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世界は英雄戦士を求めている!?  作者: ケンコーホーシ
最終章 英雄戦士と七人のヒーロー編
152/169

第128話:ヒーロー達の決勝戦 川岸あゆの場合

 天衣無縫の者。

 己の感性に従い、本質を掴む。

 恋に落ちようと、手にする武器は変わらず。


 ◆


 川岸あゆには分からない。

 この決勝戦。

 新島宗太と美月瑞樹の戦いが分からない。


「うわぁーっ、すごいっ、早いっ!」


 目で追えない。


「? 何? 今防御したの?」


 戦術を理解できない。


「うわっ! 初めて見た! 何だあれっ!?」


 知識がない。


 周りの三人とは異なる。

 観戦用特殊ゴーグルを事前用意した真堂真白、あゆのヒーローエネルギーを貯蔵し効果持続中の葉山樹木、変身前から超常的な身体能力を持つ狗山涼子。

 彼ら三人の様な特別とは異なる。


 川岸あゆは変身を止めている。

 だから。


「よーしっ!」

「さっぱり分からないぞーっ!」


 分からないのだ。

 わはは、と笑うが分からない。

 新島と美月の戦闘は秒単位の争いとなっている。

 地上にいた二人が、まばたきの間に空中で雌雄を決する。

 頂上決戦。

 神話の世界が人類に了解できない様に。


「速すぎて何だかさっぱり全然だっ!」


 彼女の言葉は正しい。

 変身装置を装着していない一般の生徒たち全体の感想の代弁でもある。

 分からない。

 歴然だ。


 だが、


「うわっ、何だあれ凄い!」

「ああいうやり方もあるのか……」

「ははっ! いいね」


「フフ……あまりはしゃぐと危ないよ」


「OK! 葉山くん、涼子ちゃん、真白ちゃん!」


 川岸あゆは楽しんでいる。

 試合を心ゆくまで堪能している。

 分からずとも、分かる。

 了解できずとも、了解できる。

 矛盾だろうか。矛盾ではない。

 ごく平凡で自明の揺ぎない真実だ。


 ◆


「あ、あのー……私、忘れられてますか?」

「人型式ちゃんっ!」

「フルネームでのご紹介……恐悦至極です……」


 人型式。

 真堂真白の隣に座る彼女は己の存在が認識されていることを理解し、安堵する。

 台詞とは裏腹に、慇懃無礼にあゆへと向けられたジト目。

 それも武装解除を完了する。


「式ちゃんって敬語の喋り方とか見た目とか、真白ちゃんと被ってるねっ!」

「うぐっ……!」


 式は悶える声を出した。

 脇腹をナイフで刺されたような苦悶の声であり事実彼女は大きく揺らいだ。


「か、可愛い顔で中々刺激的なことを言ってきますね……」

「でもメガネは似合ってるよっ!」

「ふむ、メガネの良さは分かりますか、それは良いことです」


 ピローン♪

 と、人型式の好感度が上昇する。

 あゆは脳内妄想でその音を聞いた。


「それで、式ちゃん。試合が全然分からないよクラスタの一員として質問したんだけど」

「何ですか、その悲しいコミュニティは」

「どうしてソウタ君は地面に潜ったの?」

「……そうですね」


 あゆは人の話を聞かない。

 人型式は諦めて闘技場に視点を向ける。


 まず目に入るのは美月瑞樹の姿。

 地上から数メートル付近でふわふわ浮いている。

 美月の視線の先には闘技場に開けられた大きな穴が存在していた。


 新島の姿はない。


「ソウタ君あの穴にずっと潜ったままなんだけど」

「まるでモグラですね」


 モグラ、モグラ……とあゆは繰り返した。

 美月は新島との殴り合いの後、山車雄牛戦で放ったのと同じ「全体攻撃」を実行したのだ。

 まばゆい光が照らす世界の中、新島宗太は地中に退避した。


「美月さんの攻撃は、範囲を指定して攻撃する技ですからね。地中は範囲外だろうと読んだのでしょう」

「マップ兵器の攻撃範囲の外へと逃げたってこと?」


 式は一瞬考え込む。


「……まあ、そんな理解でもいいです。というのも、英雄戦士は自分の攻撃を完全に制御してます。――そうでないと、観客席と闘技場を阻むヒーローエネルギーの遮断シールドなんて一瞬で破壊してしまいますから」

