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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
158/169

第134話:決勝戦(ロスタイム)

 初心に返ろう。

 俺は弱い。

 美月は強い。


 弱いやつが、強いやつに勝つための、基本的な戦術を考えてみる。

 それは、世の中の理をくつがえす、『悪』な勝利だ。

 弱さとか強さとか関係ない領域テリトリーを持ち込む禁じ手だ。


 ――――狙うは、一撃必殺。


 俺はその時を見極め、美月の脆い点(ウィークポイント)を破壊する必要がある。

 長期戦は不利だ。

 本当の実力差が出てしまう。美月に『現実の力』を見せられては、俺に勝ち目はない。運否天賦無しの論理的帰結――弱い俺の敗北必須。だから、俺は心に刻む。


「倒すには、隙を見た"奇策"――――なーんてこと、考えてそうだねそーちゃん」

「…………お前はエスパーかよ」

「違うよ。もっと怖いものだよっ」


 と、美月は怖さのカケラもない調子で言った。

 むしろ、可愛らしい。

 美月は、ととんっ、と靴でも直す様に、大地を踏んだ。


「……」

「悪いけど、先に行くね」


 声だけが残滓し、美月は星と消えた。

 空だ。

 仰ぎ見る頃には手遅れで、美月は小さき点となっている。


(……はえーよ、おい)


 あれが少し前まで泣いてたやつかよ。

 吹っ切れたか。

 その変化を、俺は喜ばしく思う。


(……ダメだな、油断しすぎだ)


 反省と同時に、俺は蒼穹を見た。

 一面に渡る、青色だ。

 その色が急速に、白く転じるのを見る。

 聖なる、神なる、――――白光。


(…………来るか)


 憧れに近い光。

 強い力は俺の心に揺さぶりをかける。

 収束する意識、

 脳裏からは、二つの選択肢が浮上する。


1.光の剣を発動する。

2.終焉崎さんの能力を使う。


(1.だっ!)


 俺の左手に、光の剣の形成が始まる。

 0.1秒も待たず完了する。

 頭上への迷わぬ一振り。

 両手に持ち替え、ややあって薙刀の如く――――激しい回転運動、加える。


「おらおらおらおらおらおらおらおらっっっ!」


 美月の光は、地上にあまねく放たれた。

 それは天使のラッパが吹かれたように。

 末期的、明滅が天から広がる。

 俺は生存していた。

 激しい回転運動。

 光の剣の回転が、俺の現在を守る。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら――っっっッ!」


 美月の光は無化される。


 叫びつつ思考した。

 2.だとアウトだった。


 美月の現在地は、ここからだと把握不可能。

 仮に、跳んだ(ワープ)先の高度が足りなかったら。

 俺は通過中の光に直撃――ゲームオーバーだ。


(けど、このままじゃジリ貧っ!)


 特殊な仕込みでもあるのか、

 光は消える様子がない。


 って、ことは。

 つまり。


「――――ブースト、オン」


 次の手を打つ。


 俺は飛翔する。

 背中からは火がつく感覚。

 ただのジャンプや、飛行能力であれば、美月に届くことはなかっただろう。

 相手は世界だ。手を伸ばしても、伸ばしても、追いつけない存在だ。


「――だが、俺の“飛翔”は、ただのジャンプじゃない」


 俺は空を昇った。

 光の剣を携えて。

 輝く姿は、四年前――俺を救った美月にも似ていて。


 彼女と同じ場所を目指して。

 彼女にただ憧れて。

 見てるだけだった光に近付きたくて。


 飛ぶ。

 飛ぶんだ。


「美月ィ――――ッッ!」

「あ、そーちゃん」


 青空の果て。

 抜けた先の、真っ白な光の世界。

 高度何メートルか。知りもしない初体験。


 少女はそこにいた。


 美月は立っていた。



 ――――超巨大な右拳を、振りかぶり。



「……えーっと、美月さんこれは……」

「ヒーローエネルギーに雲を固めて作りました。でっかいでしょ?」

「いや、製法じゃなくて……」


 ツッコミながら理解した。

 ああ、そうか、こいつ、このために逃げたなー。光を落としたのは俺を誘導するためだなー。俺の行動を制限するためだなー。ブーストで昇ってきた俺を、そいつで追い詰めるためだなー。


「それじゃぁ――――」


 終わらせる美月と、終わらない俺。

 迫る拳に叛逆する選択肢が稼働する。


1.光の剣で消滅する。

2.終焉崎さんの能力を使う。

3.君島さんの力で対抗する。


(2.っ!)


