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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
第0章' おまけコーナー(番外編)
168/169

番外編:葉山樹木、ラーメンを食べて。(中編)

 2018年7月14日10時35分。

 僕とあゆの戦いが始まった。


 ◆


 眼前にはあゆ。

 僕は彼女と対峙していた。

 戦場の広さは縦横10メートル前後。

 狭い。だが故にあゆの視線を強く感じた。お互いに睨み合い、僕も、あゆも、一歩も引かない。


「……」

「……」


 「……」

 「……」


  「……」

  「……ッ!」


 先手はあゆが打った。

 踏み出す右足。構える右腕。


「!」


 星が瞬いた。鋭く輝く星形の明滅だった。あゆの砲身から生まれたヒーローエネルギーの光だと見切るまで1秒と要らなかった。


「いっっけぇえええぇぇぇぇ、変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》、種類『冷凍弾コールド』っっ!」

「フフッ」「フフフッッ」「フフフッッッ」「フフフフフフフフフフフフッッッッ」「フフフフフフフフッッッッッ――!」


 5体。

 僕は分身を終える。冷凍弾コールドか。と、放たれた弾丸について思考をめぐらす。


 ――触れるのは危険。

 ――――近づくのも危険。

 あゆの冷凍弾は、周囲の空気すら凍らせて接近する。


(フッ)


 と、僕は謎の余裕ぶりで。逆境で、笑う。僕は地面を蹴って横に回避。が、僕の回避は間に合わず僕の右脚に着弾する。凍る。僕の一部が凍る。煙の僕が凍る。凍ったと認識した『別の僕』はすかさず僕の存在を消去する。


 分身解除。


 意識が別の僕へと収束する。僕は危機から離れる。再度複製し、またもや僕の一部が凍る。凍るのを認識しては解除する。収束する。繰り返す。


 傍から見れば、巨大な煙が冷気と共にうごめいてる筈だ。


「とぉいっ!」


 と、可愛い掛け声に合わせて、あゆの右腕が機械音一緒にぐるりと動く。


(…………うまいな)


 ――――照準は僕の回避先。

 避けた僕の着地予定地点にどんぴしゃで、あゆの右腕が向き終わる。

 マズイ。回避?不可能。防御?どうすれば?いや、ならば――


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 思考をかき乱す咆哮!


「変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》、種類『冷凍弾コールド』ッッッッッッ!」


 絶対零度伴う冷凍の弾丸。

 ヒーローエネルギー。その輝きは全壊の力。叫び伴い眼前に迫る。


「…変身名《幻影魔人ザ・ファントム》! 種類『黒煙ブラック』!!!」


 咄嗟に僕は、たこが墨を吐くが如く、前方に思いっきり煙を噴射する。


「ッ!?」


 僕とあゆの間に生まれたのは――巨大な防壁。

 凍った煙で形成された巨大な壁。

 黒く濁って凍らされたその壁は、あゆの攻撃を完全に遮断し、あゆの視界から僕を完全に奪った。


「まずッ!」

「変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、超変身(、、、)


 攻守逆転。

 僕は超変身を発動し、身体全てを煙と化す。


(僕は煙だ)


 煙として周囲を支配した僕は実体を持たぬ存在として、あゆの周りをコートの周辺を一気に包み込む。


「くっ、変身名《全壊戦士オール・クラッシャー》、種類『扇風機プロペラ』ッ!」


 あゆの右腕から強烈な旋風が渦巻くのを感じる。右の僕が、左の僕が、上の僕が、斜め四十五度の僕が、彼女を座標軸の中心と置いたあらゆる『僕』が、空気と一緒に霧散しつつも、僕は呪文のように言葉を唱える。


「変身名《幻影魔人ザ・ファントム》、種類『重煙グラビティ』」


 あゆの旋風に逆らうように、僕の煙、僕自身が吹き飛ばされずに留まる。

 重い、煙。

 英雄戦士チーム選考会を経て、僕が編み出した一つの戦略。


「ぐ、ぐぅぅぅぅ、うぉぉぉぉぉぉおおおおおおッッッ!」

「フフフフ、フフフフフフフフフフフフフフフッッ――!」


 PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP――――ッッッ!