「……ふーん」

「ただ、裏を返せば、英雄戦士の制御外の場所に逃げ込めば、回避は可能という訳です。美月さんの技術力を逆手に取った訳ですね」

「……」

「分かりましたか?」

「……なるほどっ!」


 嘘だった。

 全然分かっていなかった。

 百パー成程じゃなかった。


(まあ、ボクも難しく話過ぎましたし……)


 なのにあゆは言い放つ。


「葉山くんと同じ戦い方か! 葉山くんも美月ちゃんに見つからないよう戦ってたしっ!」

「!」


 分からないが、分かっていた。


 ◆


 川岸あゆは不思議な人だ。

 人型式はそう実感した。


「川岸さんって不思議な方ですね……試合も楽しそうに……」

「楽しいよっ! 式ちゃんは楽しくないの?」

「いえ、面白いですが……同時に不甲斐なさも感じますよ」

「不甲斐?」

「ヒーローとして敗北感ありますよね」


 人型式は戦える研究者を標榜している。

 それは、研究者としての道を選んだ真堂真白とは異なる道だ。

 茨の道だ。


「この程度の戦いも満足に見えないとは……劣等感でいっぱいですよ」

「でも面白いんだよねっ!

「ええ、まあ……」

「可能性感じちゃったんだねっ!」

「いや、それはどうか知りませんが……」


 不思議な人だ。

 式は素直に思う。


 分からないが、分かってしまう。

 理解していないはずなのに、理解しているかのような堂々とした振る舞いをしている。


(これが川岸あゆさんですか……)


 理解よりも、直感が先立つ。

 そしてそれが正しい。

 狗山涼子の判断力が、蓄積された戦闘経験に裏付けされている一方で、

 川岸あゆは完全なる勘で正解を導き出してしまう。


(面白い……冷静に考えると……研究しがいのあるヒーローですね)


 ピローン♪

 ピローン♪

 人型式の頭上に多くのフラグが立っていることに、この時のあゆは気づけなかった。


 ◆


「でも、ソウタくん全然あがってこないねー」

「……普通に出ては狙い撃ちにされますしね」

「うん。美月さんフワフワ浮いてるから攻撃しにくいし」


 そもそも、地中にいる時点で、新島は美月瑞樹の位置を特定できない。


 危険だ。

 あゆはそう思う。


 怪獣や怪人で地中から攻撃する敵がいるが、それは出口のない一方通行の道に逃げこむのと同じことだ。


 いつかは地中から外に出て、戦う必要がある。


 最終目的が逃走であるならば、問題ないが、新島は勝利することが目標なのだ。


「……」

「……」


 沈黙。

 静寂。

 だが、その静寂を破るように飛び出る影!


「来た!」


 あゆの目には黒い影のみ映る。

 瞬間、美月の姿が消える。


 次に現れたのは、彼方。

 彼女が居た地点から十メートルばかり離れた地点だ。

 