 俺は終焉崎さんのワープ能力を使用する。

 1.だと雲で加工した拳は防げないし、3.には時間が足りない。

 俺は世界の座標軸をズラし、美月の後方に移動する。


「――らァっ!」


 巨大な右拳の空振りと、俺が放つ美月への蹴りはほぼ同時。

 美月といえどもその肉体は人間そのものだ。動きには必然限度がある。後頭部・真後ろからの奇襲に、ノータイムで反撃は――――



「必殺・人間爆弾」



 爆発が強襲する。

 美月の全身から放射されるエネルギー。

 爆煙は空を再び染める。青から白へ。描き、塗り替える。美しい煙をまき散らし、すべて、飲み込む。


「……猿飛十門じゅーもんの技はやっぱり強いなぁ……あくまで真似っ子だけど」


 しみじみと言った美月は、後方を向いた。

  確認作業だ。

   破壊の行く末の。

    だから、俺は。



「――――――」



 真下から伸ばし手を、美月の足に触れようとして。


「っ!」

「っ!」

「っっ!」


 寸前、

 回避されて。



「……ぅ」

「……ぉ」


 空白は、一瞬。

 すぐ終わる。


 伸ばした俺の手は下がらずに突き進んだ。美月は回避に完全成功して避けた先を狙った。光の線が走った。直撃した。その直前に光の剣の一閃。消し去るのと回転は同時。ブーストの火力を強めた、と、右腕強化。美月の腹部を。


「っっ!」

「っ!」


 美月は守らず、拳、光る。


 衝突。


 必然、反動が来て生まれる距離を、俺は詰める。


(右)


 右。次は左。弾けて、もう一回、右。

 足を使った。蹴りは想像より伸びる。美月は受け止める。美月は攻める。俺は懸命に受け止める。


(やばいな)


 瞬間移動し、俺はかなり距離を取る。


「……」


(普通に、戦っちまった)


 それでは勝てない。

 普通にやって勝てるなら、地球は今日も回ってない。


 視線が交錯する最中、美月が問おた。


「そーちゃんって、足フェチ?」

「何だお前その質問!?」

「やー、さっき足狙ってきたし」


 他意はない。


「ってか分身したでしょ、葉山くんー」

「パクったのは否めない」

「びっくりしたよ」

「それはよかった」


 肯定と裏腹に、さっきので決められなかったのは手痛かった。

 長期戦は、避けねば。


 先刻の俺は瞬間移動を終えて、君島さんの能力を発動した。

 強いヒーローエネルギーは、強い存在感を放つ。


 当初は通常攻撃で牽制しようとしたのだが、美月の隙があり過ぎることに違和感を覚えた。


 だから、


1.攻める。

2.退避する。


(2.だっ!)


 とっさに呼び寄せた選択肢で、

 俺は回避に成功した。


 後は普通の殴りあいだ。


「そーちゃん、今のモノローグ嘘でしょ」

「は?」

「蹴りを入れて終わらすつもりなんて最初からなかった。もっと違う"何か"を狙ってたよね」

「……」


 嘘はつけないようだ。

 原因不明だが、美月には俺の心がちょっぴり読めるようだ。

 極度に先鋭化されたヒーローエネルギーが見せた幻影か、世界たるヒーロー美月瑞樹の力のせいか、俺という限定救世主の一瞬の奇跡か。


 正直分からないが、余計なことはつぶやけない。


「ブースト」

「ん?」

「そんなに持つの?」

「ああこれか」


 俺は瞬間移動し、景色が移る。

 闘技場の大地、足をつける。

 再び、瞬間移動。


「問題ない」

「……かっこいーね」

(まあ、もう使えないがな)

