第131話:彼女にとっての決勝戦 PART1
こんにちは、美月です。
私は今過去の世界に来ているようです。
(懐かしい風景……けど、とんだ皮肉だよ)
まさか自分の深層心理と向き合う日が来るなんて思いもしませんでした。
確かにそーちゃんの中には私のヒーローエネルギーが入っているし、
その力が私のヒーローエネルギーと反発し合って、意識の逆流が起こることはゼロじゃないけれど。
ないけれど……。
(でも、ヒドイや神様……)
もう一度あの日の光景を見るなんて。
いない神様に空回り確定の文句を垂らします。
(はぁ)
私は空にいた。
飛んでいた。
家々を破壊するバンダースナッチ達―――怪獣ジャバウォックの従僕たちを蹴散らしつつ、威風堂々と、彼らの親玉を絶賛捜索中なのであった。
(この後の展開を私は知ってる)
私はそーちゃんの家が破壊されているのを見つけて、激高する。
激高した私は怒りに任せて怪獣ジャバウォックを破壊してしまう。
そして起きるんです。
悲劇が。
(どうにかしないとね)
と思いながらも、どうにもならないことを私は知っている。
嫌ってほど知っている。
神の視点が見せる世界は絶対だ。
変えることはできない。
読んでる小説にいくらお願いしたってシナリオは決まってるように、
見ているアニメにいくら祈ったって脚本は差し替わらないように、
この世界は純粋な過去の焼き増しなんだ。
既に起きてしまった事実は変えられない。
悲しいことだけど。
悔しくて悔しくて絶望を孕んだ地獄だけど。
変えられない。
他人の世界は。
(……でも、他人? 違うや。これは私の視点世界だ……)
そうか。
私の視点だ。
(ん、ちょっと待てよ?)
私は考え直す。
一度規定しかけた絶望。
待てよ、とストップかける。
(……もしこれが私の過去であり、私の見た世界の結末なら)
確かに他人の書いた小説なら終わりは一つだ。
私じゃない誰かの作ったアニメなら改変は不可能だ。
他人の視点から見た光景は揺るがない。
勿論、起きてしまった事実は揺るがないけれど。
でも。
(ここは、私の、視点世界なんだ)
そうか。
そうだよ。
他の誰でもない。
私による私のための世界だよ。
(だとしたら)
悲劇の運命を私は許さない。
幸福な結末の希求。
私の望みは只それだけ。
破滅を避ける事は不可能じゃない……?
(でも、そんなこと、できるのかな……?)
……。
……。
…………。
(……ううん。やるんだ)
決めた。
私は私の世界に叛逆する。
(勇気を……)
熱。
強い熱。
興奮が私を包む。
やけどしそうな強い強い熱量。
その中で私は覚悟決めて、よしっと小さく心中で喝破する。
そして信じるんだ。
(そーちゃん……)
私は何だ?
私は神だ。
なら、――――"やることは一つ"だ。
世界なる私は神なる私は、この残酷で残虐で残念な物語を、"否定"する。
私の能力に基づき徹底して徹底して徹底して――――この物語を"吸収"する。
そして創り変える。
強大な物語をドット単位で要素分解するように、
その流れを解析して再構築するように、
私は新しい物語を創造する。
いける。
(1年Sクラス――――美月瑞樹、変身名《英雄戦士》!)
----------THE WORLD SEEKS THE BEST OF HERO----------
駆ける私は風と一体。
動きながら手にする腕時計に咆哮する。
鼓膜が破れるくらいの、大きな声。
「おい! 月見酒代! 聞こえるかっ!?」
僅かな沈黙。
一秒、二秒。
時計から大声が響き出す。
《な、何っ、美月ちゃん!? また勝手に変身して~っ! 駄目だよそういうの良くないよっ!》
少し若い声に懐かしさ一瞬、
すぐに文句を無視して返答する。
「ねぇ、終焉崎円を今から呼べるっ!?」
《終焉崎ちゃん? あの子、今『世界を見てくる』とか言って放浪の旅に出てるよ~》
「連れ戻して! 全力で!」
《急だよ~、……――と言いたい所だけど、美月ちゃん、今そこに"怪獣ジャバウォック"が出てるんだね。すぐに向かわせるよ》
ありがとう。
私は心の中でシロちゃんにお礼を言う。
《美月ちゃん、気をつけてね。避難ができてない人結構いるみたいだから大きな力は使わないように》
「わかってる!」
《だからいつもそんな破滅的じゃあ……って、あれ? いいんだ? 今日はやけに物分かりいいね? 大人になった?》
「いいから早く終焉崎を!」
「――――――もう来ている」
私の眼前に終焉崎さんが現れた。
加速を止め、ちょっとだけ幼い彼女を見る。
「終焉崎さ……終焉崎、お願いがあるんだ!」
悲壮な私と対照的に終焉崎さんは不思議そうに、
「――――私に"お願い"? 君が? この私に? ……面白い。私たちが聞いてやる」
「……何で私まで巻き込まれてるのよ」
終焉崎の隣には君島さんがいた。学校帰りの中学生みたいな格好をしてる。
「まだ授業受けてる途中だったのよ……あーまた不良だと勘違いされるじゃない……」
「それは日頃の行いが悪い」
「仕方ないでしょう。中学校って思ったより面倒なんだから。アンタみたいに自由に諸国行脚してないのよ」
「ちなみにさっきまで桜島にいた」
「桜島……? 何、鹿児島まで行ってるのアンタ? 普通に旅行してるだけじゃない」
「鶏飯超おいしい」
「満喫してんじゃないわよっ!?」
「二人とも!」
私は大声を放つ。
この頃の私はどんなキャラだったか。
記憶にない。
だけど構わず頭を下げた。
それだけで二人は驚き注目した。
「どうかしたの……美月?」
「お願いが、あるんだ……」
目の前には最強のヒーロー。
二人。
私は全てを捨てて、言った。
「私の友達と家族を……助けて欲しい」
読んで頂きありがとうございます。
分けた方がいい感じだったので分けました。
次回「第132話:彼女にとっての決勝戦 PART2」をよろしくお願いします。
週末くらいには掲載します。