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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
エピローグという名の創世記
159/169

Farewell Song――されど、夏の終わりを弑逆する。

 夏といえば,というよくある話。

   ――ニコニコ動画『【初音ミク】カゲロウデイズ【オリジナルPV】』より抜粋。

 夏。

 夏になった。

 今は7月20日。

 明日から――――夏休みだ。


「そーたくん、プールいこうぜーっ!」

「気がはやいな」


 あゆは水着姿だった。

 ――――教室内で。


「……時々、俺は自分の常識を疑いたくなるよ」

「旧スクだよっ」

「だよっ……じゃねー気もするが」


 が。

 周りを見渡してもツッコむ声はない。


 ワイワイガヤガヤ。

 ワイワイガヤガヤ。

 ワイワイガヤガヤ。

 と、皆夏休みの予定について話していた。


「……」


 度量どりょうの広いクラスだった。

 海より広い。

 あゆの奇態に慣れてるだけかもだが。


「フフフフ……校則違反だよあゆ」


 しかし、そんな空気を遮断しゃだん

 葉山が現れる。


「葉山くん、プールデートしようぜーっ!」


 しかし、川岸あゆは動じない。


「フフフフ……いいだろう。しかし、その前に着替えるんだ……」

「えーでも、皆気にしてないよー」


 葉山はかぶりを振る。


「誰も気にしないから守らない――フフッ、秩序とは他者の存在を前提とするべきか?……、否。否、否。内なる自制の精神こそ……芽生える抑制の意志こそ……人間を人間たらしめる最後の砦だ……それがモラルであり、道徳意識だよあゆ」

「んー、でもでも、スクール水着って、学校指定スクール水着だよっ?」

「……」

「……」

「……フフッ――それもそうだな」


「いいんだッ!?」


 甘い。

 甘いな葉山っ!?


「……かくいう僕も、彼女の水着姿を拝めるのは嬉しいからね」

「思った以上に欲望に素直だった」

「フフッ、明日から研修だ……。気持ちを高めたいのさ」


 葉山の台詞に。

 2秒静止。

 俺は葉山を見る。


「……」

「……」

「…………頼んだぞ」

「フッ、勿論さ。君が選んだ後任だ……後悔はさせない」


 拳、合わせる。

 あゆは元気よく声を張る。


「ほらっ! やっぱりプール行こうよ! プール! 壮行会そうこうかいだっ!」


 俺と葉山は首肯しゅこうする。


「美月は?」

「フフ…」

「よーっし、ちょっとお外走ってくる!」


 そういうことになった。


 ◆


 英雄戦士チーム選考会から1ヶ月以上が経った。

 あの決勝戦から1ヶ月以上が経った。


 優勝は俺――――新島宗太。

 準優勝は美月瑞樹。

 3位は狗山涼子。

 4位は葉山樹木。


 一年生の部はこれにて終了。

 同日、三年生の部も終了。優勝は君島さん、準優勝は和泉生徒会長となった。

 翌日の日曜日、二年生の試合が開催され、順位が決定した。


 こうして、英雄戦士選考会は幕を閉じた。

 俺たちは日常が帰ってきた。

 帰ってきてしまった、と言っても良い。


 ともかく。

 俺たちの戦いは一つの終わりを迎えた。

 ――――"表向き"は。


 ◆


「いーっっっっやっほぉぉぉぉおおぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉっっっ!!」


 ミーン・ミーン、と。

 セミの声が永続する世界で、あゆの声が響きわたった。

 戦車はない。

 永遠はない。

 あゆの声の後に大きな水音が落ちる音が耳に届いた。



「……ぷはぁっ!」



 子犬のように水をぷるぷると吹き飛ばして、顔を出したあゆは、


「ほらーっ! 式ちゃんも真白ちゃんもおいてでよーっっ!」


 と二人に手をふった。


 俺は二人を見る。



「はっはっはっ、式。あゆさんが呼んでますよ、その潜水艦にも勝てそうな装備で泳いで行ってあげなさい」

「ふっふっふっ、ましろん。ボクの本気をみせてあげたいところですが、あいにく稼働に時間がかかりましてね……よければ、その謎白衣を脱いで先に入ってはどうでしょう」


「はっはっはっ、嬉しい提案ですが、私の肌は虚弱でしてね。日に焼けても問題ないよう準備をする必要があるのですよ……式こそ、ビート板に稼働もクソもないでしょう? 早く行きなさい」


