですからね」

「ええっ! ちょ、ちょっと待ってください、さっきの試合前にはあったんですっ!」


 ゆ、油断せず戦うのだ……。

 笑いそうになるのを耐えながら、俺はそう自分の心に心に言い聞かせた。


 どうやら着替える前のスカートに入れたままだったらしく、ダダダダダッと走ってカバン回収してきた。そしてダダダダダッとわざわざ元の場所へと戻ってきた。

 まったく忙しいやつだな。しかも基本的に移動が全速力、疲れるぞ。


「よーっし、オッケーオッケー!」

 息を切らして笑いながら、あゆは学生証を腕輪に擦らせる。


「変、身――ッ!」


 その瞬間――大きな爆発音があゆのところから聞こえる。

 火柱が発生してグルグルと周囲を取り巻きはじめる。

 音が引いて、炎が収まり、中からブリキ型のロボットが爆誕する。


「さあ、縦横無尽に戦おう! 自由気侭に戦おう! 変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》」



 巨大な砲台に改造された右腕を真上にあげる、

 ガシャン、

 心地良い機械音と共に、真っ黒な砲弾が発射させる。


 ヒュ~~~~パァン!


 青空だろうが無関係に、晴天だろうが無問題に、

 川岸あゆの打ち出す砲弾は、笛の音を鳴らしつつ、空中で鮮やかな花火を放射する。


 俺たちの頭上で美しい火花が炸裂する。


「…………めちゃくちゃ、ハデだな」

 わざわざ打ち上げ花火あげてんじゃねえよ。


 しかも、変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》って、


 ヒーローの変身名じゃねえよ。

 全てを破壊し、全てを繋げるつもりか。世界の破壊者もドン引きだよ。



「それじゃあ第二戦といこうか? 新島くん準備はいいかな?」

 生徒会長が話しかけてくる。体調的には問題ない、俺は肯定の意を込めて首肯する。


 右手に持った銀色のベルト、これを再び腰に巻き学生証を当てる。


「――――変、身ッ!」


 眩しい光が、全身を包み込む。

 眩しい光が、俺の肉体を強化する。

 眩しい光が、意識せずとも感応せずとも身体中に入り込んでくる。

 それだけで俺の肉体というハードは人間を超越する。


「変身、完了しましたっ!」

「待ってたよ~ッ!」


 あゆが嬉しそうに飛び跳ねる。

 渋い銀色のボディが「ガシャンガシャン」と起動して、身体中のギミックが「ギコギコ」と煩雑そうに起動し、巨大な右腕が「ガンガン」と回転する。


 まるで子供の玩具そのものだ。問題はそれが人ほどの大きさを持ってるってことか。


「――治療、終わったわよ」

 ちょうどよいタイミングで、君島さんも葉山の治療を終える。

 必要な状況はすべて出揃ったようであった。


「ようし、それでは開始することとしよう。ルールはどうするかい?」


「葉山くんと同じルールでっ!」

「俺もそれで構いません」


 俺たちは二人して頷きあう。「おい、あゆ」と前置きをしてから、彼女をビシィと指さして宣言する。


「最初に言っておくが――俺は女子でもグーで殴れるからな」


 あゆは一瞬だけ呆けた表情になるが、すぐに「ガチャリ」と頭のネジを回転させて、激しい気迫をコチラへ向けてくる。


「おおー! いいねぇ、かーなーりー本気のようだね! そうこなくちゃあ!」


 目の前のあゆと視線をバチバチと合わせる。君島さんが「暴力的」とつぶやいてくるが、アンタにだけはそれは言われたくない。



 生徒会長は俺たちの様子を眺めて、満足気に笑う。

 コホン、と軽く咳払いをしてから、右手を上空へと掲げて問うてくる。


「それでは『新島宗太VS川岸あゆ』の対決を始めるとする。ルールは先ほどと同様、どちらかが気絶するか、降参したら決着。それで大丈夫だね?」


「……大丈夫です」

「オッケーですよ!!」


 会長は納得するようにうなずき、右手を大きく振り切る。



「オーケー。では、いざ……戦闘、開始――――ッ!」



 戦闘のはじまりを堂々と告げた――その瞬間!

 その同じタイミング。

 何かが発射される鋭い音、ズドォン!

 あゆは俺の肉体を狙撃に成功した。


「えっ……!」

 迫りくるレーザー、いきなり、唐突。

 混乱と困惑に渦巻きながら。俺の耳にあゆの快活な声が侵入する。



「ふっふっふ……遅いよ新島くん! すでに――私の充填は完了しているッ!! 開幕射撃、瞬間速射、一撃必殺、スピードアタック!

 ――私の狙撃能力を甘く見てはいけないよっ!」



 激しい光線は、俺の腹部へと真っ直ぐ迫って、勢いを落とさずそのまま被弾する。



 生徒会長による素敵な素敵な修行の第二回戦。

 変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》川岸あゆとの激しい戦いが開始された。


ここまで読んでいただきありがとうございます!!

ちょっとパロディの度が過ぎた気がするので個人的に反省します。

次回「ヒーロー達の友愛白熱」(仮)をお楽しみください。川岸あゆ戦となります。

それでは次回もよろしくお願いします。

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