「それは残念だね」

「いいんだよ」


 次のブーストが切れるには、全力で使っても30秒程猶予がある。

 だがその先はないだろう。これまでの戦闘経験から分かる。


「30秒――――そんだけあれば、ケリもつくだろ」

「オーケー、じゃあ私も武器を出すよ」

「武器?」


 美月は右手から見慣れた剣を取り出す。

 色は紅。


「お前、そりゃ……」

「ふふっ、涼子ちゃんの借りちゃった」


 それは狗山涼子の持つ紅い巨剣であった。


 --


 残り25秒。

 俺たちは、宇宙にいた。


「おーーーそーちゃん、頑張りすぎじゃない?」

「うるせーーー、さっきから追ってばっか、今度はお前が追う番だっ!」

「力の無駄づかいだよー」


 上昇を続けた俺は、そらからおおぞらへと移動した。

 もちろん、あの場で美月と剣戟を舞っても良かった。

 が、俺は現実の非情さを知っている。


 ――――まともな手段では美月に勝てない。


 やるからには常識を変える必要がある。

 普通を異常に、平凡を特別に、レギュラーをイレギュラーに。


 それには地球から抜け出す程の力が必要なのだ。


「ほら見ろよ美月! 北極が見えるぞ!」

「見えないよっ!」


 色が青から薄い青に、やがて暗く、雲の力が強い。引力が強まる。しかしヒーローエネルギーは強い。その力は地球の磁場も、大気の壁も克服する。生徒たちはもう見えない。分かるだろうか。分からないだろう。それでも遠い、この世界から、伝わることがあると信じて、


 俺は、



「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら――――っっっっ!」

「うわわっ!?」


 物理連撃の嵐。

 真上に一直線の俺の急降下。

 重力と一緒に美月に殴りかかる。


「ははっ、美月、世界は広いなっ!」

「広くないよ、つか、自由すぎ、せっかく剣取り出したのに……」

「残念だが俺はもう狗山さんには勝ってんだ、無駄無駄ァ!」


 全身を輝かせる。

 以下、省略っ。


「――――限定解除、完了ッ!」

「まったく、……もうっ!」


 怒ったように一撃。

 しかし大振りでこれは避ける。

 感情的になりすぎだ。いけないイケない。素人みたいだぞ。


「うっさい、この、あ――――」


 美月の力が物凄く強まる。

 星でも壊せそうなくらい。

 本気の一撃――――。

 美月も即座に「ヤバ」って顔するが、



「ばーか、忘れたか?」



 俺が限定解除してることに。



 俺と美月は激突し合い、《第三領域》が発動する。



 --



 残り15秒。

 美月さんは怒っていた。


「そーちゃん……っ?」

「うわわっ!」


 場所は、海。

 大海。


 光線がいくつも乱発射される海上を、俺は駆ける。

 回避のたびに、海面が真っ二つに割れる。お魚さんの影が見える。

 波が、飛沫が、切れる。


 ここは何処なんだろう。

 太平洋だろうか。


(やべーやべーやべー)


 さすがにこれはマズイんじゃねーかなー、船とかいねーよなー、そう思いながらも、偉い人がきっと収拾してくれるだろうと計算しながら、


「美月さん、美月さん、ゴメン、悪かったってー!」

「許さない許さない、またあの悪夢を見せるなんて……」

「うわー、ごめんなさい!」


 でも勝ったんだろ?


「勝ったよ! ジャバウォック倒す時間が前より縮んだよ!」

「やったじゃん!」

「うるさいうるさいうるさい!」


 過去を冒涜するな!

 美月がそんなこと叫びながらヒーローエネルギーの触手を伸ばして、とんでもないものを海上から持ち上げる。


「え、、え、うわっ!」

「そーちゃんの、ばかーーーーっ!」


 投擲される。


 ――その巨大で黒い影は、

 紛れもないクジラだった。



 --



 残り5秒。

 俺と美月は中学の屋上にいた。


「ここは……」

「少しは落ち着けよ」

「うん……ありがとう、そーちゃん」


 最後の瞬間移動。

 隠し手段。


 美月は暴れること無く落ち着いている。

 さすがの美月もやりすぎたと反省したようだ。


「でも最初にけしかけたのはそーちゃんだったような……?」


 悪いことは忘れる主義だ。


「うわ、ずるっ」

「いいんだよズルくて」

「そーちゃんって、時々ズルいよね」

「そうか?」


 そうだよ、と美月は言う。


「いつも前向きなのか後ろ向きなのか分かんないし」

「え? なんだって?」

「……」

「俺はいつだって前向きだよ。目をそらしてるだけで」

「だめじゃん」

「いやいや、前には進んでるさ。時間が許せばゴールにもつく」

「その時間が許せばってのが、なかなか許されないんだけどねー」


 理想論だよ。

 美月はそう言う。


 確かにその通りだ。

 俺は理想論ばっかり言う。

 それは俺が子供で世間知らずってのもあるだろうし、まだ「本当の現実」ってやつと出会えてないからってのもあるだろうし、そもそも俺の性格が楽天的でノーテンキだってのもある。