「ふっふっふっ、真白から」

「いや、式から」

「はっはっはっ」

「ふっふっふっ」



 人型式。

 真堂真白。

 ――――二人はカナヅチであった。



「そーちゃん、あの二人いつもあんな感じなの?」

「大体そうだよ。まあ、ライバルなんだろう」

「見た目もそっくりだし、実は姉妹オチとか?」

「ねぇよ。双子トリックすんなら、鴉屋姉妹がいるだろ」

「それもそうだねー」



 俺と美月はプールサイドに白いデッキチェアを用意して、寝そべっていた。

 まばゆい太陽。

 目もくらむような暑さ。

 救いはある。清涼感のあるこの空間。

 学内の屋外プール。


「よく学校のプールなんて借りられたね」

「あゆの友達に水泳部の奴がいてな。今日は自由練習の日だから好きにしていいんだと」

「さすがあゆちゃん顔が広いね……」



「私だ」



 ぬっ、と。

 俺たちの日差しを大きな影がさえぎった。


 巨体。

 その姿には見覚えがあった。

 えーっと、名前は――。


雄牛おうしちゃん!」

「ちゃん?」

「よう、新島宗太、久しぶりだな。ちゃんと話すのは選考会以来か?」


 山車雄牛やまぐるまおうしさんだった。

 英雄戦士選考会、1回戦Dブロックで美月にボロ負けした、山車雄牛さんだった。


「すげぇ失礼な回想してる気がする」

「気のせいだよ」

「雄牛ちゃん、水泳部だったの?」

「ちゃん?」

「ああ、言ってなかったっけか? これでも都内では結構有名なんだぜ?」


 そう笑う雄牛さん。

 俺よりも大きな身体からは水の抵抗の強さしか感じないが、


「私のバッタを見せてやろうか?」


 超早そう。

 ああ、そうか。

 デカいと1回の進む距離が長いのか。


「つーか、部活やりながらあんだけ強いのか……」

「それは一回戦負けの私に対する皮肉か?」

「いや、そんなんじゃねぇけどさ」

「わかってるさ、嫌味いやみだ」


 ……直球だなあ。

 嘘がない、とも言える。


「まあ、次は私が勝つさ」

「負けないよ」


 言い合う雄牛さんと美月。

 二人を見て、俺は違うことを考えていた。


(……差異)


 差異。

 価値観の差異。


 最近よく考えることだった。


 ――――人は、それぞれの生き方をしてる。


 ヒーローにしてもそうだ。

 俺はこの1ヶ月、ヒーローになること、最強のヒーローになることだけを、唯一の目標として追い求めてきた。


 しかし、それだけじゃない人もいる。

 部活で成果をあげようとしてる人もいるし、真白さんや式さんのように研究で真理を追求する人もいる。


 美月のように。


「ん?」


 高校生活という最高の青春過渡期を楽しもうとしてる人間もいる。


 多様性ダイバーシティは、ある。

 この大平和ヒーロー学園でさえも。

 それ自体は悪いことじゃない。


 だが、多様化とは、絶対的な存在の否定とも言える。

 あらゆる存在を許容する空間の中では、最強のヒーローという称号さえも、一つの属性として回収されてしまう危険性を孕んでいる。


 山車を見送って、俺は再び広がる青空を見た。入道雲がグングン上っている。


度量どりょうが、広くなってるのかな」

「何の?」

「世界の」


 美月は一瞬考えた"フリ"をしたが、


「そうだよ」


 肯定した。


「私たち、もう高校生だし」

「そうだな」


 世界は優しくなっている。

 微温的といってもよい。

 それはそれで幸せだ。


 だけど、冷たい世界は、冷たいが故のエネルギーを生んできた。

 反骨心ってやつだ。

 豊穣した大地で、強烈な想像の芽は生まれるのだろうか。


「そーちゃん、やっぱ迷ってるんでしょ?」

「……そう見えるか?」


「うん」


 即答だった。


「なんなら、私からお願いしてみようか? そーちゃんだったら、学園長も撤回を解除してくれるよ」

「……」


 美月の優しい提案。

 嬉しい。

 しかし、俺は解答できない。


「少し泳ごっか」

「……ああ」


 美月が俺の手を引いてくれる。

 申し訳なかった。


 夏。

 俺は一つの事象にケリをつけた。

 その証拠が隣のコイツ。

 腹立たしい最強の彼女。


 だが、季節は既に変わっている。


 俺は新しいステージ来ている。


「新島くん」


 俺の前に立ちふさがる影。

 狗山涼子が立っていた。


「――――何故、英雄戦士チームを"辞退"した?」


 鋭い言葉は、誤魔化ごまかしを許さない。 


エピローグ、開始しました。

終わりまで駆け抜けて行きましょう。

次回「モラトリアム・クラスタ――Solitaire Trapの最終戦線」(仮)を宜しくお願い致します。

掲載は1~2週間後を予定しています。

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