 迎撃態勢を取る。

 あゆにはワープにしか見えない行動。

 あゆには魔法にしか見えない速度。


「はッ!」


 破壊される影。

 破壊される新島宗太。

 ――違う。

 破壊されたのは、巨大な光の弾丸であった。


「ああー、ソウタ君が……」

「フフ……、大丈夫、偽物だ」

「――――いや、あの程度読まれてる」


 狗山の予言的中。


 美月の後方から迫る影、力の塊。

 美月は読んでいた。

 平然と破壊を行使する。


「また光の弾!」

「いや、これは……!」


 光光光。

 美月瑞樹を取り囲むように浮かび上がるは光の弾。

 まるで、一つの破壊をトリガーとして一斉に解放リリースされたように。


「美月さんに……襲いかかる」


 あゆの目には、光球がいくつも浮かび上がり、闘技場を美しく染め上げている光景が、


「すごい……1,2,…5,10……20」

「先程の仕返しか」


 だが、美月瑞樹は回避しない。

 動きを止め、

 その場で攻撃・全てを"吸収"する。


「……駄目だ。同じ攻撃をしようが無駄なのだ」

「――――だけど、新島くんはその隙を逃さない」


 そうだ。

 あゆは思った。

 ソウタ君ならば、この隙に、

 美月ちゃんが守りに徹している、この隙に、


 その時、

 川岸あゆの目には。


「……! あれ?」


 美月瑞樹の姿が消滅する。


 ◆


 美月は上空にいた。


「どゆこと?」


 新島宗太と殴り合う。


「なんなのん?」


「フフ……新島くんは地中じゃなく空に逃げていたんだよ」

「ん?」


 あゆは?マークを出す。


 雲を切る速度。

 空を駆ける二人。

 ソウタ君の飛翔には飛翔限界がなかったっけ。

 あゆの疑問も無視。

 二人は線描き激突する。


「……フフ。

 地上にできた大穴。あれ自体がフェイクだったんだ」


 葉山の声が耳に入る。


「……新島くんは、美月さんの攻撃を避けるために、

 空に逃げた」

「空?」


 応える。


「地中に膨大なヒーローエネルギーを放射して、

 空へと一直線に逃げたんだ」

「上空も美月さんの攻撃範囲外であるのは変わりないですからね」

「あー」


 これはあゆにも分かった。

 新島は、地中ではなく、上空に逃げたのだ。

 そして、地中に埋めていたヒーローエネルギーを牽制に使って、美月を攻撃。

 隙を見て、自身は上空から奇襲する。


 そういうシナリオだったのだ。


「――だが、それも美月さんは読んでいたのだ」

「んんっ?」


 狗山涼子の声にあゆは唸る。


「そもそも美月ちゃんにヒーローエネルギーを放つ何て牽制にならないのだ。

 結果、空の新島君に攻撃。

 逆転されて、今の通りだ。

「はーーっ」


(ということは……?)


 あゆは思う。


「フフ……このせめぎ合いは新島くんの負けだよ……」


 葉山の言葉通り、

 新島宗太は闘技場よりも上空から、

 隕石のように叩きとされた。


 ◆


 破砕音。

 煙の中に見える影。

 新島宗太の影。


「マズイな……」

「不味いの!?」

「美月ちゃんの戦闘力がドンドン上昇している」

「そんなドラゴンボールみたいなっ!?」

「葉山くんを倒した時と同じ状況だ。

 美月ちゃん、明らかにノッてきてるな」

「フフ……本気出されると勝ち目ないよね……」


 事実、大地に倒れた新島は次の瞬間宙を舞った。

 逃げたのではない。

 逆だ。

 叩き付けられた新島を目も止まらぬ速さで美月瑞樹が掴み取り、

 空へと投げ、

 光の一撃を与えたのだ。


「そして」


 攻撃。

 攻撃。

 攻撃!


 隙など微塵もない。

 新島の身体に光が通過する。

 いくつも。

 いくつも。


「うわわわわ……!」


 川岸あゆにも分かる。

 新島宗太が追い詰められているのを。


 地獄の惨劇の様な光景なのに。


(あれ……っ?)

 

 一瞬だけ、

 新島が、

 笑った気がした。


 ◆


「フフ……大丈夫だあゆ」


 葉山は言った。

 根拠はない。

 蓋然性皆無。


 彼は語らなかった。

 彼は説明しなかった。

 だが。


 あゆは。


「OKっ! それなら大丈夫だ!」


 理論をふっ飛ばし、理解を超越し、理性を打破し、

 分かる力を携えた。


「お、来たよ! 葉山くんっ!」


 光に貫かれた新島宗太の身体が光る。

 超変身。

 さらにはその先。


「限定解除……!」


 限定解除救世主リミット・オブ・セイバーの姿があった。


 新島が振り絞る。

 力を。


 そして。


「!」

「!?」


(あれ、これって)


 川岸あゆは見たことある。

 この光を。

 力と力がせめぎあい。

 一瞬の光景を。


(ずっと前……君島さんと戦った時に)


 光が。

 奇妙な体験。

 二人を。

 襲う。

第三領域発動。

次回「第129話:ヒーロー達の決勝戦 山車雄牛の場合」をよろしくお願いします。

掲載は2~3日程を予定します。

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