 と、その瞬間。

 接近する僕と、立ち向かうあゆが雌雄を決しようとしたその瞬間。


 アラームの音が鳴った。

 高らかに。大きな音で。


「……」

 「……」

「……」

 「……ふはぁ~」


 変身を解除し、無言で息を乱す僕と、息を吐いてその場にへたり込むあゆ。


 同時に周囲のギャラリーから大きな歓声が飛んだ。


「……いつの間に人が」

「フフッ、どうやら『遊び』にやりすぎてしまったようだね」



 時は2018年7月14日10時45分。

 僕たちは、スポ○チャの『変身コーナー』で戦っていた。



 ◆◆◆



「ふわぁー、こういう場所で戦うのも楽しいねっ!」

「フフフ……」


 そうだね、と僕は心から返す。

 僕たちはデート中だった。

 今はス○ッチャのベンチで一休みしている。

 片手にはジュース。僕とあゆ心地よい疲れと一緒に苦笑する。

 先ほどまでは、『ヒーロー体験コーナー』と呼ばれるエリアで、変身装置を装備して戦っていた。


 制限時間は10分の交代制。

 ヒーロー学園に通ってる僕らからすれば、変身はさほど珍しいものではなかったが、普通科の高校に通ってる生徒やそうした一般の人達からすれば、簡易的にヒーローになって遊べる施設というものはそれなりに定評のあるものの様だった。


「でもちょっとボロっちかったね」

「お客さんが皆使ってるからだろう。安全装置も余分にかかってたみたいだし、フフ……仕方ないさ」


 そんな上から目線な事を言ってる僕らだったが、しっかり遊ばさせて貰ってるのだから世話ない話だ。


「次はアーチェリーやろうよ。弓、弓っ」

「フフ……そういえばそんなのあったな」


 ぐぃ~っと、あゆは引く動作を見せる。

 他にもバッティングセンターや、フットサル・テニス、スポーツ全般が得意という訳ではないが……フフ、まあ彼女ならば楽しいことだろう。


「よしっ」

「フフッ」


 缶をゴミ箱に投じる。

 僕らは立ち上がり、移動を開始した。



 ◆◆◆



 これは、僕が語る、未来の僕から見た視点だから言えた事だけど、

 現実を、物語として再構成させた状態だから言える事だけど、


 この時の僕たちは、られていた。


 それは先ほどの戦闘を見ていたお客さん達の視線とは異なる。羨望とは違ったある種の親しみと敵愾心を持った視線だった。

 僕たちはその視線に気付かなかった。僕とあゆがその正体に気づくのは、74分後――――12時16分の事だった。



 ◆◆◆

 


 アーチェリーをやった。点数は僕の方が良かった。


「うーん、むずい。距離感が掴めない」

「フフッ、こういうのは覚えゲーだ。一度射った感覚を繰り返せばいい」

「くそー、弓兵風情が剣士の真似事とはー」


 バッティングセンターに行った。あゆがヒットを打ちまくった。


「フフフッ、さすがだね―」

「うーん、ホームランはやっぱムズいか」

「あゆは田島くんタイプだからね」

「うまいけど、デカイのは無理な感じ?」

「その通り」


 ロデオマシンがあった。乗ってみた。


「うぉうぉうぉおおぉううぉおぉ」

「あ、あゆ、スカート、スカートッ!」

「うぉぉおぉおおおぉ、うぉぉぉおおぉぉぉおぉぉおおぉ」コテッ

「あゆ!」


 ダーツをやってみた。優雅な気分になれた。


「さっきは暴れすぎた」

「そうだね」

「ここは優雅にダーツを決めましょう」シュピーン

「あゆ、ちょっと斜めを向いた方がいいみたいだよ」


 ちなみに僕が勝った。



 ◆◆◆

 


