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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第3章 修練飛翔編
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第22話:ヒーロー達の友情激突(前編)

「――1年Dクラス葉山樹木 変身名《幻影魔人ザ・ファントム》」


 変身姿の葉山を前にして、俺は気持ちを引き締める。

 驚いていない、と言ったら嘘になるだろう。俺は衝撃を受けていた。

 君島さんによくわからないまま部室塔の屋上まで連れてこられたと思ったら、いきなりこの空間で葉山と戦えというのだ。面食らってしまっても仕方ないだろう。

 これではバトル漫画の世界ではないか。努力と友情と勝利のフィールドだ。


「フフッ……新島くんも準備をしたまえよ。君島さんに変身ベルトは持ってきてもらっているんだろう?」

 葉山は既に変身を終えている。

 黒色と灰色を基調とした細身の身体。身体中に巻き付いたひも状のパイプ。頭からごうごうと噴き出している煙は、変身を果たしてからひっきりなしに周囲へと吐き出され続けている。


「……ああ、確かにさっき渡されたよ」

 俺は右手に持った変身ベルトを握り締めながら答える。


「ならば、それを装着して僕と戦うんだ。ルールは単純明快、どちらかが気絶したら敗北、どちらかが降参しても敗北、どうだいわかりやすいだろう?」

 わかりやすいという意見には賛成するが、世の中の先人たちはそういうルールを『デスマッチ』と呼んでいなかったか。


 俺は目の前の葉山を見つめる。


 本気だ。葉山は本気で俺と戦おうとしていた。

 変身後の姿からは表情が見えてこないが、覚悟を決めた戦士のような雰囲気オーラを背後から感じることができた。


「これも修行の一環ですかっ?」

 俺は生徒会長の方へ向けて、確認の言葉を投げかける。

「うん、そうだよ。英雄戦士チームの選考条件は特殊だからね。

 怪獣との戦いだけでない。最終選考では『ヒーロー同士の戦い』も要求される。これはその予行練習というわけさ――っ!」

 会長は君島さんのハイキックを上体を反らして避けながら、返答してくれた。

 つーか、まだ戦っていたんだ。



「この、このこのこのこのこのこの、こんのぉ――っ!」



「――っと、ちなみに変身の許可はとってあるから、好きなだけ暴れて大丈夫だから。怪我をしない程度に殺りあってね」

 「やる」の言葉の意味合いに、余計に残虐性をふくんでいる予感がほとばしっていたけれど、俺は気にしないことにした。スルースキルは大切だ。人生を無自覚な幸せにいざなってくれる。



「ふたりとも頑張ってねっ~! 屍は拾ってあげるからぁ~!」

 あゆがのんきな口調でえげつないことを言ってくる。

 そんなテレビで甲子園でも観戦するようなノリで、「どっちも頑張れー」って応援されても困るんだぜ。



「フフフッ……理解は済んだかい? 新島くん」

「……大体わかったよ。とりあえず俺はお前とガチバトルをする必要があるわけだ」



 敵に勝つには、まずは味方の中で一番にならならくてはいけない。

 ここで葉山に敗れるようでは、狗山さんに勝つことなど、夢のまた夢のはずだ。


「そういうことだよ……さあ一緒に戦おう、戦おう、戦おう、戦おうッ……!」

 葉山はサーカスのピエロのように妖艶に身体を動かしながら、煙を充満させていた。


 ……英雄ヒーローというよりも、怪人ヴィランだよなぁ、アイツの見た目って。


 妥協を許さないことに定評のあるロー○シャッハさんとかにそっくりだ。

 そんな事を考えながらも俺は変身をすることにした。

 右手に持った銀色のベルト、これを腰に巻き学生証を当てる。


「――――変、身ッ!」


 眩しい光が、全身を包み込む。

 眩しい光が、俺の肉体を強化する。

 眩しい光が、意識せずとも感応せずとも身体中に入り込んでくる。

 それだけで俺の肉体というハードは人間を超越する。



 俺は変身を終える。この白色のボディにもだんだんと馴染んできた。

 そろそろ、自分の変身名を考えてもよい時期かもしれない。


 ちなみに変身名というものは、基本的に自分にある。子供の名前を親が決めてよいと同じで、命名権は変身した本人にある。職業としてヒーローを選択することになれば、書類上の記録として変身名が残るため、変更することが困難になるが、裏を返せば学生の間は自由に変身名を変更して構わないとのことだ。