「まあ、ズレるのは仕方ねーよ」


 そのズレをどこまで自覚できるか。

 「自覚すること」にするか。


 人は全知にはなれない。

 他者について完全に語り得ない以上に、自己についてすらも俺は何も分からないのだから。


 だが、俺はズレを知りつつも、規定していきたい。

 仮に間違っていることがクリティカルになれば、そのときは変えていけばいい。

 だから、俺は心に命じる。

 ――――積極的に、間違えていこう。

 俺は決めたんだ。


 自分の変身名を。


 例え正しさから背を向ける形となったって、成したい俺の祈りの形を。


「なぁ、美月……」


 人類だけではない、

 怪獣だけではない、

 ヒーローを救うヒーロー、

 ヒーローを止めるヒーロー、として。


 自分自身のヒーローとしての理想像――限定救世主になるために。


「もう、5秒経ってるんだ」


 まるで空の手札を見せるような。

 ぶっちゃけた態度でそう言う。


「それは……負けを認めたってこと?」

「いや、――――逆かな?」



 俺は美月に殴りにかかる。

 唐突な動作。

 驚く美月はそれを避け、反撃を加えようとして――。


 選択肢が生まれる。


 1.拳で受け止める。

 2.回避して、蹴りを加える。

 3.実はまだ1回、瞬間移動を残していた。

 4.君島さんの力で学校を壊す。

 5.白旗を上げて降参する。



 俺は、どれも、選ばない。


 ゼロだ。


 変身を解除する。


「そーちゃん……ズル」


 美月の反撃は止まる。

 次いで、美月の変身は解除される。


「ここに跳んだ時点で、もうお前の攻略ルートは確定した」

「攻略ルートとか言うなし……」


 俺は、一少年として、――美月の前に姿をさらした。


 そのまま俺は動きを止めた美月の背後に回り、

 コツン、

 と軽くチョップを決めた。



「~~~ったぁ……」

「俺の勝ちな」



 ――――弱いやつが、強いやつに、勝つための基本戦術を考えてみる。


 それは一撃必殺。


 強さとか弱さとか関係ない領域テリトリーで、相手の脆い点(ウィークポイント)を破壊する。


 そのための領域がここ。

 中学時代。

 屋上。


 最強のヒーローに勝てる、無力な俺がとれる、数少ない舞台。


 幸運にも今の時間は授業中のようで、屋上は無人だった。

 気持ち良い風と、どこまでも広がる空は、

 美月の心をかつてに引き戻す十分な力を有していた。


「……」

「……いいの?」

「ん?」


「私をぶん殴って倒さなくて?」

「……次はそうするさ」

「……ふうん」


 手段は他にもあっただろう。

 たったひとつの選択肢なんて、俺には似合わない。

 現実はゲームじゃないんだから。


 でも、ゲームじゃないからこそ、俺たちの生きる世界が現実だからこそ、

 ――――俺は夢みたいな手段で勝利を収めたのだ。


「いいよ……いいよ、私、これからもっと強くなるからね? きっとそーちゃんが頑張るよりも十倍、百倍の速さで強くなるよ?」

「いいさ、その時はまた俺が勝ってみせるさ」


 あっけらかんと言う俺に、美月は、あー、と嘆息。


「今日はやられてばっかり」

「負けるのも悪くないだろ?」


 美月は俺を見て、笑って。


「"嫌"に決まってるよ。ばか」


 再び美月は「あー」と言って。


「悪いやつだ」

「救世主と悪は本質的に近いらしい。ものの本で読んだ」

「私の幼馴染が悪い本の影響を受けて……」

「格好よくなっただろ?」

「うるさい」


 美月は笑う。

 俺は笑う。

 屋上は晴れる。

 世界は晴れる。


「じゃあ、皆のところに帰ろっか?」

「ん、返事」

「……」

「返事」

 

 美月。


「……バレたか」

「俺の勝ちな?」


 ごまかそうとする美月に、俺は攻め立てる。

 美月は両手を上げた。



「うん、私の負けだよ」



 敗北が未来を照らした。



 決勝:新島宗太 VS 美月瑞樹

 勝者――――新島宗太。

 優勝、決定。




(――最終章 最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編――END)

(――――次章に続く)

134話まで読んで頂きありがとうございます。

『世界は英雄戦士を求めている!?』本編はこれにて終了となります。

次章「エピローグという名の創世記」を宜しくお願い致します。

掲載は1~2週間後を予定しています。

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