 12時16分。

 僕とあゆはビリヤードをしていた。


「これってどうやるんだっけ?」

「フフ、どうやらこの棒を使って、1~9の球を穴に入れるゲームの様だね」

「棒を使って玉を穴に入れるゲームかー…」

 どことなく言い方が卑猥だった。

「何かエロいねっ!」

 同じことを考えていた。


「とりあえずやってみよう。……ほらあゆ」

 そう言って僕はビリヤード用のキューを手渡す。

「おお……!」

 目をキラキラさせた。

「おおお……っ!」

 クルクルと回し始めた。

 あゆは長い棒のような武器になりそうな物が好きなのだった。


「これって二人でもできるのかな?」

「フフ……交代制のようだね。まずは球をピラミッド形に並べて白い球で打つと」

「これかな?」

「フフ、その様だ」

 僕らは着々と準備を進めていった。

 そしてスタートできる段階になった。


「よーっし、準備完了」

「フフ、やるか」

 僕たちは棒を構える。すると、僕たちの視界の横合いから『ある存在』が姿を現した。


 まるでエリア外からこちらに侵入するように、

 容赦なく、現れた。


「よお」


 その人物は、その巨大な身体に似合うように強い存在感を放ちながら、僕とあゆの並べた球をちらりと見て、そして自分たちの台の方を指差して、


「あゆ、葉山、やっぱりお前たちだったか」


 同刻、打ち抜かれる音。

 隣の台でショットされる白い球。

 球は、黄色、青、赤、紫、橙、茶色、黒、とあらゆる球にぶつかり、跳ね返り、穴に見事に吸い込まれていく。


 僕たちの前に現れた『彼女』の後ろには、三人の面々。


 変身名《自由装填フリーガン》、Aクラスの『弓使い』、神山仁。

 変身名《サムライ》、Aクラスの『魔剣士』、高柳城。

 変身名《不可侵領域クリーン・ストーリー》、Aクラスの『守護者』、君波紀美。。


「雄牛ちゃん!」

 あゆがその名を呼ぶ。

 見覚えある巨体。英雄戦士チーム選考会、決勝トーナメント出場者。1年Aクラス、変身名《世界爆誕ハロー・ワールド》。

 ――――山車雄牛だった。


「……」

 「……」

  「……」


 無言。

 僕たちは三人とも見つめ合い、後ろからはショットの音が聞こえる。

 すると、山車さんは凄く悲しそうな目に変わった。


「…………あいつらビリーヤードうますぎるんだ。助けてくれないか……」


 雄牛さんはAクラスの会合でフルボッコにされていた。



 ◆◆◆



 ちなみに初心者の僕らが加わった所で、局面は何ら変わらなかった。


「よーっし、ようやくこっちの番が回ってきたぞ」「フフ……誰が行く?」「私が行くよっ!」「頑張れ、あゆ。私たち三人の力を見せてやるんだ!」「フフ、あゆこれを使うんだ」「何これ?」「メタモンだ」「メタモン!?」「台の下に隠れてた。どうやらショットを補助してくれる道具のようだ」「そんな物があるのか葉山」「やったよ、葉山くん。これで百人力だよ! 百発百中、サーチアンドデストロイだよっ!」


 あゆは白い球に向かって、全力のショットを打ちぬく。

 ――――球は、華麗に目標の球の横を逸れ、台から飛び出していった。


「うわああああああ」「ま、マズイぞあゆ。また向こうの番だ」「フフ……今度僕らの番になるのはいつになるのか……」「葉山くん死んだような目をしないでっ!」「来るぞ、気をつけろ!」