 つまり、世の中のカッコイイ変身名やカッコイイ名乗りをしているヒーロー達も、ほとんどは自宅の机上でノートに書き込みでもしながら必死に考えているのだ。

 ちょっと想像すると、とても和む話である。


「――フフッ、準備もできたようだね」

 拳をじっくりと握り締めながら、葉山は愉快そうな口調で話す。

「ああ、オッケー、いつでも戦える」

 迎え撃つ体勢で、腰を落としつつ俺は返答する。


「――それでは、準備はいいね二人とも。ほらほら、ゆーちゃんも落ち着いて」


「ゆーちゃんって呼ぶなぁ――――ッと、コホン、それでは、葉山くんVS新島くんの決闘を始めることとしましょう。敗北条件は『気絶』か『降参』したら。それでいいわね」


「フフフ……了解」

「オーケーいつでも良いよ」


 俺たちの承認を受け取り、君島さんが宣言を放つ。


「それでは……戦闘、開始――ッ!」




 初手は殴り合いの応酬となった。

 右腕、左腕、腹部、胸部、腕、腕、腕、腕、

 俺の右拳の一発を葉山は軽くてでさばき、カウンターを加えてきたところを俺は肘でガードする。飛躍的に進化した肉体を活かして、身体を回転、葉山との僅かにできた隙を狙って、腹部への一打。しかし、葉山は同じく強化された肉体を利用して、上手に後ろへと一回転して俺の攻撃をほぼノーダメージで済ませることに成功する。


 この間、わずか5秒の出来事である。


「……変身ってすげぇ」

 感慨深い気持ちを抱きながら、俺はそう呟いた。

 変身による恩恵はべつに攻撃力が強くなるだけでない。

 動体視力も、反射神経も、バランス感覚も、全て向上するのだ。

 常人あらば不可能であるような動きも楽々とこなしてしまえる。


「まさに英雄戦士ヒーローここにありって感じだよなぁ……」


「フフフ、こんな言葉もあるけどね――英雄は英雄になろうとした時点で失格だ――って」


「今いうか――それッ!」


 俺は右脚のボタンをタッチして、→《右脚》と青く輝かせてから一歩を踏み出す。


 ――ダンッ!ダッ!


 葉山の眼前に肉薄、そのまま体重を込めてタックルを食らわせる。


「……うぐ、っ!」


 苦悶の声が混じる。

 そのまま力任せに押し倒して、マウントポジションを所持しようと試みるが、――するりと細身の身体を活かして受け流されてしまう。


 反撃がくると理解わかったので、俺は→《左脚》を強化して即座に間合いを離れる。


「……やっぱり、そう簡単には倒されちゃくれないか」

「フフ、男に押し倒される趣味はないんでね」

「そうか、そいつはよかった」


 葉山は自他共に認めるノーマルだったようだ。

 俺はこいつはホモなんじゃないかと疑った時期があったので安心していた。


「……それにしても厄介だね。肉体を自在に強化するボタンか。ヘタをしたら一撃必殺になるそれを、推進力のかなめとして使うのか。……フフフッ、自由に何度でも使用できるあたりがとても怖いよ」


「ははっ、いいだろー、あげないぞー」

 俺は自分の攻撃が葉山に通用することに安堵していた。

 今の攻撃は避けられてしまったが、ダメージを与えられたのは間違いなかった。


「フフ……要らないよ。僕には僕の戦い方があるからね……」

 不敵に笑っている様子からは、諦めの色を見ることができなかった。


(はったり……じゃないな。何かしてくる気だな)


 葉山はフフフフフっと不気味な笑い声を漏らしながら、白煙を周囲に撒き散らす。


 すると『奇妙な現象』が起きた。

 現実感から遊離された、奇特な光景が空間を侵食しはじめた。


「……フフフフ、……フフフフフフフフ、」

「……フフフフフフフ、……フフフフフフフフフフフフフ」

「……フフフフフフフフフフフフ、…………フフフフフフフフフフフフフフフフ」


 葉山の笑い声が聞こえる。

 葉山の笑い声が聞こえる。

 葉山の笑い声が聞こえる。


 白煙を周囲に撒き散らす。

 白煙を周囲に撒き散らす。

 白煙を周囲に撒き散らす。


 俺は葉山の声が幾重にも幾重にも連なっていくのを聞いた。

 気のせいかと思った。

 しかし違った。攻撃をしようか迷った。が、無闇な特攻は身を滅ぼすだけだと対べヒモス戦で、手痛く理解していた。ここは様子を見るべきだ。俺は慎重な行動をとることにした。


 ――そして、その刻がやってきた。


「――発動、変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、種類『白煙ホワイト』」

「――発動、変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、種類『白煙ホワイト』」

「――発動、変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、種類『白煙ホワイト』」


 俺は唖然として言葉を失った。

 目の前の現実は、夢のものかと思ってしまった。


「――さあ、絶望を見せよう」


 三重奏の声を聞きながら、覚悟を決めて前方を見据えた。

 そこには三人に分裂した葉山がいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回はバトルシーンがメインということもあり、短めで掲載させていただきました。

次回「ヒーロー達の友情激突(後編)」もお楽しみください。掲載は三日以内に行う予定です。それでは次回もよろしくお願いします。

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