 僕らの前には、Aクラスの三人が立っていた。

 神山仁、高柳城、君波紀美。

 僕らは三人チームとなり、向こうの面々と対決をしていた。


「川岸さんと葉山くん、君たちには英雄戦士チーム選考会ではお世話になったが」「この遊び場は別だ」「実力の差を思い知らせてあげるんだからね」


 僕らは敗北を味わうことになった。



 ◆◆◆



 Aクラスの四人もこの場所に遊びに来てるのだった。

「試験も終わったしな、息抜きだ」

 そう語るのは山車雄牛さん。僕たちの姿を発見したのは実はもっと前――『ヒーロー体験コーナー』でギャラリーを集めて僕たちが戦っている姿を目撃していた様だ。


「えーそん時言ってくれればよかったのにー」


 あゆはそう言ってたが、……フフ、まあ気を使ってくれたのだろう。

 山車さんは「そうするつもりだったんだがな」と視線を逸らしたことから、

 おそらく山車さん以外の三人が抑止力となり、山車さんを止めたのだろう。


 フフ……まあ分かる。


(僕も山車さんがあゆの事を好きだということは十二分に聞き及んでいる)


 その思いが今も残ってるのか、吹っ切れているのか否か、

 僕には判断をつけることはできないが。


「葉山」

「フフ……?」

「いつか、お前とは正式に決着をつけたいと思ってる」


 ……前言撤回。

 未練タラタラの様だった。


(これも引き受けるべき責任という奴だろう)


 フフ……対決の日はそのうちあるのかもしれない。

 それは意外と近くに。


「葉山くん、今何時ー」

「フフ、もう13時になる頃だな……そろそろ昼食にしようか」

「そうだねー」


 ビリヤードを終えて、片付ける最中、僕とあゆは、そろそろ食事を取ろうという話をしていた。

 Aクラスの四人も同様にそろそろあがるようだった。


「それじゃあ、私らはもう行くよ」

「んー、一緒に食べる?」

「いや、いいさ。僕たちは僕たちで寄る所があるしね」


 と、君波さん、神山さんは言った。

 ――――申し訳無いな、

 そう思いつつも感謝の念を二人に送るのだった。


「まあ私たちの向かう先も特殊だしねー」

「フフ……仕方ない」


 そう、仕方ない。

 僕らの向かう昼食先も、普通とはちょっと違う。

 いや大分違う。


 ラーメン。


 前回のリベンジマッチなのだ。


「あゆ」

「うん」

「いくか」「いこう」


 そういうことだ。



 ◆◆◆



 ――――15分後、僕らの前にそびえ立つのは巨大な列。

 僕は想起する。

 この先に戦いの舞台があることを。

 

 それは食事であっても遊びではない。


 己の胃袋と不屈の心を試される最強王座決定戦。

 フードファイトとも、ロットファイトとも、如何様でも呼ぶがいい。


 ただ純粋に僕は勝たなければいけない。

「うわー、いっぱい並んでるねー」

 あゆに川岸あゆに、この『ラーメン早食い対決』に。


 この大盛りのラーメン店は、事前のネット情報によると、待ち時間は約30分程の様だ。

 食事の待ち時間としては長いほうだが、……フフフ、これはあゆたっての希望でもあり気にはしてないようだ。

 僕とあゆは列の後ろに並んだ。


「あ」

「ん? あー」


 そして、目を合わせる。


「あれ?」

「……」

「あはは」

「……お前らも来たのか」


 先ほど別れたばかりの四人。

 ――――神山仁、高柳城、君波紀美、そして山車雄牛。


「四人もここに来たんだねっ」


 あゆの純粋な声と、それに呼応するように「おう、前から来てみたくてな」と答える山車雄牛さんの声。


「……」

 「……」


 僕と雄牛さんの視線が交錯する。

 

 ――――対決の日は意外と近いかもしれない。


 それが予想外な形で果たされるかもしれない。

「まだかなー、早く入りたいなー」

 入店できるまで後34分。


 僕の食事の時は近づいていた。

読んで頂きありがとうございます。

次回「番外編:葉山樹木、ラーメンを食べて。(後編)」となります。ようやくラーメンを食べます。

それでは次回も宜しくお願い致します。掲載は1週間後を予定しています。

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